中央調査報

トップページ  >  中央調査報   >  第2回「諸外国における対日メディア世論調査」結果の概要
■「中央調査報(No.710)」より

 ■ 第2回「諸外国における対日メディア世論調査」結果の概要

 公益財団法人新聞通信調査会(理事長 長谷川和明)は、2016年1月、アメリカ・イギリス・フランス・中国・韓国・タイの6カ国を対象に「諸外国における対日メディア世論調査」を昨年に続いて実施しました。調査は中国、タイは面接法、他国は電話法で行い、各国とも約1,000人から回答を得ました。回答者の性別・年代別構成は各国の人口構成に近い比率に割り当てられています。
 設問は各国共通の全14問で、調査を実施した全ての国で漏れなく回答を得ることができました。具体的な質問項目は大きく分けて、①各国新聞の信頼度評価、新聞とインターネットとの役割比較、テロ報道や報道の自由に対する評価 ②日本のメディア認知状況、日本に関する情報源や期待する報道、訪日経験・意向 ③調査対象国相互の好感度、日本への信頼感 ④日本と聞いて思い浮かべること――の全4分野です。上記①~③はあらかじめ設定した選択肢から選んでもらい、④は具体的な事柄を挙げてもらいました。また、当調査で設定した質問のうちの幾つかは、当調査会が毎年夏季に日本全国で実施している「メディアに関する全国世論調査」でも聞いています。該当質問では直近調査(2015年9月実施)の結果を図表内に表記しているので適宜参照してください。ただし、「諸外国における対日メディア調査」と数値を比較する際には、調査手法や全体的な質問構成が異なることに留意する必要があります。調査結果の概要は以下の通りです。

1. 新聞の情報信頼度評価
―タイが67.2 点で最高。

 まず各国の新聞情報信頼度、新聞とインターネットとの役割比較に関する結果から見てみよう。最初は新聞の情報信頼度評価である。これは全面的に信頼している場合は100 点、全く信頼していない場合は0点、普通の場合は50 点として点数を付けてもらった。ただしアメリカのみは、現地調査機関の提言に従い0~ 10 点で質問したので、集計時に回答数値を10 倍した。結果の平均値で比較すると、タイが最も高く67.2点、以下、中国65.2 点、韓国56.2 点、アメリカ55.7 点、フランス51.7 点、イギリス51.2 点と続く。全般的に欧米諸国よりアジア諸国の方が高くなっており、昨年とほぼ同様の傾向となっている。当質問は前述の日本国内で実施した「メディアに関する全国世論調査」でも聞いており、その結果は69.4 点であった(図表1)

図表1 新聞の情報信頼度

 では「新聞の将来の役割」はどうであろうか。これは「A.インターネットなどの普及により新聞の役割が小さくなってくる(役割減少派)」と「B.今まで通り、新聞が報道に果たす役割は大きい(役割維持派)」という2つの意見のどちらに賛成するかを聞いたものである。結果を見ると、全ての国で役割減少派が役割維持派を上回り、イギリス以外の5か国では役割減少派が過半数を占めている。特に、中国とタイでは役割減少派(順に75.8%、75.2%)が役割維持派(同じく16.3%、19.4%)を50 ポイント超上回っている。その一方、フランスと韓国では役割維持派が順に39.0%、36.3%と他国より高い比率となっており、日本もこの2国とほぼ同様の水準である(図表2)

図表2 将来の新聞の役割

 次にテロ報道やテロ情報に関してメディア別の信頼感を見てみよう。アメリカ・イギリス・フランスでは「新聞」「テレビ」「ラジオ」の3メディアが上位に並び、中国・韓国・タイは「テレビ」「新聞」の順に信頼感が高い。中国とタイでは「インターネットのニュースサイト」が3位に入っている。「SNS(facebook,twitterなど)」は総じて低い評価で、韓国を除き最下位となっている。近年アラブ諸国などで「民主化革命」が発生した際に、「SNS」の果たした役割がクローズアップされたが、報道や情報入手の信頼できる媒体としては低い評価にとどまっている、ということであろうか(図表3)

