中央調査報

トップページ  >  中央調査報   >  以前の調査  >  女性に2重の負担を強いる「新・性別分業意識」の存在
■「中央調査報(No.512)」より

 女性に2重の負担を強いる「新・性別分業意識」の存在


 
 1999年4月には「男女雇用機会均等法」が改正、6月には「男女共同参画社会基本法」が公布・施行されるなど、男女平等の実現に向けて社会システムの変更が迫られている。
 時事通信社では、創立55周年記念事業として「21世紀フォーラム『新世紀のパートナーシップ』」と題し、男女共同参画社会に関する講演・イベントを行っており、その一環として社団法人中央調査社との共同事業「パートナーシップ意識調査」を実施している。「パートナーシップ意識調査」は男女平等に関する国民の意識を「就労」「メディア」などの観点から調査するもので、本年度中に4回の実施を予定している。
 第1回調査では性分業意識、女性問題関連用語の認知などをとりあげ、今年4月7日から10日にかけて全国20歳以上の男女個人2,000人を対象に面接聴取法で実施した。1,398人から回答が得られ、回収率は69.9%であった。
 本稿では、第1回調査の結果の中から性分業意識に関する項目を中心にとりあげ、若干の分析を合わせて紹介したい。

1.性分業意識の現状
-ホンネVS..タテマエ-
「家事・家庭」「社会通念・慣習・しきたり」「仕事・社会」の3分野について5項目ずつ、計15項目の性別分業に関する意見を提示し、それぞれの意見に「そう思う」「どちらかといえばそう思う」「どちらかといえばそう思わない」「そう思わない」の4段階で回答してもらった。各質問間のクロス集計結果を『そう思う』人(「そう思う」「どちらかといえばそう思う」の計)の割合でみると、『家事・家庭』の分野では(表1-1)、「女性が家事・育児・介護の大部分を担っているのはおかしい」と考える人でも、「育児は母親(女性)の天職である」とする人が6割に及び、「共働き家庭でも家事は女性が中心になってやるほうがよい」「女性は家事を手抜きしてまで仕事をする必要はない」「男性の育児休業には抵抗がある」とする人も半数近くにのぼる。


 『社会通念・慣習・しきたり』の分野では(表1-2)、4人に3人(75.8%)は「男だから、女だから、といった考え方はなくすべきだ」に賛成だが、同時に「甲斐性(経済力)のない男はだめだ」も7割以上、「結婚したら妻が夫の姓を名乗るものだ」も半数以上を占め、4人に1人は「女性を採用するときは容姿も評価のポイントだ」「デートの費用は男性が払うものだ」と考えているのである。

 また、『仕事・社会』では(表1-3)、「性別に関係なく個人個人の能力を発揮できる社会を目指すべきである」という意見には92.3%の人が賛成しているが、同時に8割以上の人が「男性には男性、女性には女性に向いた仕事がある」、半数近くが「町内会や自治会の代表者は男性のほうがうまくいく」に同意している。

 質問間クロス集計の結果からは、「女性が家事・育児・介護の大部分を担っているのはおかしい」「男だから、女だから、といった考え方はなくすべきだ」「性別に関係なく個人個人の能力を発揮できる社会を目指すべき」といったタテマエ・きれい事と、「育児は母親(女性)の天職である」「共働き家庭でも家事は女性が中心である」「女性は家事を手抜きしてまで仕事をする必要はない」「甲斐性(経済力)のない男はだめだ」「結婚したら妻が夫の姓を名乗るものだ」「男性には男性、女性には女性に向いた仕事がある」「町内会や自治会の代表者は男性のほうがうまくいく」といった考え方が容易に同居していることがうかがえる。

2.因子分析
-性分業意識の要素<女=家><男=仕事><男=主>-
 次に、「育児は女性の天職である」と考える人の多くが「男性の育児休業には抵抗がある」とするような項目間の相関に着目し、タテマエ的な3項目を除いた12項目で因子分析を行ってみた。結果は(表2)のとおりで、因子1は「共働き家庭でも家事は女性が中心になってやるほうがよい」(0.558)、「育児は母親(女性)の天職である」(0.501)、「男性の育児休暇には抵抗がある」(0.447)といった項目ととくに相関が高く、「女性=家事・育児」といった考え方であると解釈できる。因子2は、「女性は管理職に向かない」(0.788)、「仕事の相手は男性のほうが信用できる」(0.318)、「デートの費用は男性が払うものだ」(0.306)といった項目と相関が高く、「男性=仕事」といった性別分業、男性優位の意識とみられる。因子3は、「町内会や自治会の代表者は男性のほうがうまくいく」(0.584)、「結婚したら妻が夫の姓を名乗るものだ」(0.362)と相関が高く、社会的地位・威信の面での男性中心・優位の意識と解釈できよう。そこで、因子1~3をそれぞれ<女=家>意識、<男=仕事>意識、<男=主>意識とよぶことにする。

