中央調査報

トップページ  >  中央調査報   >  「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(JLPS)2013」からわかる若年・壮年者の希望・働き方・喫煙
■「中央調査報(No.680)」より

 ■ 「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(JLPS)2013」からわかる若年・壮年者の希望・働き方・喫煙

石田  浩(東京大学社会科学研究所)  
有田  伸(東京大学社会科学研究所)  
藤原  翔(東京大学社会科学研究所)  
朝井友紀子(東京大学社会科学研究所)  


 東京大学社会科学研究所は、2007年から若年・壮年者を追跡する「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(JLPS)」を実施している。本稿では、2013年に実施した第7ウエーブの基礎的な集計と分析をまとめたものである。3つのテーマについて集計・分析を行った。第1は、日本社会に対してひとびとがもつ希望の変遷について明らかにした。第2は、たばこ税率の引き上げと喫煙行動の関連について考察した。第3は、若年・壮年者の働き方、特に長時間労働の実態について分析した。1

 1.はじめに
 東京大学社会科学研究所では、2007年より「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」(Japanese Life Course Panel Survey-JLPS)を毎年実施している。本調査は、急激な少子化・高齢化や経済変動が人びとの生活に影響を与える中で、日本に生活する若年・壮年層の働き方、結婚・出産といった家族形成、社会や政治に関する意識・態度などがどのように変化しているのかを探索することを目的としている。同一の対象者に繰り返し尋ね続ける「パネル調査」という手法を用いている点が特長であり、同じ個人を追跡することにより、個人の行動や意識の変化を跡付けることができる。2013年調査は第7回目の調査である。
 対象者が最初に回答した第1回の調査は、2007年1月から4月に実施された。日本全国に居住する20歳から34歳(若年調査)と35歳から40歳(壮年調査)の男女を、選挙人名簿と住民基本台帳をもとに抽出した。抽出にあたっては、地域・規模だけでなく、性別と年齢を層化した上で行った。事前に追跡調査であることを対象者に確認した上で、調査票を郵送し、後日中央調査社の調査員が訪問して回収した。回収数は、若年調査3367名、壮年調査1433名、回収率はそれぞれ35%と40%であった。
 第1回調査の対象者を、継続的に毎年ほぼ同時期に追跡している。2013年には1月から3月にかけて第7回目の調査(Wave7)を実施した。調査票を事前に対象者に郵送し、後日中央調査社の調査員が調査票を回収するという第1回調査と同じ郵送配布・訪問回収法を採用した。第1回調査の回答者の中でその後調査に協力できない意思を表示した人と死亡者、住所不明となった人を除いた2572名(若年調査)と1168名(壮年調査)に対して調査票を郵送した。回収数は、若年調査で2039名、壮年調査で1038名、回収率はそれぞれ79%と89%であった。
 パネル調査を継続するなかで、離脱していく回答者が蓄積され対象サンプルが減少していくことを考慮し、2011年度には新たにサンプルを補充した。継続調査と同年齢の対象者、つまり2011年時点で24歳から38歳(若年調査)と39歳から44歳(壮年調査)の対象者を、第1回調査と同様な手続きで地域・規模・性別・年齢を層化した上で抽出した。調査方法については、調査票を郵送し後日郵送により返送してもらう郵送調査法を採用し、若年調査710名(回収率32%)、壮年調査253名(回収率31%)を回収した。2013年度には、調査に協力できない意思を表明した者を除いた706名と251名を対象に調査票を郵送した。回収数は、若年調査で516名、壮年調査で201名、回収率はそれぞれ73%と80%であった。

(石田浩)


 2.政権交代後の「日本社会の希望」の増加とその性格
 2013年の社研パネル調査は、野党自民党が衆議院選挙に大勝し、第2次安倍内閣が発足してすぐの時期に行われた。政権交代という社会の大きな変化は、日本社会に対するひとびとの意識や認識にも何らかの影響をもたらしているのだろうか。

(1)日本社会への希望の増加
 まずは、これまでも社研パネル調査が着目してきた「日本社会の希望」に対する意識の変化を見てみよう。図1は「日本社会には希望がある」という質問への回答の推移を示したものである2。この図によれば、「日本の社会には希望がない」と答えた人の比率は、2012年まではおおむね50%を超える高い水準にあったのに対し、2013年には前年の53%から41%へと大きく減少している。確かに「希望がある」と答える人の比率は依然17%と低い水準にあるものの、それでも以前に比べれば「日本社会への希望」が相対的に増加しているといえるだろう。

