中央調査報

トップページ  >  中央調査報   >  国際比較調査からみえる対外国人意識~ISSP国際比較調査「国への帰属意識」から~
■「中央調査報(No.714)」より

 ■ 国際比較調査からみえる対外国人意識~ISSP国際比較調査「国への帰属意識」から~

NHK放送文化研究所 世論調査部
村田 ひろ子


1. はじめに
 いま世界各地で、外国人に敵対的な態度をとる排外主義が台頭している。2016年6月、イギリスでEU離脱を問う国民投票が行われ、反移民政策を掲げる離脱派が勝利をおさめた。アメリカでは11月に移民規制の強化を打ち出したトランプ氏が大統領選を制し、就任直後にイスラム圏7か国の人の入国を一時的に禁止する大統領令に署名して、世界各地で混乱が生じた。2017年5月に行われたフランス大統領選挙の決選投票では、移民排斥を訴える極右政党のルペン氏が無所属のマクロン氏に敗れたものの、極右政党としてはこれまでで最も多い票を得た。ドイツやオランダなどの欧州各国でも自国第一主義を掲げる極右政党が勢力をのばし、移民の受け入れ規制を声高に主張している。
 人々は、移民に対してどのような感情を抱いているのだろうか。本稿では、NHK放送文化研究所が加盟する国際比較調査グループ、ISSP(International Social Survey Programme)1)が2013年に実施した調査「国への帰属意識」の結果から、主に排外的な意識についての国際比較を行う。この調査は、人々の国や地域への愛着、移民に対する態度などについて探る目的で設計され、30を超える国と地域で行われた2)
 日本で調査が実施されたのは、第2次安倍内閣が発足した後、ふるさとづくり有識者会議が作られ、郷土や日本を愛する気持ちを育む施策が検討されるなど、愛国心のあり方について注目が集まった時期と重なる。また、竹島や尖閣諸島の領有権をめぐって韓国や中国との関係が悪化し、特定の人種や民族に対して差別的な言動をとるヘイトスピーチのデモも目立った。
 域内での移動が自由なEU諸国では、2007年にEUに加盟したルーマニアとブルガリアからの移民に対する就労規制が2014年に撤廃されることを受けて、移民がさらに増えることへの警戒感が高まった時期である。内戦状態のシリアから流入する難民問題が深刻化する前だが、調査結果からは、いま世界各地で台頭する排外主義の兆しが垣間見える。
 本稿では、国への愛着や自国民であるための条件を厳しくとらえる「純化主義」的な考え方、そして排外的な意識の回答分布の違い3)をみた後、国への愛着や純化主義が、排外的な意識にどのような影響をもたらすのかを考察する。

2.国への帰属意識
 日本で最も多い「他の国より良い国」 

 表1に示したのは、自分の国にどれほど愛着を抱いているのかをたずねた質問群の結果である。日本では「他のどんな国の国民であるより、この国の国民でいたい」「一般的に言って、他の多くの国々よりこの国は良い国だ」という質問に対して『そう思う(どちらかといえばを含む)』と答えた人が9割近くに上る。このうち「他の国より良い国」については31の国・地域の中で最も多くなっている。一方、「たとえ自分の国が間違っている場合でも、国民は自分の国を支持すべきだ」と考える人は日本では2割にとどかず、北欧諸国と並んで少ない。

表1 自国への愛着:『そう思う(どちらかといえばを含む)』と答えた人の割合


 国民であるための条件について、あまり意識しない日本人? 
 先行研究では、国家を構成するメンバーの純粋性を求め、逆に多様性を忌避する傾向を「純化主義」と定義している4)。ISSP調査では、こうした純粋性が各国でどの程度重視されているのかをはかるために、先祖や国籍、言語などさまざまな条件が、国民だとみなすうえで重要かどうかをたずねている。
 先祖がその国の人だということが『重要(とても+まあ)』だと回答した人は、フィリピンの95%からスウェーデンの23%までかなりばらつきがある(表2)。日本では63%となっており、先祖の血統を日本人の条件として重視する人の割合は、各国の中では中間くらいに位置している。「国籍を持っていること」を重視する日本人は87%を占めるが、こちらについても全体の中では中程の位置付けである。
 一方、「言語が話せること」については、多くの国で『重要』が8割台から9割台を占めているのに対し、日本では7割台となっていて各国と比べて少ない。

