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■「中央調査報(No.546)」より

 ■ 政治家の主張/ 官僚制の主張
-政策エリート調査から-

学習院大学法学部教授 村松 岐夫

I 調査の概要
 筆者は、1976-77年に第一回政策エリート調査(国会議員調査、高級官僚調査、主要団体責任者調査)を終了した段階で、ほぼ同じと言えるサンプルによって同内容のサ-ベイリサーチを10年に一度実施することを計画した。「計画」というのは経費のかかることであるので、強すぎる表現であるが、条件が整い次第実施しようと考えたということである。
 第一回調査の経費は京都大学の総長裁量経費で賄われたが、継続的にこの種の調査ができるためには、科学研究費の支援が不可欠であり、科学研究費の申請を心掛けた。
 さいわい第二回調査は、国会議員と官僚に関して1985-86年に実施できた。第二回団体調査は研究費の獲得ができず遅れてしまい、その実施は1993年夏であった。そのために他の二種類の調査との比較を行うことはよほどの注意を必要とする。1993年夏は、非自民八会派による細川内閣が成立した直後で、政治のトップ構造は明らかにそれより前の政治勢力の配置とは異なっている。ただ団体調査を1993年に実施したので、政策アクター調査の中では第二回団体調査は、第三回の政策アクター調査へのがつなぎの役割を持つことになった。
 第三回を計画通り実行したとすれば1996-97年あたりであったということになるが、この時期、筆者は管理職についていて、研究計画を立てる余裕はなかった。そのため、第三回は、全体として遅れることとなった。第三回の国会議員調査と高級官僚調査は2002-03年にかけての約10ヶ月を要して実施された。10ヶ月の前半が官僚調査、後半が国会議員調査に使われた。
 以下は、これまでの三回の調査の概要を述べ、第三回調査結果の一部を解説することにしたい。これらの全調査は社団法人中央調査社への委託によって行われた。しかし、この種の調査は、調査当事者が調査対象者に直接的にコンタクトすること無しには完遂できないことも指摘しておきたい。

II  質問文
 団体調査はやや異質な要素があり、他の二種のストレートな比較をするには工夫を要する。しかし、国会議員調査と官僚調査では、同じ質問文を使用している場合には、どのように一致し異なるかの比較をすることができる。国会議員の三回の調査を通じて同じ質問文を使用したケース、官僚調査の三回を通じて同じ質問文を利用したケースを以下に質問文の要約という形でまとめておきたい。
 この時点で見ると、国会議員と官僚の6回を通じて使われた同じ質問文は結局極めてわずかであったということに気づく。なぜそのようなことになったかといえば、ひとつは文脈の変化を新しい質問文として取り込みたいということがある。この場合は、前回使用した質問文の一部をすてることになる。しかしそれ以外にも、ほぼ同じサンプルを対象にして調査を行い、ほぼ第一回と同じデータが出たとすると、どのような「成果報告」ができるかなどというアカウンタビリティの不安が頭をよぎるからでもある。研究成果をこのあたりは、第四回を実施する時に考慮すべき最重要点である。
 団体調査は、もともと国会議員と官僚ほどに相互比較を重視してデザインされていない。しかし、官僚側からの団体への働き掛けに対応するように、団体の側からの受け入れや働き掛けについて質問をしている。特に第一回は、調査団体の選択に官僚調査から関連有力団体として挙げられた団体をサンプルとして選んでいる。

(1)国会議員の三回で共通の質問文の事例
 国会議員の三回で使われた共通の質問文のリストを掲げると次の通りである。


Q 次に挙げる5つの国家の役割の中で、あなたが一番重要だと思われるものを挙げてください。
Q 国会における審議は、どの程度政策形成に影響を与える力をもっていると思われますか。
Q 国会の委員会で取り上げる問題について、信頼のおける情報や資料を、どこから得ていらっしゃいますか。有力な情報源を挙げてください。
Q 現代の日本において、国の政策を決める場合に、最も力をもっているのは、次の中のだれだと思われますか。次の中から力をもっているものを挙げてください。
Q 一般的にいって、官僚の影響力は、近い将来において増大すると思われますか。それとも減少すると思われますか。


