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■「中央調査報(No.692)」より

 ■ 第5回日本の医療に関する意識調査 ~日医総研ワーキングペーパーNo.331より~

江口 成美(日本医師会総合政策研究機構(日医総研)主席研究員)
出口 真弓(日本医師会総合政策研究機構(日医総研)研究員)


1. はじめに
 超高齢社会の中、国民が安心して医療を受けられる環境を整備し、より多くの国民が健康で長寿を全うできる地域社会の構築が求められている。国が推進する社会保障の改革の一環として、各都道府県は地域医療構想の策定を今年度より開始することとなるが、医療政策立案においては、行政や医療提供者の視点だけでなく、医療の受療者である国民の意見やニーズがしっかりと反映されるべきであることは言うまでもない。日医総研では、医療の受け手である国民・患者の医療への意識やニーズを継続的に把握し、今後の医療提供のあり方を検討する基礎資料の作成を目的に、2002 年より継続的に意識調査を実施してきた。本稿では、第5 回となる調査結果から一部抽出して紹介したい。なお、第5 回調査では、従来からの個別面接調査法に加えて、WEB 調査も併せて実施した。

表 調査の概要

表 回答者属性


2. 調査結果
(1)医療満足度の推移
①「受けた医療の満足度」、「日本の医療全般の満足度」の推移

 本調査では、医療満足度を「自身が受けた医療」と「日本の医療全般(医療制度など)」に分けて調査している。「受けた医療」の満足度は極めて高い傾向がみられ、「医療全般」の満足度についても上昇の傾向がみられた。今回調査では医療全体の満足度は69.5%で約7 割に達した。(図1)

図1 受けた医療の満足度、医療全般の満足度の推移

②不満(満足していない)の理由
 満足していない要因を探ることは、今後の医療の向上に不可欠である。「受けた医療」に不満な国民にその理由を尋ねると、上位3 項目は「待ち時間」(44.4%)、「医師の説明」(43.4%)、「治療費」(41.4%)であった(複数回答)(図2)。これらの上位3 位については、同じ選択肢で調査を始めた第3 回調査以降同様の傾向である。一方、「日本の医療全般」に不満な理由は、「国民の医療費負担」(50.4%)、「医師の体制」(39. 5%)、「効率性・利便性(待ち時間など)」(38.7%)の順であった。これらも、第3 回以降、同じ傾向が示されている。

図2 受けた医療、医療全般に満足していない理由

③医療満足度に影響を与える要因
 医療満足度に影響を与える要因については、第4 回調査で重回帰分析を行った1。今回はそれぞれの項目の特性と、満足度全体との関連性を分析し、視覚的にわかりやすく示すことを試みた。まず、受けた医療については、満足していない理由の割合を横軸に、それぞれの項目と受けた医療の満足度との相関係数を縦軸に示した(図3)。その結果、「医師の説明」は受けた医療の不満の理由として割合が高く、また、受けた医療(全体)の満足度への影響が大きいことがわかった。
 一方、「待ち時間」は不満の理由としては高い割合であるが、受けた医療全体への影響は低かった。これらの結果は既存の重回帰分析の結果と一致する。一般に、「待ち時間」は医療の不満の理由として挙げられるが、医師が行う説明が満足度に大きく影響しており、たとえ待ち時間が長くても、医師が十分な説明を行うことで、医療満足度が上がることが推測される。次に、日本の医療全般の満足度については、個別項目の満足度スコアを横軸に、個別項目と日本の医療全般への満足度との相関関係を縦軸に示した(図4)
 その結果、「医療機関の安全性(医療機関が安全だと思うか)」に対する評価は個別項目の中で最も高く、また、医療全体の満足度にも強い影響を与えていることが明確に示された。患者一人ひとりの性格や立場、希望などを考えた「個別状況に応じた医療」も満足度への影響が高い傾向がみられた。

図3 受けた医療の満足度と不満の理由(面接調査) 図4 日本の医療全般への満足度と平均満足度の関係(面接調査)

(2)国民が考える医療の重点課題
 国民が考える「医療提供体制において重点を置くべき課題」は、「高齢者などが長期入院するための入院施設や介護老人保健施設の整備」(56.4%)、「夜間休日診療や救急医療体制の整備」(49.6%)、続いて「医療従事者の資質の向上」(33.3%)であった。これらの中で、「長期入院施設の整備」と「夜間休日・救急医療」は、今回を含めた過去5 回の全調査で、上位2 位の最重要課題と認識されている。40 歳代を境に、若年層は救急医療を、高齢層は長期入院のための整備を最重要課題と考えている(図5)。都市部など、今後の高齢化が急速に進む地域では、長期に療養する病床(あるいは介護施設)の不足という課題を抱えており、そのような現状を反映していると推測される。

