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■「中央調査報(No.529)」より

 ■ 「余暇活動、余暇産業の動向と今後の展望」
                 ~「レジャー白書2001」より~

財団法人自由時間デザイン協会 副主任研究員 柳田 尚也

 バブル崩壊後も、しばらくの間余暇活動はなお活発であり、余暇市場も成長を続けていたが、ここ数年は景気低迷の長期化の影響を受けて余暇需要は縮小傾向にあり、余暇関連産業も他の多くの産業と同じく伸び悩んでいる。
 こうした中で、ここ数年は消費単価が低く、家回りで楽しむタイプの「日常型レジャー」の活性化傾向が続いてきたが、最近になって「自分磨き志向」など、新しいレジャーの動向も注目され始めている。本稿では、自由時間デザイン協会が7月に発表した「レジャー白書2001」をもとに、平成12年の余暇動向を需要サイドおよび供給サイドの双方から要約・紹介するとともに、時系列的なデータ分析や新規調査項目をもとに余暇領域における変化の傾向や今後の方向性についても展望してみたい。

第1節 平成12年の余暇活動の動向

1.余暇活動参加人口の動向
~強まる「自分磨き」志向~

 当協会では、毎年15歳以上の男女3,000サンプルを対象とするアンケート調査を実施し、4部門90種目の余暇活動について、参加実態やニーズ等を調べている。調査の核となっているのは、90種目の余暇活動の「参加率」(その種目に1年間に1回でも参加した人の割合)であり、このデータをもとに余暇活動の「参加人口」の規模を推計している。
 ここでは、国民が主にどのような余暇活動に参加しているのかを全般的に把握するため、参加人口の多い方から上位20種目について見てみよう(図表1)。
 図表1によると、平成12年の第1位~3位は「外食」「ドライブ」「国内観光」であり、この3種目がわが国でもっとも参加者の多い余暇活動となっている。1位「外食」から7位の「動物園、植物園、水族館、博物館」までの種目・順位は、10年、11年と変わっていない。平成12年の動きとして注目されるのは、「パソコン」の著しい伸びである。他に「体操(器具を使わないもの)」、「ジョギング、マラソン」などをあわせて見ると、健康、学習、能力開発などのいわば「自分磨き」に関わる余暇活動は、このところ順調に参加人口と順位を伸ばしてきているといえよう。
 平成11年に比べて参加人口を伸ばしたのは「外食」、「国内観光旅行」、「カラオケ」、「バー、スナック、飲み屋」、「宝くじ」、「ボウリング」などである。落ち込みが大きかった屋外型・非日常型のレジャーや、街で楽しむレジャーなどで、参加人口を戻したものがいくつか見られた。
 一方、参加人口を落としたのは「ビデオの鑑賞」、「音楽鑑賞」などである。順調に参加人口を伸ばしてきた「テレビゲーム」も、11年で頭打ちとなった。代表的な日常型レジャーである「園芸、庭いじり」は、順位は落としたものの参加人口は横ばいであった。
 以上の結果をみると、平成12年は、前年(平成11年)まで顕著であった「日常・身近・家回り」タイプの余暇へのシフトの動きがひとまず一段落し、旅行をはじめとする非日常型・屋外型のレジャーで一部需要が戻りつつあると捉えることができる。また、「自分磨き」タイプのレジャーへのトレンドが、ますますはっきりしてきている点も見逃せない。

