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■「中央調査報(No.712)」より

 ■ 2015年「社会階層と社会移動に関する全国調査」(SSM調査)の実施

白波瀬 佐和子(東京大学)


 「社会階層と社会移動に関する全国調査」は通称SSM 調査と呼ばれて、戦後の日本における代表的な大規模社会調査の一つである。特に、本調査は、1950年代半ば以降、10年ごとに実施されて2015年調査が7回目という、先進諸国における学術調査としてこれほど長く繰り返し実施されてきたのは珍しい。日本社会はこの60年の間大きく変容し、その時代に生きた人々の実態を明らかにできるという点でも、SSM調査の学術的価値は高い。本稿では、このような調査を実施するにあたって、議論を重ねた点、留意した点、そして調査員調査の意味について述べたい。ここで提示する2015年SSM調査結果は、2016年8月27日版(バージョン 050a)のデータを用いた1


1.「社会階層と社会移動に関する全国調査」の歴史
 「社会階層と社会移動に関する全国調査」(以後、SSM調査)は、半世紀以上もの長期にわたり、本人の職業経歴や親の社会的地位、さらには学歴や階層帰属意識等についてほぼ同じスタイルで繰り返して質問し、戦後大きく変容した社会階層の構造変化を明らかにすることができる世界的にみても極めて貴重な学術的資源である。2015年調査はその7回目にあたり、特に、他国に類をみない急速な少子高齢化で代表される人口構造の変容に着目して、日本の社会階層の変化と実態を明らかにすることを主な目的に掲げた。
 SSM調査の立ち上げは、国際社会学会(International Sociological Association: ISA2)に設置されている部会の第28番目社会階層部会(Research Committee 28: RC28)の研究者を中心に発案されたものである。いくつかの国での類似した調査と連携しながら企画が進められ、日本のみならず世界の社会学者から関心が注がれたことは特記に値する。文系諸学のグローバル化が叫ばれる中、本調査は戦後間もない時期にすでにグローバルな視点で企画された調査研究であった。1955年の第1回調査では、敗戦に伴う新憲法の制定や農地改革といった社会の大きな制度改革にあって、それまでの身分的階層構造がいかなる変化を遂げたのかが主な関心事だった。10年後の1965年の第2回目調査において、日本は奇跡と称される経済成長を遂げて、アジアで初めての産業化を達成することになるが、それに伴う都市化や職業構造の急激な変化が及ぼす階層構造への影響が中心的な課題となった。
 第3回目の1975年、日本は低成長期に入り、そこで注目されたのが「中意識」である。第1次オイルショックを契機に、社会の諸制度は財源を横目に見ながらの政策運営を余儀なくされる。その一方、人々の暮らし向きは「中程度」だと回答する者が多数派を占めるようになり、いわゆる一億総中流社会論が頭をもたげた。この議論には、第3回目調査の研究代表者である富永健一氏も加わり、マスコミでも大きく取り上げられた。第4回目調査は、プラザ合意が締結された時期で、バブル経済が始まろうとする頃である。何よりも本調査の重要な点は、この調査から女性が調査対象者として加わったことである。その頃、欧米では階層構造を検討するにあたってジェンダーの視点を入れることが重要であるとの議論が活発になり、日本もその流れを追う形で階層構造とジェンダーに関する研究が進められた。
 第5回目調査は、バブル経済が崩壊したあと、1995年当時の経済財政白書にて『バブル後からの脱却』が宣言され、景気が回復基調を示した頃に実施された。同調査では、戦後の階層構造の変容や社会移動の程度をより長期にわたる視点から検討される試みがなされ、豊かさの中の不平等がキーワードとして登場した。しかしその後、日本は深刻な長期経済停滞期へと突入していく。2005年の第6回目調査では、正規・非正規雇用における格差問題に着目した「流動化」をメインテーマに掲げて実施された。さらに同調査では、アジアとの国際比較をもう一つの軸として、韓国と台湾調査が同時進行で実施されたことも重要である。ただ、2005年調査時点、2003年に制定された個人情報保護法が2005年には全面施行されることになり、調査環境が一気に悪化した時期でもあった。
 そして、2015年に第7回目のSSM調査が実施された。その前後の政治や社会の動きを簡単にみてみよう。2009年の衆議院議員総選挙において、日本は戦後はじめて民主党を比較第1党とした本格的な非自由民主党による政権交代が起こった。そこでは、格差、貧困がキーワードとして前政権の批判が展開され、日本の不平等問題が表舞台にでるきっかけにもなった。しかし民主党政権は長く続かず、2012年12月には第2次安倍政権が誕生し、いまなお第3次安倍内閣にある。そこでは、経済成長を全面に掲げ、格差を縮小するにもまずは成長なくして日本の再建はないという方針のもと、さまざまな経済政策が行使される。一方、肝心の国民にとっての足元の生活は依然として楽にならならず、格差の縮小は期待できない。2000年に入って特に、非正規雇用が増大し、一旦非正規に就いたならば正規へと転職できずに不安定な雇用状況が長期化することが深刻な問題となっている。特に、若年層にとって学業卒業後、はじめて就いた職業が非正規であることはその後の職業経歴にマイナスの影を落とす。非正規就労が長期化するにあたっての問題の一つは、熟練やキャリアがその後の経歴において積み上がっていかないことであり、中年以降の経済格差を拡大させる要因にもなりうる。それはまた、労働の場のみならず結婚や家族形成にも影響を及ぼし、さらには高齢化していく親との関係にも関連してくる。
 日本は、先進国において最も高齢化した社会となった。事実、第1回のS S M調査が行われた1955年の65歳以上人口割合は5.3%3に過ぎなかったが、2015年には26.7%となった4。さらには、家族の形態や構造も変容した。子ども達は就職や結婚を期に親元を離れていくが、雇用が不安定で結婚時期に遅れが見られる今、若者はなかなか新たな世帯を形成しようとしない。また、低出生率が継続し高齢化が加速する中、人口構造と共に人口規模が減少している。このようなマクロな変化とミクロな変化を考慮して、第7回目調査では、調査対象者の上限年齢を69歳から79歳へと引き上げた。