図1 日本社会の希望の有無


(2)個人の仕事や生活への希望は増加せず
   ―社会的ムードとしての希望
 しかしこのような日本社会への希望の増加は、必ずしも調査対象者自身の仕事や生活への希望の増加に裏打ちされたものではないようである。「将来の自分の仕事や生活に希望がありますか」という質問への回答の推移を示した図2によれば、個人の仕事や生活に「希望がある」とする比率は2013年には2012年の39%から35%へと4ポイント低下しているのである。同様に「希望がない」とする比率も前年に比べて約2ポイント増加している。一般に個人の仕事や生活に対する希望は、ひとびとが年齢を重ねていくにつれて次第に減少していくものであるため、この図のような減少トレンドも不思議なものではないが、少なくともこの図からは、今回の政権交代も個人のレベルにおいては、仕事や生活への希望を増加させてはいないことがわかる。このほか個人の生活全般に対する満足度(図3)をみても、それまで緩やかな増加トレンドにあった「生活全般に満足」の比率は、2013年には前年の68%から65%へとわずかながら減少している。これらの結果から、「日本社会に対する希望」の増加は、少なくとも政権交代直後の時期においては、対象者個人の仕事や生活に対する希望の増加や満足度の上昇にしっかりと裏打ちされたものというよりも、あくまで社会的な「ムード」の反映のようなものと位置付けられるかもしれない。

図2 個人の仕事や生活の日本社会の希望の有無


図3 生活全般に対する満足度


(3)「男性」と「株式保有者」で日本社会への希望好転
 では、誰がこのような社会的なムードに敏感に反応し、日本社会への希望を上昇させているのであろうか。毎年同じ対象者を追跡するというパネル調査の利点を生かし、ひとびとの属性別に2012年から2013年の間の日本社会に対する希望の変化を示した図4をみると、まず社会に対する希望の上昇比率には男女間でかなりの違いがあることがわかる。男性では38%の対象者がこの一年間に希望を上昇させているのに対し、女性ではこの比率が30%と約8ポイント低い。男性のほうが、政権交代を契機とした社会のムードに敏感に反応し、日本社会に対する希望を上昇させやすかったといえるだろう。

図4 誰が日本社会への希望を上昇させたか? (2012年~2013年)


 もう一つ興味深いのは、この日本社会に対する希望の変化には、調査対象者が株式を所有しているか否かによっても統計的に意味のある違いが生じているという点である。図4によれば、日本社会への希望を上昇させた比率は、2012年(変化前)の時点で株券・債券を所有していないグループでは33%であったのに対し、株券・債券を所有しているグループでは38%と約5ポイント高かった。この結果から、政権交代直後に生じた「日本社会への希望」の上昇傾向の一部は、いわゆる「アベノミクス」による景気上昇への期待を反映したものであると考えられる。
 ちなみに、重回帰分析の結果、性別、あるいは株式所有の有無は、日本社会への希望の上昇に対して統計的にも有意な効果を与えることがわかっている。表1は、2012年と13年の間の「日本社会の希望」の変化を被説明変数とし、性別、年齢、学歴、さらに2012年時点の従業上の地位、対数世帯所得、株式所有の有無、自民党好感度を説明変数とした重回帰分析の結果を示したものであるが、この表によれば、他の変数を統制した上でも性別と株式所有は、日本社会への希望の変化に有意な効果を及ぼしている。特に、このモデルには世帯所得変数も組み込まれており、所得水準を統制した上でも(すなわち所得が同水準であったとしても)株式を所有している人ほど日本社会への希望を上昇させていることがわかる3。逆に所得変数には有意な効果が認められず、「高所得者ほど日本社会への希望を上昇させている」とは結論付けられないことがあきらかになった。このほか、自民党への好感度が高い人ほど、政権交代によって日本社会への希望を上昇させている事実も認められた。本調査がとらえている「日本社会の希望」には、個人の選好や利害関係を背景とした日本社会への期待という側面も存在しているものと結論付けられよう。

表1 日本社会への希望の変化の規定要因(2012年~2013年)


(有田伸)


