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■「中央調査報(No.562)」より

 ■ 「レジャー白書2004」に見るわが国の余暇の現状と課題

社会経済生産性本部 余暇創研 柳田 尚也


 財団法人社会経済生産性本部 余暇創研では、「レジャー白書2004~グラン・ツーリズム もう一つの観光立国~」を7月にとりまとめた。本白書は、平成15年1年間のわが国における余暇の実態を、需要サイド・供給サイド双方の視点から総合的にとりまとめたものであり、通算第28号目となる。以下では、本白書の内容をもとに、わが国余暇の現状と、レジャー産業の今後の方向性・課題等について簡単に紹介してみたい。


1. 日本人の余暇をめぐる環境

 まずはじめに日本人の余暇をめぐる環境がどのような状況にあるかを、時間面・経済面の基礎的なデータをもとに見てみよう。


労働時間は2年ぶり増加
 平成15年の年間総実労働時間(規模30人以上)は1,846時間と、前年(平成14年)に対し9時間の増加となった。総実労働時間は、平成に入って以降の急速に減少したが、ここ数年失速してきている。15年の増加は、所定外労働時間の増加分がそのまま総実労働時間に反映したものといえ、製造業を中心とする15年後半からの企業業績の回復傾向を反映したものと考えられる。

家計収入・支出は6年連続減少
 次に「家計調査年報」(総務省)をもとに経済的環境について見ると、平成15年の全国・勤労者世帯の実収入は対前年比2.6%の減少(名目)の524,542円、可処分所得は対前年比2.7%減(名目)の440,461円となり、いずれも6年連続の減少である。一方家計消費支出は325,823円と、14年より5,000円近い減少となり、これも6年連続の減少である。科目別では「食料品」(-2.4%)「教養娯楽」(-2.5%)などがマイナスとなったが、「交通・通信費」は移動電話通信料の増加等により前年比+2.5%の大幅増となるなど、科目により温度差がある。

「ゆとり感」の回復は得られず
 これらの実態データとは別に、国民の余暇時間や余暇支出への実感はどのようなものであったのだろうか。図表1は、余暇時間の増減に係る意識の経年変化を見たものである。前年に比べて余暇時間が「増えた」とする人は、バブル崩壊後長期的減少が続いており、15年は14年(17.6%)よりも1ポイント以上低い16.2%まで低下した。これに対し余暇時間が「減った」という人は、15年は27.4%と前年より2ポイントほど少なくなり、やや落ち着いた。この結果、余暇時間が「減った」人と「増えた」人の差は14年11.9%→15年11.2%と若干縮まった。しかしながら、いぜんとして「減った」という人が10ポイント以上も上回っており、心理的「ゆとり感」は回復していない。
 つぎに支出面を見ると、余暇支出が「増えた」という人は、やはりバブル崩壊後の平成4年をピークに減少を続けており、平成9年に「減った」という人を下回った。平成14年は、13年よりも若干持ち直して20.6%となったが、15年は18.5%と2ポイント以上の大きな減少となった。これに対し、余暇支出が「減った」と答えた人は15年には30.1%と3割台に達し、過去最高値を更新した。バブル崩壊前後の平成3年当時(15.7%)に比べて約2倍になっている。「減った」という人と「増えた」という人の差も、平成13年8.6ポイント→平成14年9.2ポイント→平成15年11.6%と拡大傾向が続いている。余暇消費の面でも、心理的なゆとり感の回復の見通しは立っていない。