2. 2015年SSM調査の伝統と新機軸
 2015年SSM調査は、60年の蓄積と伝統を過小評価することなく、いまの時代を反映する新機軸を加えて、調査を企画し実施した。本調査の伝統の一つは、学業を終えてはじめて就いた仕事から調査時点までの就労状況について回顧的に聞き取る質問項目にある。同項目によって、調査時点のみならず現時点に至る経歴を聞き取ることで、対象者個人の職業経歴をダイナミックに分析することができる。近年では、個人を追跡するパネル調査を用いて変化に関する精緻な分析が可能になっているが、SSM調査のように20代~ 60代という広い年齢層の回顧データをこれほど長期にわたって蓄積している調査は世界的にみても珍しい。また、調査対象者のみならず、その親の就労状況に関する情報を聞き取り、親子の世代間関係を明らかにすることもできる。親世代と子世代における時代の違いを考慮し、世代間移動からみた社会構造の変化/無変化が、階層研究の主たるテーマの一つであったし、また世代間関係はその対象やテーマが変わり、分析手法も精緻化されながら、いまなお社会階層研究の中心的なテーマである。
 新機軸としては、少子高齢化で代表される人口変動とも関連させて世帯についての情報を拡充させた点にある。成人を対象とするSSM調査では、これまであまり重視されてこなかった変数として、子ども、親世帯に関する情報を追加し、調査時点の結婚が初婚かどうかも判別できるようにした。調査対象者の配偶関係についてこれまでSSM調査では調査時点での配偶関係を質問してきた。ちなみに、1955年時の配偶関係に関する質問は「あなたは、結婚しておいでですか?奥さんは、いっしょにおすまいですか?」となっていて、既婚者は69歳以下の男性で79.1%となっている(SSMトレンド分析研究会 1982)。2015年の質問項目は、「あなたは現在結婚されていますか」と質問しており、このスタイルは1975年以来、ほぼ踏襲されている。2015年の結果を、1955年時と同様に69歳以下の男性に限定してみてみると、既婚者は69.3%である。60年前の結果と比較すると、未婚者割合が17.2%から24.9%へと上昇したのに加え、離死別の割合も3.7%から5.8%へと上昇した。
 さらに、2015年SSMの全サンプルの20から79歳の男女を合わせると既婚者は71.8%、そのうち96.1%が初婚だと回答していた。このように、2015年時点においても、既婚者の大半が初婚であるとみなすことは大きな誤解に通じるものではない。しかしながら、調査時点の配偶関係を初婚であると前提することの妥当性は今後、低くなることは疑いない。事実、人口動態調査から長期の離婚率変化をみてみると5、15歳以上人口の有配偶者に対する離婚率は2010年時点で、男性5.69、女性5.72と、高度経済成長期の1960年の男女ともに1.92よりも大きく上昇した。また、2017年1月18日に厚生労働省より公表された「平成28年度 人口動態統計特殊報告『婚姻に関する統計』の概況」6によると、既婚カップルのうち夫婦共に初婚同士が73.2%と、1975年に対応する値87.3%と比較してもその低下が顕著である。つまり、本調査の理論的なバックボーンとなる社会階層論において、家族/世帯は基本単位でありその単位の核となる夫婦関係がどの程度安定的であるかを考慮することは重要である。それが、2015年調査において初婚にこだわった理由である。さらに、マクロな人口変動を構成するのは、個々人の結婚行動、出産行動であるので結婚時期、初婚/再婚の有無、子どもの年齢等を詳しく検討できるよう改善するのは、少子高齢化をメインテーマの一つとした本調査研究にとって整合的であった。
 回答者の子どもについては4人まで、年齢、同別居、実子か否か、そして学歴を質問した。特に、教育の継承という現象について、これまでのSSMでは親の学歴を聞き取っていたが、次世代への継承行動について限定的な分析しかできなかった。従って、世帯、特に子世代という質問対象範囲を拡大させたことも一つの新機軸である。ただ、親族範囲を拡大したのは2015年調査が初めてではない。1965年調査において、祖父や男きょうだいの年齢、学歴、配偶関係を聞き取り、親族範囲をより広くとって質問されていた。しかしながら、2015年SSM調査のプレ調査段階において、本人以外の親族に関する質問への忌避感が指摘されたことに伴い、質問対象とする親族範囲の拡大については慎重な議論が重ねられ、4人の子どもの同別居と学歴についての質問に留めた。
 また、人口高齢化とは、引退期にある高齢層が増えることを意味する。これまでの階層論研究においては、労働市場における地位を基礎とした指標を中心に議論が進められてきた。しかしながら、調査時点において65歳以上人口が4人に1人という状況にあって、高齢雇用率が特に高い日本においても、労働市場からだけでは社会の階層構造は見えてこない。特に、労働に対する報酬であるフローを中心に検討してきた経済指標も、高齢期に達する蓄積としての資産に着目することの重要さは言うまでもない。その一方で、保有資産の正確な把握については、日本のみならず全世界的に頭を悩ましている。なによりも、超がつく富裕層たちはみずからの資産を国外に持ち出し国境を越えて保有しているのが実情である。事実、アトキンソンは『21 世紀の不平等』において、グローバル税を提案している。資産をはじめとして情報の正確性は、回収率以前の問題であり、その結果解釈については常に注意が必要である。しかしその限界を考慮しても、フローに加えてストックからみた不平等がもつ意味は、これからの階層研究においてますます重要になることは疑いない。
 SSM調査がはじめて実施されてから60年が経ち、日本社会はいま、最も高齢な社会となった。その一方で、ジェンダー格差は家庭内や労働市場において根強く存在し、さらに移民の受入についてもまだまだ及び腰である。欧米の階層研究においては、いま移民を中心とした研究が活発に展開されていることを考慮すると、日本はグローバルという概念を社会学の実証研究においてまだ正面から取り組んでいるとはいえない。それは、2015年SSM調査において、過去のSSM調査との一貫性から調査対象者を日本国籍を有するものに限定せざるをえなかった事情がある。そこで、2017年「日本におけるくらしと仕事」と題して、日本に在住する外国人を対象に実験的な調査を実施することにした。