図5 国民が考える重要課題- 上位2 項目、年齢別

(3)医療などに対する不安の地域差
 地域や国全体で人口減少と少子高齢化が進んでいることに対して全体の66.2%の国民が不安を感じていた。また、全体の約4 割が「希望した場所で最期を迎えられる」、「医療と介護の一貫サービス」、「早期退院後の地域でのリハビリや療養」、「地域での高水準のがん治療」に不安を持っていた。不安の度合いには地域差があり、町村など地方部では、療養医療、高水準の医療、夜間休日の医療への不安が高い傾向が見られた(図6)。希望する場所で最期を迎えることについては、都市部と地方部の差が少なく、いずれの地域でも不安を抱える傾向がみられた。

図6 不安に感じること- 地域別

(4)医療機関の受診についてのニーズ
 一般に、受診のあり方として、最初に病院の専門医にかかるのではなく、「最初にかかりつけ医など決まった医師を受診し、そこで専門医を紹介してもらう」ことを望む人が69.9%を占めた(図7)。かかりつけ医など決まった医師を受診することを多くの国民が望んでいる。一方、病気の程度に関わらず自分の判断で選んだ医療機関を受診することを望む人は27.2%であった2。年齢による違いはほとんど見られなかった。紹介状なしの大病院受診に伴う患者負担増の周知度が高まっていることも一因と推測されるが、身近なかかりつけ医がいて、その医師を診療することへの要望が高いことを示している。

図7 医療機関の受診のあり方

(5)かかりつけ医への期待
①かかりつけ医がいる人の割合と期待

 かかりつけ医は、健診などの予防を含めた日常診療や、在宅医療、病院や介護施設との連携など、地域で果たす役割が大きい。住民の身近で頼りになり、健康管理を行ってくれる「かかりつけ医」に対する国の期待は大きく、在院日数短縮化のなか、急性期病院からの退院患者を早期に地域で受け入れるニーズも高まっている。
 かかりつけ医の定義として、「健康のことを何でも相談でき、必要なときは専門の医療機関へ紹介してくれる、身近にいて頼りになる医師」と示したうえで、まずは、かかりつけ医の有無を尋ねた。全体の53.7% の国民は「かかりつけ医がいる」と回答し、うち75 歳以上の高齢者では81.8%にのぼった(図8)。若い人ほどかかりつけ医がいる割合は低いが、「いないがいるとよい」と思う割合は比較的高い傾向がみられた。
 かかりつけ医に対して国民は多くのことを期待している(図9)。望む医療や体制を尋ねると、①専門医への紹介(93.3%)、②紹介先への情報提供(87.0%)が高く、③どんな病気でもまずは診療できる(82.0%)、④疾病予防(79.0%)、⑤健診・検診(76.6%)と続いた(複数回答)。在宅医療や夜間対応も6 割を占め、最期の看取りも47.9%に上った。特に、専門医への紹介を望む人が9 割で、ゲートキーパー機能のニーズが高く、また、幅広い診療や予防などの健康管理へのニーズが高いことに注目すべきである。

図8 かかりつけ医がいる割合


図9 かかりつけ医に望む医療や体制(複数回答)

②かかりつけ医を持つことの効果
 かかりつけ医の有無別に、受けた医療の満足度、健康管理の度合いについて比較を行った。その結果、かかりつけ医がいる人は、いずれの年代においても満足度が高く、より多くの健康管理項目に○を付ける傾向がみられた(図10)。かかりつけ医を持つことで、安心感が高まり、また、かかりつけ医からのさまざまなアドバイスなどにより、自身の健康管理に対する意識が高まるという効果が明らかになった。

図10 受けた医療に満足している割合、健康管理項目の平均回答数

(6)希望する介護の場とサービス提供者
 本来、医療と介護は一体的に提供されることが必要であり、介護の充実は医療の向上にもつながる。高齢で介護を必要とする状態になった際にどこに住みたいか、という質問に対して、「できれば自宅に住みたい」と回答した人が47.0%にのぼった。老人ホームなどの居宅は23.7%、介護施設は19.7% であった。高齢になるほど自宅を望む割合は高くなり、75 歳以上では55.8%であった。
 介護を受ける場合、家族からの介護サービスを受けるのがよいか、外部介護サービスから受けるのがよいかについて尋ねると、自宅で介護受ける場合でも、外部の介護サービスを望む人が42.5%を占めた(図11)。家族構成の変化や家族主体の介護の負担感の重さ等に起因して、家族ではなく、外部の介護サービスへのニーズが高いことがわかる。今後の独居世帯の増加等とあいまって、介護サービスのニーズの急増が予想される。

