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■「中央調査報(No.547)」より

 ■ 深刻化する低投票率、政党の組織力低下も鮮明に
               -第15回統一地方選を振り返る-


時事通信社内政部 武部  隆


 21世紀になって初めての統一地方選挙が、4月27日に投票された一般市、特別区、町村の首長、議会議員選挙を最後に終了した。今回の統一地方選は、市町村合併や地方財政の悪化など、地方自治体を取り巻く環境が厳しくなる中、新たな時代を切り開く地域のリーダー選びが行われるはずだった。しかし、すべての選挙を通じて低投票率が深刻化、有権者の関心がほとんど向いていない現実が明らかになった。また、これまで地方選では選挙戦の主軸となってきた組織政党の影響力低下も目立ち、候補者の選定段階から混乱する選挙が相次ぐなど、選挙の在り方が地方レベルでも大きく変わったと言えそうだ。


◆下がる一方の「統一率」

 統一地方選は4年に1度、投票日を2回に分けて実施される。前半の投票日は都道府県と政令指定都市の首長と議会議員、後半は一般市、特別区、町村の首長と議会議員の選挙が行われる。
 今回の統一選は、前半の投票日が4月13日、後半は同27日で、11の都道県知事選など600を超える首長選、44の道府県議選を含む約1,600議会議員選が行われた(いずれも無投票を含む)。
 国政、地方選を通じ、有権者の所在を確定して投票日程を告知、投票所を設置して管理し、開票作業を行うといった一連の選挙事務は、市町村が担っている。選挙を一度に行えば、市町村の人的、経済的な負担が軽減できるという発想で、統一地方選挙は1947(昭和22年)にスタートした。
 ところが、特に首長は辞職や死亡などに伴い、必ずしも任期満了時に選挙が行えるとは限らない。また、議員選についても、合併その他の事情から、徐々に統一地方選から外れていく選挙が増え、今回の統一選に参加した選挙は、全地方選の35.7%にとどまった。この「統一率」は回を追うごとに低下しており、近い将来、統一地方選の意義そのものが問われることになりそうだ。

◆投票率も全選挙種別で低下

 さて、今回の統一地方選で最大の特徴は、投票率がすべての選挙種別を通じて低下したことだろう。投票率の低下は、国政、地方選を通じて下がり続けている。
 統一地方選でも、例えば知事選では1951(昭和26)年の82.58%をピークに、91(平成3)年には54.43%にまで下がった。このため、97(平成9)年の公職選挙法改正で投票時間を2時間延長し、午前7時から午後8時までとすることが決まり、翌年7月の参議院通常選挙から全国で適用された。その結果、99(平成11)年の前回統一地方選では、ほとんどの選挙種別で投票率が回復し、制度改正に一定の効果が認められた。
 ところが、今回の統一地方選では、知事選、市区町村長選、道府県議選、市区町村議員選すべての平均投票率が前回よりも低下した。例えば、前半戦の4月13日投票の選挙では、それぞれ前回と実施選挙数に異動はあるが、知事選は前回の56.78%が52.63%、道府県議選は56.70%が52.48%、政令市長選(札幌市のみ)は59.58%が57.32%、政令市議選は50.69%が47.70%に落ちている。
 個別の選挙を見ても、知事選で前回より投票率が上がったのは神奈川、佐賀の2県だけ、道府県議選でも上昇したのは埼玉、神奈川両県のみで、全体のおよそ8割に当たる35道府県で過去最低を更新した。

◆時間延長、効果は前回だけ

 27日投票の後半選でも、一般市長選で57.00%(前回60.88%)、一般市議選56.74%(同60.76%)、町村長選77.52%(同82.64%)、町村議選77.72%(同82.05%)、特別区長選43.55%(47.53%)、同区議選43.23%(同47.36%)と、いずれも過去最低となっている。
 平均投票率は有権者数と投票者数をそれぞれ足し上げた加重平均なので、人口の多い都市部の傾向が強く出るが、町村長、町村議の選挙でも投票率は5ポイント近く落ちており、地域住民の選挙への関心そのものが低下していることが分かる。
 また、特定の支持政党を持たない「無党派層」の選挙離れをくい止めるために導入された投票時間の延長も、効果を上げたのは前回だけに終わった。これまでは、「無党派層の動向が選挙を決める」とまで言われていたが、今の選挙には無党派層を投票所に向かわせるだけの理由がなくなっているようだ。