3. 2015年SSM調査の実施
 本調査の対象者は、日本に在住する2014年12月末時点で20~79歳(昭和10年から平成6年生まれ)の日本国籍をもつ男女である。2015年SSM調査の大きな変更点は調査対象者の上限年齢を10歳引き上げたことにある。これは、すでに述べたように、1955年以来日本の人口構造が大きく変化し、4人に1人以上が65歳という急激な人口構造の変化を反映したものである。さらに、2015年調査企画にあたって課題となったのは、外国人住民を対象者として含むかどうかである。総務省7によると、2015年1月1日現在、住民基本台帳に基づく人口は1億2,822万6,483人、そのうち外国人住民206万2,907人(1.6%)であった。前年と比べ5万9582人増加であるが、全体からみると外国人住民はまだごく少数である。過去6回のSSM調査では抽出台帳を選挙人名簿としてきたので、結果として日本国民のみが対象者となっていた。さらに、2006年以降、選挙人名簿閲覧制度が見直され、公職選挙法に基づく閲覧可能な場合のうち、学術調査については「政治・選挙に関するもの」という文言が追加され、職業経歴や学歴、親の仕事等を中心とするSSM調査への閲覧許可を得るのは難しいと判断し、2015年SSM調査では住民基本台帳を抽出台帳として使用することにした。しかしながら、2012年7月9日、「住民基本台帳法の一部を改正する法律」が施行され、住民基本台帳制度に外国人住民の方が適応対象となって含まれるようになったので、調査対象者の国籍の問題が浮上した。日本に在住する男女ということになると、国籍に係らず調査対象者として含むべきことは言うまでもない。しかしながら、日本語による調査票の作成をはじめ、日本語対応を想定した体制であったことと、なによりも過去6回調査との比較可能性を優先し「日本国籍を有する者」に限定するとの結論に達した。この点、調査員には、もし対象者として外国籍を持つ者が含まれた場合には、丁寧に説明をして調査には含まないことを、説明会等で徹底させた。
 標本設計は1995年SSM調査以来の基本方針を踏襲し、対象者の抽出は層化2段無作為抽出法を用いた。 調査方法は、2005年調査と同様に調査員による面接調査と留置調査の方法を併用した。面接調査は、学業を終えてからはじめて就いた仕事から調査時点までの職業経歴に加え、対象者が15歳時の両親の仕事状況、既婚者の場合は配偶者の仕事についての質問、対象者が15歳時の家庭的背景、学業経歴、そして階層帰属意識等が含まれる。留置票については、公平感や性別役割分業、子どもの教育や福祉政策に関する意識や意見に関する質問に加えて、対象者に子どもがいる場合にはその子との同別居や学歴に関する質問等が含まれる。
 SSM調査では、1975年調査以降、複数の調査票が存在する。1975年は、過去2回の社会階層に関する調査(A票)と職業威信調査(B票)があった。1985年調査は、女性が調査対象者に加えられて、男性A票とB票、そして女性票から構成される。男性A票には詳しい階層意識や政治意識が含まれ男性B票は詳しい教育関連の質問項目が含まれていた。1995年には男女を対象にA票とB票、そして威信票の3種類の調査票から構成される。1995年では、職業データはA票のみに含まれ、B票は意識項目がより多く質問されている。2005年日本調査では、職業経歴を中心とする面接票と留置票2種類からなる。留置票は意識関連の項目が中心となり、A 票・B票と分けることでより多くの種類の質問項目を盛り込むことを可能とした。さまざまな研究関心をもつ、多くの研究者が参加する調査プロジェクトゆえに、調査票の種類を増やすことで多様な質問項目を入れることができるメリットがある一方で、実際の分析にあっては該当サンプルが半減する問題もある。そこで、2015年にあっては、質問項目を厳選し、質問群を絞り込んで調査票の種類を少なくするという方針で進めた。
