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■「中央調査報(No.677)」より

 ■ デジタル時代の新しいテレビ視聴 ~「テレビ60年調査」から~

NHK放送文化研究所 世論調査部 木村 義子


 1.はじめに
 2013年2月にテレビは放送開始60年を迎えた。21世紀に入り、メディア環境が大きく変化している中、視聴者にとってテレビの存在はどのように変化しているのだろうか。
 NHK放送文化研究所では、時代ごとに変化するテレビの見方や視聴者像を浮き彫りにするため、1982年の「テレビ30年調査」から、10年ごとに全国世論調査を実施している。
 今回の「テレビ60年調査」は、これまでの調査をふまえ、時系列でテレビ視聴の長期変化を捉えることと、この10年で大きく変化したメディア環境がテレビ視聴にどう影響しているのかを明らかすることを目的に実施した。テレビ30年~ 50年調査では、個人面接法1)で調査を実施してきたが、今回は、これに加えて配付回収法(留置法)の調査を実施した。今回実施した調査の概要は次のとおりである。

〔配付回収法〕
調査期間:2012年11月17日(土)~25日(日)
調査対象:全国の16歳以上の国民
調査相手数:3,600人
抽出方法:住民基本台帳から層化無作為二段抽出2)
調査有効数(率):2,506人(69.6%)

〔個人面接法〕(時系列比較用)
調査期間:2012年11月2日(金)~18日(日)
調査対象:全国の16歳以上の国民
調査相手数:2,094人
抽出方法:住民基本台帳から層化無作為二段抽出
調査有効数(率):1,408人(67.2%)

 2.テレビ視聴の変化~リアルタイム視聴を中心に

 視聴時間は長時間で安定
 まず、リアルタイム視聴の「量」の変化をみるため、NHK放送文化研究所で行っている「NHK全国個人視聴率調査」からテレビ視聴時間の推移をみる(図1)。1970年代前半までは伸びているが、1975年前後を頂点に減少しはじめ、1985年前後に3時間近くまで減少した。その後は増加に転じ、2000年以降は、多少増減はあるものの、3時間40分台と長時間で安定している。

図1 テレビ視聴時間の推移(週平均、1日 移動平均*)


 しかし、年層別にみると、60代以上の高年層は5時間以上の長時間視聴が続いている一方、男20代は、2002年から2012年にかけて、2時間23分→1時間50分、女20代は、2時間51分→2時間28分3)と、減少傾向にある。しかし、人口構成比で高年層の占める割合が増加しているため、全体の視聴時間も長時間で推移する構図となっている。
 「テレビ60年調査」から、こうした「量」の動きをふまえたうえで、リアルタイムを中心とした、テレビの見方やテレビへの意識といった視聴のいわゆる「質」についてみてみる。

 “漠然視聴”は増加
 テレビ番組を、何となくいろいろな番組を見る「漠然視聴」か、好きな番組だけを選んで見る「選択視聴」か、推移を時系列でみたのが図2である。1969年は選択肢が異なるため、厳密に比較はできないが、「漠然視聴」は1969年から1982年まで減少、1982年以降は盛り返してやや増加し、今回「テレビ60年調査」では、10年前からさらに増加した。

図2 漠然視聴・選択視聴の推移【個人面接法】


 大きく減少したテレビに対する興味
 テレビに対する興味の推移をみてみる(図3)。「以前よりも興味をひかれることが多くなった」と「以前も今も同じように興味がある」をあわせた興味のある人は、1967年から1982年にかけて減少していき、1992年に盛り返したが、今回の2012年で減少、これまでで最も少なくなった。

図3 「テレビに対する興味の変化」の推移【個人面接法】


 この10年の変化では、「以前よりも興味をひかれることが少なくなった」という人が29%→48%と大きく増加し、約半数を占めた。「以前も今もあまり興味がない」(14%)とあわせると、興味がない人は6割を超えている。「以前よりも興味をひかれることが少なくなった」人を、年層別にみると、この10年で全ての年層で増加した。テレビに対する興味の減少は、若年層だけではなく、中高年層でも起きている。

 テレビの興味減少の理由は、若年層と高年層で異なる
 テレビに対する興味の質問で、「以前よりも興味をひかれることが少なくなった」「以前も今もあまり興味がない」と答えた人に、その理由を尋ねた(図4)。全体では、「テレビ番組が面白くないから」が59%と最も多く、ついで「忙しくなって時間の余裕がないから」(35%)、「自分の好きな種目(ジャンル)の番組がないから」(34%)という理由が高かった。

図4 「テレビへの興味が少なくなった・以前も今も興味がない」理由(年層別)


