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■「中央調査報(No.563)」より

 ■ 浸透する若者言葉、誤解目立つ慣用句
         ―文化庁の「国語世論調査」結果から


 「とても腹が立つ」が「チョーむかつく」に取って代わるなど若者言葉は徐々に浸透、一方で、「姑息」や「檄を飛ばす」といった慣用句が本来の意味と違って理解されたり・・・。
 世を挙げての日本語ブームの中、文化庁が先に発表した「平成15年度 国語に関する世論調査」の結果から日本人の国語意識の現状を探ってみた。


 この調査は、社会の変化と言葉のかかわりを調べて国語施策の参考にするため、95年度(平成7年度)から毎年実施。今回は①言葉遣いについての関心②敬語の必要性③言葉の書き表し方④携帯電話や電子メールが言葉や言葉遣いに与える影響についての意識―などが調査項目。また例年同様、慣用句などの意味や使用に関する調査も行った。
 今年1月16日から2月3日にかけ16歳以上の全国3000人の男女を対象に、個別面接方式(実施:社団法人中央調査社)で行い、2206人(73.5%)から有効な回答があった。


1.言葉遣いについての関心

 日常の言葉遣いや話し方、文章の書き方などにどの程度関心があるかを尋ねた。「非常に関心がある」が19.5%、「ある程度関心がある」が56.4%で、両方合わせた関心派は75.9%と、全体の4分の3を占めている。逆に「全く関心がない」3.0%、「余り関心がない」20.8%で、これら無関心派は計23.8%。平成12年度調査に比べると、関心派は3ポイント増え、無関心派は2ポイント減った。


2.常用漢字以外の漢字を使う言葉の書き表し方

 新聞や放送など一般の社会生活における漢字使用の目安として「常用漢字表」(1945字)が示されている。常用漢字以外の漢字を使う6つの言葉を取り上げ、(ア)常用漢字以外の漢字を使わずに漢字と仮名を交ぜて書いたもの (イ)漢字で書いて振り仮名を付けたもの (ウ)漢字で書いたものーを示し、「どの書き方が最もよいと思うか」を尋ねた。その結果は(表1)の通り。
 いずれの言葉も(イ)のルビを振った漢字書きの支持が4割以上だが、「闇夜」「玩具」では(ウ)の漢字で書いたものも4割を超えていた。また、(ア)仮名との交ぜ書きは最も多い「刺しゅう」でも3割以下。パソコンや携帯電話などでは、仮名を簡単に漢字変換できることが影響しているようだ。

表1

3.敬語の気になる言い方

 敬語の使い方に関する7つの例文を挙げ、気になるかどうかを尋ね、平成7年度調査と比較した(表2)。例文のうち、(1)「先生、こちらでお待ちしてください」と(7)「お客様、どうぞいただいてください」は、謙譲語を尊敬語として相手に用いる点で問題。
 (2)「お客様が申されました」は謙譲語(申す)、(5)「3時に御出発される予定です」は謙譲表現に使う言い方(御・・する)に、それぞれ尊敬の助動詞「れる」をつけており、本来尊敬表現として相手に用いるにはふさわしくない。
 (4)「お客様がお見えになった」は「見える」に「お・・・になる」を加えたもの。(6)「先生がおっしゃられたように」は「おっしゃる」に助動詞「れる」を加えたもので、どちらも尊敬表現を重ねた二重敬語である。これらは過剰敬語で不適切な言い方とされているが、(4)の「お見えになった」は現在の言葉遣いとして普通に用いられている。また(3)「とんでもございません」も「とんでもないことでございます」が本来の言い方だが、現在では挨拶言葉として認知される傾向にある。
 平成7年度調査と比較するとほとんどの言い方で「気になる」割合が増加し、「気にならない」割合が減少した。特に「先生、こちらでお待ちしてください」「お客様が申されました」は、「気になる」割合が10ポイント以上も増加。「気になる」割合がほとんど変わらない「とんでもございません」も「気にならない」割合が10ポイント減った。近年の日本語ブームの影響で敬語の使い方に敏感になっているのかもしれない。

表2


4.言葉の発音

 読み方が分かれる10の言葉について、二通りの発音を挙げて普段どちらで発音しているかを聞いた。読み方はどちらも正しいのだが、伝統的な読み方をする人が減っている傾向が見られた(表3)。
 例えば、「重複」は伝統的には「ちょうふく」と発音されるが、調査では「じゅうふく」が76.1%を占めた。「早急」でも、「そうきゅう」が伝統的な「さっきゅう」の3倍以上の74.5%に上った。「施策」もお役所では「試作」と区別するため「せさく」と呼ぶことが多いのだが、「しさく」の方が圧倒的多数派。「十匹」も「じっぴき」でなく、「じゅっぴき」が75.1%もいたが、60歳以上では38.2%が「じっぴき」派だった。また「3階」も「さんがい」と発音する人は50歳代で67.4%、60歳以上で75.4%と高齢者ほど多く、「さんかい」派は若年層ほど多かったが、全体的には6年前の調査に比べ、「さんかい」が増えてきている(26.2%→35.7%)。