(2)官僚調査の三回に共通の質問文官僚調査の三回に共通して使用した質問文のリストを作ると以下のようである。


Q 日本の現状についての満足度。
Q 日本国民にとって、今重要である問題。
Q 行政の役割として一番時間を使っているもの。
Q 官僚の影響力の予測。
Q 人や団体との接触の頻度 [イ.あなたの省の大臣、ロ.あなたの省の事務次官、ハ.あなたの省の政務次官( 第三回については副大臣)、ニ.所属局の局長(局長の場合、同一省内の他の局長)、ホ.他の省の官僚、へ.与党国会議員(国会の会議、委員会での接触を除く)、ト.野党国会議員(国会の会議、委員会での接触を除く)、チ.自民党政調会、リ.地方自治体代表(首長、職員、議員等)、ヌ.諸種の関係(利益、圧力)団体] 
Q 法案の作成や改定において一番時間を使っている役割。
Q 予算過程における与党との相談・協力=[イ.予算案の局議決定、ロ.予算案の省議決定、ハ.大蔵省(第三回は財務省)の原案内示までの折衝、ニ.復活要求、ホ.特別の新規事業があるとき。]
Q 地方自治体の自主財源についての意見。
Q 予算過程における自民党以外の諸党との接触。
Q 行政と議員の議会外における接触の利点と弊害
Q 行政と関係(利益、圧力)団体との接触における利点と欠点。
Q 日本における国の政策を決める場合に「最も力を持っている」もの。
Q 行政的裁量の増大・減少の望ましさ。
Q 許認可や行政指導の基準。
Q 上級公務員の主張、大臣の所属する党内の意見、あなたの省と関係の深い団体の主張が対立するようなとき、大臣はどの主張をとるか。
Q 大臣が考えている政策を断念してもらう方法。
Q 審議会が果たしている役割。
Q 国会審議の影響力。
Q 政党支持。

(3)国会議員と官僚に共通する質問文もある。

 以下、本稿では、第三回における国会議員と官僚の比較データの紹介の前に、サンプルの構成について説明しておく。

(4) 調査対象者(サンプル)
 国会議員と官僚調査の対象者はどの程度同一性を保てているか。これは、次のような形で「可能な範囲」で同一性を維持した。
 国会議員のサンプル数は、第一回101,第二回121,第三回136である。「与野党の数」と「当選回数比率・与野党比率」をできるだけ同一のものと読めるようになる努力をした。
 第二回、三回官僚調査に関しては、第一回の調査対象者と同じ役職にある方々を対象とすることを基本とした。対象省庁は、元の官庁名でいうと、大蔵省、通産省、経済企画庁、農水省、厚生省、建設省、自治省、労働省の8官庁である。役職者の比率に関しても大きく構成が変わらないようにした。
(表1)は、面接対象者になった官僚調査について旧官庁名での調査対象者内訳、(表2)は役職(次官・局長等、審議官、局筆頭課長、課長)による構成である。
 なお国会議員のサンプルについては、その数と与野党構成について次の(表3)と(表4)に示す。これらの表に見るように、与野党比は何とか同率を確保し得たが、当選回数は、第三回において、4回以上が目立って少ない。正直のところ、今回は、国会議員にインタビューの時間をとっていただく作業は難航を極めた。その理由についても考察の必要がある。

表1
表2
表3-4

III 調査結果の一部
(1)経年的データ分析
 経年的データの分析の一例として、(図1)を示しておく。ここに見るように官僚集団は、現在自信喪失状態にある。政治行政関係や公務員制度改革は、この実態の上に行われるべきであろう。