表2 国民であるための条件:『重要(とても+まあ)』と答えた人の割合

3.定住外国人への態度
 西・北欧諸国での増加が目立つ外国人の割合 

 ここからは、定住外国人への態度についてみていく。2013年の各国の総人口に占める外国人の割合を経済協力開発機構(OECD)のデータでみると、日本は1.6%となっていて他の国と比べて少ない(表3)。日本で外国人人口が少ない背景には、外国人の単純労働者の移住が認められておらず、難民の受け入れ人数も西欧諸国と比べて著しく少ないことがある。こうした制度面の問題に加え、言葉や文化の壁も外国人の定住を抑制している側面があるだろう。
 2003年から2013年にかけての推移をみると、日本やアメリカなどでは大きな変化がなかったのに対し、ノルウェーを筆頭に西・北欧諸国での増加が目立つ。これらの国々で外国人の割合が高まった背景には、2004年にポーランド、チェコ、ハンガリーなど旧東欧諸国を含む10か国が、さらに2007年にはルーマニアとブルガリアがEUに新規加盟したことで、出稼ぎ目的の移民が流入していることがある。移民急増への不安から、ノルウェーやデンマーク、フランスなどでは、反移民政策を掲げる政党が台頭している。
 エコノミストのロジャー・ブートルは、欧州各国での移民に対する大衆の懸念には、4つの側面があると指摘する5)。1つ目は移民が地元の労働者から雇用の機会を奪っているという不安、2つ目は移民によって自分たちの文化や伝統が脅かされているというおそれ、3つ目は税金を払っていない移民が無料の医療給付や児童手当といった恩恵を受けているという不満、そして4つ目は移民の数がとにかく多すぎるという危惧である。ブートルが指摘するこれら移民に対する4つの不安について、ISSP調査の結果をみていく。

表3 OECD諸国における総人口に占める外国人の割合

 日本で少ない「外国人が仕事を奪っている」 
 自国に定住する目的で来訪する外国人が、人々から仕事を奪っていると思うかどうかをたずねた結果、「どちらかといえば」を合わせて『そう思う』(以下『外国人は仕事を奪っていると思う』)日本人は15%にとどまり、各国の中で4番目に少ない(図1)。日本ではこれまで外国人の単純労働者は原則認められておらず、先にみたとおり総人口に占める外国人の割合も低いために、外国人が雇用にもたらす影響を心配する人も少ないものと考えられる。移民を貴重な労働力とみなしてきたドイツでも『外国人は仕事を奪っていると思う』は少ない。
 それでは各国の失業率と『外国人は仕事を奪っていると思う』という意識の間には関連があるのだろうか。両者の相関係数をとってみていく。失業率の指標として用いるOECDのデータの対象年齢が15~64歳となっているため、ISSPのデータについても同じ年齢範囲に揃えたうえでみると、かなり高い相関(r=0.67)6)がある(図2)。失業率が高い国では、現地の労働者と外国人との間に競合が起こりやすく、外国人労働者に対する警戒感がより強く表れるのではないだろうか。

図1 定住外国人は仕事を奪っていると思うか

図2 各国の失業率と『外国人は仕事を奪っていると思う』(15~64歳)


 外国人が日本文化にもたらす影響について、否定的な人は少数 
 次に、定住外国人が文化を脅かすと思うかどうかをたずねた結果についてみていく。外国人によって、その国の文化が徐々に『損なわれてきている(どちらかといえばそう思う、を含む)』と考える人が50%前後を占める国もあるが、多くの国で半数に達していない(図3)。古くは中国、近代以降は欧米の文化を積極的に取り入れてきた日本は16%、また韓国でも17%にとどまり、ともに外国人がもたらす文化の影響を否定的にとらえる人は少ない。建国以来、多くの定住外国人を受け入れてきた移民国家のアメリカについても、外国人によってアメリカ文化が徐々に『損なわれる』と考える人は2割にとどかず、各国と比べて少ない。

 「定住外国人は国民と同じ権利を持つべき」日本で過半数 
自国に定住する目的で来訪する外国人が合法的に移住した場合は、国民と『同じ権利を持つべき(どちらかといえばそう思う、を含む)』だと考える人は、日本で56%と半数を超え各国の中で3番目に多い(図4)
 一方、移民が社会保障制度の恩恵を受けるために移住する「社会保障ツーリズム」が問題となったイギリスでは、『同じ権利を持つべき』という人が3割弱にとどまり、全体の中で少ない。
 イギリスでは、合法的に移住した外国人であれば、原則として国籍に関係なくイギリス国民と同じように社会保障制度を利用できるようになっているが、2012年から2013年にかけてルーマニアやブルガリアからの移民が大幅に増え、国民保険新規登録者数も急増している7)。移民の急激な増加が定住外国人の権利への不寛容さに結びついている可能性はあるだろう。
 アメリカでは『同じ権利を持つべき』という人は4割弱で、各国の中では中間くらいに位置しているが、アメリカ国籍を有していない人に限ってみると81%に上り、アメリカ国籍のある人の33%を大きく上回る。また、回答者が生まれた時点で、両親ともにアメリカ国籍を持っていなかった人では64%を占める。