 3.たばこ税率の引き上げとその後
   -パネルデータでみる喫煙行動の変化-

(1) たばこ税率の引き上げ
 2010年10月1日から大幅なたばこ税率の引き上げが行われ、それに伴い小売価格は大きく上昇した。例えば、「マールボロ・ライト・メンソール・ボックス」は、改定前は320円だったのが、改定後には440円となっている。それでは、このたばこ税率の引き上げの前後においてどのような禁煙行動の変化があったのか、そしてまた増税後の変化はどのような傾向を示すのかを、パネルデータの分析から明らかにする。なお調査対象者は2007年時に20~40歳の男女であり、そのうち分析対象となったのは、喫煙行動についてたずねた2007年、2009年、2011年、2013年のすべての時点で回答した人たちである(男性:1,213名、女性:1,589名)。

(2)非喫煙化傾向とその停滞
 図5は調査年別の喫煙率をみたものである。男性については、たばこ税の増税が行われた2010年をはさんだ2009年から2011年にかけて、喫煙率の減少が大きい(5ポイント減少)。しかし、2011年と2013年の間では喫煙率に変化はみられない。また女性については2007年から2009年にかけて、また2009年から2011年にかけて徐々に喫煙率は減少している(それぞれ1ポイント、2ポイントの減少)。しかし、女性についても2011年と2013年の間には喫煙率の変化はみられず、わずかに反転傾向がみられる。

図5 調査年別の喫煙率


 以上より、2010年のたばこ税率の引き上げは、特に男性の喫煙率の低下を導いたといえる。女性については2007年から喫煙率が低下傾向にあるため、たばこ税増税の効果とはいえないかもしれないが、2011年までは喫煙率が低下傾向にある。しかし2011年と2013年の喫煙率にほとんど差はなく、非喫煙化の傾向はストップしている。
 このような傾向はパネルデータ分析からも確認できる。表2は喫煙行動を従属変数とした固定効果ロジットモデルを用いて、個人の喫煙行動の時点による変化を推定したものである。2007年を基準とすると、男性では2009年における効果は統計的に有意ではなかったが、2011年と2013年では統計的に有意な負の効果がみられた。これは喫煙から非喫煙への変化が、2011年で大きかったことを意味している。女性については2009年でも若干非喫煙化の傾向がみられているが、2011年における効果が最も大きくなっており、男性と同様の傾向を示している。なお、2011年と2013年の係数の値は男女ともにほぼ同じであり、喫煙から非喫煙への変化という傾向はこの間ストップしているといえる。

表2 固定効果ロジットモデルによる喫煙行動に対する時点効果の推定結果


(3)喫煙から非喫煙への変化
 それでは喫煙行動がどのように変化したのかをみてみたい。図6は2つの隣接する調査年において、喫煙者のうち何%が非喫煙へ変化(非喫煙化)したのかを男女別にみたものである。

図6 喫煙行動の変化の割合


 男性については2009年から2011年にかけて非喫煙化した者が19%ともっとも高いことがわかる。それ以前とそれ以後の非喫煙化は9%である。女性については、2007年から2009年にかけてと2009年から2011年にかけての非喫煙化の割合がそれぞれ19%、23%と大きく、2011年から2013年にかけての非喫煙化は12%と10ポイント近く減少している。これらの結果から、喫煙から非喫煙への変化がもっとも大きかったのは、たばこ税率の引き上げのあった2010年をはさむ、2009年から2011年であることがわかる。

(4)一日の喫煙本数の変化
 それでは喫煙者の喫煙本数がどのように変化したのかをみてみたい。注目するのは、一日のたばこの本数が減った減煙化と、一日の本数が増えた増煙化の動きである。
 喫煙者のうち、2つの隣接する調査年において一日の喫煙本数が増加した割合と減少した割合を男女別に示した(図7、図8)。男性(図7)については減煙者の割合が2009年から2011年にかけては17%、2009年から2011年にかけては18%となっている。しかし、2011年から2013年にかけてはその割合は11%となり、7ポイント減少している。一方、増煙者の割合をみていくと、2009年から2011年にかけては11%、2009年から2011年にかけては6%と減少したが、2011年から2013年にかけては17%となり、約11ポイント増加している。

