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■「中央調査報(No.729)」より

 ■ マス・メディア激変の時代の世論を縦横に映し出す
 ―― メディアに関する全国世論調査の意義と展望(前編)


政治学者 菅原 琢


 本稿は新聞通信調査会発行『メディアに関する全国世論調査 第1回―第10回』所収の同タイトルの原稿を分割し、一部加筆修正したものです。後編は本誌8月号掲載予定です。


 公益財団法人・新聞通信調査会が2008年から開始した「メディアに関する全国世論調査」は、2017年調査で10回を数えることとなった。本書(新聞通信調査会『メディアに関する全国世論調査 第1回―第10回』)は、これを記念して同調査のこれまでのプレスリリース、記事等をまとめたものである。
 最初の節目となる数字であるため、この10という数字が特に大きいものと認識されることは少ないかもしれない。しかし、この10回の調査の結果得られたデータ、分析結果が膨大なものであることは、本書を紙の現物で手に取った方ならばすでに身をもって実感されたことだろう。
 一方で膨大な情報は、ときに物事の理解を妨げる。そこで、この広大な資料の海を渡るための羅針盤となるべく、「メディアに関する全国世論調査」がいかなるものか整理し、特にどのような意義を有するのか考察する目的で本稿を置くこととした。
 本調査が開始された目的について、前田耕一新聞通信調査会理事長(第1回調査当時)は会報に掲載された記事「新聞への不満多く守勢に――第1回「メディアに関する全国世論調査」(上)」(『メディア展望』2009年4月号)で次のように述べている。

 情報社会は今、インターネットの登場とその後の急速な普及により、大きな地殻変動を起こしている。とりわけ新聞はここ数年、年間約三十万部の発行部数(平均的な県紙一社の部数)減少が続き、新聞離れが激しい。この状態になったのは、突き詰めればメディアに対する国民の意識が変わり、それが地殻変動を後押ししたものと言える。そこで、現在進行中のメディアビッグバンの実相に迫るべく、国民にメディアの問題点や評価、信頼度などを聞いてみることとした。

 つまり、新聞離れを中心とするメディア離れは単にインターネットの普及が原因ではなく、メディアの側に問題があり信頼が落ちているためではという自省的な問題関心が、本調査の出発点とされているのである。
 ただし、未知の事実を明らかにするというその性質のために、研究のために行われる調査はその狙いや意義が途中で変化することが起こり得る。特に本調査は継続して10年行われてきたことから、調査の内容や目的が途中で変異することは避け難い。つまり本調査の意義は、実施者の当初の目的や意向だけでなく、経過を見て判断すべきものと言える。本調査の意義を明らかにするためには、これまでの変遷を振り返ることが必須となる。
 そこで本稿では、「メディアに関する全国世論調査」のこれまでを振り返り、本調査が結果的に獲得した意義について論じていくこととする。具体的には、調査の方法や質問の内容、調査結果とその反響を順次確認していく。こうした作業を通じて、本調査が何を伝え、どのように役立つのかを考えていき、その存在理由を明らかにしていきたい。

調査の経緯と概要
 本調査の実施団体である新聞通信調査会は、同盟通信社の解散(1947年)を受けて設立された財団法人・通信社史刊行会が後に改称し、今に至った組織である。本調査が開始された経緯は、聞くところによると、財団法人であった新聞通信調査会が2009年12月に公益財団法人に移行したことと関係している。移行を前に、公益法人の目的に適った新たな事業を行おうという機運が生まれ、その結果として本調査が行われることとなったのである。
 ここでの「目的」とは、調査会の定款の第3条に規定された「新聞通信事業に関する調査研究等を行い,わが国の新聞通信事業の発展に寄与すること」に他ならない。本調査が最初に行われたのは2008年12月のことであり、翌3月にはその調査結果がメディア向けに報告されている。4月には、ちょうどこの月に『新聞通信調査会報』から改称された『メディア展望』に、冒頭で引用した前田耕一理事長による報告記事が掲載されている。この後、同年12月に公益財団法人に移行した調査会の手により本調査は第10回まで実施されている。
 図表1には調査手法や日程、回答状況など、本調査の概要を示している。調査日程が年により多少異なることと、第1回調査の対象者数が以降に比べて少ないことを除けば、各回とも同じ方法で調査を繰り返していることが分かる。

図表1 「メディアに関する全国世論調査」の調査概要

 本調査の優れた特色のひとつが、このように調査方法が安定していることである。同じ調査方法により継続して調査することは、長期的で緩やかな世論の変化を捉えることと、短期的・即時的に世論を捉えることの両面で利点となる。本書所収の第10回のプレスリリースを読めば、その利点が存分に生かされているのを目にすることができるだろう。

