中央調査報

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■「中央調査報(No.628)」より

 ■ 東京大学社会科学研究所の「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(JLPS)
   2009」の結果から

石田  浩(東京大学社会科学研究所・教 授)
村上あかね(東京大学社会科学研究所・准教授)
有田  伸(東京大学社会科学研究所・准教授)
田辺 俊介(東京大学社会科学研究所・准教授)

 東京大学社会科学研究所が実施しているパネル調査「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(JLPS)」の2009年調査の結果に基づき基礎的な集計と分析をまとめたものである。まず調査の概要を述べたあと、分析1では、いわゆる「結婚活動」についてその実態と効果の分析を行った。分析2では、朝食習慣に焦点をあて、現在の朝食習慣について概観するとともに、15歳時における朝食習慣とその後の学歴との関連についても検討した。分析3では、社会保障制度や労働者の権利に対する認識に関して、雇用形態の違いなどによって生じている認識の違いの検討を行った。最後に分析4では、社会的ネットワークに焦点をあて、働くことで社会的ネットワークが広がることについて検討を行った1

1.はじめに
 東京大学社会科学研究所では、2007年より「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」(Japanese Life Course Panel Survey-JLPS)を実施しており、同一の調査対象者を毎年追跡調査してきた。この調査は、少子化・高齢化が急激に進行し、経済雇用状況が大きく変動してひとびとの生活に影響を与える中で、日本に生活するひとびとの働き方、結婚・出産といった家族形成、社会や政治に関する意識・態度がどのように変化しているのかを探索することを目的としている。同一個人を追跡することによって、個人の行動や意識の変化を跡付けることができる強みがある。
 第1回の調査は、2007年1月から4月に行った。日本全国に居住する20~34歳(若年調査)、35~40歳(壮年調査)の男女を母集団として、選挙人名簿と住民基本台帳から性別・年齢を層化して対象者を抽出した。調査票を郵送で対象者に配布し、後日記入された調査票を中央調査社の調査員が訪問して回収した(郵送配布・訪問回収法)。回収数は、3367名(若年調査、回収率35%)、1433名(壮年調査、回収率40%)であった。第2回調査は、2008年1月から3月にかけて実施された。第1回調査回答者全員を対象とし、第1回目と同様に郵送配布・訪問回収法を用いた。若年調査は2719名(第1回調査回答者の80%)、壮年調査は1246名(同87%)の対象者から追跡調査の回答を得た。第3回調査は2009年1月から3月にかけて実施された。第1回調査回答者のうちその後に調査に協力できないと意思表示をしたもの、住所不明のものを除いたひとびとを対象として、以前の調査と同様に郵送配布・訪問回収法により実施した。若年調査は2443名(アタック数の79%)、壮年調査は1164名(同86%)の対象者から追跡調査の回答を得た。(データクリーニングが現在進行中のためこれらの数値は暫定版である。)集計にあたっては、若年調査と壮年調査を合体して行っている。 (石田浩)

2.交際と結婚活動
(1)交際相手を見つけるには活動の多様性と内容がポイント
 少子化の大きな要因は未婚化・晩婚化である。未婚化・晩婚化は依然として続いているものの、いつかは結婚したいと考えている男女は多い。このような状態を解消する切り札として、結婚活動、すなわち「婚活」に注目が集まっている。「婚活」とは、よりよい結婚を目指して、合コンや見合い、自分磨きなど積極的に行動することを指す(山田昌弘・白河桃子『「婚活」時代』)。積極的に行動する必要があるのは、現代の日本では親や上司がセッティングする見合い結婚は少なく、恋愛結婚が多数を占めるためだ。
 しかし、誰がどのような婚活をしているのだろうか。婚活をしたほうが相手を見つけやすいのだろうか。実際にはわからないことも多い。そこで、昨年度に引き続き、東京大学社会科学研究所による「働き方とライフスタイルの変化による全国調査」のデータから、交際状況、誰がどのような婚活をするか、婚活をすると相手を見つけやすいかを明らかにする。本年度の分析対象は、2009年調査の時点で22歳~42歳の未婚の男女だ。
 つぎに、2008~2009年にかけての婚活の実態をみよう。以下では、2008年調査の時点で「交際相手がいなかった」人に限定する。2008年から2009年にかけて婚活、すなわち「交際してみたい異性と出会うために活動」2をした人は、男女とも45%前後で大きな違いはなかった。婚活ブームだからといって全員が活動をしているわけではない。
 活動した人についてその内訳をみると(図1)、「友人・知人・幼なじみに紹介を依頼」や「合コンに参加」は男女とも経験率が高いが、どちらかといえば女性に多い。これに対し、「インターネットや携帯を通じてさがす」「街中や旅先で声をかける」といった活動は男性に多い。活動内容に男女差があるということは、内容によっては相手を見つけにくい可能性があるといえそうだ。なお、「親・きょうだいに紹介を依頼」「親・きょうだい以外の親族に紹介を依頼」「お見合いに参加」「結婚相談所や結婚仲介サービスに登録」は男女とも少ない。