図表3 テロ報道やテロ情報の信頼性


2.「報道の自由」に関する意識
―「報道への圧力」は日本と大きな意識差。

 「報道の自由」に関する意識は国ごとに大きな差が出ており非常に興味深い。まず「報道の自由は常に保障されるべきだ」は、「そう思う」がアメリカ・フランス・韓国で90%を超え、イギリス・中国・タイで80%台となっているが、日本を含め各国の差は小さい。「現在の報道を見ていると、圧力をかけられても仕方がないと思う」については、中国でほぼ90%、続くタイが70%、アメリカ・イギリス・フランス・韓国で50 ~ 60%台となっている。「政府が国益を損なうという理由でメディアに圧力をかけるのは当然だと思うか」は、中国・タイで約80%、アメリカ・イギリスで70%前後、フランス・韓国で60%弱である。「メディアは報道の自由を振りかざしていると思うか」は、アメリカ・イギリス・韓国で70%前後、フランス・中国・タイで60%前後である。ここで興味深いのは、海外6カ国と日本との意識差である。前述のとおり調査手法や設計の相違に注意しなければならないが、報道に対する何らかの規制や圧力は認められて然るべきだと考えている人が日本ではかなり少ないことを示している(図表4)

図表4 報道の自由について(「そう思う」と回答した人の比率)

 次に、日本のメディアの認知度を見てみる。ここは昨年と同様、「NHK(ワールドTV、ラジオジャパンなど)、共同通信社、時事通信社、日本の新聞(朝日、毎日、読売、日経、産経など)」の中から知っているものを全て挙げてもらった。メディア別の認知状況で見ると、全ての国で「NHK」が最も高く、「日本の新聞」が次いでいる。
 国別で見ると認知率の高さは韓国が突出しており、具体的には「NHK」が76.5%、「日本の新聞」が70.6%となっている。同国では「知っているものはない」は6.8%と1割に満たず、良くも悪くも韓国国民の日本のメディアに対する関心度の高さを見て取れる。韓国では慰安婦問題など日本に関する報道の多さが大きく影響しているのであろう。他国について見ると、認知度の高さは中国が韓国に次いでおり、「NHK」、「日本の新聞」は半数に近い。他の国は「知っているものはない」が大多数を占め、アメリカが88.8%、以下、イギリス80.0%、フランス73.2%、タイ50.7%となっている。
 では、日本のことが報道されると関心を持つのだろうか。関心層(「とても関心がある」と「やや関心がある」の合計)は全ての国で過半数を占めており、タイの84.2%が最も高い。関心層の内訳を見ると、積極層である「とても関心がある」は比率の高いアメリカ、韓国でも20%程度にとどまっており、消極層の「やや関心がある」の方がはるかに多い。この傾向はタイで特に顕著である(図表5)

図表5 日本のことが報道されると関心を持つか


3. 日本に関する情報入手と報道への要望
―日本に関する情報源「自国のテレビ、新聞、雑誌」。

 日本についての知識や情報の入手先は何であろうか。これは全ての国で「自国のテレビ、新聞、雑誌」が1位、「インターネット」が2位となった。3位にはフランスを除いて「自分の家族や親戚、知人」が挙げられており、以下「学校教育」「日本人の友人、知人」などが続いている。
 フランスでは「学校教育」が3位、韓国では「訪日経験」が4位となっている。中国では、1位の「自国のテレビ、新聞、雑誌」(77.5%)と2位の「インターネット」(75.3%)との差はごくわずかである(図表6)
【注:この質問では当てはまるものを幾つでも答えてもらった。以下、「複数回答」と表記。この複数回答質問は国民性および調査環境の差によるものと思われるが、回答比率に大きな差が見られる。従って、各国比較は比率ではなく回答順位をベースに記述する。この点も、複数回答質問では以下同様である。】

図表6 日本に関する情報の入手先(複数回答)

 日本に関する報道で、各国民が日本のメディアに期待する内容を挙げてもらったところ、「科学技術」が上位である点は共通しているが、それ以外の項目は国によって差異が出た。1位はタイを除く5カ国で「科学技術」が、タイでは「観光」が挙げられた。2位には、アメリカ・イギリス・韓国は「国際協力、平和維持活動」、フランスは「歴史と文化」、中国は「ファッション、アニメ、音楽」、タイは「科学技術」「生活様式、食文化」となっている。中国を除き、総じて「ファッション、アニメ、音楽」への関心は低いようである(図表7)