図表1,図表2

2. 日本人の余暇活動の現状
  ~「パソコン」「宝くじ」が続伸~


 本白書では、毎年「スポーツ」「趣味・創作」「娯楽」「観光・行楽」の4つの部門からなる計91種目の余暇活動について、国民の参加や活動実態を調べている。1.でも見たように、平成15年は経済的・時間的な「ゆとり感」に乏しかったこともあり、余暇活動への参加状況も前年に引き続いて低調な種目が多かった。以下では、91種目の余暇活動の中から、参加人口の多い上位20種目を取り出して、その動向を分析する。これらの種目は、わが国の余暇活動を代表するいわば「国民的レジャー」ともいうべきものである(図表3)。
 1位「外食(日常的なものを除く)」から5位の「動物園、植物園、水族館、博物館」までの上位5種目の種目構成は、平成11年以来変わらず安定している。このうち上位3種目については順位も同じである。しかしながら参加人口について見ると、第1位の「外食(日常的なものを除く)」が14年からほぼ横ばいであったのに対し、「国内観光旅行(避暑、避寒、温泉など)」(14年6,310万人→15年5,890万人)、「ドライブ」(14年5,940万人→15年5,560万人)の観光・行楽系の両種目はいずれも参加人口を落としており、観光・行楽面の低調を反映している。
 第4位・5位では、「ビデオの鑑賞(レンタルを含む)」が「カラオケ」を逆転して第4位となった。両種目とも参加人口は前年より伸びた。
 5位以下の種目の中で特に注目されるのは「パソコン(ゲーム、趣味、通信など)」の動向である。平成14年には順位を9位に落としたものの、15年は再び8位に戻した。参加人口は4,500万人を超えて伸び続けており、「情報系レジャー」としてすっかり定着した模様である。いっぽうサラリーマンの夢を売る「宝くじ」も、順位こそ14年と同じ6位であるが、やはり参加人口は大幅な伸びが続いている。この両種目が、近年好調の代表的種目といえよう。
 このほか前年に比べて順位・参加人口ともに伸びた種目を挙げてみると、「映画(テレビは除く)」「ビデオの鑑賞(レンタル含む)」「音楽鑑賞(CD、レコード、テープ、FMなど)」「体操」などである。「映画」以外は、1回あたりの活動費用が比較的低い種目が伸びており、レジャー活動における「低単価化」の傾向を読み取ることができる。
 逆に、平成15年に順位・参加人口ともに落ちた種目は「動物園、植物園、水族館、博物館」「遊園地」「ピクニック、ハイキング、野外散歩」など、いずれも観光・行楽系の各種目である。また、近年比較的順調に推移してきた日常系レジャー活動の中でも代表格の「園芸・庭いじり」が、参加人口・順位ともに2年連続で落ちる結果となり、静かな盛り上がりを見せていたガーデニング・ブームも一段落した様子である。
 平成15年は、政府による「観光立国元年」の宣言もあり、インバウンド(訪日旅行者)対応を中心とするさまざまな観光政策が打ち出された年であった。しかしながら、海外旅行は年前半のイラク戦争・SARSによる大打撃を受け、国内観光旅行も景気低迷の影響等で伸び悩むなど、観光・行楽系の活動実態は低調な年であった。ただし、海外旅行はいぜんとして大きな潜在需要を持っており、外的要因が解消した15年後半から16年にかけて早くも急速な回復を見せている。
 以上のように、種目ごとに温度差はあるものの、全体として15年の余暇活動は低調であり、余暇活動需要の全般的な回復はまだ先になりそうである。

図表3  余暇活動の参加人口上位20位
平成15年
順位
余暇活動種目
 万人 
1 外食(日常的なものを除く) 7,710
2 国内観光旅行(避暑、避寒、温泉など) 5,890
3 ドライブ 5,560
4 ビデオの鑑賞(レンタルを含む) 5,140
5 カラオケ 4,970
6 宝くじ 4,670
7 音楽鑑賞(CD、レコード、テープ、FMなど) 4,540
8 パソコン(ゲーム、趣味、通信など) 4,510
9 映画(テレビは除く) 4,150
10 動物園、植物園、水族館、博物館 4,040
11 バー、スナック、パブ、飲み屋 3,770
12 園芸、庭いじり 3,620
13 体操(器具を使わないもの) 3,500
14 ボウリング 3,180
15 遊園地 3,160
16 テレビゲーム(家庭での) 3,060
17 トランプ、オセロ、カルタ、花札など 2,970
18 ピクニック、ハイキング、野外散歩 2,750
19 ジョギング、マラソン 2,700
20 ゲームセンター、ゲームコーナー 2,400