 調査実施については、本調査の聞き取り内容が複雑であるため、熟練度の高い調査員を相当数必要とし、同時に地点数が800と多いことから、3回に分けて調査を行うこととした。調査時期は、2015年1月31日~ 3月22日(第I期)、2015年4月4日~ 5月24日(第II期)、2015年6月6日~ 7月26日(第III期)である。最終的な有効回収数は7,817票、有効回収率は50.1%であった。なお、ここでの回収率は、抽出ミスや死亡・転居・住所不明等の無効抽出票数を除外して算出した。
 SSM調査では、たとえ同じ職業に就いていても、役職が上がれば、あるいはパートからフルタイムへの雇用形態が変化すれば、別の職業経歴とみなして職歴段を増やしていく。また、ある職歴ステージの終わりの年齢は次のステージの始まりの年齢に一致することが求められ、切れ目のない経歴を完成する。これまでから、SSM調査は調査員調査の中でも難易度が高く、特に、職業経歴の聞き取りには高い熟練が要求される。例えば、結婚した頃や初めての子が生まれた頃、東京オリンピックや万博といった当時の出来事とも関連させながら、回答者の記憶を呼び起こし、職業経歴を完成させていく、といった具合である。
 そこで、調査実施にあたっては詳細な調査の手引きを準備し、調査員への理解を促した。特に、主要都市で9回にわたって総勢450人ほどの調査員を対象に開催した説明会では、具体的な例を寸劇形式で実際にやってもらい、調査員からの質問を受けつけて理解を深めた。面接調査は調査員の熟練度に大きく左右されるが、特に本調査は調査員の理解と協力なくしては成り立たない。調査を企画するわれわれにとってはある意味最も遠い存在であるが、企画した調査結果を左右するのは、調査員であるといっても過言ではない。寒いときに玄関の外で立ちながら話を聞くのも、厳しく断られるのも、また話し相手として大幅な時間を超過しても辛抱強く話を聞かなければならないのも、すべて調査員である。マンションはロック式になり、若い人は特に自宅にいない。何度訪問しても、訪問カードを幾度となくメールボックスに置いても、会う事自体が至難の業であるというのが現状だ。辛抱強く、調査期間内に訪問を試みてもらうことができるかが調査票の回収へと結びつく。そうなると、熟練度の高い調査員が、どれだけ辛抱強く調査対象者に係ってくれるかが、回収率のみならず回答の質をも左右する。だからこそ、現場の調査員に耳を傾け、支援する体制が不可欠である。
 個々の調査員がもつ細々な情報といった経験知を共有することが重要であると同時に、調査員個々人の裁量でのみ対応しないよう、明確な判断基準を周知することも大切である。現場の調査員、支局での調査担当者、本社の担当者、そして調査実施者との頻繁な情報共有は、調査を成功裏に終了するための鍵となる。個々の調査員が勝手に判断したり、対象者に特別配慮することがないよう、調査方法や対応方法などの周知徹底に務めた。それでも問題が生じた場合には、判断基準に沿ったブレのない対応方針を迅速に伝えることが調査員への士気を下げることなく、質の高い調査へと繋がっていく。


