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■「中央調査報(No.723)」より

 ■ 2018年の展望-日本の政治 -改憲・3選へ首相正念場-

時事通信社 政治部デスク 高橋 浩之


 2018年の国内政治は、憲法改正に向けた動きがどこまで進むのかが大きな焦点だ。安倍晋三首相は20年の新憲法施行に強い意欲を示すが、自民党内の意見集約、公明党や野党との合意形成、国会発議、国民投票と幾重にもハードルが待ち受ける。また、9月の自民党総裁選は複数候補で争われる公算が大きく、3選を目指す首相にとって平坦な道とは言えない。外交分野では、北朝鮮の核・ミサイル開発への対応に加え、中国や韓国との関係改善など課題が山積している。

◇年内にも発議か
 「時代に対応した国の姿を考え、議論していくのは私たちの歴史的な使命ではないか」。首相は1月5日、自民党の仕事始めで憲法改正についてこう語り、議論を加速させる意向を示した。
 改憲を実現するには、衆参両院の3分の2以上で発議し、国民投票で過半数の賛成を得る必要がある。首相サイドは建前では「スケジュールありきではない」と繰り返しつつも、目標とする20年施行から逆算して周到に戦略を練っている。最速のシナリオとして取りざたされるのは、3月の自民党大会までに党改憲案を策定し、通常国会で発議、年内に国民投票を行うという案だ。総裁選前に発議を済ませることで、首相3選への流れを確かにしたいとの思惑も絡んでいる。
 秋の臨時国会で発議し、19年初頭に国民投票を行う案もある。ただ、19年4月末には天皇陛下の退位が予定され、秋にかけて儀式が続く。これらと重なる時期に国論を二分するような国民投票を設定するのは避けるべきだとの意見は根強い。19年夏の参院選と国民投票の同時実施案についても、首相周辺は「難しい」との見方を示す。参院選後には、改憲勢力が参院で3分の2を割り込む可能性も否定できず、首相サイドはできるだけ発議を急ぎたい考え。だが、各党の状況を見ると、発議にこぎつけるのはそう簡単ではない。
 自民党は、首相が提起した9条への自衛隊明記のほか、緊急事態条項の創設、参院合区の解消、教育充実の重要4項目について検討を進めている。9条をめぐっては、首相らが戦力不保持を定めた2項の維持を唱えるのに対し、石破茂元幹事長らは「整合性が取れない」として2項削除を主張。昨年12月の論点整理では両論併記となった。首相側近は「2項削除案では、公明党を含め幅広い賛同を得られない」とみており、2項維持で意見集約を図る構えだ。ただ、野党時代の12年に策定された党改憲草案は2項を削除する内容だったことから、削除派も強気の姿勢を崩しておらず、調整が難航することも予想される。
 連立を組む公明党は慎重な対応を求めている。昨年の衆院選で議席を減らし、支持母体の創価学会にも慎重意見が根強いだけに、山口那津男代表は「十分な国民の理解、議論の成熟をもたらさなければならない」と訴えている。野党第1党の立憲民主党は、集団的自衛権行使を容認する安全保障関連法を前提とした9条改正には明確に反対。民進党も同様の立場だ。共産、社民両党も「自衛隊を明記すれば9条2項は死文化する」などと批判を強めている。希望の党と日本維新の会は改憲に前向きで、政権側は連携を期待。ただ、希望の玉木雄一郎代表は9条に自衛権や文民統制の在り方も明記するよう主張。維新は教育無償化を最優先にしている。

◇石破、野田氏が出馬意欲
 昨年の自民党大会で、総裁任期は従来の「連続2期6年」から「連続3期9年」に延長された。安倍首相が当選すれば、21年9月までの超長期政権に道が開かれることになり、出馬は党内外で確実視されている。首相は通常国会閉幕後の「セミの声」が聞こえるころに正式な態度を表明する意向だ。4日の伊勢神宮参拝時に行った年頭記者会見では「衆院選で生産性革命、人づくり革命を約束し、国民の信任を得た。実行していくことが私の最大の責任だ」と、着実に政策の成果を出すことで支持を固めていく姿勢を示した。
 首相の出身派閥で党内最大勢力の細田派は、首相の3選へ結束し、実動部隊となる見通しだ。麻生、二階両派も首相を支持して主流派の地位確保を狙う。麻生太郎副総理兼財務相は「安倍政権をど真ん中で支える」、二階俊博幹事長は「安倍さんの後は安倍さん」とそれぞれ明言している。
 「安倍1強」阻止に向け、出馬に強い意欲を示すのが石破氏だ。「党内に一つしか考え方がないことはおかしい」と主張し、政権の経済政策「アベノミクス」に関しても「暮らしは豊かになったか。株高・円安と関係ない方々はたくさんいる」と批判的姿勢を示す。だが、自身を除くと石破派は19人で、推薦人20人を自前でそろえられないのが実情。党内での支持拡大が課題だ。野田聖子総務相も総裁選に「必ず出る」との意思を示している。15年の前回には推薦人を確保できず断念し、安倍氏の無投票再選となったが、今年は出馬の自信が「150%ある」と断言する。「小泉純一郎元首相らも辛酸をなめて階段を上った」と、まずは存在感を高めることを狙う。岸田文雄政調会長は「じっくりと判断していきたい」と態度を明確にしていない。首相を支えた上で禅譲を狙うのが岸田氏の基本戦略とされ、岸田派幹部は「よほどの失政がない限り、首相に弓を引くことはないだろう」との見方を示す。ただ、岸田氏は「政治家として一段上を目指す」として、ブレーンらを集めて昨年設けた政策研究会を活用し、「ポスト安倍」への備えを進める考えだ。河野太郎外相や小泉進次郎筆頭副幹事長も総裁候補に名前が挙がるが、当面は力を蓄え、「次の次」以降を狙うとの見方が支配的だ。
 首相周辺は「出たい方は出て、政策論争をすればいい」と、選挙戦になるのを織り込み済み。しかし、昨年には学校法人「森友学園」「加計学園」をめぐる問題などの影響で、内閣支持率を不支持率が一時上回った。改憲で拙速に動けば世論の反発を招く可能性もあり、首相の側近からは「決して楽な戦いではない」との声が漏れる。

