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■「中央調査報(No.630)」より

 ■ 「高齢者日常生活継続調査」の報告

国際長寿センター  

「高齢者日常生活継続調査」の目的と結果報告
 本調査研究においては、高齢者の日常生活と経年変化を分析して後期高齢者の「自立を支えるもの」を明らかにすることを目指してきた。このたび、調査報告書に基づく冊子「75歳以上の方が充実した暮らしを続けるために」を作成したのでその一部を紹介する。
 以下は概要であり。詳細は調査報告書をご覧いただきたい。

調査方法
1)対象
 調査開始時にIADLが全項目で自立、首都圏在住の75歳から79歳、一人暮らしあるいは夫婦のみ世帯の在宅高齢者300名。
2)期間
 2004年度から2008年度まで。訪問面接法による年1回の調査。追加のインタビューも行った。
3)調査・研究方法と調査項目
 高齢者の自立生活を促進させたり遅らせたりする要因はさまざまな領域にまたがっている。調査項目の設定は以下のとおりである。
 (1)行動 Behavior(活動、意識)、(2)個人要因 Person(健康、経済、家族)、(3)環境要因 Environment(住居、地域、情報)、(4)活動水準の指標 Index(IADL、ADL)
4.調査研究委員
(主査)橋本 泰子(大正大学・名誉教授)
(委員)浅海奈津美(北里大学・講師)
奥山 正司(東京経済大学・教授)
小田 泰宏(藍野大学・教授)
鈴木  晃(国立保健医療科学院・健康住宅室長)
辻 彼南雄(ライフケアシステム・メディカルディレクター)
中村  敬(大正大学・教授)
松田  修(東京学芸大学・准教授)

サマリー
 ・調査期間5年間のうちに、約17%の人に同居関係の変化、約24%の人に日常生活上の支障が発生。しかし、日常生活上の支障が出始めても「人生満足感」「意欲」に大きな影響はない
 ・後期高齢期には多くの変化が訪れるが、その内容は「暮らし方」によって一様ではない

図1

 ・文化・芸術・運動のための外出が重要
 ・自宅の改修・補修を行った場合の方がその後日常生活に支障が出ていない
 ・子どもの家を訪問することは減っていくが、電話やメールのやりとりは増える
 ・「自立する気概」「配偶者への満足感」「地元への興味」「続けている活動」「高齢者に配慮されている地域」が重要
 ・「気構え・プライド」「さりげないサポートを得ながら体を動かす習慣」「一応の経済基盤(特に安定した住宅)」が重要
 ・高齢期には医療機関を変更せざるを得ない場合が多い
 ・高齢者が活動を保持する「手立て」として、「これまでの活動を続ける」「マイペース」「活動変換の機会をつかむ」「仲間作りを急がない」が重要
図2

75歳からの暮らしとは?
◆約17%の人に同居者の変化
(調査当初の「夫婦二人暮らし」から5年間に一人暮らしになった、子どもと同居したなどの変化のあった人の割合。5年間継続した調査協力者のみ。「変化あり」17.2%、「変化なし」82.8%)
◆約24%の人に日常生活上の支障が出始めた
(5年間の間に「IADL」または「ADL」で1つでも問題があると答えた人あるいは「要介護認定を受けた人」の合計割合。「支障が出るようになった」23.6%、「支障はない」76.4%)
◆日常生活上の支障が出始めても「人生満足感」や「積極的な意欲」は大きく変わることはない
(「これまでの人生で求めていたことのほとんどを実現できたと思いますか」に、「実現できた(日常生活に支障がある)」51.1%、「実現できた(日常生活に支障がない)」48.6%。「これからなすべきことがあるという意欲や何か役に立ちいたいという気持ちを持っていますか」に、「なすべきことがある(日常生活に支障がある)」55.6%、「なすべきことがある(日常生活に支障がない)」58.2%。2008年)

暮らし方による生活の特徴
一人暮らしの男性
(特徴)
■「自転車に乗る頻度」がもっとも高い(47.1%、平均27.0% 04年)Kruskal-Wallis P<0.001以下
■「要介護認定を受けたことがある」が多い(14.7%、平均5.0% 04年)χ2 P=0.05
■「心配事や悩みを聞いてくれる人」「いない」が多い(26.5%、平均9.7% 04年)
■「朝食を食べない」が多い(10.5%、平均4.4% 04年)
■「塩分に気をつけている」が少ない(67.6%、平均75.0% 04年)
■「就労によって収入を得ている」が多い(04年14.7% 08年15.8%、平均04年12.3% 08年8.6%)
■「転倒(過去1年間)」が多い(04年自宅内21.1% 平均13.6%、08年自宅外15.8% 平均9.1%)
(経年変化)
■「美術館・図書館など教育・文化施設への外出」が増加( 04年→08年 P<0.05)
■「最近小さなことを気にする」が減少(04年→08年 Friedman P<0.01)