3. 余暇関連産業・市場の動向
  ~前年比マイナス1.2%と伸び悩む~


 本白書では、供給サイドからの余暇の動向を把握するため、4部門78業種を対象とする1年間の産業動向の把握、および余暇市場規模の推計を行っている。余暇市場は、長いトンネルからなかなか抜け出せない。平成8年に90兆円の大台に乗せたのを最後に余暇市場は縮小傾向にあり、平成14年は微増となったものの、平成15年は82兆1,550億円、前年比マイナス1.2%とふたたびマイナス成長となった。これは同時期の国民総支出と民間最終消費支出の伸び率、それぞれ0.1%減、0.6%減より減少幅が大きい。
 構造的には、余暇市場は娯楽部門のパチンコ市場が大きな比率を占めている点が特徴であり、パチンコ市場の動向に依存する側面が大きい。平成15年もパチンコ市場の拡大分を除くと、余暇市場の全体規模はさらに縮小することになる。こうした中で15年に好調であったのは、フィットネスクラブ(スポーツ部門)、デジタルAV機器(趣味・創作部門)、ゲームセンター(娯楽部門)などの市場であった(図表4)。

図表4


 以下、4つの部門別に平成15年の余暇市場動向の概要を紹介する。

スポーツ部門
 平成15年のスポーツ市場は4兆4,670億円で、前年比マイナス1.6%の縮小となったが、このところ減少幅は縮小しており堅調な分野も見られた。
 スポーツ用品関連の市場は、ほぼ横ばいに推移した。ゴルフ用品は高額商品にも動きがみられ、中古市場や、インターネットによる販売などが拡大を続けている。テニス用品は横ばい傾向であるが、アニメ「テニスの王子様」の効果もあってジュニア層が拡大し、市場が活性化してきている。スキー・スノーボード用品、キャンプ用品などのアウトドア分野の用品も、落ち込みは小さくなってきた。
 サービス市場では、堅調な分野がある一方で回復の兆しがみえない分野があり、明暗がはっきりと分かれている。インドアコートが人気のテニススクールと、中高年層の健康志向にうまく応えているフィットネスクラブは売上げを伸ばしている。逆に、ゴルフ場・ゴルフ練習場は苦戦している。特にゴルフ場は、需給ギャップがなかなか埋まらず回復の兆しがみえない。スキー場は、拡大が続いたスノーボーダーの増加も上限に近づき、収益増の目途が立っていない。スポーツ観戦は、Jリーグ、プロ野球、格闘技などが観客動員数を増やしている。

趣味・創作部門
 平成15年の趣味・創作部門の市場規模は11兆4,930億円で、前年比1.7%のマイナスとなったが、デジタルAV機器とDVD、映画など好調な分野も見られた。
 デジタルスチルカメラは販売台数の伸びが著しい。プリンタと直結するダイレクトプリントでさらに需要を拡大している。デジタルビデオカメラも高性能化で販売台数を伸ばしている。テレビでは、大画面薄型テレビは高額にもかかわらず買い替え需要が旺盛である。DVDレコーダー/プレーヤー、DVDソフトなどDVD関係商品は急成長し、ビデオカセットにとってかわる勢いとなっている。映画は、洋画・邦画ともヒット作が続き、売上げの伸びが続いている。
 逆に、CD、書籍・雑誌は不調でマイナス成長が続いている。学習レジャーでは、民間カルチャーセンターを取り巻く環境が厳しく、NPOによる学習講座の台頭など、競合が激しさを増している。

娯楽部門
 平成15年の娯楽部門市場は56兆790億円、前年比0.6%のマイナスと、比較的小幅な減少にとどまった。しかし、パチンコとゲームセンターを除く全ての分野で市場規模は減少している。
 パチンコ・パチスロ(貸玉料)の市場規模は約30兆円ときわめて大きいが、これは「取扱高」といった意味合いをもつ数字であり、市場規模は伸びているが店舗の経営状況は必ずしも良くない。射幸性が非常に高いマニア向けのパチスロ好況、パチンコ不振の構図に変化はない。ゲームセンターは、ショッピングセンターの大規模店で、トレーディングカードゲームなど新しい人気機種が数多く登場しており、客足が戻ってきた。
 一方テレビゲームは、ハード・ソフトとも売上げは落ちており、軒並み値下げを行った影響も大きく出ている。昨年1兆円の大台を突破した宝くじは、15年も大台はキープしたが、市場規模は若干減少した。外食は、多店舗展開で業績を伸ばす大手企業やベンチャーが増えているが、市場全体は縮小している。公営ギャンブルは不況の影響が大きく、売上げ不振が続いている。各競技ともIT化への対応を急速に進めており、売上げ回復の切り札として期待されている。カラオケボックスは、大手による大規模店の出店は旺盛であるが、小規模店の急速な淘汰が進み、市場規模は大幅な縮小となった。

