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■「中央調査報(No.701)」より

 ■ アンケート調査に関する意識について

一般社団法人 中央調査社
管理部 穴澤 大敬


 近年、調査を取り巻く環境が著しく悪化し、その結果、回収率が低調であることが大きな問題となっている。現場の調査員からは「新しいマンションの多くはオートロックが設置されており対象者に会うことが難しくなっている」とか「苦労して対象者に会えたとしても、個人情報が漏れるのではないかと不安がられ、なかなか協力してもらえない」などの声がよく聞かれる。実際のところ、調査の現場はどのような状況になっているのだろうか。中央調査社では数年おきに、アンケート調査についての対象者の意識を探るために「世論調査に対する関心と信頼・貢献度評価に関する調査」を実施している。本稿では2015年11月に実施した調査結果を中心に紹介しつつ、調査対象者の意識の現状について報告していきたい。

1.回収率と不能理由の推移
 はじめに、回収率の低下がどれほどのものなのか確認していきたい。内閣府政府広報室が毎年実施している「国民生活に関する調査」の回収率と不能理由の内訳をグラフにした(図1)
 回収率は一見して低下していることが分かる。1980年代前半までは80%を越えていた回収率が、2000年代後半に入ると60%台まで落ち込んでいる。直近の2015年調査では60%を切っている。
 不能理由の内訳をみると、拒否と一時不在の割合が年々増加していることが分かる。拒否の割合は徐々に増加しており、全対象者に占める拒否の割合は、1969年調査時は2.1%だったが、直近の2015年調査時には18.4%にまで増えている。一方、一時不在の割合も毎年徐々に上昇し、1969年調査時には6.0%だったものが、2015年調査時には14.2%にまで増えている。

図1 内閣府「国民生活に関する世論調査」回収と不能理由の変遷


2.アンケート調査に関する意識
 では、調査対象者はアンケート調査についてどのように考えているのだろうか。中央調査社が2015年11月に実施した「世論調査に対する関心と信頼・貢献度評価に関する調査」の結果を紹介していきたい(注1)>。まず、「新聞やテレビ、インターネットなどで発表される各種調査の結果に関心を持っているか」(注2)と尋ねたところ、「関心がある」とした人は全体の半数だった。一方、「関心がない」とした人も半数弱いた(図2)。日々、様々なメディアでアンケート調査の結果の紹介を眼にすることも多く、社会全体として調査結果への関心が著しく低下しているわけではないことがわかる。

図2 アンケート調査の結果に対する関心

 では、対象者はアンケート調査の正確性をどう評価しているだろうか。「アンケート調査によって国民全体の考え方を正しくとらえることができるか」と尋ねたところ、約4割が「正しくできる」(「非常に正しくできる」と「どちらかといえば正しくできる」の合計)と回答しているが、「正しくできない」(「どちらかといえば正しくできない」と「まったく正しくできない」の合計)と回答する人も4割弱いた(図3)。過去3回の調査では「正しくできない」と回答する人は2割台にとどまっていたのと比較すると、調査の正確性に疑問を持っている人が増えているように見える。

図3 調査の正確性

 一方で、「アンケート調査の結果は信用できるか」と尋ねたところ、過半数の人が「信用できる」(「非常に信用できる」と「どちらかといえば信用できる」の合計)と回答しており、「信用できない」(「どちらかといえば信用できない」と「まったく信用できない」の合計)とした人は3割弱にとどまっている(図4)。また、「アンケート調査は世の中の進歩や発展に役立っているか」と尋ねたところ、6割が「役立っている」(「非常に役立っている」と「どちらかといえば役立っている」の合計)と回答し、「役立っていない」(「どちらかといえば役立っていない」と「まったく役立っていない」の合計)とする人は2割にとどまった(図5)。一定数の人が、アンケート調査の結果は信用できると感じており、さらには世の中の進歩や発展に役立っていると考えていると言える。

図4 調査の信用度

図5 調査の有用性

 ちなみに、アンケート調査の結果は「信用できない」と回答した3割弱の人に、その理由を尋ねたところ、「一部の人を調査しただけでは、全体の考え方がわからないから」(62.1%)とした人が最も多く、次いで「画一的な質問では、千差万別の考え方をとらえることはできないから」(35.6%)、「いろいろ質問しても、まじめに答える人は少ないから」(27.0%)などの順になっている(図6)