図表7 日本のメディアに期待する報道内容


4. 訪日について
―韓国では半数が「訪日経験あり」。

 実際の訪日経験はどうだろうか。これまでに訪日経験がある人は韓国で49.2%と突出しており、アメリカと中国(順に13.1%、11.6%)で10%を超えているが、イギリス・フランス・タイではいずれも10%未満である。中でもタイは2.2%にとどまっており、訪日経験者の少なさが、前問(=日本に関する報道で期待するもの)で「観光」がトップとなったこととつながっているのかもしれない。
 では、実際に行ってみたいところ、体験してみたいことを複数回答で聞いてみた。まず行ってみたいところは、全ての国で「東京」が1位、2位には韓国を除き「富士山」が挙げられている。韓国では「北海道」が2位。3位はアメリカ・韓国で「九州・沖縄」、イギリスで「京都、奈良」、フランス・中国・タイで「北海道」となっている。「東京ディズニーリゾート、ユニバーサルスタジオジャパン」は総じて順位が低い。体験したいことはどうだろうか。1位は韓国を除く5カ国で「京都など日本の文化と歴史のある街を観光する」、韓国は「温泉に入る」となっている。2位には全ての国で「日本食を食べる」(注:中国は同率の1位)が入った。なお、「買い物をする」はアメリカの3位が最高位で、それ以外の国では4位~5位である(図表8)

図表8 日本でしたいこと(複数回答)


5. 日本に対する好感度・信頼度
―日本への信頼度は中国と韓国で20%以下。

 次に日本に対する好感度や信頼感を見てみよう。まず、日本に対する好感層(「とても好感が持てる」と「やや好感が持てる」の合計)はタイで最も高く90.8%、以下、アメリカ(78.6%)、フランス(73.2%)、イギリス(69.7%)と続き、大きく離されて韓国で32.3%、中国で27.8%となっている。日本を除いた5カ国間の相互関係を見ると、欧米3カ国の好感度は相互に高いが、中国はイギリス・フランス・韓国・タイ・アメリカの順に、韓国はアメリカ・イギリス・フランス・中国の順に、タイは日本・イギリス・アメリカ・フランス・韓国・中国の順に50%以上の好感度となっている。こうして見ると、中国と韓国における日本への好感度の低さが際立っている(図表9)

図表9 各国間の好感度-「好感が持てる」と答えた人の比率


 日本への信頼度は好感度と同様の傾向で、両者の相関関係は非常に強い。具体的には、信頼層(「とても信頼できる」と「やや信頼できる」の合計)はタイが92.5%で最も高く、アメリカ・イギリス・フランスでは70%台半ば、中国と韓国はともに大きく離された10%台後半であった。中国と韓国での日本に対する積極的信頼層(「とても信頼できる」)は1.9%~ 2.8%に過ぎない(図表10)

図表10 日本の信頼度


6. 日本と聞いて思い浮かべること
―米中韓は「戦争」に関する事項が多い。

 当調査では、最後の質問として「日本と聞いて思い浮かべること」を1つだけ挙げてもらった。これは、各国の調査対象者が答えた事柄をそのまま現地言語で入力し、1つずつ翻訳~整理分類した。昨年も同様の試みで「知っている日本人」を1名だけ挙げてもらったが、今回は昨年以上に調査各国の相違が際立つ結果となった(注:前年結果については「中央調査報2015年9月号(№ 695)」参照)。
 具体的な結果を見ると、アメリカは「第二次世界大戦、原爆、真珠湾」、イギリス・タイは「日本食、寿司など」、フランスは「文化、文明、伝統、芸術」、中国は「抗日戦争、中国侵略」、韓国は「嫌い、不快、不信」が1位に挙げられた。総じて、欧米3カ国は「日本食」「文化」「科学技術」、中国と韓国は近代の歴史にまつわる事柄、タイは観光に関連する事柄が上位になっている。なお、韓国では人としての感情に関する言葉が目立つ。昨年聞いた「知っている日本人」の回答率は最大でも50%台であったが、今回は全6カ国で90%前後と高い。人名は思い浮かばなくても、日本国としてのイメージは形成されているということであろう(図表11)

図表11 日本と聞いて思い浮かべること(各国上位10 位)




図表12 調査の概要