2.余暇活動の潜在需要
~高まるパソコンへの関心~

 次に一歩踏み込んで、これから伸びが期待される余暇活動を、潜在需要の大きさという点から見てみよう。潜在需要とは、各活動種目の参加希望率から現在の参加率を引いた値であり、「これから新たに拡大が期待される活動ニーズの大きさ」といった意味である。図表2に、潜在需要上位10種目を示した。
 これを見ると、潜在需要の第1位は、性・年代を問わず「海外旅行」である。2位は「国内観光旅行」で、旅行に対する潜在需要は他の種目と比べても圧倒的に大きい。3位「オートキャンプ」(10.3%)以下は、潜在需要10%前後の種目が続く。
 このように、旅行、アウトドア活動、屋外スポーツなど、非日常系のレジャー種目が潜在需要の上位を占めている。実際の参加状況では、日常・身近なレジャー活動の占める割合が小さくないのに対し、潜在需要では、実現がむずかしい非日常系レジャーのポイントが高くなっていることがわかる。
 潜在需要で注目されるのは、第5位の「パソコン(ゲーム、趣味、通信など)」(8.7%)である。IT化の進展とともに、仕事以外の余暇生活においてもパソコンに触れる機会や関心が高まりつつある。ここ数年パソコンの参加人口が急速に拡大してきているのは前項で見たとおりであるが、潜在需要についても上位にあるということは、今後さらなる拡大が見込まれる活動であることを示している。
 「パソコン(ゲーム、趣味、通信など)」の潜在需要を、性・年代別に見たのが図表3である。これを見ると、すでにパソコンに触れる機会の多い10代~20代よりも、むしろ40代を中心とする中高年層、特に女性層の潜在需要が大きい点が注目される。こうした層のパソコン需要の開発、特に余暇方面での利用方法や学習機会の開発は、レジャー産業にとどまらず、情報関連産業や教育・学習産業にとっても大きな市場開拓につながる可能性を持つといえよう。
図表2
図表3

第2節 余暇市場と余暇産業の動向
本節では、供給サイドの視点から、余暇関連市場や余暇産業の動向について紹介する。
1.平成12年の余暇市場の概況
 当協会では、4部門78分野からなる「余暇市場」の市場規模推計を行っている。これは供給サイドの各種データをベースとし、小売段階の市場規模を推計したものである。これによると、平成12年の余暇市場は85兆570億円であり、平成11年の85兆5,870億円から0.6%縮小した。同時期の国民総支出と民間最終消費支出の伸び率は、それぞれマイナス0.1%、マイナス0.6%であり、余暇市場は後者と同程度のマイナス幅であった(図表4)。余暇市場は、ここ数年マイナス成長が続いてきたが、その減少幅は徐々に縮小している。部門別では「スポーツ部門」「娯楽部門」が低迷し、「観光行楽部門」がやや元気である。
 市場全体をみると、多くの業種・業界で売上げを減らしているが、特定の企業や商品・サービスには明るさもみられる。昨今の激しい競合のなか、勝ち組と負け組の2極分化が進行し、強いものだけが他を淘汰していく"一強百弱化"ともいうべき傾向がでてきているようだ。
図表4


(1)スポーツ部門
 平成12年のスポーツ部門市場は4兆9,590億円、対前年比マイナス2.9%と落ち込みが大きかった。用品市場では、大店立地法の施行をにらんだ駆け込み出店ラッシュがあったが、大型店同士の競争が激化し、売上は低調であった。ゴルフ用品、スキー・スノーボード用品は近年の低迷から脱し、若干のプラスとなった。アウトドア系は、用品によって好不調の落差が大きかった。
 サービス市場では、需要が縮小気味の中依然としてコース数が拡大しているゴルフ場、入場者数の減少に歯止めがかからないスキー場など、需給ギャップの激しい業界で落ち込みが大きい。ゴルフ練習場やボウリング場も利用者の需要変化に対応しきれず、マイナス成長となっている。こうした中でフィットネスクラブは、中高年層の顧客ニーズに巧みに対応しつつ成長を続けている。
(2)趣味・創作部門
 趣味・創作部門の市場規模は、平成12年は全体で11兆8,270億円、対前年比0.1%増となり、特に用品市場では明るい材料が目立った。パソコンの周辺機器としてデジタルスチルカメラ、ビデオカメラ等の市場が急成長しており、DVD、MD関連商品、テレビも売れ行きがよかった。
 ヒット作が不在だった映画市場、ビデオソフト市場は売上げを落とし、シネマコンプレックス(複合映画館)も既に供給過剰気味である。音楽、演劇、スポーツなどの興業市場(チケット販売)は久しぶりの増加となったが、音楽・出版関係の市場(CD、書籍・雑誌等)の売上は不振だった。
(3)娯楽部門
 娯楽部門は最大の市場規模を持つパチンコ産業を抱える部門であるが、景気低迷・消費マインド減退の中でほとんどの分野の売れ行きが落ち込み、市場規模は57兆1,570億円、対前年比で1.0%の縮小となった。
 ファン離れに伴う低迷が続くパチンコ市場(貸玉料)は、最悪期を脱した模様で、特にパチスロ人気によるカバーが大きくなっている。業界大手チェーンは効率経営により収益を伸ばしており、"一人勝ち"状態といえる。ゲーム関連業界は不振の1年だった。ゲームセンターでは家庭用ゲーム機の高度化もあって顧客離れが進み、テレビゲーム・ゲームソフト業界においても、ヒットソフトの減少・集中化が進み、低調のまま推移した。
 公営ギャンブルも不振で、中央競馬、地方競馬、競輪、競艇、オートレースのいずれも売上を落としている。数少ない好調市場は宝くじで、「ミニロト」「ロト6」「トト」等の人気で売上を伸ばした。
 パチンコに次いで市場規模の大きい外食市場は横ばいで推移しているが、個別分野ではやはり業界大手によるひとり勝ちの様相が強まっている。
(4)観光・行楽部門
 もっとも典型的な余暇活動といわれる旅行(観光・行楽)の市場動向は、余暇市場全般の動向を占う意味を持っている。平成12年の観光・行楽部門は明るさが見られ、全体として11兆1,140億円、対前年比1.5%市場を拡大した。
 旅行業(手数料収入)は国内・海外旅行の好調を受けて市況を回復しつつあり、特に海外旅行は数少ない好調な余暇市場の一つであった。ただし単価の低下が激しく進んでいる。インターネットによる旅行商品販売の拡大も注目されている。
 遊園地・レジャーランドは平成12年も業績が伸びず、「シーガイア」「レオマワールド」をはじめとする施設の閉鎖・買収が話題となった。宿泊関係では、旅館の売上げは引き続き減少しているが、ホテルは対前年で若干の増加となった。