図7 男性喫煙者の一日に吸うたばこの本数の変化


 女性(図8)については、喫煙者のうち一日のたばこの本数を減らした者の割合は、2007年から2009年にかけては10%、2009年から2011年にかけては12%、2011年から2013年にかけては10%と横ばいである。喫煙者のうち一日のたばこの本数を増やした者の割合は2007年から2009年にかけては10%、2009年から2011年にかけては7%と減少傾向にあったが、2011年から2013年にかけては12%となり、増加傾向にある。

図8 女性喫煙者の一日に吸うたばこの本数の変化


(5)どのくらい禁煙や減煙に成功したのか
 それでは2009年から2011年にかけて禁煙した者が、その後再び喫煙するようになったのかどうかをみていく。図9には禁煙を維持している者と再び喫煙化した者の割合を男女別に示した。分析の対象となる者の人数が少ないが、禁煙した者のうち、男性では26%、女性では29%と男女ともに3割近くの者が再び喫煙するようになっていることがわかる。

図9 禁煙したもののその後


 また、2009年から2011年にかけて、たばこの本数を減らした者は、その後どのような喫煙行動をとったのだろうか。図10は、非喫煙・減煙、本数維持、増煙の割合を示した者である。こちらについても分析の対象となる者の人数が少ないが、いったんは減煙した者のうち、男性では約5割が、女性では約4割が再び一日のたばこの本数を増やしていることがわかる。一方、たばこを吸わなくなったり、さらに減煙した者は少ないといえる。

図10 減煙した者のその後


(6)たばこ税率の引き上げの非喫煙化・減煙化・増煙化抑制に対する効果は一時的
 2010年のたばこ税率の引き上げに伴い、喫煙者の割合が減少した(男性:38%→33%、女性:14%→12%)。他の期間に比べると、たばこ税率の引き上げの前と後では、一日に吸うたばこの本数は大きく減少し(男性:18%、女性:12%)、本数の増加も抑制されている(男性:6%、女性:7%)。よって、2010年のたばこ税率の引き上げは、非喫煙化・減煙化・増煙化抑制を進める上で一定の効果を持っているといえるだろう。しかし、その後は、全体としての喫煙率が反転増加傾向にあるとまではいかないものの、非喫煙化傾向は弱まり、喫煙化・増煙化の傾向がみられる。以上の結果から、たばこ税率の引き上げの非喫煙化・減煙化・増煙化抑制に対する効果は一時的であり、さらなる禁煙化・減煙化の推進に対しては効果を持たない可能性がある。

(藤原翔)


 4.正社員・正職員の長時間労働の実態
 長時間労働は、肉体的・精神的疲労をもたらし健康や私生活に悪影響を及ぼすとして、社会問題となっている。労働力調査によると、週労働時間が60時間以上の労働者の割合は、2010年から2013年の間ほとんど変化がなく、約9%、30歳代男性に限ると約18%である。ワーク・ライフ・バランスを推進すべく、働き方の見直しの取組みがされているが、長時間労働は未だ解消していない。以下では、パネル調査を用いて、長時間労働者の実態を把握する。

(1)正社員・正職員の労働時間と長時間労働者の割合
 正社員・正職員について、月当たり労働時間を示したものが図11である(「1日あたりの労働(残業含む)時間」×「月あたりの労働日数」)。労働時間が減少している傾向は見られず、2009年から2013年の5年間ほぼ横ばいであることがわかる。図12は、労働時間が週60時間を越える長時間労働者(月の労働時間が240時間を越えた者)の割合を見たものである。正社員・正職員に占める長時間労働者の割合は5年の間ほとんど変化がなく、男性の約20%、女性の約8%が長時間労働をしている。

図11 月当たり平均労働時間




図12 長時間労働者(月に241時間以上働く者)の割合


(2)長時間労働者の希望する労働時間
 長時間労働者は、「仕事が好き」であり自発的に長時間労働をしている(いわゆる仕事中毒)との見方もある。この見解を確かめるべく、2009年から2013年の5年間継続して長時間労働をしている正社員・正職員について、労働時間の希望推移を見たものが図13左図である。長時間労働者の約8割が労働時間を「短くしたい」と継続的に希望していることがわかる。これに対し、図13右図の継続長時間労働者以外を見てみると、「そのままでよい」と回答する者が半数を超えている。以上の結果から、継続長時間労働者のほとんどが、自らの労働時間希望にかかわらず長時間労働をしているという実態が明らかとなった。