 年層別にみると、「テレビ番組が面白くないから」「自分の好きな種目(ジャンル)の番組がないから」などテレビ番組自体についての理由は高年層の方が高い。一方、「パソコンや携帯電話などを利用するほうが面白いから」「動画サイトを見るほうが面白いから」など、他のメディア利用と比べているような理由は、若年層のほうが高い。
 2000年代になって、“番組の総バラエティー化”という現象が顕在化してきた(友宗・原2001)が、その現象自体が、自分の好きな種目(ジャンル)の番組がない、テレビ番組が面白くないなど、高年層を中心とした番組への飽き足らなさやテレビへの興味の減少につながっていないだろうか。一方、若年層は、パソコンやスマートフォンで、動画やSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などテレビ以外の新しい魅力的なインターネットサービスにふれ、テレビへの興味が相対的に失われていると考えられるのではないだろうか。

 3.多メディアの中のテレビ ~インターネットとテレビ
 さらに、様々なメディアの中での、テレビの位置づけの変化をみてみる。

10年間で多くの機能でテレビが下がり、携帯電話・パソコンが増加
 時系列調査(個人面接法)で、メディアの持つ機能のうち〈ニュース〉〈楽しむ〉など6つの機能について、テレビ、新聞、携帯電話、パソコンの4つのメディアの中から、最も役に立つと思うもの、もしくは、最も感じさせてくれるものを尋ねた(図5)。2002年から2012年の10年の変化をみると、全ての機能でテレビを挙げた人が減少し、携帯電話、パソコンを挙げた人が増加している。

図5 メディアの効用比較【個人面接法】


 機能別にみると、2012年においても、テレビは、〈ニュース〉57%、〈楽しむ〉68%、〈安らぎ〉55%、〈感動〉51%と、多くの機能で半数を超え、最も回答が多かった。
 一方、〈面白いものを探す〉、〈外とのつながり〉では、携帯電話、パソコンの回答が10年前に比べて大幅に増加し、テレビの回答が半数を割り込んだ。特に〈面白いものを探す〉では、テレビ(29%)の回答は、パソコン(37%)より少なかった。
 年層別では、〈面白いものを探す〉は40代以下で、〈外とのつながり〉は30代以下で、携帯電話とパソコンを挙げた人をあわせると、テレビを挙げた人よりも多かった。
 パソコンや携帯電話をよく使う若中年層では、テレビの役割や機能の一部をインターネットが肩代わりし、テレビとインターネットの位置づけが大きく変化していると考えられるだろう。

 4.デジタル時代の新しい視聴スタイルの広がり
 「テレビ50年調査」の報告では、1980年代に普及したリモコンによって、番組の面白いところだけを見るなど、テレビの新しい視聴スタイルが誕生し、1990年代はじめのテレビに対する興味の回復や「何となくいろいろな番組をみる」という漠然視聴の回復につながった可能性がある、と指摘した(白石・井田2003)。
 21世紀に入り、テレビの視聴は、リモコンに加え、デジタル録画機やインターネットの普及によって、さらに大きく変容しつつある。リアルタイムでなくても「いつでも、どこでも」自分のライフスタイルにあわせてテレビを視聴するスタイルが可能になってきている。また、若年層を中心に、インターネットでテレビについて情報や感想をやりとりし、「誰とでも」テレビを楽しむような新しい視聴スタイルが生まれていることも、この数年の変化だろう。そうしたデジタル時代の新しい視聴スタイルの広がりについてみていきたい。

録画再生視聴とテレビ番組に関する動画視聴の広がり
 まず、テレビ番組を録画して見るタイムシフト視聴についてみてみる。表1は、録画したテレビ番組をどのくらいの頻度で見ているか尋ねた結果である。

表1 録画番組の再生頻度 (年層別)


 「毎日のように」録画して見るという視聴者が10%、「週に1日以上」見る人(「毎日のように」「週に3~4日」「週に1~2日」を合わせた人)は、全体の40%であった。「週に1日以上」といった、日常的に録画再生視聴をする人を年層別にみると、40代以下で半数を超え全体と比べて高い。また、50代でも4割程度が日常的に録画再生をしており、録画再生によるタイムシフト視聴の年層的な広がりがみられる。
 インターネットで「テレビ番組に関する動画」をどのくらい見ているかを尋ねた(表2)。今回の調査では、「テレビ番組に関する動画」を、「番組そのものや、番組の一部を一般の人が加工したもの」と定義し、NHKオンデマンドなどの動画配信サイトのテレビ番組動画や、YouTubeなどの動画共有サイトで見ることができるテレビ番組動画も含めた。その結果、「テレビ番組に関する動画」を「毎日のように」見るという人は全体の1%と少なく、「週に1日以上」といった、日常的にテレビ番組に関する動画を見る人は12%であった。年層別にみると、30代以下で日常的にテレビ番組動画を見ている人が多く、特に16~29歳では、3割程度が見ている。“若者のテレビ離れ” がよく言われるが、若年層では、インターネットを通じてテレビ番組を見る人が多いことがわかる。