図11 介護を受けたい場所と望む介護サービスの提供者

(7)面接調査とWEB 調査の比較
 最後に、本調査は、第1 回より継続してきた面接調査を主軸とし、WEB 調査も並行して実施した。結果は、多くの設問で両調査の回答傾向は同じであったが、回答の数値・割合については差異が見られるケースもあった。年齢調整などにより差異は縮小したが、有意な差が残るケースもみられた。具体的には以下の通りである。
 WEB 調査結果の属性分布(年代別・健康状態別分布、年代別・居住都市規模別分布)を、面接調査結果の分布と同一にするようウェイト調整を行い、WEB 調査結果が面接調査結果にどの程度近づくかを確認した。多くの設問においてWEB 調査結果が面接調査結果に近づく方向に補正された。特に、「年齢・健康状態」の回答者属性分布を面接調査結果と同一にするウェイト調整では、多くの設問項目において、面接調査とWEB 調査の回答比率差を縮めた一方、受けた医療の満足度は、面接調査では89.6%、WEB 調査では76.2%であったが、年齢・都市規模調整後はWEB 調査で81.6%となった。また、衣料全般の満足度は面接が69.5%、WEB 調査調整後は58.9%であった(図12)。属性による調整後も一定の乖離があることから、年齢・健康状態などの属性だけでは説明できない、WEB 調査回答者に固有の属性(特性)が存在している可能性を示唆している。
 そこで、全データを用いた回帰分析を行い、WEB 調査回答者に存在する固有影響の有無を確認した。その結果、多くの調査項目において、WEB 調査ダミー変数は、統計的に有意であった(図13)。つまり、本調査での面接調査回答者とWEB 調査回答者は、異なる意識や価値観等を持っており、その結果、回答割合に差が生じていると推測される。それぞれの調査への参加する人の特性の違いと考えられる。

図12 WEB 調査ウェイト調整後の医療満足度(受けた医療、日本の医療全体)- 面接調査、WEB 調査


図13 各回帰分析におけるWEB 調査ダミー変数に関する推定結果(一部)

3. まとめと考察
■経年的にみた変化と今後の対応
 国民の医療に対する意識を、直近の調査結果に基づいて分析した。受けた医療への満足度は高く、日本の医療全般への満足度も上昇していた。患者を尊重する、個別性のある医療を受けていると回答する割合も増加しており、医師患者関係の一定の向上を示すものと思われる。超高齢社会を迎え、さまざまな医療制度改革が実施されるなか、今まで築いてきた医師患者関係や信頼関係については、今後も維持することが重要である。

■医師の説明
 患者への「医師の説明」は、受けた医療の満足度への影響が強いことが明確に示された。一方、待ち時間は不満の理由としては高いが、受けた医療全体への影響は低かった。既存調査からも、医師が行う説明が患者の満足度に大きく影響していることが判明しており、このような実態を、医学教育の場などにおいて若い医師へも示し、医療者へ伝えていくことが必要である。

■医療に関する不安の解消
 国民が考える医療の最重点課題は、長期入院できる施設の整備(56.4%)で、前回調査に比べて割合が増加した。また、地域医療に関するさまざまな不安は、町村などの地方部の住民は、都市部に比べてより強い不安を抱えている。特に、夜間や休日の医療、高水準のがん治療、夜間休日の医療について、地方部ではより多くの人が不安を持つ傾向がみられ、医療介護の地域格差を反映している可能性がある。2025 年に向けて、都道府県では地域医療構想の策定が進められているが、住民の住むそれぞれの地域事情に応じて提供体制の整備を行い、住民の不安の解消に向けた対応が行われることが望まれる。

■かかりつけ医への国民の期待と医療側の今後の対応
 受療のあり方として、国民の7 割が大病院ではなく、身近な医療機関をまず受けることを望んでいることが改めて示された。かかりつけ医への期待を示すものともいえる。また、多くの国民は、かかりつけ医に対して、専門医への紹介、予防などの健康管理、幅広い診療、在宅医療、看取りなどの要望を持っている。今後の地域医療の構築にあたっては、かかりつけ医に対する地域住民の期待に応えていくことが大きな課題である。  また、必要とする人にかかりつけ医を紹介し、より多くの国民がかかりつけ医を持てるよう、地域で情報提供を徹底して行うことが必要である。それと同時に、かかりつけ医の機能の強化に向けて、医師の生涯研修等の充実を図る必要がある。全国で構築が進められている地域包括ケアシステムのなかでも、地域のかかりつけ医が果たす役割は大きく、早急な対応が求められる。

■面接調査とWEB 調査
 一般に、WEB 調査による満足度は低くなる傾向があるが、本調査では、ほぼ全ての設問について面接調査とWEB 調査の結果を比較し、分析を行った。その結果、回答傾向は同様であったが、年齢や居住地域などの調整後も、数値割合に有意差がみられる設問が多くみられた。医療の意識調査において面接調査とWEB 調査を同時に実施したことで、今後の医療に関する意識調査の手法のための情報が得られた。

 「日本の医療に関する意識調査」は今後も継続して実施し、時代の変化に伴って変わる国民の意識、変わらない意識について把握していく予定である。



「第4 回日本の医療に関する意識調査」(日医総研ワーキングペーパー№ 260。2012 年。江口・出口)で受けた医療の満足度と日本の医療全般の満足度、それぞれについて重回帰分析を行った結果、受けた医療の満足度に最も影響を与えていたのは、医師の説明であった。また日本の医療全般の満足度に最も影響を与えていたのは、医療機関の安全性であった。

「医療に関する国民意識調査」(健康保険組合連合会2011 年。インターネット調査)ではA に賛成(計)30.0%、Bに賛成(計)56.7%であった。本調査(日医総研)は同様の設問を面接とWEB で実施。WEB 版の結果は、A に賛成(計)29.6%、B に賛成(計)57.2%で、健保連調査とほぼ同じ傾向であった。