2.余暇市場の時系列的推移
 こうした余暇市場の動向と構造的な変化を時系列的に見たものが、図表5である。
 これによると、昭和の終わり頃には60兆円程度の規模であった余暇市場は、バブル経済の絶頂期から崩壊期にかけて急速に成長し、90兆円に迫る規模まで拡大していたことがわかる。この時期、余暇市場のほとんどすべての部門が拡大・成長しているが、特に成長に大きく寄与したのが「娯楽部門」である。具体的には、「娯楽部門(ゲーム)」に含まれるパチンコ市場の拡大が、もっとも大きかった。
 しかしながら、その後景気の低迷が長期化する中で余暇市場の成長も次第にストップし、その後は徐々に縮小傾向で推移している。余暇市場の急速な拡大に大きく寄与した「娯楽部門」(パチンコ市場)であるが、近年の市場全体の縮小に対する影響も大きい。「スポーツ部門」はバブル前後の好調期をピークに落ち込みが続いている。「趣味・創作部門」は比較的堅調に推移している。「観光・行楽部門」では、単価の急速な低下に伴う構造的変化が進みつつも、海外旅行需要の回復などの力強い動きも見られている(平成12年時点)。
 余暇市場全体は、今後も引き続き娯楽部門の動向の影響を強く受けるものと考えられるが、趣味・創作部門や観光・行楽部門における成長の動きなども足がかりとしつつ、全体としての市場が回復基調へ移行することが望まれるところである。

第3節 新たな余暇市場の展望
 最近の自由時間の過ごし方をみると、従来型の狭義のレジャー活動やレジャー消費にこだわらず、自分らしい生活や余暇を志向する人々が増えてきている。第2節は、もっぱら供給サイドの定点観測データによる余暇市場・産業の動向について紹介してきたが、最後に第3節では、第1節で利用したものと同じアンケート調査の調査結果をもとに、今後成長が期待される新たな余暇市場の領域や規模についての分析結果を紹介する。
 アンケート調査では、「自分への投資」「いやし」「新しい交流」「社会性」といった注目のキーワードに関わる25種目の活動を設定し、それぞれの活動への参加状況や年間活動費用等からおおよその消費規模を算定した。このうち消費規模の大きい上位10種目について示したのが、図表6である。
 消費規模が最も大きいのは携帯関連の市場であり、余暇利用に限定した調査でありながらも1兆円を優に超えている。ペット飼育や温浴施設、資格取得の専門スクールなども規模が大きい。25種目の消費規模の合計は約4兆円に達し、既存の余暇市場の4~5%に相当するものであることがわかった。こうした新しい市場領域に、従来の余暇産業をはじめとする多くの産業が参入することにより、余暇市場の枠組みも今後一層拡大していくものと考えられる。
図表6