4. おわりに
 以上、2015年SSM調査は長い伝統に支えられると同時に、急速な少子高齢化に着目した新たな階層構造のメカニズムに着目した新機軸をたてて実施された。1950年代半ば以来、10年ごとに実施されてきた調査である強みを活かして、調査の企画や設計において過去のやり方を踏襲しつつ、時代の変化に応じて適宜変更を加えた。
 日本においても、”エビデンスベース” の議論の大切さが確認され、社会調査への関心も高まってきた。同時に、インターネット調査にビッグデータの活用と、近年のIT環境を活用したデータ収集が活発に行われている。その中で、SSM調査は、回顧式の質問項目を多く含む調査員による面接調査を軸とする、いわゆる古い型の調査法を採用している。また、SSM調査のもう一つの特徴として、仕事内容を詳細に聞き取り、職業や産業を事後にコーディングする作業や職業経歴を含めたデータクリーニングを、調査プロジェクトメンバーが自ら担当するところにある。専門家がデータを作り上げることにこだわった伝統芸の踏襲であり、次世代の教育機能も併せ持つところに、SSM調査ならではの真骨頂がある。伝統の蓄積を大きな時代の流れの中でどう引き継いでいくべきか。次なる調査に向けて、検討は始まっている。


1 2015年SSMデータ使用に際しては、2015年SSM調査データ管理委員会の許可を得た。この場を借りて感謝する。本調査は、特別推進研究(課題番号25000001)の一貫として実施された。
2 1949年、UNESCOからの後援を受けて創立され、現在加盟国は129カ国に及ぶ。
3 国勢調査・時系列データ(http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020101.do?_toGL08020101_&tstatCode=000001011777&requestSender=search)表2 (2016年9月27日アクセス)
4 2015 年国勢調査・速報抽出結果(http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020101.do?_toGL08020101_&tstatCode=000001080615&requestSender=search)表1-1 (2016年9月27日アクセス)
5 「人口統計資料集 2016 年版」(国立人口問題・社会保障研究所) http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/Popular2016.asp?chap=6 表6-11 より 2017年1月22日アクセス
6 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/konin16/dl/01.pdf 表1 より 2017年1月23日アクセス
7 「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数のポイント(平成27年1月1日現在)」http://www.soumu.go.jp/main_content/000366457.pdf,( 総務省自治行政局住民制度課)2017年1月21日アクセス

[参考文献]
○アトキンソン、アンソニー・B .(山形浩夫・森本正史訳)2015年『21世紀の不平等』東洋経済新報社
○SSMトレンド分析研究会 1982年『1955年SSM調査 基礎集計表』