図1

 果たして婚活は効果があるのだろうか。図2は、2008~2009年の活動数別にみた2009年調査時点で交際相手がいる人の割合である。活動なしとはまったく活動をしなかった人である。活動数1とは、注に示した13種類の活動を1つだけ経験したことをさす。図2からわかることは、婚活をしたほうが相手が見つかりやすいということだ。なかでも、活動数が1つだけの場合に比べ、2つ、3つ以上と増えるほど相手ができやすい。ただし、男性よりも女性のほうが効果が大きい。これは図1に示したように、女性のほうが「友人・知人・幼なじみに紹介を依頼」などの経験率が高いのに対し、男性は「インターネットや携帯を通じてさがす」「街中や旅先で声をかける」といった活動をする傾向があるなど、男女で婚活の内容が異なるためかもしれない3

図2

 活動数が多いほうが相手が見つかりやすいという図2の結果はどのように理解できるだろうか。一つには、活動数の多さは活動の多様性と見なすことができる。狭い範囲のなかで相手を探すよりも、合コンにいったり、習い事に参加したり、ネットワークを駆使してさまざまな活活動経験者の割合動をすることで出会いの機会が増え、相手が見つかりやすいと考えられる。

 (2)結婚活動は、意欲や働き方と関係する
 他方で、活動数の多さは婚活に対する熱心さを反映していると見ることもできる。つまり、結婚意欲が高いから熱心に活動し相手を見つけやすいのではないだろうか。実際、図3に示すように、2008年調査時点で結婚意欲の高い人のほうが2008~2009年にかけて婚活をしていた割合が高い。「ぜひ結婚したい」・「できれば結婚したい」人と「結婚してもしなくてもよい」人の活動率には大きな違いがある。そもそも結婚意欲が低ければ婚活をしないのである。女性では「結婚について考えていない」にもかかわらず婚活をしている人が一定数いるが、これは年齢が若く、交際については考えているもののその先にある結婚については具体的に考えていないためかもしれない。「結婚したくない」と答える人は男女とも少数であった。

図3

 さらに、婚活は意欲だけではなく働き方にも影響される。男女別・働き方別に活動状況を見ると、男女とも2008年調査時点で正社員(経営者を含む)であった人のほうが非正社員(パート、派遣、請負)よりも積極的に活動をしていることがわかる(図4;学生は除く)。正社員のほうが非正社員に比べて労働時間が長く、ほぼ毎日残業していると答える割合が高いにもかかわらずだ(分析結果の図表は省略)。しばしば、労働時間が長いと出会いの機会が減るといわれるが、必ずしもそうではないようだ。日本では伝統的な性別役割分業意識が依然として根強いため、安定していない男性非正社員は婚活をためらってしまうのだろう。ただし、女性についても正社員のほうが活動する割合が高い。デートやお見合いパーティーなど活動には何かと費用がかかるため、収入が多い正社員のほうが活発に活動しやすいためと推測できる 。

図4

 まとめると、今回の調査結果からは、婚活をしないよりしたほうが交際相手は見つかりやすく、活動数の多さや活動内容もポイントだとわかる。しかし、全員が婚活をするとは限らない。そもそも、活動をする人は結婚意欲が高い人や正社員に多い。雇用の安定性を高め、正規・非正規の雇用の格差を縮小することは、未婚者の結婚意欲を高め婚活を活発にする可能性がある。 (村上あかね)