観光・行楽部門
 平成15年の観光・行楽部門の市場は10兆4,590億円、前年比マイナス3.4%と減少幅がやや大きかった。観光振興にかかわる取り組みにもかかわらず、各分野で売上げを減らす結果となった。
 旅行業では、アメリカ同時多発テロの影響をようやく脱した矢先に16年前半のイラク戦争とSARS発生が重なり、海外旅行の減少幅は大きかった。その需要が国内旅行にシフトすることが期待されたが、結果としは景気の低迷もあり国内観光も伸び悩んだ。インバウンドでは中国、台湾、韓国からの観光客が増加している。
 宿泊施設では、ホテルの稼働率が若干上向いているものの、旅館の落ち込みが大きい。ペンションや民宿は、経営努力により堅調なところがある一方で施設閉鎖も多く、市場は大きく縮小している。
 遊園地・テーマパーク市場は、ほぼ横ばいであった。遊園地併設型の温浴施設のオープンが目立っている。全国に食べ物をテーマにしたフードテーマパークが急増している。農業公園、ペットパークのオープンも話題になった。
 乗用車はマイナス成長となった。販売台数はそれほど落ちていないが、小型車志向が強くなり平均単価が下がっている。実用性が優先され、レジャーユースがやや減少気味である。


4. レジャー産業の二極化と新たな取り組み

 3.でも見たように、余暇市場は平成8年をピークに15年に至るまで長期的に伸び悩んでおり、既存の78業種による余暇市場は全体として「閉塞感」を強めつつある。15年のレジャー業界では、こうした閉塞状況の中で二つの方向の動きが認められた。


進むレジャー産業の「二極化」
 一つは、限られたパイをめぐる業界内の競争を通じて「二極化」がいっそう進んだことである。代表的な業界として「パチンコ」「ゲームセンター」「外食」「カラオケ」「テーマパーク」などが挙げられる。これらの業界では、勝ち組企業は店舗大型化、チェーン展開などの投資を進め、売上を伸ばす一方、これに押されて負け組み企業は次第に淘汰・排除され、店舗数は全体に減少するという展開が共通して見られている。

レジャー産業における新たな取り組み
 他方、既存余暇市場の成長の限界を意識した企業や業界の中からは、これまでとは異なる新しい顧客・市場開拓に力を入れて、成功するケースも見られはじめている。
 たとえば「新しいメディアへの対応」がその一つである。インターネットや携帯電話の普及で、ビジネス環境は大きく変化している。今やインターネットは、レジャー関連の商品販売チャネルや予約の窓口として必要不可欠なものになった。電子マネーや電子タグによるマーケティングや顧客管理・戦略立案などの取り組みも各所で始まっており、こうした情報活用能力“情報リテラシー”が各業界や企業の明暗を分けるほどになりつつある。
 また、新規顧客層の開拓としては、これまで「高齢者市場」「女性市場」などの開拓への取り組みが進められて来ているが、近年はさらに進んで「ジュニア層」の開拓が注目されつつある。テニス・ゴルフ・スキーなどのスポーツ業界を中心に、ジュニアプレーヤーの育成を兼ねた顧客獲得のためのサービスや商品の開発が進められており、すでに一定の成果をあげる業界も現れてきている。
 これらの取り組みに共通するのは、社会的潮流や環境変化を巧みに捉え、既存の事業枠組みを大事にしつつも、従来の顧客やサービス、業態から一歩踏み出したところに新しい顧客や市場を開拓しようとする点である。出店競争・価格競争による消耗戦とは一線を画した取り組みにより、足腰の強い事業基盤をつくっていけるかどうかが、レジャー業界活性化のカギとなるだろう。