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■「中央調査報(No.535)」より

 ■ ”バブル人気”が崩壊ー小泉内閣の1年

時事通信社 政治部次長 鈴木 豊

 2001年4月26日に発足した小泉内閣が2年目に入った。当初、国民の大きな期待を集めたものの、バブルが崩壊するように支持率は急落。今や「小泉離れ」が進行しているようにみえる。全国20歳以上の男女2000人を対象に時事通信社が行う月例時事世論調査(個別面接聴取方式)の結果から、小泉内閣の1年を振り返ってみた。

1.内閣支持率の推移
 小泉内閣発足直後の世論調査(昨年5月)での支持率は72.8%と、1960年の同調査開始以来、歴代内閣支持率としては最高を記録した。それまでの最高は、細川内閣の67.4%(1993年9月)で、5.4ポイントも更新した。
 この圧倒的支持率の背景には、「聖域なき構造改革」を掲げて日本経済再生を目指す小泉純一郎首相への強い期待感があったとみられる。国民的人気が高く、自民党総裁選での小泉首相の勝利に貢献した田中真紀子氏を外相に起用したこともプラスに働いた。かつての自民党単独政権時代も、内閣が交代した直後は「ご祝儀相場」で支持率が幾分高まる傾向があった。しかし、7割を超える支持率はそれだけでは説明できない。自民党幹部の密室協議で生まれたという負い目があり、実習船「えひめ丸」沈没事故での対応などで批判を浴びた森喜朗前首相に対する不人気の反動という面も見逃せないだろう。
 発足後2回目の調査となった昨年6月には、78.4%と最高を更新した。構造改革をめぐり、特殊法人改革の前倒しの方針や道路特定財源の見直しなどを打ち出したことへの高い評価が背景にあったと考えられる。ハンセン病国家賠償訴訟で控訴を見送ったことも、国民世論に歓迎されたようだ。結果的にこの時点が、小泉内閣1年間の頂点だった。
 「小泉人気」を追い風に自民党は6月24日の東京都議選で復調した。7月の支持率は70.4%と初のダウンを記録したものの、依然、7割台の高水準を維持した。その後、8月には前月より5.1ポイント減少したが、9月には68.8%と再び上昇に転じている。この間、7月29日投開票の参院選で自民党は改選議席を上回る64議席を確保した。首相は8月13日、「公約」である終戦記念日の参拝を前倒しし、靖国神社に参拝した。しかし、時事世論調査の結果からは参院選結果や靖国参拝が支持率に大きな影響は与えていない。
 9月11日には、米国で同時多発テロが発生した。小泉首相は同25日、米国でブッシュ米大統領と首脳会談を行い、自衛隊による米軍の報復攻撃への支援を表明。10月5日、政府はテロ対策特別措置法案を閣議決定した。10月の支持率は70.3%と7割台を回復。首相の積極的な対米支援の姿勢が評価された形だ。
 一方、国内の経済情勢に目を転じると、9月の完全失業率が5.3%と過去最悪を記録、株価も低迷が続き、経済・雇用情勢は一段と悪化した。構造改革にも具体的進展が見られず、11月の支持率は63.6%に落ち込んだ。12月に69.0%に再上昇したのは、特殊法人改革などがようやく本格化したことなどが評価されたとみられる。
 今年1月になると、アフガニスタン復興支援会議への非政府組織(NGO)出席拒否問題をきっかけに田中前外相と外務省幹部、鈴木宗男衆院議員との対立が深刻化。国会審議への悪影響を懸念した首相官邸サイドは、田中氏と野上義二外務事務次官の更迭に踏み切った。
 しかし、その代償は大きかった。2月の支持率は前月より21.3ポイントもダウンし、46.5%に低下。”真紀子ショック”が政権を揺さぶった。その後も、鈴木宗男衆院議員や加藤紘一元自民党幹事長、井上裕前参院議長らをめぐる相次ぐ疑惑で政治不信が拡大し、支持率は続落。5月は37.6%と初めて4割を切り、不支持(42.8%)と支持が逆転した。中国・瀋陽の日本総領事館連行事件での外務省の不手際も支持率続落に拍車を掛けた(図1)