3. 朝食習慣とその影響
(1)「毎日かかさず朝食をとる」のは男性6割・女性7割
 生活習慣の重要性が指摘されて久しい。毎朝歯をみがき、きちんと朝食をとることは健康維持のために重要であるだけでなく、最近教育の現場では、朝食をとることが学業成績や学業達成に良い影響を与えるとも言われている。
 社研パネル調査の結果によれば、毎日きちんと朝食をとっているのは調査対象者の約3人に2人(64%)である。しかし男女間でその差は大きく、女性では70%であるのに対し男性では57%と低い。
 年齢層別に見ても違いがある。毎日きちんと朝食をとっている割合は、壮年パネル調査対象者(以下壮年層:37~42歳)で69%であるのに対し、若年パネル調査対象者(以下若年層:22~36歳)では62%と低い。ただし、15歳時の朝食習慣を世代別にみてみると、15歳の時に毎日きちんと朝食をとっていた人の割合は壮年層・若年層とも69%で、違いは見られなかった(図は省略)。

(2)「毎日かかさず朝食をとる」習慣が身についていると学歴に違いが生じるのか
 ところで、15歳時の生活習慣は、その後の生活にどのような影響を与えているのだろうか。ここでは最近大きな話題となっている朝食習慣が勉強面に与える影響について考えてみよう。これまでも「毎日きちんと朝食を食べている生徒ほど成績がよい」ことがいくつかのデータによって示されてきたが、それらは家庭の豊かさなどの背景条件を十分に考慮しきれていないものが多く、成績の向上が本当に「毎日朝食を食べたこと」の直接の結果なのかどうかがはっきりしなかった。ここでは重回帰分析という手法を用いて、それらの背景条件をきちんと考慮した上で、15歳の時の朝食習慣がその後の勉学に与える影響を分析してみよう。具体的には、年齢と性別のほか、両親の学歴と職業、家庭の暮らし向き、家庭の暖かさ、15歳時の歯みがき習慣、さらには15歳時の学校成績がたとえすべて等しかったとしても、15歳時に毎日朝食を食べているかどうかによって、個人の実際の学歴(教育年数)が違ってくるのかどうかを世代別に分析する4
 分析の結果、若年層の場合、これらの条件がすべて等しい場合でも15歳時に毎日きちんと朝食を食べているかどうかによって、実際の学歴にはかなり大きな差が生じることがわかった。重回帰分析の結果から推定すると、毎日きちんと朝食を食べていた人とまったく食べなかった人の間には、平均で1年以上教育年数の格差が生じているのである5図5)。

図5

 しかし、壮年層に関して同じ分析を行ってみると、壮年層の場合は15歳時の朝食習慣による教育年数の格差が若年層にくらべてかなり小さい。しかもこの格差は、統計的に意味があるほどのものとはいえないのである。もし仮に、栄養学的な理由や、あるいは生活習慣上の理由で「朝食を食べることでさらに成績がよくなり、実際の学歴も高まる」のならば、その影響は年齢や世代によってほとんど違いがないはずである。しかし、実際には朝食を食べることの影響には世代間で大きな違いが存在している。時代背景に関する何か別の要因も関係していると考えるのが妥当だろう。
 結論的にいえば、この違いは、当時「朝食を食べると成績が良くなる」とどれだけ強く信じられていたかの違い、そしてさらには、毎日の朝食習慣が親の教育熱心さとどれほど強く関係していたのかの違いではないかと考えられる。今の若年層が15歳の時にはすでに(それが本当に正しいかどうかは別として)「朝食を食べると成績が良くなる」という認識がある程度社会に広まっていたといえようが、このような状況では、子どもの教育に強い関心を持つ親はなるべくかかさず朝食を準備することになるだろう。しかし壮年層が15歳の時にはその認識がそこまで広まっていなかったため、親の教育熱心さは朝食の頻度とそれほど強く関係しなかったものと思われる6。当然、親の教育熱心さは、子どもの学歴にも大きな影響を及ぼす。こうして若年層では「親の教育熱心さ」を共通の要因として、ともにその結果である「朝食習慣」と「実際の教育年数」との間に表面上強い関係が表れるようになるが、「親の教育熱心さ」が「朝食習慣」とあまり結び付かなかった壮年層の場合には、「朝食習慣」と「実際の教育年数」の関連がそこまで強くはならない。
 もちろん、栄養学的な要因や生活習慣上の要因も決して無視できないものであろう。しかし、以上の分析結果から判断すれば次のようにも考えられる。「朝食をとるかとらないか」が子どもの成績やその後の教育達成と関係するのは、朝食習慣が「親自身がどれだけ教育熱心か」を示すリトマス試験紙の役割を果たすようになっているためではないか。この場合、たとえ栄養学的な効果や生活習慣上の効果がまったく存在しなかったとしても、表面的には「朝食習慣」と「実際の教育年数」の間に強い関係が生じてしまうのである。そうだとすれば、現在の「食育ブーム」ももう少し冷静に眺めてみるべきなのかもしれない。本調査では、親の教育熱心さを直接的に測る調査項目を設定してこなかった。今後さらなる検討が求められよう。 (有田伸)