 各因子と性・年代との関係をみると、<女=家>意識は男性に強く、女性に弱いが、男性では40代以下と50代以上でやや差があり、女性では20~50代と60代以上の間にかなり意識の差がある。<男=仕事>意識はやはり女性より男性に強く、男性では70歳以上と20代で保守的な傾向がある。また、女性では60代以上のほか、20~30代でもやや<男=仕事>意識が強く、40~50代で最も弱い。女性の年代別の傾向は、実際の就業状況を反映しているかもしれない。<男=主>意識については、男女差はあまりなく、男女とも60代以上と50代以下で意識が分かれている。

3.クラスター化
-第3の意識「女性は家事も仕事もしっかり」-
 3因子の得点から回答者を3グループに自動分類(クラスター化※k-means法による)した。分類された各クラスターの、性分業意識15項目への回答状況をみると(図2)のとおりである。第1クラスターは、全般に性分業意識の弱い、逆に言えば平等意識の高いグループであり、<男女共同参画志向>クラスターとよぶことにする。第2クラスターは全般的に性分業意識の強い、平等意識の低いグループである。一方、第3クラスターは、多くの項目では第2クラスターと似たり寄ったりだが、「女性は管理職に向かない」「仕事相手は男性のほうが信用できる」「デート費用は男性が払うもの」といった意識は相対的に低い、つまり仕事面でのみ意識が平等なグループとなっている。そこで、第2クラスターは<旧・性分業意識>クラスター、第3クラスターは<新・性分業意識>クラスターと位置づけられる。

 各クラスターの構成を性・年代別にみると、<男女共同参画志向>クラスターは男性より女性に多く、なかでも女性40代以下で6割近くを占めている。<旧・性分業意識>クラスターは男女差は小さく、男性70歳以上、女性60代以上といった高齢層に多い。一方、<新・性分業意識>クラスターは女性より男性に多く、特に男性50~60代に多くなっている(表3)。

(表4)には今回調査で行った他の設問のうち、クラスター別で回答の差が大きいもの、つまり性分業意識との関連が強いとみられるものを示した。
「今の日本社会はどの程度男女平等が達成されているか」を100点満点で答えてもらった設問では、特に男性でクラスター間の差が大きく、<男女共同参画志向>クラスターでは70点以上をつけた人は13.0%にとどまるのに対し、<旧・性分業意識>クラスターでは3人に1人が70点以上をつけている。
 以前大相撲の大阪場所で話題になった「女性が土俵にあがること」についての意見は、全体では男女とも日本相撲協会の見解を支持する人が多数派を占めているのだが、女性でクラスター間の差が大きく、女性の<男女共同参画志向>クラスターでは太田大阪府知事が土俵に上がれることを支持する人が半数に達する。
「女性問題関連用語」の認知状況の設問では、「フェミニズム」「男女雇用機会均等法の改正」「ドメスティックバイオレンス」などの言葉の認知で男女ともクラスター間の差が大きくなっている。

4.おわりに
 多くの人は「性別に関係なく個人の能力を」「男だから女だからといった考えはやめる」といったタテマエには同意するが同時に「育児は女性の天職」「甲斐性のない男はだめ」という考えもいまだに根強い。
 その根本には「家事・育児=女性の役割」、「仕事=男性の役割、仕事上は男性優位」、「社会的地位での男性優位」という意識が強く働いている。そのような意識の強弱のパターンの組合せから、①女性若年層を中心とした性別分業意識の弱い(=男女平等意識の強い)グループ、対照的に②男女の高年代層を中心とする性別分業意識の強いグループができ、さらに出現したのが③仕事面では平等的な傾向があるが家事・育児は女性の役割とする「新・性別役割分業」意識をもつグループである。これは男性50~60代を多く含む。
 「女性も男性並みに仕事を」としつつ「女性は家」という意識も根強いこの考え方は、子育て環境の整備や人々の意識の向上が十分になされない状況では、女性に仕事と家庭の二重の負担を強いることになり、危険である。今後の女性問題対策にも従来の性別分業意識の強弱という2極のものさしだけでなく、多面的な考慮が必要となろう。

(調査部 田渕晴子)