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■「中央調査報(No.625)」より

 ■ 「日本語大切」増加も、慣用句の誤用多く
        ―文化庁の「国語に関する世論調査」結果から―


 日本語ブームは衰える気配すらなく、今や定着しつつあるかのような昨今だが、「思いやり」や「謙遜そん」、「察し合い」といった、古くからの日本文化を重んじていることがうかがえる結果となった。文化庁が9月に発表した「平成20年度国語に関する世論調査」の結果から、日本人の日本語の使用状況や意識の実態を検証してみる。国語に関する世論調査は、文化庁が、1995年度(平成7年度)より毎年、今後の国語施策の参考とするため、現代の日本人の国語意識の変化を調べることを目的として行っている。今回は、日本語や言葉の使用に対する意識や、慣用句等の使い方などについて調べた。
 調査は、2009年3月に、全国16歳以上の男女を対象に、調査員による面接聴取法によって行われ(実施:社団法人 中央調査社)、3,480名を対象に 1,954名から回答を得た。

1.日本語の大切度
 毎日使っている日本語をどの程度大切にしているかを尋ねた。「大切にしていると思う」と「余り意識したことはないが大切にしていると思う」を合わせた“大切にしている”層は76.7%と、4分の3を超える。一方、「特に大切にしてはいないと思う」と「大切にしているとは思わない」を合わせた“大切にしていない”層は4.6%と極めて低い。日本語を大切に使っている人はかなり多いといえる。
 平成13年度に行った調査結果と比較すると、“大切にしている”層の割合が8ポイント増加している(図1)。さらに、年代別に見てみると、両年度とも8割強となっている60代以上を除く他のすべての年代で増加しており、特に、20代以下の増加幅が大きくなっている(16~19歳:28ポイント、20代:17ポイント)(図2)

図1


図2

 日本語を“大切にしている”層に、大切にしている理由を尋ねた(3つまで選択可)ところ、「日本語は自分が日本人であるための根幹であるから」(49.7%)がほぼ半数で最も高く、次いで、「日本語は日本の文化そのものであり、文化全体を支えるものだから」(46.1%)、「日本語がないと日本人同士の意思疎通ができないから」(45.1%)が4割を超えている。以下、「日本語によって、ものを考えたり感じたり善悪の判断をしたりしていると思うから」(35.6%)、「日本語は美しい言葉だと思うから」(32.4%)、「日本語しかできないから」(26.8%)と続く。日本語は、日本人としての根幹であると同時に、日本文化そのものであるという意識が、日本語を大切にする気持ちを支えていることがいえる(図3)

図3


2.美しい日本語とは
 日本語に対する意識に関し、続いて「美しい日本語」というものがあると思うかどうかを尋ねた。「あると思う」が87.7%と、9割に迫る高い割合で、「ないと思う」は2.5%である。日本語を大切にしている割合より、美しい日本語があると思う割合の方が高く、興味深い結果となっている(図4)

図4

 美しい日本語があると思うと答えた人に、あなたにとって「美しい日本語」とはどのような言葉かを尋ねたところ、「思いやりのある言葉」(62.5%)が6割を超えて最も高く、次いで、「あいさつの言葉」(47.4%)、「控え目で謙遜そんな言葉」(40.0%)が4割を超えている。以下、「素朴ながら話し手の人柄がにじみ出た言葉」(30.7%)、「短歌、俳句などの言葉」(28.6%)、「故郷の言葉」(19.8%)、「アナウンサーや俳優などの語り方」(16.8%)。
 平成13年度に行った調査結果と比較すると、「控え目で謙遜そんな言葉」が11ポイント増加し、4位から3位に上昇している。一方、「アナウンサーや俳優などの語り方」が10ポイント減少し、6位から7位に下降している。日常の中で人との付き合いで重要とされる言葉が、上位を占める結果となったといえよう(図5)

図5


3.人と付き合うときの言葉の使い方
 人と付き合うときに、「互いの考えていることをできるだけ言葉に表して伝え合うこと」と「考えていることを全部は言わなくても、互いに察し合って心を通わせること」のどちらを重視しているかを尋ねた。「互いの考えていることをできるだけ言葉に表して伝え合うこと」が38.3%、「考えていることを全部は言わなくても、互いに察し合って心を通わせること」が33.6%で、拮抗している。
 平成11年度に行った調査結果と比較すると、「考えていることを全部は言わなくても、互いに察し合って心を通わせること」が10ポイント増加したのに対し、「互いの考えていることをできるだけ言葉に表して伝え合うこと」が12ポイント減少している。今回の調査の中で、電子メールの使用状況について質問したところ、30代以下では9割以上、40代でも8割半ばが使用していると回答しており、文字によるコミュニケーションが普及していることが言えるが、それにもかかわらず、「察し合い」を重視する傾向が高まったことは興味深いのではないだろうか(図6)

図6


4.ら抜き言葉についての意識
 「来ることができる」という意味で、「来られる」という言い方ではなく、「来れる」を使うことについて、言葉の「乱れ」だと思うか、「多様性」だと思うか、それとも「変化」だと思うかを尋ねた。「「言葉の乱れ」だと思う」は23.7%、「「来られる」でも「来れる」でも構わないと思う」は26.9%、「「言葉の乱れ」ではなく、「言葉の変化」だと思う」は41.0%となっている。「変化」だと思う割合が4割強と最も高かった。
 平成13年度に行った調査結果と比較すると、「「変化」だと思う」が9ポイント増加したのに対し、「「多様性」だと思う」は6ポイント減少している。これまで、「乱れ」「多様性」「変化」がほぼ拮抗していたが、「変化」だと捉えるのが優勢となり、ら抜き言葉が定着しつつあることをうかがわせる(図7)