表2 テレビ番組に関する動画の視聴頻度(年層別)


若者に広がるテレビに関するSNS利用
 さらに、テレビを見ている時や視聴の前後に、インターネットでテレビについて情報や感想を読み書きするような視聴スタイルについてみてみる。
 調査では、テレビに関する情報や感想を読み書きする人の実態をできるだけ広くとらえるために、人と人とのつながりを促進・サポートするコミュニティ型のウェブサイトを広義のSNSと定義した。具体的には、mixiやTwitter、Facebook、LINEに加えて、「アメーバブログ」などのブログ、「2ちゃんねる」などの掲示板、「テレビ局の公式番組サイトの掲示板やブログ」なども含めて利用状況を尋ねた。そして、テレビを見ながらだけではなく、放送の前や後も含めて、広義のSNSでテレビに関する情報や感想を読んだり書いたりする利用頻度を尋ねた(表3)

表3 テレビに関するSNSの利用頻度(年層別)


 「毎日のように」利用する人は7%、「週に1日以上」といった日常的にテレビに関するSNSを利用している人は、全体の15%であった。年層別にみると、16~29歳で約4割、30代で約3割が日常的に利用しており、特に16~29歳では2割が「毎日のように」利用している。テレビをただ見るだけではなく、テレビの情報や感想を読み書きするような視聴スタイルは、若年層でよく行われている。

 5.デジタル時代のテレビ視聴

 現代的な視聴スタイルは、40代以下で多数派
 こうしたデジタル録画機やインターネットを駆使した、デジタル時代に特徴的ともいえる新しい視聴スタイルは、視聴者全体にどのぐらい広がっているのだろうか。
 視聴者を以下の3つのタイプ、(1)録画再生視聴・テレビに関する動画視聴・テレビに関するSNS利用、のいずれかを生活に取り込んで日常的に行っている「現代的視聴」タイプ、(2)従来のリアルタイム視聴は行うが「現代的視聴」は日常的に行わない「従来型視聴」タイプ、(3)リアルタイム視聴も「現代的視聴」もほとんど行わない「テレビをあまり見ない」タイプ、と視聴タイプで3つ分け4)、全体と各年層ごとの構成比をみてみた(図6)

図6 視聴3タイプの構成比(年層別)


 全体では「現代的視聴」タイプが49%,「従来型視聴」タイプが45%で,「現代的視聴」タイプの方がやや多いものの視聴スタイルは2分されていた。年層別では、40代以下で「現代的視聴」タイプが6~7割と多数派となっており,年層が低いほど多い傾向にあった。50代では「現代的視聴」と「従来型視聴」の2タイプは同程度だが,60代以上では「従来型視聴」タイプが多数派であった。また「テレビをあまり見ない」タイプは,30代以下で1割程度を占める。つまり,全体では視聴スタイルは「現代的視聴」と「従来型視聴」の2つのタイプに2分されているものの,年層別の構成比をみると,50代を境に2タイプの構成比が逆転していた。デジタル録画機やインターネットを駆使するような新しいテレビの視聴スタイルは、若中年層に広がっていることがわかった。

視聴スタイルで異なるテレビに対する意識
 そこで、「現代的視聴」タイプが多数派である16~49歳で年層を区切り、タイプごとに、テレビに対する意識が異なるかどうか分析した。
 テレビに対する興味(図7)では、「現代的視聴」タイプで、「以前も今も同じように興味がある」が16~49歳全体と比べて多かった(以下、多いという場合は、特に記述がない場合、16~49歳の全体と比べ有意に多いことを表す)。また、「従来型視聴」タイプでは「以前よりも興味をひかれることが少なくなった」が多く、「テレビをあまり見ない」タイプでは「以前も今もあまり興味がない」が多い傾向がみられた。

図7 テレビに対する興味の変化(16~49歳・視聴3タイプ別)