◇辺野古移設で対決
 18年に大型国政選挙の予定はないが、米軍普天間飛行場の移設先である沖縄県名護市で2月4日に投開票される市長選と、12月に任期満了を迎える同知事選が注目されている。いずれも現職が同市辺野古への移設阻止を掲げ、政府・与党は移設工事加速に向け市政・県政の奪還を狙う。
 名護市長選は、3選を目指す稲嶺進氏と、自民、公明両党の県組織が推薦する前市議の渡具知武豊氏の一騎打ち。翁長雄志知事は稲嶺氏を全面支援し、与党側は政権幹部を続々と渡具知陣営の応援に投入して総力戦を展開している。政府は昨年、辺野古沖で護岸工事を開始。今春にも埋め立てに進む構えだ。市長・知事選の結果は移設の行方を大きく左右する。沖縄で米軍機事故が続発したことも選挙戦に影響を与えそうだ。

今後の主な動き

◇足並み乱れる野党
 昨年の民進党分裂に伴い、「多弱」化が進んだ野党勢力の連携や再編の成否も政局の焦点の一つだ。野党が協力しなければ「安倍1強」に対抗できないとの認識を共有しながらも、各党の思惑はばらばらで、結束の見通しは立たない。
 民進党は昨年末、立憲、希望両党に国会での3党統一会派の結成を呼び掛けたが、立憲は即座に拒否した。立憲は昨年の衆院選でリベラル色を前面に出して躍進し、野党第1党となったことから、自身の勢力拡大に主眼を置いている。安保法や憲法9条改正を容認する希望と組むことは「自己否定につながる」(枝野幸男代表)として、独自路線を貫く構えだ。一方、民進、希望両党は分裂含みだ。民進の大塚耕平代表は一時、希望との合流を視野に新党構想を打ち出したが、これに反発した蓮舫元代表らは離党して立憲に移籍。離党予備軍も10人程度いるとされる。衆院選に公認候補を立てなかった民進の支持率は低迷しており、党内には「民進のままでは参院選を戦えない」との不安が広がる。希望との統一会派構想も党内の了承を得られず頓挫した。希望は昨年から続く路線対立が深刻化し、分党論が強まっている。小池百合子東京都知事に近い結党メンバーは安保法に賛成し、改憲に積極的なのに対し、民進党からの合流組はやや穏健で、民進との連携を視野に入れる。
 16年参院選では、民進、共産、自由、社民の4 野党が計32の1人区で候補者を一本化し、11勝を挙げた。立憲、共産両党などは19年の次回選挙でも踏襲する考え。ただ、共産が相互推薦などを求めているのに対し、立憲は緩やかな連携にとどめたい意向だ。共産は「希望は自民の補完勢力だ」として協力の対象外としている。

◇敵基地攻撃力で論争
 年明けに韓国と北朝鮮による閣僚級会談が行われ、南北間に融和ムードが出てきた。しかし、日本政府は、北朝鮮の核・ミサイル計画放棄に向け「最大限の圧力」を堅持する方針だ。制裁に抜け穴が生じないよう、米韓両国と緊密に連携していく考えだ。
 北朝鮮に対する抑止力強化も念頭に、安倍政権は年内に新たな防衛大綱を策定する。首相は「従来の延長線上ではない」形で見直す意向を示し、敵基地攻撃能力の保有に含みを持たせている。18年度予算案には長距離巡航ミサイル導入へ経費を計上し、装備面で先取りを進めた。これに対し、野党側は「専守防衛を逸脱する恐れがある」と厳しく批判。国会で大きな論争となりそうだ。
 首相は、春ごろの日中韓首脳会談の国内開催や、首脳往来の活発化を目指す。だが、実現への道のりは険しそうだ。韓国の文在寅大統領は、慰安婦問題に関する15年の日韓合意を「誤りだった」と表明し、日本が拠出した10億円の凍結を決めた。合意は事実上、空文化したと言える。韓国は新たに謝罪などを求めているが、日本側は「合意を1ミリも動かさない」と拒否する構えだ。日中関係は、平和友好条約締結40周年の節目に当たるが、1月に中国軍の潜水艦が沖縄県・尖閣諸島の接続水域を航行し、冷や水が浴びせられた形となった。偶発的衝突を防ぐ海空連絡メカニズムの運用開始は急務だ。日本は「インド太平洋戦略」、中国は「一帯一路」を掲げ、途上国支援で主導権争いを展開。南シナ海問題でも対立しており、関係改善は一筋縄には進みそうにない。
 首相は、3月のロシア大統領選でプーチン氏が再選されるのを待ち、5月に訪ロして北方領土問題の前進を図りたい考え。16年のプーチン氏来日時に合意した北方四島での共同経済活動について、漁業、観光などの早期事業化を目指す。
 日本は対中東外交で、エルサレムをイスラエルの首都と承認したトランプ米政権と一定の距離を置き、中立的立場からイスラエルとパレスチナの交渉を促していく方針。資源の安定確保をにらみアラブ勢力とも良好な関係の維持を狙う。