図1

2.支持理由の変化
 いきなり高い支持率を得た昨年5月の支持理由を見ると、「印象が良い」がトップで30.8%を占めている。2位以下の「リーダーシップがある」(23.8%)、「首相を信頼する」(23.7%)とはかなりの開きがあった。
 「自民党を変える。日本を変える」-。小泉首相はこう叫んで自民党総裁選の予備選で地方票の9割を集めて圧勝、国会議員らによる選挙での勝利に結び付けた。組閣に当たっては、派閥順送り人事を排し、首相主導で女性や民間人を多数起用。公約の「派閥政治の打破」を実行した。改革断行を訴える言葉も「恐れず、ひるまず、とらわれず」(所信表明演説)などと、歯切れ良かった。変革を期待する国民が、それまで「永田町の変人」と呼ばれてきた首相に極めて良好なイメージを抱いたといってよい。
 ただ、首相の好感度が最大の支持理由となったのはこの時だけだ。6月には、「首相を信頼する」(33.3%)が第1位。以降、今年1月まで「首相を信頼する」と「リーダーシップがある」が支持理由の1位となっている。節目となる出来事との相関を見ると、参院選後の8月調査では「首相を信頼する」が26.4%、米同時テロを受けて首相が、テロとの対決と対米支援にきぜんとした姿勢を見せた後の10月には「リーダーシップがある」24.6%となっている。12月は「リーダーシップがある」が25.5%に。自民党の抵抗勢力と「妥協」した面があるとはいえ、日本道路公団など道路4公団民営化への道筋を付け、改革への取り組みを示したことなどが評価されたようだ。
 指摘しておきたいのは、「政策が良い」を挙げる人が少ないことだ。発足直後の昨年5月は9.3%で、消極的な理由である「他に適当な人がいない」の16.2%を下回っている。今年1月までで、両者の順位が逆転したのは昨年6月だけ。それ以外は「他に適当な人がいない」を下回り、政策への評価が低いのが特徴だ。
 永田町で「1匹おおかみ」といわれてきた小泉首相にとって、最大のよりどころは国民世論である。積極的にテレビを利用するのが首相周辺のメディア戦略であり、首相自身も抵抗勢力との戦いを「演出」した。テレビ側も田中前外相と外務省との対立などを大きく取り上げた。「ワイドショー内閣」と呼ばれたイメージ先行の政治の実態が、調査結果からも浮かび上がった。
 しかし、イメージ先行型政治はもろい面がある。田中前外相更迭後の2月には、「他に適当な人がいない」が18.9%でトップとなり、3月は19.8%へと上昇した。

 

3.男女別の支持率
 田中前外相更迭に伴う支持率急落は、小泉人気を支えた主婦層を中心とする女性の反発が大きな原因とされている。
 発足時(昨年5月)から女性の支持率が74.6%と男性の70.7%を上回り、この傾向は9月まで続く。絶頂時の7月には、女性の支持率は79.8%と約8割にも達した。10月から今年4月にかけては、逆に男性の支持率が女性を上回る。ターニングポイントとなった10月は、政府が米国による対テロ戦争への支援を押し進めようとしていた時期に当たっており、その評価が男女間で割れたともみられる。
 今年2月の急落時には、女性の支持率の下げ幅は22.7ポイントで男性の19.4ポイントを上回った。外務省と正面切って対決した田中氏の行動は、「ものを言えぬ女性たち」の気持ちを代弁した面があり、彼女を更迭した首相から気持ちが離れていくのは自然な流れと思われる。4月の女性の支持率は39.5%と4割を切り、昨年7月に比べ半減した。

 

