中央調査報

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■「中央調査報(No.648)」より

 ■ 第4回 若者の教育とキャリア形成に関する調査について

平塚 眞樹(法政大学社会学部教授)


 「若者の教育とキャリア形成に関する調査」は、若者の学校から仕事への移行過程に関する今日の状況と課題を明らかにすることを目的に、教育学・教育社会学・社会学などの研究者が共同で進めている調査である。すでに過去にも紹介を行っている(「中央調査報」No.612,No.625,No.637)が、本調査は、2007年4月1日現在で20歳の若者を対象に、学校から仕事への移行過程や、彼ら・彼女らの生活、意識、人間関係等の変化の過程を追跡するパネル調査として毎年1回実施している。
 これまで、2007年の10月から12月に第1回調査、2008年、2009年、2010年の同時期にそれぞれ第2回、第3回、第4回調査が実施された。今回は、第4回調査の概要と分析結果の一部を紹介したい。

1.調査実施・回収状況の概要
 第4回調査は、第3回調査の時点ですでに次回以降の調査には参加できないという意思を表明した者などを除いた、1,112名を対象として実施した。本調査は2007年4月1日現在で20歳の若者を対象にしているため、第4回調査実施時点では23~24歳の若者が調査対象となっている。郵送による質問紙配布・調査員による訪問回収という方法をとったが、調査票の回収数は1009票であり、対象者に対する回収率は90.7%と、想定していた目標を上回る回答が得られた。
 本調査の回答率は(*沖縄データにウェイト済)、1年目調査の回答者数1374人を100.0%とすると、2年目調査で80.7%、3年目調査で70.4%、4年目調査では62.7%と徐々に低減しているが、毎回の対象者数に対する回収率は、2年目:83.5%、3年目:86.2%、4年目:90.7%と、むしろ徐々に上昇している。片山(2011)によれば、これまで実施された他の類似調査と対比すると、本調査の回答率は総じて良好であり、また脱落者の偏りについても、一人暮らしの回答者が脱落する傾向にあるものの、総じて偏りが少ないデータとなっている。とはいえ昨年度の本報告に記した、中卒者・高校中退者、男性非正規雇用者、「暮らし向きが苦しい」と回答した者など、社会的に不利な立場にある回答者の脱落傾向について、なお注意深く見続ける必要がある。いずれにしても、本調査のデータ回収の総じて良好な経過は、ひとえに調査実施された中央調査社関係者、同調査員の方々のご尽力によるものと、研究グループ一同、深く感謝申しあげている。

 *なお、本調査で用いているサンプルは、第1回調査実施時に性別・地域・都市規模を組み合わせた層化二段階無作為抽出法によって得られたものであるが、サンプリングを行う際、よりその状況を詳細に分析する目的から、沖縄県のみ他の地区よりも多くサンプルを抽出している。そのため分析に際しては、第1回調査時に沖縄在住であった者に対し人口分布比に従うようにウェイトをかけてサンプル数を調整している。以下の分析も、この「沖縄ウェイト」で調整した868サンプルのデータを用いて得られたものである。

2.第4回調査結果の概要
(1)回答者の現在の状況
 第4回調査回答者の現在の現状について、図1に示した。回答者全体では、「働いている」人が79.2%と多くを占めているが、第2回調査では「働いている」人の割合は43%だったことから、この2年間で多くの回答者が(主に四年制大学と想定される)学校を卒業し、働き始めたと考えられる。4年目調査で「在学中」との回答者の割合は11.9%で、そのほとんどが大学か大学院、半分近くは大学院に在籍しているようである。なお、男女差に関しては、男性の方が女性よりも「在学中」の者の割合が高い。

図1


(2)就労者の状況
 現在「働いている」人に目を向けたい。
 「働き方」についてみると、「正社員・正職員」(正規雇用)の割合は、回答者全体のうち67.2%であり、30.9%の人は「アルバイト」や「派遣社員」などの非正規雇用者で就労している。現在「働いている」人のうち、前回「在学中」であった人(現在「働いている」人のうち約7%)についてみると、男性の場合には95.3%、女性の場合には57.9%が正規雇用として働いており、ここには男女間の顕著な差異がある。

図2


 次に労働時間に着目すると、男女とも正規雇用の方が非正規雇用よりも労働時間が長い者が多いが、前回調査同様に、非正規雇用であっても週40時間以上働いている者の割合は高く、非正規雇用男性の58.8%、女性の54.3%を占めている(図3)。週に50時間以上働いている場合も、男女とも15%近くおり、決して低いわけではない。

図3


 正規雇用者に着目すると、男性の正規雇用者では週に60時間以上働く者の割合が24.2%と特に高い。週に50時間以上働いている人に関しても、正規雇用者では男性で47.4%、女性では32.0%となっており、男女とも3割以上の人が該当する状況にある。
 前回調査と比較すると、多少の傾向であるが、男性の場合に正規雇用の長時間労働比率が一層高まり、非正規雇用の同比率が若干減じる変化がみられた。

(3)健康状態
 第4回調査では、前回調査から加えられた「健康状態」に関する設問が引きつづき設けられている。回答結果をみると、現在の健康状態について、回答者全体の48.5%の人が良好(「とてもよい」「まあよい」)と回答しており、36.1%が普通と回答している(図4)。これらの数値は前回調査よりいずれも微減している。(前回調査時には、49.9%が良好、36.8%が普通との回答)