図1

(2)第三回調査データの分析
 本稿では、第三回に関する国会議員と官僚の調査データの中で比較できるものをできるだけ大ざっぱな紹介をして、今後のより厳密な比較の基盤をつくっておきたい。両アクターの分析は、官僚を上位集団と中堅集団、政治家を与野党に分けて分析した。図2から図7迄を、<1>全アクターの類似点、<2>与党=官僚連合と野党の違い、<3>「政治家は政治家、官僚は官僚」という違いなどの視点から見ていくことができる。
 まず、両アクターには類似性が高いことを見ておこう。類似の結果が得られているのは、「今日本にとって重要な問題は何か」である。(図2)にご覧のように、「何を問題と考えるか」に関して、政治家と官僚の認識が非常に似ている。与野党間でも違いが少ない。もちろん与野党間でいえば、与党により強く「国家防衛」を見る人が多く、野党は、より「国内経済」に関心を示す。また、官僚よりも政治家が、経済にも教育にも問題を感じているようだといえる。

図2


 もうひとつ大きな社会認識に関して、(図3)の「日本社会の現状」への満足度を見てみよう。全体に不満に傾斜している。しかし、野党に「満足」の回答が全く無いのは注目される。一方で、与党や官僚には満足と答える者が20%弱いることも注目される。
「政治家は政治家、官僚は官僚」いうデータは、セクショナリズムについての意見に良く現れている。与党と官僚の関係では、政策形成は、官僚が与党に対して協力提携する形で行われるのが普通である。「自分の属している機関の観点から考える(官僚のセクショナリズム)」という意見について、官僚が否定的であるに対して政治家はその通りだという。これはだれしも推測通りである。しかしやっぱりという感じではある。(図4)



図4表題
図4


 与党と野党の違いも政治家と官僚の違いもあるのは、(図5)の「経済社会への国家の関与」への回答である。全体としてみれば、どのグループも「もっと民間に委ねるべきだ」の回答が多いのであるが、「もっと民間に委ねるべきだ」の中で見ると、官僚よりも政治家の方が、そして野党の方がそう思っているようである。他方、「今のまま」が良いとしているのは官僚である。「政府がもっと大きな役割」の回答でも、政治家の方が官僚よりもこの意見を支持している。政治家の意見は幅が広い。
 政治家の幅とは多くの場合、与野党の違いである。データ上はわずかの差であるので取り上げるべきかどうかは分からないが、次のようなことが言える。かって「左翼」は国家権力を通じて再分配を主張したので、その意味で政府の役割は大きくあるべしと主張した。そうしたことがここに出ているように感じられる。しかし、いま政府の役割の大きさは、異なった視点、すなわち政府が経済関与(規制)を拡大するのが良いか問題とされている。民主党の一部では、自民党より強く経済関与に反対している。この図には、こうしたことも反映しているように思われる。
 「与党+官僚」対野党という「国会型対立」の認識は、団体の役割に関する意見に出ている。(図6)に見るように、「各省庁の政策形成には関係団体との協力が必要」との意見については、与党と上位・中堅官僚が肯定的であるのに対して、野党は、「どちらかといえば反対」と答えている。最近は、いわゆる倫理法(国家公務員倫理法)が制定されたりするなど従来の官民関係に変革が求められている。官僚の間でも、「協力関係が不可欠」という意見には、そうは思わないという意見が4分の1強存在するのであるが、政治家、ことに野党が明確に否定的である。

図5標題
図5

図6標題
図6


 「政治家は政治家、官僚は官僚」と思わせるのは、地域間の所得格差是正(図7)や所得差の矯正問題である。この点に関しては、政治家は、与野党とも、それが政府の任務と考える傾向がある。前者は農村型の低所得者への配慮、後者は都市を含む低所得者への配慮である。政治は、平等化への梃子になりやすいのである。「自由に契約する市民」は、「政治的参政権を持つ市民」に転化し、そのことが社会的市民を作り出すと行ったのはT.H.マーシャルである。20世紀には確かに福祉国家の進展があったが、その最後の四半世紀には福祉国家の反省が生じ、NPM改革(NEW PUBLIC MANAGEMENT)が進行した。
 以上はデータの一部に過ぎない。筆者は、第三回のデータの分析をある程度実施した後に、三回の、従ってほぼ30年の高級官僚における認識と意識の変化を論じ、関連して戦後政治の全体や、その中でも冷戦の終焉と高度経済成長の終わり以後の政治の特質を論じてみたい。▲

図7標題
図7