◆目立つ「世代交代」

 一方、個別選挙の経過、結果からは、「世代交代」と「無党派化」という二つのキーワードが見えてくる。特に、多くの票が動き、地方選の中で最も注目度が高い知事選では、現職の引退が相次ぎ、新人同士の争いが増えたほか、現職、新人にかかわらず候補者が組織政党から一定の距離を置き、「無党派」を強調する選挙が目立っている。
 統一地方選だけでなく今年の1-2月に投票された「プレ統一選」も含め、知事選と政令市長選を分析してみると、そうした傾向が強く出てくる。
 今回、プレ統一選では青森、山梨、愛知、愛媛の4県で知事選、広島、北九州の両政令市長選が行われ、統一選本番では北海道、岩手、東京、神奈川、福井、三重、島根、鳥取、福岡、佐賀、大分の11知事選と札幌市長選(このうち鳥取知事選は、立候補者が1人しかなく無投票当選)が行われた。
 これら18の選挙で、山梨、北海道、神奈川、福井、三重、佐賀、大分の各知事選と、札幌市長選では、現職が引退し、新人同士の争いになった。
 4年前のプレ統一選と統一選で行われたのは、合わせて20の知事選、政令市長選。しかし、このうちで現職が引退したのは、5つだけだった。世代交代が行われる選挙が、割合で言えば、前回の2倍以上に増えた勘定になる。
 引退した現職からは、「長く知事を続けていると、しがらみが多くなる。(有権者から)求められているような大胆な変革を進めるには、もっと若い人が出てきた方がいい」といったコメントが出ている。
 国の財政難に伴い、地方交付税の配分が見直されるなど、財政的に地方自治体は「冬の時代」を迎え、特に都道府県は公共事業など政策の大幅な見直しを迫られている。さらに、昨年の横浜市長選で見られたように、高齢、多選の現職が若い新人に破れるケースが増えていることも、世代交代のスピードを早めている。
 今回の統一地方選を機に引退した知事が、すべて高齢、多選というわけではないが、従来型の行政方式が都市部だけでなく、地方でも徐々に通用しなくなり、それが比較的年長で経験のある知事たちに引退を決意させるきっかけとなったのは間違いないようだ。
 また、世代交代が相次いだことは、選挙結果にも大きな影響を与えている。これまで、長く務めた知事が引退する際には、後継者を事実上、指名することが一般的だった。ところが、今回、引退を決めた知事のほとんどは後継候補に言及せず、実際の選挙にもノータッチという姿勢を貫いたことから、かえって選挙が混乱するというケースも目立った。
 他方、政党の組織力低下が、選挙の混乱に拍車をかけることにもなった。これまでの知事選では、国政の与野党が相乗りで同一候補を推すことがほとんどだったが、今回は相乗り自体が減った上、特に新人候補の擁立をめぐって政党内の調整が難航し、それが選挙戦に後を引くことも珍しくなかった。
 また、岩手、鳥取のように前回は相乗りで出馬した現職が、今回はあえて政党の推薦、支持を受けず「無党派」として出馬するなど、既成政党と距離を置くことで、県政改革への意欲を示す傾向も強まっている。