図13 労働時間の希望推移


(3)時間外労働割増賃金は長時間労働を抑制するのか
 長時間労働を抑制し、労働者の健康を確保するとともにワーク・ライフ・バランスを実現することを目的とした改正労働基準法が2010年4月に施行された4。この改正により、月60時間を越える時間外労働に対して、使用者は50%以上の率で計算した割増賃金を支払うことになった。ただし、中小企業においては適用が猶予されている。以下では、改正は労働時間の削減に貢献したかを記述的に見てみる。
 図14は改正前に長時間労働をしていた者とそれ以外の者の平均労働時間を、改正が適用される企業と、適用されない中小企業別に見たものである。改正の公布は2008年12月であることから、公布前の調査時点である2008年1月に長時間労働(月241時間以上)をしていたものを、改正前長時間労働者と定義した。2010年1月と2011年1月の間が改正適用の境目である。適用企業で働く改正前長時間労働者について、施行前後で労働時間の変化は、確認されなかった。今後他のデータを用いた検証が必要であるが、少なくとも本データでは、改正の効果は観察されなかったといえる。長時間労働を抑制するためのさらなる施策が求められよう。

図14 グループ別月当たり平均労働時間


(朝井友紀子)


 5.おわりに
 本稿では、3つのテーマについて分析した。第1は、日本社会に対する希望の変遷である。「日本の社会には希望がない」と答えた人の比率は、2012年までは高い水準にあったのに対し、2013年には大きく減少し、以前に比べれば「日本社会への希望」が相対的に増加している。一方、個人の仕事や生活への希望は増加していない。2012年暮れの政権交代も個人のレベルにおいては、仕事や生活への希望を増加させてはいないことがわかった。「日本社会に対する希望」の増加は、少なくとも政権交代直後の時期においては、対象者個人の仕事や生活に対する希望の増加や満足度の上昇にしっかりと裏打ちされたものというよりも、あくまで社会的な「ムード」の反映のようなものと位置付けられる。
 第2は、たばこ税率の引き上げの非喫煙化・減煙化・増煙化抑制に対する効果である。2010年10月1日から大幅なたばこ税率の引き上げが行われ、それに伴い小売価格は大きく上昇した。このたばこ税率の引き上げの前後においてどのような禁煙行動の変化があったのか、そしてまた増税後の変化はどのような傾向を示すのかを、パネルデータの分析から明らかにした。2010年のたばこ税率の引き上げに伴い、喫煙者の割合が減少した。しかし、その後は、全体としての喫煙率が反転し増加傾向にあるとまではいかないものの、非喫煙化傾向は弱まり、喫煙化・増煙化の傾向がみられる。たばこ税率の引き上げの非喫煙化・減煙化・増煙化抑制に対する効果は一時的であり、さらなる禁煙化・減煙化の推進に対しては効果を持たない可能性がある。
 第3は、長時間労働者の実態である。継続して長時間労働をしている正社員・正職員について、労働時間の希望推移を見た結果、約8割が労働時間を「短くしたい」と継続的に希望していた。継続長時間労働者のほとんどが、自らの労働時間に対する希望にかかわらず長時間労働をしているという実態が明らかとなった。また、2010年4月に施行された改正労働基準法の効果を検証した結果、適用企業で働く改正前長時間労働者について、施行前後で労働時間の変化は確認されなかった。

(石田浩)



 脚注
 1 本稿は、東京大学社会科学研究所パネル調査プロジェクト・ディスカッションペーパーシリーズNo.75「希望・仕事・喫煙行動の変化「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(JLPS)2013」の結果から」(2014年3月)を修正し、執筆したものである。本稿は科学研究費補助金基盤研究(S)(18103003, 22223005)の助成を受けて行った研究成果の一部である。東京大学社会科学研究所パネル調査の実施にあたっては社会科学研究所研究資金、(株)アウトソーシングからの奨学寄付金を受けた。パネル調査データの使用にあたっては社会科学研究所パネル調査企画委員会の許可を受けた。
 2 2008年から2013年まで毎年欠かさず回答が得られた調査対象者2,569名に限って分析を行った結果である。以下同様。
 3 この傾向は世帯所得の代わりに個人所得を組み入れた場合にも同様に認められた。
 4 改正の詳細は厚生労働省のホームページ http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roukikaitei/index.html を参照