4.「社会保障制度・労働者の権利」の認知
(1)「社会保障制度・労働者の権利」の認識には雇用形態による格差がある
 日本においては、正規雇用と非正規雇用の間には賃金や待遇などに大きな格差が存在している。特に経済状況が悪化する中、雇用の不安定性が高い非正規雇用の人たちにとって、セーフティーネットとしての社会保障制度や労働者の諸権利の重要性は増している。しかし、たとえ制度や権利が整っていたとしても、それらについて正しく認識していなければ、実際に活用したり行使したりすることは難しい。そのような問題意識から、今回の調査では「社会保障制度・労働者の権利」についての認知度を尋ねることにした。
 図6は、各種制度や権利をどれだけ認知しているかの割合を雇用形態別7に示したものである。残業手当では17%、有給休暇で14%、労働組合で16%、育児休業も11%ほど、非正規雇用の人たちが正規雇用の人たちに比べて認識している率が低い。つまり、本来は非正規労働者にも認められている諸権利について、非正規労働に従事する人ほど認知されていないのである。さらに、性別や学歴、加えて従事している仕事の種類や職場の状態などの影響を統計的な処理で取り除いた上でも、正規・非正規の間の認識の格差は残った(正規の人が非正規の人よりも認識している確率は約1.4倍~1.6倍:表1)。非正規雇用の人は正規雇用の人に比べて、自らにも認められる労働者の権利について十分に認識していないことが明らかになった。

図6

表1

 この結果から、社会的な格差を緩和する手段の一つでもある社会保障制度や労働者の権利について、それをもっとも理解する必要のある人ほど十分に認識していない現状が浮き彫りになったと言えよう。さらに現実問題としても、法的には問題のある様々な労働条件について、それが「違法」であることを知らずに受け入れ、正当な権利が守られないまま働く非正規雇用の人も少なくないと思われる。

(2)周知が足りない労働者の権利:育児休業・残業手当・労働組合
 制度や権利に対する十分な理解がなければ実際に活用したり行使したりすることは難しい、ということは、非正規雇用の人たちに限らず労働者一般に言えることである。そこで権利を行使した方がよい状態にある人たちが、どの程度権利を認識しているかについて検討した(図7)。

図7

 まずワークライフバランスなどの面で着目される「育児休業」について、その制度を十分に理解していた人の割合は、乳児(ここでは0~1歳児とした)のいない正社員で54%であったのに対し、乳児のいる正社員では69%に達した。しかし、残りの31%の人たちは十分に認識をしておらず、性別に見ると男性では十分に認識していない割合が36%にも達していた。男性において権利理解が十分でないことが、男性の育児休業の取得率の低さの原因の一つになっていると言えるかもしれない。
 また「残業手当」については、被雇用者のうちで通常1週間に40時間を超えて働いていると答えている人たち、つまり残業手当を貰えるはずの人たちのうち、半数以上(52%)が割増賃金を主張できることを認識していなかった。さらに別の指標として、月単位で見て残業がほぼ間違いなく発生している月200時間を超えて労働をしている人たちにおいても、5割近く(47%)が残業手当の制度・権利を十分に認識していなかった。この割合は、労働時間が月200時間以下の人たちの割合(48%)とほとんど差がない。十分な理解のないままサービス残業をしている人は少なくないと思われる。
 さらに、労働組合が結成されていない職場で働く労働者の約3分の2(64%)の人たちが、「労働組合」は誰でも結成できることを認識していなかった。また、そもそも職場に労働組合が組織されているかについて「わからない」と答えた人では、4分の3以上(76%)の人が労働組合を誰でも結成できることを認識していなかったのである。他方、労働組合が結成されている職場で働く人たちの間では、認識していない人の割合は54%にとどまっていた。労働組合は、確かに昨今組織率や加入率の低下が指摘されるが、労働者の権利を守るために結成されている組織である。その組織に関する基本的知識を持たない人が多いことは、労働者の正当な権利についての理解が行き渡っていないことを象徴する数字である。
 このように、労働者としての権利を主張可能な状態にいる人たちにおいても、その権利について十分に理解していない現状が明らかになった。このことは、権利についての周知が十分に行われていないということを意味しているのかもしれない。 (田辺俊介)