◆「無党派化」もキーワード

 個別選挙の結果は、まず注目の東京都知事選で現職の石原慎太郎氏が、300万票を超える圧倒的な有権者の支持を受けて再選された。石原氏は前回、政党の支援を受けた有力候補が乱立する中、無党派層の支持を受けて選挙戦を制した。今回、自民、公明両党が「推薦」よりも緩やかな「支持」を出したものの、政党とは一線を画す石原氏自身の姿勢は変わらなかった。次点となった樋口恵子氏の3倍以上の票を集めたのも政党組織とは関係なく、すべて個人の知名度と人気によるものと言える。
 北海道知事選は、自民、公明、保守新が推す元経済産業省幹部の高橋はるみ氏と、民主、自由、社民の推す前国会議員の鉢呂吉雄氏の与野党対決となった。この選挙には両氏のほか、前副知事の磯田憲一氏、元衆院議員の伊東秀子氏、前道議会議長の酒井芳秀氏(磯田、伊東、酒井各氏は組織政党の支援なし)、共産党推薦で全北海道教組委員長の若山俊六氏など、有力候補が出馬。このため、得票が分散することが予想された。しかし、最終的には組織票をまとめた高橋氏がおよそ79万8,000票を獲得し、次点となった鉢呂氏に約6万2,000票の差を付けて初当選した。
 岩手県知事選は、現職の増田寛也氏と共産党公認の菅原則勝氏の一騎討ちとなったが、増田氏が約70万票を獲得し、菅原氏に58万票近い大差をつけて3選を果たした。神奈川県知事選も、岡崎洋・前知事が引退を表明してから各政党の候補者選びが難航。最終的に立候補した7人のうち、政党の支援を受けたのは、自民、公明、保守新が推した会社社長の宝田良一氏、共産党が推した医師の吉村成子氏だけで、残り5人が無党派候補だった。無党派では、民主党の衆院議員だった松沢成文氏、前参院議員の田嶋陽子氏、横浜市長や社会党委員長を務めた飛鳥田一雄氏の甥で医師の飛鳥田一朗氏らが出馬、混戦が予想された。多彩な候補が揃ったことで有権者の関心も高まったのか、投票率は48.44%と前回を2.76ポイント上回った。候補者のうち、最も早く出馬を表明し、知名度もあった松沢氏が104万票あまりを獲得。約67万7,000票の宝田氏、約64万4,000票の飛鳥田氏を押さえ、初当選を果たしている。
 福井県知事選も現職が引退。前副知事の新人・西川一誠氏を自民、民主、公明、社民、保守新の与野党が相乗りで推し、当初は組織票で圧勝すると思われた。ところが、無党派で出馬した米国弁護士の高木文堂氏が、原発問題を争点に掲げたことから、選挙の雲行きが変わってきた。結果的には約24万6,000票を獲得した西川氏が初当選したものの、高木氏は組織的な支援がなかったにもかかわらず約19万9,000票を集め、西川氏に肉薄した。投票率は72.18%と前回より4.1ポイント低下。投票率が低下すると組織票が物を言うという選挙の常識を覆す結果となり、既成政党の力の衰えを示した。