図4


 現在の状況別にみると、在学中の人の健康状態が比較的良好(57.1%)で、就労・就学いずれもしていない人(「それ以外」の人)の健康状況が相対的に良くない傾向は前回同様であるが、その違いは縮まっている。(前回は、「在学中」の人の66.4%、「それ以外」の人の37.4%が、「良好」と回答している。)
 また、健康上の具体的症状としては、働いている人や在学中の人は「身体が疲れる」「気持ちが落ち込む」と回答する割合が高いが、就労・就学していない人については、「よく眠れない」や「仕事や生活が思うようにできず困った」といった回答割合が比較的高い(図5)。ただし、働いている人の健康上の気になる症状は、前回調査よりいずれも微増しており、現在の状況による健康状態の違いは、この観点からも相対的に縮まっていることがわかる。

図5


(4)現在の生活への満足度
 現在の生活全般に対する満足度については、「在学中」の人の満足度が相対的に高く、「働いている」人たちの満足度が平均値に近く、「それ以外」の人たちの満足度が比較的低いとの傾向は、前回までと同様である。しかしながら、「働いている」人たちの満足度が微減している一方で、「それ以外」の人たちの満足度が微増したために、全体の差異が縮まる傾向にある。これは、(3)で述べた「健康状態」に関する回答と同じ傾向を示している。

図6


(5)休日の過ごし方
 休日の過ごし方に関する設問も引きつづき設けられたが、男女とも、前回調査同様に、身体を休めたり、テレビなどを観てくつろぐことが多い傾向がみてとれる(図7)。男女間では、女性の方が、他の人と買い物や飲食、映画などに出かける比率が多いのに対して、男性はゲームやインターネット、スポーツなどの活動を楽しむ傾向が、変わらず高い。

図7


 前回調査と対比すると、特に男性について、「身体を休める」「人と、買い物・飲食・映画など」「持ち帰り残業や仕事の付き合い」を挙げる場合が、いずれも前回より多少の増加をみせている。

(6)政治意識
 前回調査同様に、海外で実施された青少年調査で用いられている設問を参考にして、社会参画や政治に対する姿勢・価値観等、個々人の政治意識に関する項目を設けた。
 政治や社会問題に対する関心は、前回同様に、男女とも、学校や地域、社会運動や労働組合といった「中範囲」の世界への参加や関心が総じて低く、選挙時の投票など「広範囲」や、逆に身近な世界といった「小範囲」への参加・関心の方が総じて高い傾向には違いがない。また男女別では、これも前回同様に、女性よりも男性のほうが全般的に高い関心・参加傾向にあるが、投票行動や自治的活動への参加意識については、男女差があまりみられない(図8)

図8


 ただし、前回調査と対比すると、「学校や地域の自治的な活動への関心」については、男女とも微増しており、多少の変化が考えられる。(前回調査時には、男性21.6%、女性17.8%)

(7)社会・政治に対する意識
 最後に、若者が社会をどのようにとらえているのか、社会・政治への意識に関する項目について概観する。
 前回調査と同様に、全般的に、政府や企業に対しては不満を抱いている者の割合が高く、また不満は総じて男性よりも女性で、より高い傾向にある。あらたに設けた「格差問題」への意識についても、男女とも7割以上の高い比率で、また女性の方がより高く、格差を縮めるべきだと回答している(図9)

図9


 他方で、やはり前回調査同様に、「社会の問題は私たちの力で変えてゆくことができる」「日本は若者にチャンスが開かれている社会だ」といった項目については、全体として肯定的回答率が低く、また男性よりも女性のほうが低い傾向にある。
 前回調査結果を図10として示したが、前回からの変化は、企業・政府・社会のあり方への不満が前回より更に高まっているのに対して、「社会の問題は私たちの力で変えてゆくことができる」「日本は若者にチャンスが開かれている社会だ」といった項目への賛意がより減少していることである。不満は高じながら、自分たちの参加・関わりで社会が変わるとの信頼感はより減じるという状況が、回答者の間に一定の広がりを見せていることが推測される。

図10


3.おわりに
 以上、「若者の教育とキャリア形成に関する調査」の第4回調査について、調査の概要を紹介した。これまで4年間の調査を通じ、回答者・調査員のご協力で、大変貴重なデータが蓄積されつつあり、今後更なる分析・考察を積み重ねていく社会的使命を痛感している。本調査は当初4年間の計画であったが、回答率の予想以上の高さ、および調査に対する国内外での社会的関心の高さ、更には研究継続の財政的条件を確保できたことから、更に一年継続して調査実施することとした。これまで調査にご協力いただいた回答者ならびに中央調査社の皆さまに、あらためて感謝の意を申し上げるとともに、次回調査にも是非ご協力をいただきたいと研究グループ一同あらためて願っている。
 なお、第4回調査の調査結果については、ニューズレター第4号に概要を掲載した(http://www.comp.tmu.ac.jp/ycsj2007/index.htmlを参照)ほか、2011年8月に千葉大学で行われた日本教育学会大会において片山悠樹(名古屋商科大学)、藤田武志(日本女子大学)、相良武紀(和光高等学校・法政大学大学院)、西村貴之(首都大学東京)の4名が代表して報告を行っている。本稿は、ニューズレターならびにこれらの報告データをもとに作成したものである。


 片山悠樹(2011)「「若者の教育とキャリア形成に関する調査」4年目調査の概要と脱落サンプル」日本教育学会第70回大会報告