5. 社会的なネットワークの広がり
 現代日本社会では近隣関係の欠如や日常的な付き合いの希薄さについてたびたび指摘されてきた。そこで本調査では、人々の社会的な繋がりの広さについて尋ねてみた。日常的に挨拶を交わし会話をする人、毎日電話や携帯で会話をする人、パソコンや携帯などによりメールをする人がどのくらいいるのかを尋ねている。この質問は、人々の社会的なネットワークの広がりについて捉えようとしたものであり、直接的な接触による日常的な付き合いだけでなく、携帯やパソコンといった機器をもちいた接触による繋がりについても質問している。

(1)あいさつや電話をする人がいないような孤立した若年・壮年はほとんどいない
 「毎日直接会ってあいさつや会話をする人がいない」というような社会的に孤立した状態にある若年・壮年の回答者はほとんどいない。あいさつ・会話をする人はいないと回答したものは全体の1パーセントに過ぎず、あいさつ・会話をするひとが4人以下の割合も17%と少ない。最頻度(最も多い回答)は、ほぼ4分の1(26%)の回答者が選択した「10人」である。あいさつ・会話をする人が10人以上いる回答者は6割以上に上り、日常的な接触の広さを物語っている。この結果は、現代の若年・壮年は決して社会的繋がりに欠如しているわけではなく、案外日常生活においても繋がりのあることを示唆している。
 電話による接触をみると、電話・携帯で会話をする相手がいない回答者は18%と少数である。しかし、「1人」、「2人」のカテゴリーがそれぞれ21%となっており、「2人以下」が6割、「5人以下」の場合はほぼ9割を占め、電話による接触はそれほど広範囲ではない。メールによる接触について検討すると、メールのやり取りをする相手がいない回答者は15%とこれまた少数である。最頻度は「2人」のカテゴリー(23%)で、「2人以下」は半分強の55%、「5人以下」になると9割を占める。メールの商業利用は不特定多数を対象として用いられる場合が多く、メールによる交信は電話などに比べより広範な相手を対象としている印象があるが、現実は少数の限られた相手と個人的な交信を行っていることがわかる。

(2)メールによる繋がりは補完機能がある
 直接会ってあいさつ・会話の接触がない人は、その代わりとして電話による接触によって補完しているのだろうか。分析結果からは、そのような傾向は確認されない。直接会って話をする人がまったくいないか1人しかいない場合には、80%が電話により会話する人がまったくいないか1人しかいないと回答している。つまり直接対面した接触度が低い場合には、電話による接触度も低いことがわかる。しかし、携帯・パソコンによるメールの場合には、直接会って話をする人がまったくいないか1人しかいないときでも、半数近く(47%)は、メールを送る人が2人以上いる。このように電子メールは、直接的な会話や電話での連絡を補完する媒体として機能していることが考えられる。

(3)働くことで社会的ネットワークが広がる
 社会的ネットワークの広がりはどのような要因と関連しているのだろうか。「毎日直接会ってあいさつや会話をする人がいないか、その数が4人以下の人」を社会的接触度の低い人、「5人以上」いる人を接触度の高い人とすると、有職者は無職の人よりも接触度が高く、働く人々の間では、フルタイムが最も接触度が高く、パートタイム、自営と続く(図8)。他方でブルーカラー職はホワイトカラー職よりも孤立し接触度が低い傾向にある(図98。世代・学歴・住居形態(持家、民間アパート、公団・公営・社宅の別)、婚姻関係(既婚か否か)といった要因は関連がない。あいさつ・会話に関するつながりの広さは、働いているか否かが最も重要な要因であり、さらにどのような働き方や仕事をしているかが影響を与えていることがわかる。働いている方が日常的に接触する人の範囲は格段に大きくなり、フルタイムでホワイトカラー職にある人は接触度がさらに広がるようだ。