◆21年ぶり無投票当選知事

 三重知事選も、北川正恭・前知事の不出馬で四新人による争いとなった。このうち、元衆院議員で松阪市長だった野呂明彦氏を民主、自由、社民の国政野党が推したほか、みえ労連副議長の鈴木茂氏を共産が推薦した。他の二候補、前県議の水谷俊郎氏、元県局長で財務省出身の村尾信尚氏は政党の支援を受けず、無党派で出馬、自民、公明などの国政与党は特定候補の推薦、支持を見送った。選挙は、47万3,000票余りを獲得した野呂氏が、約17万3,000票の水谷氏、約17万1,000票の村尾氏らを大差で下した。野党共闘が実った形だが、自民党は最後まで候補者を絞りきれず、その結果、保守票の行き場がなくなり、それが野呂氏有利に働いた部分も大きかったようだ。
 鳥取県知事選は、現職の片山善博氏以外の立候補がなく、知事選としては21年ぶりの無投票で同氏が再選された。島根県知事選は自民、公明、保守新が推す現職の澄田信義氏がおよそ24万6,000票を獲得、無党派で立候補した前平田市長の太田満保氏、外務省職員だった九重匡江氏、共産公認で同党県副委員長の佐々木洋子氏を押さえ、今回の知事選では最多の5選を果たした。
 福岡県知事選は、自民、民主、公明、自由、社会、保守新、自由連合が推した現職の麻生渡氏が、およそ116万3,000票を獲得し、無党派で立候補した九大大学院教授の今里滋氏を下して3選された。
 佐賀県知事選は、現職の引退を受け、6新人で争われた。佐賀県は選出国会議員がすべて自民(いずれも当選時。政治資金既正法違反容疑で逮捕された佐賀一区選出の坂井隆憲衆院議員は今年3月に除名)という保守王国。しかし、今回知事選では自民党の候補者調整が難航し、最終的に同党の佐賀県連は、4人の保守系候補を並列で「支持」するという決定を下した。選挙戦は、この4人の中から総務省出身の前長崎県総務部長・古川康氏と前県議の宮原岩政氏が抜け出したが、およそ16万1,000票を獲得した古川氏が約14万8,000票の宮原氏を振り切って初当選した。
 大分県知事選は、6期を務めた平松守彦・前知事が引退し、新人3氏の争いとなった。このうち、元経産省事務次官の広瀬勝貞氏は、自民、公明、保守新が推したこともあって、当初は圧勝が予想された。しかし、無党派で出馬した元会社員の吉良州司氏が、政党の組織的な支援がないにもかかわらず、勝手連方式による選挙戦略で支持を伸ばした。広瀬氏は32万2,000票余りを獲得して初当選したものの、吉良氏も約29万6,000票を得て、あわやというところまで広瀬氏に詰め寄った。
 大分と福井で無党派候補が健闘したのは、いずれも引退した現職の後継と目される候補を国政与党を含む複数の政党が推したケース。安易にも見える県政の路線継承に対する有権者の反発が無党派候補の支持につながるとともに、現職後継候補に対する政党組織の支援が十分に機能しないという現象が同時に起きた。
 これまでの知事選では、政党が支援する現職後継候補の圧勝が普通だっただけに、従来の戦略が通用しなくなりつつあることを証明した選挙とも言えそうだ。
 このほか、現職が引退した札幌市長選では、政党が推した3人を含む7人が立候補。しかし、どの候補者も法定得票数(有効投票総数の4分の1)に達しなかったことから、当選者はなく、政令市長選では初めての再選挙となった。札幌市選管では、選挙後に当選人がいないことを告示、選挙結果に対する異議申し立てを受け付けたが、異議はなかったため、再選挙を5月25日に告示し、6月8日に投票することを決めた。

◆過去最多の女性当選者数―道府県議選

 東京、茨城、沖縄を除く44道府県議選での党派別議席数は、改選議席数2 , 6 3 4 に対し、自民1,309、民主205、公明178、共産107、自由25、社民73、保守新4、諸派(地域政党など国会に議席を保有しない団体)46、無所属687となった。定数の見直しで、改選議席数は前回統一地方選に比べ35減っている。
 主要政党の獲得議席を前回と比較すると、自民が21議席増、民主は35議席増、公明が12議席増、共産が45議席減、自由が5議席増、社民が21議席減となった。社民、共産が減らした議席を自民、民主、公明で分け合った形となったが、自民党は議席数を増やすことはできても過半数を回復するには至らなかった。なお、女性議員は過去最多の164人が当選した。
 各党の消長は、党派別得票数にも現れている。自民が1,446万3,994票で前回比5.4%減、民主が343万2,372票で5.4%増、公明が299万5,329票で10.3%増、共産が320万7,067票で24.8%減となっている。
 投票率低下で得票総数そのものが減っているため、単純に比較はできないが、自民は議席が増えているものの得票数は減少、民主は議席増に見合って得票も増加、公明は議席数以上に得票が増加、共産は議席数ほどではないにせよ得票も大幅減で、こうした結果は年内にも予想される衆院の解散・総選挙に向けた各党の戦略に大きな影響を与えることになりそうだ。