調査手法の特色
 また、調査法自体も、本調査の優れた特色のひとつである。本調査で採用されている、住基台帳から対象者を抽出する層化二段階無作為抽出法や、調査票を直接配布し回収する留置法は、多くのメディアの世論調査で採用されているRDD法(Random Digit Dialing)による電話調査に比較して費用や労力がかかり、調査期間も長くなるといった短所もある。しかし、回答者の母集団からの歪みは小さく、また詳細な調査を行うことができるという点では、極めて大きな利点を生んでいる。
 実際のデータからこの点を確認しておきたい。図表2では、本調査とRDD法で行われているNHK政治意識調査の回答者、および日本全体の年代別の人口分布を比較している1。これを見ると、RDD法によるNHKの調査の回答者は日本全体の人口分布に比較して若年層ほど少なく、高齢層ほど多いという傾向が顕著である。これに対して、本調査は日本の人口分布に近く歪みが小さいことが明らかである。

図表2 世論調査回答者と日本全体の年代別割合比較

 また図表1の調査日程に示すように、第2回以降の本調査は20日弱をかけて調査が行われている。後に見るように、近年では50問を超える質問が設定されている。質問の形式も、中間的な選択肢を含めて賛否を4択で聞いたり、多数の選択肢から複数を選択したり、多メディア間で比較したりと複雑で多岐にわたる。特に“目玉”である情報信頼度は数字を回答者に記入してもらう形式である(後編参照)。これらは、通常1―3日程度で10数問が聞かれ、賛成・反対など単純な2択が多くなりがちなRDD法の電話調査とは一線を画すものである2。また、RDD法は21世紀に入り急速に普及した調査手法であるが、やはり21世紀に入り携帯電話が急速に普及したために、抽出した回答者の構成に徐々に歪みが生じていた。近年に入り携帯電話にも調査を行うようになってはいるものの、この点は長期にわたる比較を行う際の障害とならざるを得ない。インターネット調査の類はそもそも日本国民の縮図を構成するのには向いていない上に、ネット利用人口の増大、携帯電話によるインターネットの普及、さらにスマートフォンの普及の影響を受けたために長期の世論比較の根拠とはなり得ない。本調査で行っている住基台帳からの無作為抽出は、伝統的で古典的な手法ではあるが、世論の変化を長期的に追うには最も適したものと言える。
 以上から、調査手法の面からみれば本調査では質の高い調査が行われていると述べることができる。

増加する質問数
 次に、本調査ではどういった質問がなされているのか紹介しておきたい。ただし、質問数は全10回で438問を数えるため、ここで全てを紹介することはできない。詳細は各回の調査票を参照していただくとし、ここでは基礎的な統計から確認していきたい。
 本調査は、訪問留置法の特性を生かして一般の世論調査に比べて質問の数がかなり多い。図表3には各年の調査における質問数をまとめている。第1回の31問でも十分な質問数と言えるが、第10回にはこれが52問にも達している。

図表3 「メディアに関する全国世論調査」の質問数

 ここでは質問を大きく3つに分けてその数を示している。「本編」はメディアに関する質問、「回答者属性」は性別、年齢など分析に用いる回答者各人の個人情報、「メディアへの意見」は調査票の最後に置かれている自由にメディアに対する要望、意見等を記入する質問である。これを見ると、本編の質問数が大きく増え、当初の倍以上となっていることが分かる。一方、回答者属性の質問数は減少し、近年は性別、年齢、職業の3点に絞られている。これは、個人情報を必要以上に聞かないようにする調査業界の近年の流れに応じてのことのようである。
 なお、質問数の増加にもかかわらず、質問票のページ数は第2回以降、12ページで変化がない(第1回は10ページ)。かつては1問の中に多項目を設定する質問が多く1問の占める面積が広かったが、近年は1問の面積が狭くなっている。年によるバラツキはあるが、質問票に含まれる文字数も1割程度の増加傾向にあるようだ。質問票作成者の苦労がしのばれるが、一方でそれだけ回答者の負担も増えていることを意味する。

固定質問の変化と固定化
 図表4は、「本編」の質問内容の推移や順番を示している。ここでは質問の内容に応じて多数の質問を14のグループに分けた上で、質問の継続性に応じてさらに大きな2つの群に整理している。上の表に示した「新聞閲読・購読」から「購読紙分類・評価」の7グループが10回の調査でおおむね毎回聞かれている継続的な質問群、下の表に示した7グループが継続的でない質問群である。ここでは前者を固定質問群、後者を変動質問群と呼ぶこととする。固定質問群は長期的で緩やかな世論の変化、変動質問群は短期的・即時的な世論の状況を捉えることを目指した質問群と言えよう。