表3

5.ふだんの言い方

 日常会話の中で時々聞かれる、「なにげに」「チョー」などの言い方について8例を挙げ、そのような言い方をするかどうかを尋ねた。また、平成8年度調査とも比較した(表4)。
 一般的には「なにげなく」と使う代わり「なにげに」を使う人は全体の23.5%で、平成8年度の8.8%から2.7倍増加。20代までは60%以上、30代でも42.1%だが、50代と60歳以上は8%強にとどまっている。年齢差を示す「1コ(いっこ)上」を使う人は前回より9ポイント増えて50.8%。30代までは80%以上で、40代も63.1%、50代は39.4%。
 「腹が立つ」を「むかつく」と言うのは全体の48.1%で、20代までは90%以上。「とても」を「チョー」と表現するのは全体の21.4%で平成8年度より2倍近く増えたが、20代までに限ると50%を超えた。「磨きます」を「磨くじゃないですか」と言う人は全体の19.2%。20代までは40%以上だったが、50代以上は一桁。自分のことを言うのに同意を求めるような表現に抵抗感が強いようだ。
 「すごく速い」を「すごい速い」とするのは46.3%。60代以上でも34.4%と抵抗感が弱まっている。このほか、「とても明るい」を「全然明るい」と表現する人が20.7%あった。
 平成8年度の調査と比較すると、いずれの言い方も「ある」の割合が増えており、若者言葉が徐々に他の世代に浸透していることが見て取れるが、使用率が20%台の言葉は「定着するかどうか、まだ分からない」(文化庁)ようだ。

表4


6.慣用句などの意味の理解

 6つの語句についてその意味を尋ねた。「雨模様」については本来の意味である「雨が降りそうな様子」を選んだ人の割合は38.0%で、「小雨が降ったりやんだりしている様子」の45.2%を下回った。「檄(げき)を飛ばす」は本来の「自分の主張や考えを広く人々に知らせて同意を求めること」は14.6%にとどまり、「元気のない者に刺激を与えて活気付けること」が74.1%にも達した。
 「姑息(こそく)」でも、本来の意味である「一時しのぎ」は12.5%に過ぎず、「ひきょう」が69.8%に上った。「さわり」も正答の「話の要点」は31.1%と3割で、「話などの最初の部分」(59.3%)が圧倒的に多かった。また「憮然(ぶぜん)」でも「失望してぼんやりとしている様子」が16.1%にとどまり、誤答の「腹を立てている様子」が69.4%と7割を占めた。逆に「住めば都」は「住み慣れればどんな環境でもそれなりに住み良く思われる」の本来の意味を選んだ人が95.7%と圧倒的で、「住むのだったら都会が良い」は2.4%。
 全体の結果を見ると、「住めば都」を除き、本来の意味を選んだ人の割合よりも、本来とは異なる意味を選んだ人の割合が高く、誤答率は「檄を飛ばす」「姑息」「憮然」で7割前後を占めた。


7.慣用句の使用

 3つの意味を示して、その意味で使う慣用句を選ばせてみた。
 「つっけんどんで相手を顧みる態度が見られないこと」の意味で使う慣用句を選ばせたら、本来の表現である「取り付く島がない」が44.4%で,「取り付く暇がない」の42.0%とほぼ同じ割合。また「物事の肝心な点を確実にとらえること」を本来の表現である「的を射る」としたのが38.8%で,「的を得る」の54.3%より低くなっている。両方の表現とも使わない人は全体の2%だが、10代では12%に上り、若い世代では慣用句そのものを使わない人が増えている。
 さらに「実力があって堂々としていること」では、本来の「押しも押されもせぬ」を選んだ割合が36.9%で、「押しも押されぬ」の51.4%よりかなり低かった。


8.情報機器の普及による言葉遣いへの影響

 パソコンや携帯電話などの普及で、言葉や言葉遣いが影響を受けると思うかを質問したところ。「大きな影響があると思う」との回答が33.9%、「多少影響があると思う」45.0%で、影響を認めたのは78.9%と8割弱。逆に「余り影響はないと思う」13.8%、「全く影響はないと思う」1.8%の“ない”派は15.5%だった。
 前者の「影響を認めた」人に、どのような形で影響があるかを聞いたところ、(選択肢の中から3つまで回答)。その結果、「漢字が書けなくなる」(60.9%)が6割で最も多く、次いで「手紙などの伝統的な書き方が失われる」(35.6%)、「言葉の意味やニュアンスが変わる」(34.3%)、「新しい言葉や言葉遣いが増える」(32.8%)が3割強で続いている。以下、「省略した表現が増える」(27.0%)、「書き言葉と話し言葉の違いがなくなる」(16.8%)などとなっている。
 上位5選択肢を年齢別にみると、すべての年代において、「漢字が書けなくなる」が5割以上の割合で1位を占め、40代以下では6割を超えた。なお16~19歳では「新しい言葉や言葉遣いが増える」「省略した表現が増える」の割合が、60歳以上では「手紙などの伝統的な書き方が失われる」の割合が他の年代に比べて高くなっている。