図8

図9

 電話・携帯で会話をする相手がいない回答者(0人)といる回答者(1人以上)の違いを見ると、ブルーカラー職従事者と大卒者は相手のいない確率が高くなる。逆に既婚者は、配偶者と電話で連絡をとるためか、電話で会話をする相手がいない確率は有意に低くなる(図省略)。メールをやり取りする相手がいない回答者は、壮年世代の方が若年世代より高く、ブルーカラー職従事者と所得が低い人で高い傾向がある。受けた教育経験に関しては、電話と反対の傾向があり、大学・短大・専門学校等の教育を受けた人ほどメールをする相手がいる確率が高くなり、そうでない人は電話をコミュニケーションの手段として優先する傾向があるようだ(図省略)。全体としてみると、あいさつを交わし、電話・メールで繋がるという社会的ネットワークの広がりは、働いているかどうか、また働く仕事の種類により影響を受け、特にブルーカラー職種はホワイトカラー職種に比べると社会的接触の範囲が限られている傾向があることがわかる。 (石田浩)

6. おわりに
 本稿では、2009年調査に新たに組み込んだ調査項目である「朝食習慣」「社会保障制度・労働者権利の認知」「社会的ネットワーク」を中心に分析結果を紹介した。さらに「結婚活動」に関する調査項目については、前年度に交際相手のいなかった人がどのような「結婚活動」をすることにより、交際相手とめぐり合うことができたかといった同じ個人を追跡するパネル調査であることの強みを生かした分析を紹介した。今後もパネル調査の特性を最大限に生かした分析を蓄積していきたい。 (石田浩)



1本稿は東京大学社会科学研究所パネル調査プロジェクト・ディスカッションペーパーシリーズ№30「生活・交際・労働者の権利『働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(JLPS)2009』の結果から」(2009年12月)を修正し、執筆したものである。
2この調査では、13の活動を選択肢として例示し、回答者には当てはまる活動をすべて選んでもらっている。具体的な選択肢の内容は、「親・きょうだいに紹介を依頼」「親・きょうだい以外の親族に紹介を依頼」「友人・知人・幼なじみに紹介を依頼」「職場・アルバイト先の同僚・上司に紹介を依頼」「学校の授業・部活・サークル活動などに参加」「趣味・習い事に参加」「合コンに参加」「お見合いに参加」「お見合いパーティーに参加」「インターネットや携帯を通じてさがす」「街中や旅先で声をかける」「結婚相談所や結婚仲介サービスに登録」「その他」。婚活をすることがそのまま結婚につながるとは限らない。しかし、図3で示すように、2008年調査時点で結婚意欲の高い人のほうが2008~2009年にかけて活動をしていた割合が高い。
3詳しい分析結果は省略するが、活動なし、すなわち活動をしなくても相手ができた人とは、とくに意識して婚活をしなかったものの、職場で相手と出会って交際が始まった人が多い傾向がみられた。
4「15歳時の学校成績まで等しかった場合」を考えているので、この分析は朝食習慣の効果をかなり厳し目に判定していることになる。
5親学歴などすべてが「平均的」なケースについて推定した値である。
6実際、壮年層では「母の学歴」は「15歳時の朝食習慣」と関係しないのに対し、若年層では両者の間に統計的に意味のある関連が生じており、母学歴が高いほどきちんと朝食をとっている、という傾向がみられる。朝食習慣の意味づけが変わったことを示唆する結果である。
7対象者は現在仕事をしている人に限った。またここでいう「正規」とは「正社員・正職員」を、「非正規」とはパート・アルバイト・契約・臨時・嘱託・派遣・請負などの形態で働く人たちを示す。また経営者・役員、自営業主、家族従業者は雇用形態などの面で比較しにくいため、今回の分析には含めていない。
8図8図9は、2変数の間の関係を示したものだが、他の変数をコントロールしてもここで示されている関係は 有意なものとして残る。