 また,テレビの楽しさを5段階で尋ねた質問をみると(図8)、「現代的視聴タイプ」では、「他にも楽しいことがいろいろあるが、テレビを見ることも同じくらい楽しいことだ」と「他のことをした方がもっと楽しいが,テレビを見ることもそれなりに楽しいことだ」などテレビの楽しさについて比較的プラス評価の回答が多かった。また「従来型視聴」タイプでは、「テレビを見ることは、何もしないでいるよりも楽しいが,退屈しのぎ以上のものではない」が多い。「テレビをあまり見ない」タイプでは、「現在のテレビは見ていても楽しめない」がおよそ4割と多く、視聴3タイプで,テレビの興味・楽しさなどの意識に大きな違いがみられた。

図8 テレビの楽しさ(16~49歳・視聴3タイプ別)


 このように、16~49歳の「現代的視聴」タイプでは、およそ半数でテレビに対する興味が減少しているものの、「従来型視聴」タイプと比べると、テレビへの興味が維持されている人が多く,テレビの楽しさもより評価していた。このことは、そもそもテレビに興味があり、テレビの楽しさを評価しているからこそ、デジタル録画機やインターネットを駆使してテレビを見ているとも考えられる。または、デジタル録画機やインターネットを駆使することで,テレビの楽しみ方に新たな価値を見出し、テレビの興味を維持しているとも考えられるかもしれない。

 6.まとめ
 テレビ視聴は、この10年で大きく変化してきた。全体では、視聴時間には大きな変動はみられないものの、テレビの見方、テレビに対する意識、メディアの中でのテレビの位置づけなどが、変化していることがわかった。
 また、タイムシフト視聴や、テレビに関する動画視聴、テレビに関するSNSの利用など、デジタル時代に特徴的な新しい視聴スタイルが若中年層に広がっており、若中年層の中でも、新しい視聴スタイルを日常的に行う人と従来のリアルタイム視聴のみの人とで、テレビに対する意識が異なっていることもわかった。
 かつて、リモコンが普及することでザッピングを前提としたテレビ番組が開発されたように、デジタル時代に特徴的なこうした新たしい視聴スタイルが広がることが、テレビ番組の作り方や番組編成など、テレビの有り様を変えていくのではないだろうか。還暦というメディアの成熟期に入ったテレビは大きな転換期を迎えている。今後も、テレビ視聴の変化を捉えていきたい。

注:
 1)個人面接法調査のデータを使用した図表には【個人面接法】と表記した。
 2)2012年7月より、住民基本台帳に日本に住む外国人も記載されるようになったが、今回の調査では、外国人と思われる人は除いて抽出を行った。個人面接法も同様である。
 3)6月全国個人視聴率調査より。図1と同じく、週平均、一日、移動平均のデータ。
 4)「現代的視聴」タイプは、「録画再生」「テレビ番組に関する動画視聴」「テレビに関するSNS利用」のいずれかを日常的に(週に1日以上)する人。「従来型視聴」タイプは、ふだんの日に1時間以上リアルタイム視聴をするが、「現代的視聴」(「録画再生」「テレビ番組に関する動画視聴」「テレビに関するSNS利用」のいずれかを週に1日以上)はしない人。「テレビをあまり見ない」は、ふだんの日にリアルタイム視聴が1時間未満で、「現代的視聴」もしない人。

参考文献:
・平田明裕・執行文子「広がる“カスタマイズ視聴”と“つながり視聴” ~「テレビ60年調査」から(1)」『放送研究と調査』63(6):18-45,2013
・木村義子「メディア観の変化と“カスタマイズ視聴”“つながり視聴” ~「テレビ60年調査」から(2)」『放送研究と調査』63(7):64-81,2013
・木村義子「“多極化” するデジタル時代のテレビ視聴者~「テレビ60年調査」から」『放送研究と調査』64(2):38-53,2014
・白石信子・井田美恵子「浸透した『現代的なテレビの見方』~平成14年10月『テレビ50年調査』から」『放送研究と調査』53(5):26-55,2003
・友宗由美子・原由美子「『時間快適化装置』としてのテレビ~視聴態度と番組総バラエティー化の関係~」『放送研究と調査』51(11):2-17, 2001

 〈引用調査一覧〉(いずれもNHK実施)
 1967年(昭和42年)11月  全国テレビラジオ番組意向調査   全国10~69歳1,800人×7組
 1969年(昭和44年)12月  放送に関する世論調査   全国15~69歳3,600人
 1974年(昭和49年)3月  今日のテレビ   全国15歳以上3,600人
 1979年(昭和54年)12月  日本人とテレビ   全国16歳以上5,400人
 1982年(昭和57年)10月  テレビ30年   全国16歳以上3,600人
 1992年(平成4年)10月  テレビ40年   全国16歳以上3,600人
 2002年(平成14年)10月  テレビ50年   全国16歳以上3,600人
 1971年(昭和46年)  ~全国個人視聴率調査(6月期)   全国7歳以上3,600人