図4 定住外国人は国民と同じ権利を持つべきだと思うか

 定住外国人は『減ったほうがよい』日本2割台、イギリス8割近く 
 定住外国人の数についてたずねたところ、「かなり減ったほうがよい」は日本で8%にとどまる一方、イギリスでは56%と半数を超えた(図5)
 「すこし」も合わせると『減ったほうがよい』は、日本で2割台なのに対し、イギリスでは8割近くにも上る。イギリスでは調査が行われた3年後の2016年6月、EUからの離脱の是非を問う国民投票で、移民流入の制限を主張するEU離脱派が勝利をおさめた。調査結果に表れている移民増加への懸念が、EU離脱を後押しする一因にもなったと考えられる。外国人の割合が高いベルギーやフランスでも『減ったほうがよい』はイギリスに次いで多くなっている。
 アメリカでは『減ったほうがよい』は4割超だが、両親ともにアメリカ国籍を持っていなかった人に限ってみると、16%にとどまり、かなり少ない。なお、定住外国人が「かなり減ったほうがよい」と答えたアメリカ人の2012年の大統領選挙での投票先をみると、民主党のオバマ候補に投票した人は37%なのに対し、共和党のロムニー候補では60%に上る。定住外国人に否定的な人は、共和党に投票する傾向が表れている。

図5 定住外国人は増えた(減った)ほうがよいと思うか

4.排外的な意識の規定要因
 ここからは、排外的な意識の規定要因について考察する。国ごとの比較がより明確になるように、分析の対象とする国々をしぼってみていく。取り上げるのは、日本同様、定住外国人が少ない韓国、移民大国のアメリカ、先の国民投票で反移民政策を掲げるEU離脱派が勝利をおさめたイギリス、移民の受け入れ制限を訴えた政党が存在感を増しているフランス、そしてこの10年で外国人人口が大きく増えているノルウェーの6か国である。
 各国と比べて日本人の排外的な考え方の規定要因が異なるのかを探るために、定住外国人への態度を従属変数とした重回帰分析を行った。分析に用いる従属変数は、第3節で取り上げた「仕事を奪われる」「文化が損なわれる」「権利意識」の3つの排外的な意識の主成分分析から得られた主成分得点である。「外国人増加の是非」はこれらの変数と選択肢が異なるため、今回は分析対象から除いた。
 独立変数は、性別や年齢、学歴、収入、そして第2節で取り上げた「国への愛着」と「国民であるための条件(以下、純化主義)」である。「国への愛着」と「純化主義」についても、主成分分析から得られた主成分得点を用いた。
 表4に重回帰分析の結果を示した。国によって排外的な意識の規定要因に多少の違いはあるものの、各国とも「純化主義」が定住外国人に対する否定的な感情に影響しており、外国人人口の多寡にかかわらず共通する背景が浮かび上がっている。「純化主義」は、韓国以外の5か国すべてで排外的な意識に最も影響している。このほか、日本、イギリス、フランスとノルウェーで「国への愛着」が排外的な意識と結びついている。また、日本では収入が低いと排外的になるのに対し、他の5か国では学歴が低いと排外的な意識が強くなる。
 アメリカについては、回答者が生まれた時点で、両親のうちいずれか、あるいはどちらもアメリカ国籍を持っていなかった人が全体の20%となっていて、他の5か国と比べてかなり多い。そこで、両親のアメリカ国籍の有無を独立変数として加えて、改めて重回帰分析を行った(表5)
 分析の結果「純化主義」と学歴のほかに、新たに投入した両親の国籍の有無も、排外的な意識に影響していることがわかった。つまり、両親ともにアメリカ国籍を持っている人のほうが、定住外国人に対して否定的な感情を抱いている。いずれにしても今回の分析では、重回帰式の有効性の指標となる調整済みR2値が、日本・韓国・アメリカの3か国と比べて、イギリス・フランス・ノルウェーで高い。ブートルが主張する「欧州での移民への懸念」に対応する変数を使ったため、今回のモデルは、欧州各国における排外的な意識を予測するのにより適しているものと考えられる。
 さらに排外的な意識は、例えば外国で暮らした経験や外国人との接触経験など、ISSP調査ではたずねていない項目との関連も指摘されており、今回用いた独立変数だけでは排外的な意識を十分説明できているとは言えない。また調査では定住外国人の国籍や信仰している宗教について特に限定せずにたずねているため、排外性をとらえるうえで限界がある。それでも多くの国で共通して「純化主義」や「国への愛着」が排外的な意識に影響しているという結果は、外国人への態度について分析するうえで重要な手がかりとなるであろう。