図7


5.言葉の言い方
 言葉の言い方を調べるために、二つの言い方のうち、どちらを使うか尋ねた。
 まず、「チームや部署に指図を与え、指揮すること」を意味する言葉として、「采さいはい配を振る」と「采配を振るう」のどちらを使うかを尋ねた。本来の言い方である「采配を振る」が28.6%と、2割後半にとどまり、誤用である「采配を振るう」は58.4%と5割後半にのぼっている。年代別に見ると、誤用は16~19歳で最も低く、30~50代で高くなっている。
 「目上の人の気に入られること」を意味する言葉として、「お目にかなう」と「お眼鏡にかなう」のどちらを使うかを尋ねた。本来の言い方である「お眼鏡にかなう」が45.1%、誤用である「お目にかなう」は39.5%と、6ポイントの差となっている。年代別に見ると、誤用は40代で最も低く、16~19歳で半数を超えて高くなっている。
 「はっきりとしていて疑う余地のない様子」を意味する言葉として、「火を見るより明らかだ」と「火を見るように明らかだ」のどちらを使うかを尋ねた。本来の言い方である「火を見るより明らかだ」が71.1%、誤用である「火を見るように明らかだ」は13.6%となっている。年代別に見ると、誤用は年齢が低い層で多い傾向にあり、16~19歳では3割近い。
 「是が非でも。どんなことがあっても」を意味する言葉として、「石にかじり付いてでも」と「石にしがみ付いてでも」のどちらを使うかを尋ねた。本来の言い方である「石にかじり付いてでも」が66.5%、誤用である「石にしがみ付いてでも」は23.0%となっている。年代別に見ると、誤用は年齢が低い層で多い傾向にあり、16~19歳では3割後半である。
 「よく分かるように丁寧に説明すること」を意味する言葉として、「噛んで含むように」と「噛んで含めるように」のどちらを使うかを尋ねた。本来の言い方である「噛んで含めるように」が43.6%、誤用である「噛んで含むように」は39.7%と、4ポイント差で拮抗している。年代別に見ると、誤用は30代が4割半ばと高くなっている(表1)

表1


6.慣用句等の意味
 慣用句の使い方を調べるために、2つの意味を挙げて、どちらの意味で使っているかを尋ねた。
 「手をこまねく」については、「何もせずに傍観している」という本来の意味で使っていると回答した人が40.1%で、「準備して待ち構える」(45.6%)と誤った意味で使っていると回答した人の割合を5ポイント下回っている。年代別に見ると、40代で誤った意味での使用と本来の意味での使用が同率となっている以外はすべての年代において、誤った意味での使用の方が高い。特に、16~19歳において、誤った意味での使用の方が40ポイント以上も高くなっている。
 「時を分かたず」については、「いつも」という本来の意味で使っていると回答した人が14.1%にとどまり、「すぐに」(66.8%)と誤った意味で使っていると回答した人の割合を53ポイント下回っている。年代別に見ると、すべての年代で誤った意味での使用が本来の意味での使用を約40ポイント以上上回っているが、誤った意味での使用は、特に30代と50代で高く、7割を超えている。
 「破天荒」については、「だれも成し得なかったことをすること」と言う本来の意味で使っていると回答した人が16.9%にとどまり、「豪快で大胆な様子」(64.2%)と誤った意味で使っていると回答した人の割合を47ポイント下回っている。年代別に見ると、すべての年代で誤った意味での使用が本来の意味での使用を上回っており、50代以下では50ポイント以上の差がある。誤った意味での使用は、特に40代以下で高く、7割を超えている。
 「御おんの字」については、「大いに有り難い」と言う本来の意味で使っていると回答した人が38.5%で、「一応、納得できる」(51.4%)と誤った意味で使っていると回答した人の割合を13ポイント下回っている。年代別に見ると、すべての年代において、誤った意味での使用の方が高い。特に、16~19歳と60代以上において、誤った意味での使用の方が20ポイント以上高くなっている。
 「敷居が高い」については、「相手に不義理などをしてしまい、行きにくい」と言う本来の意味で使っていると回答した人が42.1%で、「高級すぎたり、上品過ぎたりして、入りにくい」(45.6%)と誤った意味で使っていると回答した人の割合と4ポイント差で拮抗している。年代別に見ると、50代以上で本来の意味での使用が誤った意味での使用を上回っているが、それ以外の年代では、誤った意味での使用の方が高く、特に30代以下では7割を超えて高くなっている(表2)

表2


 日本語を大切にしている人は、若年層の増加によって、どの年代でも多くなった。その一方で、文法上誤りとされている「ら抜き言葉」について、正しいとは感じていないまでも、言葉の変化と捉えつつある。また、人とのコミュニケーションにおける言葉の使い方としては、思いやりや謙遜を重んじ、相手と察し合うといった、昔ながらの日本人の性質を象徴する意識が高まっている。日本語を大切にする、という意識の高まりは、日本人を伝統的日本文化に立ち返らせたのかもしれないが、言葉遣いについては、変化を止めることができないということだろうか。今後の推移を注目していきたい。

(調査部 安藤奈々恵)