4.政党支持率
 次に政党支持率の推移を見てみよう。自民党の初回(昨年5月)は25.5%で前月より4.1ポイント増えた。6月は28.3%、7月27.9%と、小泉人気が自民党に対する拒否度を和らげる構図が続いた。圧勝した参院選後の8月には、33.3%と最高を記録。10月と12月にも3割台に達した。2月は27.3%(前月比0.8ポイント増)で、前外相更迭は影響していない。しかし、今年3月には24.9%に減り、4月には19.6%と2割を割り込んだ。自民党を離党した鈴木衆院議員の北方4島支援事業をめぐる疑惑や元事務所代表の脱税事件が引き金となった加藤元幹事長の議員辞職など、「政治とカネ」に関する国民の不信が募ったことが背景にある。
 一方、自民党と連立を組む公明党の支持率は、3.0%から4.4%の間で推移した。野党第1党の民主党はどうか。小泉内閣誕生時(昨年5月)は4.2%。翌月は3.9%の微減となったが、7月には6.2%へ上昇した。その後は3カ月連続して減少、昨年12月から今年4月までは4%台が続いていた。
 当初、小泉首相や自民党内の改革派との連携も視野に入れていた民主党は、今年の1月の定期党大会で小泉政権打倒へと方針を大きく転換した。しかし、「真紀子ショック」や外務省不祥事、鈴木、加藤両氏をめぐる疑惑などの「敵失」があっても、それが民主党の支持率アップにはつながらなかった。同党の鹿野道彦副代表の離党や社民党の辻元清美前政審会長の議員辞職など、野党サイドでも「政治とカネ」をめぐる事件が明るみに出たことがマイナス材料となったとみられる。
 無党派層を見ると、昨年5月に58.4%だった「支持政党なし」は8月に47.9%に低下した。無党派層の動向が国政選挙などの結果を左右するケースが多いだけに、一時的とはいえ、5割を切ったことは注目してよい。しかし、同月以降は増減を繰り返した後、今年4月には62.4%と再び6割台に上昇した(表1)

 表1

5.野党支持者の支持も激変
 支持政党別に見た内閣支持率はどうだったか。政権母体である自民党支持者の小泉内閣スタート時の支持は89.6%。翌月に最高の94.0%を記録した後、今年1月にかけて1回(昨年11月)をのぞいて9割以上の支持を集めている。それが、「真紀子ショック」以後は7割台へ落ちている。連立パートナーの公明党支持者の支持も高く、最高時(昨年11月)には75.6%と4人に3人が小泉内閣に信任を与えた。やはり、田中前外相更迭を機に急落して5割を切り、今年5月は44.1%に落ちた。森前内閣と比べて小泉内閣は公明党と距離を置きがちだ。BSE(牛海綿状脳症、狂牛病)問題での武部勤農水相進退をめぐっても対立しており、そうした点も影響しているだろう。
 野党第1党の民主党の支持者を見ても、小泉人気は高かった。小泉内閣発足時は公明党と同じ75.0%で、翌月には最高の78.6%に達した。首相の掲げる構造改革が民主党の政策でもあることや自民党の古い殻を破ろうとした姿勢などが共感を呼んだものと考えられる。やはり今年2月には急落、今年4月には3割を切って27.7%となった。

 

6.高支持率回復は困難?
 歴代内閣の支持率の推移を見ると、発足時から終了にかけて支持率を下げていくタイプが多い。この中で、高くはないが安定した支持率を維持したタイプには福田内閣や大平内閣の例があり、田中内閣は前半の高支持率と後半の落差が大きい「急落型」だ(図2参照)。小泉政権の今後についても、絶頂時のような高支持率まで戻す可能性は極めて低いだろう。それどころか、5月の支持率は4割を切り、続落傾向に歯止めが掛からない。「政権は極めて安定している」との首相の強気な言葉とは裏腹に、小泉内閣の前途は暗い。

 図2