表4 排外的な意識についての重回帰分析

表5 排外的な意識についての重回帰分析(アメリカ)

5.おわりに
 内戦状態が続くシリアから大量に流入する難民への懸念から、フランスやオーストリアなど欧州各国で反移民政策を掲げる右翼政党の台頭が著しい。これまで難民を積極的に受け入れてきたドイツでも、難民や移民の流入を抑制するとともに、難民認定の要件を満たしていない人の強制送還に乗り出している。冒頭でも述べたとおり、今回のISSP調査はこれほどまでにシリア難民が増える前に行われているが、いま同様の調査を行えば、欧州各国での排外的な意識がさらに高まっている可能性は否めない。
 アメリカでは、トランプ大統領の反移民政策をめぐって国を二分する大論争になっている。トランプ氏が大統領選挙を制するおよそ2年前に行われた今回のアメリカ調査8)の結果からは、各国と比べて排外的な傾向が特に強いという特徴はみられなかった。ただ、トランプ政権がこの先も移民に対して厳しい政策をとっていくことが予想されるなか、アメリカ国民の意識がどうなっていくのか、今後も目が離せない。
 翻って日本について今回の分析結果からみえてくるのは、自国への愛着が強い一方で、定住外国人に対して寛容な国民像である。近年、ヘイトスピーチのデモやネット上の書き込みが目立つようになったとはいえ、国民の多くは外国人に否定的な感情を抱いていないようにみえる。繰り返しになるが、日本では移民の受け入れ人数が欧米諸国と比べて圧倒的に少ないことから、失業や経済停滞の原因を移民に求めない人が多いのであろう。日本では欧米諸国が直面しているような外国人問題が焦点化されにくいとも言える。
 一方で、外国人に寛容な日本人が減ってきていることを示唆するデータもある9)。「日本に住んでいる外国人が、日本人と同じ福祉や医療を受ける」ことに「賛成」という人は27%で、2004年の37%と比べて減っているのである。「どちらかといえば」を合わせても『賛成』は、2004年の84%から78%に減少している。外国人の割合がこの10年でそれほど変わらないなか、日本では定住外国人の権利に対して肯定的な態度の人が減っているのである。
 こうした変化がこの先も続くのか、日本で欧州各国のように移民を多く受け入れるようになった場合に、定住外国人に対する意識がどうなっていくのか、社会全体で注視していく必要があるだろう。



注―――――――――
1)ISSPは、世界約50の国と地域の研究機関が毎年、特定のテーマ、共通の質問文で世論調査を行っている国際比較調査のグループ。
2)調査は33の国と地域で行われたが、本稿では有効率が30%未満の国を除いた30の国と地域を分析の対象とした。このうち、ドイツについては旧西ドイツ地域と旧東ドイツ地域で別のデータになっており、分析の中でも別々の地域 として扱ったため、便宜上「31の国・地域」と定義する。各国の調査方法や有効回答数などの詳細は、村田ひろ子「国への愛着と対外国人意識の関係~ ISSP 国際比較調査「国への帰属意識」から~」『放送研究と調査』2017年3月号に掲載している。
3)集計に際しては、各国の回答傾向を把握しやすくするために「わからない」や無回答を除いて分析している。
4)田辺俊介、2011、「ナショナリズム―その多元性と多様性」、田辺俊介編著、『外国人へのまなざしと政治意識―社会調査で読み解く日本のナショナリズム―』:21-42、勁草書房
5)Bootle, Roger. (2014 = 2015), THE TROUBLE WITH EUROPE: Why the EU Isn't Working - How It Can Be Reformed - What Could Take Its Place, Nicholas Brealey Publishing.(町田敦夫訳『欧州解体 ドイツ一極支配の恐怖』、東洋経済新報社)
6)ピアソンの積率相関係数。外れ値のスペインを除いて算出した(スペインを含めると、r=0.50)。
7)労働政策研究・研修機構、2015、「主要国の外国人労働者受入れ動向:イギリス」
8)アメリカ調査は2014年に行われた。
9)ISSP 国際比較調査「市民意識」
 2004 年:配付回収法、全国16 歳以上の男女1,800 人を対象、有効数(率)1,343 人(74.6%)
 2014 年:配付回収法、全国16 歳以上の男女2,400 人を対象、有効数(率)1,593 人(66.4%)