一人暮らしの女性
(特徴)
■「一人暮らし、自分で決めた」が多い(36.7%、一人暮らし男性20.6% 04年)χ2 P<0.05
■「このまま一人で暮らしたい」が多い(95.5%、男性78.1% 04年)χ2 P<0.05
■「心配事や悩みを聞いてくれる友人」が多い(40.0%、平均24.0% 04年)
■持ち家率が低い(「民間の賃貸住宅」「公社・公団の賃貸住宅」の割合)(21.1%、平均16.3% 04年)
■年収120万円未満の人が多い(17.8%、平均9.0% 04年)
(経年変化)
■「自転車に乗る頻度」が減少(04年~06年 Friedman P<0.05)
 「電車やバスでの外出」が減少(04年~ 08年 Friedman P<0.05)
■「タクシーの利用」が増加(04年→08年χ2 P<0.05)

夫婦二人暮らしの男性
(特徴)
■自動車の運転頻度が高い(週4日以上運転18.0%、平均9.0% 04年)Kruskal-Wallis P<0.01以下
■「配偶者に満足」が高い(66.7%、女性は33.8% 04年)Mann-Whitney P<0.01以下
■「心配事や悩みを聞いてくれる人」は「配偶者」が多い(85.6%、女性は72.3% 04年)
■「年収500万円以上」が多い(24.6%、平均14.5% 04年)
■「睡眠6時間以上」が多い(79.3%、平均71.3% 04年)
■「週4日以上自動車を運転する」が多い(25.2%、平均12.7% 04年)
(経年変化)
■「自動車の運転頻度」が減少(04年~08年 Friedman P<0.01以下)
■「最近小さなことを気にする」が増加(04年~08年 Friedman P<0.05)
■「人生に満足している」が低下(04年~08年Friedman P<0.05)
■「介護認定を受けたことがある」が増加(04年→08年χ2 P<0.05)
■「プール・スポーツ施設・運動場など」「習い事の教室やカルチャーセンター」への外出が減少
 (04年→08年χ2 P<0.05)
■ IADL「電話」「電車やバスで外出」「日常の外出」「洗濯」で「できる」が減少
 (04年~08年 Friedman P<0.01~P<0.05)
■「郵便局や金融機関への徒歩所要時間」が延長(04年~08年 Friedman P<0.01)

夫婦二人暮らしの女性
(特徴)
■「配偶者に満足」が低い(33.8%、男性66.7% 04年)Mann-Whitney P<0.01以下
■「睡眠6時間以下」が多い(38.5%、平均28.7% 04年)
■「人生で求めていたことを実現できた」が多い(60.0%、平均52.3% 04年)
■「住んでいるところに愛着がある」が多い(93.8%、平均86.3% 04年)
■「将来の配偶者の介護に不安(ある、ときどきある)」が多い(49.2%、男性35.1% 04年)
(経年変化)
■「女性夫婦二人暮らし」5年間継続者は約1/3(04年→08年継続66.7%、暮らし方継続平均82.8%)
■「塩分に気をつけている」が増加(04年→08年χ2 P<0.05)
■「介護認定を受けたことがある」が増加(04年→08年χ2 P<0.05)
■要支援以上に認定を受けた人がもっとも少ない(04年3.1% 平均5.0%、08年6.7% 平均13.1%)

調査の途中で亡くなられた方
■もっとも亡くなった方が多いのは、「一人暮らしの男性」17.6%。「夫婦二人暮らしの男性」8.1%、「一人暮らしの女性」0.0%、「夫婦二人暮らしの女性」3.1%。

分析の中からわかってきたこと
文化・芸術・運動のための外出が重要

図3

転倒は繰り返す傾向がある
 1年前に転倒した経験がある人はそうでない人よりも転倒のリスクが3.37倍高い(2004年の転倒の有無と2005年の転倒の発生との比較)

高齢者向け改修ではない一般的な住宅リフォームを度々行っている人は、元気な人が多い
 2回以上改修工事をした場合の中で日常生活に支障のない人:11人中8人(72.7%)。改修工事をしていない場合の中で日常生活に支障のない人:114人中50人(43.8%)(2005年から2008年にかけて)

子どもの家を訪問することは減っていくが、電話やメールのやりとりは増える

図4

活動水準の維持に影響を与える可能性があるキーワード
 1.自立する気概(人に頼るほう/頼らないほう)
 2.配偶者への満足感
 3.地元への興味(地域に行ってみたい場所がたくさんある)
 4.続けたい活動を持っている
 5.高齢者フレンドリーな地域(高齢者に配慮されている)

追加インタビューの中からわかってきたこと
 介護が必要になっても充実した暮らしを続けている人は、気構え・プライド、さりげないサポートを得ながら体を動かす習慣、一応の経済基盤を持っている
 地域での「活動」は新しい活動につながる。75歳を過ぎても親しい人からの誘いにより、新しい活動を始めている
 高齢期には医療機関の変更が多い。医療機関を変えなければならない状況になってはじめて探すことが多い

<調査結果から導き出された「高齢者が活動を保持するための『手立て』」>
 1.これまでしてきた活動を続ける(続けることで活動のコントロールがしやすく、機会が広がる)
 2.マイペースを保つ(欲張らず、今できていることを楽しむ)
 3.活動変換の機会をつかむ(マイペースを保ちながら時には依頼や誘いにのる)
 4.仲間作りを急がない(関係づくりには時間がかかる。年単位で築くくらいの構えで)