図6 調査が信用できない理由


3.調査協力を依頼された際の対応
 では、「世論調査や市場調査などのアンケート調査への協力を求められて断った経験があるか」と尋ねたところ、「ある」と回答したのは2割弱で、冒頭で紹介した2015年実施の内閣府「国民生活に関する世論調査」不能理由内訳に占める拒否の割合とほぼ同じであった(図7)。アンケート調査を断った経験が「ある」と回答した人に、その理由を尋ねたところ、「忙しかったので」(66.5%)と回答した人が最も多く、次いで、「長時間かかりそうだったので」(40.4%)、「後でセールスなどがあると思ったので」(22.0%)、「プライバシーに触れるような立ち入ったことを聞かれそうだったので」(21.1%)などの順になっている(図8)

図7 調査を断った経験

図8 調査を断った理由

 次に「世論調査や市場調査などのアンケート調査に協力を依頼された時に、どのように思うか」と尋ねたところ、「半分義務だと思っている」(36.5%)と回答した人が最も多く、次いで、「自分の意見を述べるいいチャンスだと思う」(27.0%)、「自分には関係ないことと思う」(15.5%)などの順になっている(図9)。今回の調査に協力した人でも、「迷惑な感じがする」と回答した人が1割程度存在している。調査に対して否定的な印象を持っている人が実際には調査に協力してくれたわけだが、その要因が何だったのか、興味深いテーマである。

図9 調査を依頼されたときの印象


4.アンケート調査と個人情報
 次に「アンケート調査に答えることによって、個人情報がもれたり、プライバシーが侵害されることに不安を感じるか」と尋ねたところ、4割の人が「不安を感じる」(「強く不安を感じる」と「どちらかといえば不安を感じる」の合計)と回答している(図10)。「不安を感じる」と回答した人に、その理由を尋ねたところ、「個人情報を扱う機関による漏洩(ろうえい)の事件が頻繁に起こっているから」(66.7%)とした人が最も多く、次いで「個人情報を提供する先が適切な個人情報管理を行っているかどうかわからないから」(48.1%)、「調査の目的や回答がどう使われるかがわからないから」(33.7%)、「統計調査とは言っているが実際はどうなのか信用できないから」(19.2%)などの順となっている(図11)

図10 個人情報がもれることの不安

図11 不安を感じる理由

 次に、「個人情報保護法によって、個人情報の管理は改善されたか」と尋ねたところ、「改善された」(「大いに改善された」と「ある程度改善された」の合計)と回答した人は3割、「改善されていない」(「あまり改善されていない」と「まったく改善されていない」の合計)と回答した人は4割に上った(図12)。さらに「改善されていない」と回答した人に、その理由を尋ねたところ、「管理を厳しくしても必ずミスは起こるから」(45.4%)が最も多く、次いで「個人情報の不正使用を監視する体制が整っていないから」(30.9%)、「事業者が徹底して法律を守る努力をしていないから」(15.3%)などの順となっている(図13)

図12 個人情報保護法と個人情報管理

図13 個人情報管理が改善されていない理由


5.調査に協力してもらうために必要なこと
 では、このような状況の中で調査をする側は、どのようなことができるだろうか。「アンケート調査に協力していただくためには、調査をする側にどのようなことが必要か」と尋ねたところ、「調査の目的をはっきりさせること」(73.3%)が最も多く、次いで「調査の結果がどう使われるかを知らせること」(56.2%)、「調査の実施上の責任や連絡先がはっきりしていること」(46.5%)、「調査員の身分証明がしっかりなされていること」(41.7%)などの順となっている(図14)

図14 調査をする側に必要なもの


6.おわりに
 調査環境が悪化し回収率が低下しているなか、調査対象者はアンケート調査についてどのように考えているのか、意識調査をもとに概観してきた。回収率を少しでも高めていくためには、いうまでもなく調査を実施する側の努力が求められるだろう。例えば、調査の際には調査の目的を対象者にしっかり告げたり、調査結果がどのように使われるかを丁寧に説明したりするなど、図14で挙げられた項目のひとつひとつを確実に実行していかなければならないだろう。
 加えて、アンケート調査の結果を利用する側にも、調査によって表出された意見・要望に積極的に耳を傾け、それを活用していくことで、社会に利益を還元していく姿勢が求められるだろう。調査に協力することは、めぐりめぐって自分自身にも利益をもたらすことを実感できるようになれば、調査に対する意識も変わってくるだろう。アンケート調査に対して人々の理解が深まれば、調査に協力しようというモチベーションも上がってくるはずである。
 今後もアンケート調査に関する意識調査を定期的に実施することで、対象者の意識の把握に努め、少しでも調査環境が改善されるよう取り組んでいきたい。



注釈