図表4 「メディアに関する全国世論調査」の質問内容

 まず固定質問群の内訳を見ると、新聞に関する質問が多数を占めていることがうかがえる。冒頭述べたように本調査は「メディアの問題点や評価、信頼度」について聞くことが目的とされていたが、特に初期のころは新聞に関する調査という印象が強い。これは後に述べるように日本新聞協会の調査の影響を受けていたためと考えられる。
 固定質問群は、このように名付けたものの、質問数、順番ともに当初は流動的だった様子がうかがえる。固定質問群は、多少の試行錯誤の末、徐々に固定化が進んだものだと言える。特に大きく変わったのは信頼度を中心とする各メディア比較の質問の位置が、変動質問群よりも前に移動したことである。これはかつて筆者が変動質問群の信頼度への影響を指摘したためである3
 また、新聞の各面に対する満足度は、当初は新聞閲読に関連して問4で聞かれていたが、第3回以降は回答者の購読紙を聞いた後に位置が変更となっていることも大きな変化だろう。そのほか、質問の整理統合や選択肢の変更もまれに行われているが、基本的にはあまり変化しないことを念頭に固定質問群は置かれている。
 ただし、インターネットでのニュースの閲読頻度や新聞電子版に関する質問など、ネット関連の質問は近年でも質問内容や選択肢がしばしば変わっている。例えば、ニュースを見るウェブサイトについて、第2回までは新聞社のウェブサイトについてのみ見るかどうか聞いていたのが、第3回以降はポータルサイトなどと並べ、閲覧するサイトを複数選択で選ぶようになり、第10回ではそこにSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が加わっている。
 このように質問や選択肢がしばしば変化すると、時点間比較が可能という継続調査の利点が損なわれることになる。しかし、スマートフォンやタブレットが広く普及しているのに、選択肢にPCと携帯電話しかなければ、回答者は的確に回答できない。刻々と変化している現実に質問を対応させていかなければ、調査結果自体の価値が損なわれることになる。従って、質問文や選択肢の変化は社会の変化を捉えた結果として受け入れなければならない。

特集テーマの意義と限界
 一方、変動質問群は文字通り時事的な話題に応じて入れ替わりが激しい。本稿の分類では、第1回と第3回を除けば何かしらの時事的な話題が10問前後取り上げられている。
 変動質問群をさらに細かく分類してみると、10回の調査のうち①途中まで聞いていた質問(新聞広告、組織団体信頼感)、②途中から加わって継続している質問(憲法改正問題、報道の自由)、③出来事に応じた時事的な質問(選挙報道・投票行動、大震災・原発、および「その他」に含まれる質問)の3つに分けることができる。
 このうち②と③は、その時々のメディアをめぐる話題、問題に対応したものと言える。このような時事的な問題は、特集的にテーマが設定されて複数問にわたって聞かれることが多い。一方、①はもともと固定質問の一部のように扱われていたが、質問自体取りやめになったものと思われる。この点については、次項(後編)でもう少し掘り下げておきたい。
 この10年を振り返ると、報道やメディアをめぐる問題や疑義は数多くあり、取り上げられた特集テーマだけでは足りないと主張することは可能である。特に東日本大震災と東京電力福島第一原発事故は、メディアに無数の教訓を残しただけでなく現在でもしばしば報道上の課題を生み出している。震災と原発事故の報道がメディアの評価や印象に与えた影響は、たった3回の調査では捉えきれず、継続して調査すべきだと考えることは特におかしくはない。
 しかし、10数問という限られた枠を時事的な多様なテーマで分けあい、調査結果を有意義なものとしていくためには、毎年少数のテーマに絞る現行の特集テーマ方式が適当と思われる。メディアに対する世論を多角的に分析していくためには、同一テーマで一度になるべく複数の質問を設定する必要がある。この場合、回ごとにテーマを変更していかなければ、多様な時事的な問題を取り上げることができなくなる。固定質問を減らして時事的なテーマに割り当てる方策もあるが、継続性の利点が損なわれるだけでなく、時事テーマを分析する際の基礎データが欠如することにもつながることから、そのあんばいは簡単ではない。
 一方、取り上げられているテーマの種類を見ると、憲法改正問題をはじめとして国政に関するテーマに偏っているという印象を持つ。主要メディアが月例で実施している世論調査ほどではないものの、世論=政治意識という固定観念は本調査でも見られる。人々が生きるため、あるいは働くためにメディアを通じて情報を集めていると考えれば、社会や経済等に関するテーマをもう少し取り上げてもよいのではないだろうか。


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1NHKの調査をここで採用したのは、これ以外の主要なメディアの世論調査は年代別の回答者数や割合の詳細な数字を公開していないためである。
2RDD法の調査による質問の単純化、選択肢の二項化に関しては筆者の次の論文も参照されたい。菅原琢「政治と社会を繋がないマス・メディアの世論調査」『放送メディア研究』13、2016年。
3菅原琢「特集質問の『原発』が信頼得点引き下げか : 再稼動めぐる両極層に強い反応も 第5回「メディアに関する全国世論調査」(下)」『メディア展望』2013年1月号。