中央調査報

トップページ  >  中央調査報   >  以前の調査  >  阪神大震災と地域参加に関する世論調査
■「中央調査報(No.563)」より

阪神大震災と地域参加に関する世論調査

 時事通信社では、阪神大震災10周年を目前にし、「阪神大震災と地域参加に関する世論調査」を実施した。この調査は、全国の成人男女2,000人を対象に個別面接方式で行い、回収率は71.6%だった(実施日:7月16日~19日)。
 調査項目には、震災5周年直前の1999年12月に実施した前回調査と同じ質問を行い、5年間の経過による国民意識の変化を調べた。


1.阪神大震災を経ての周辺の変化

 「あなた自身やあなたの周辺で、阪神大震災をきっかけに地域のさまざまな活動に何か変化があったか」(複数回答)との問いに対し、最も多かったのが「特に変化はなかった」で、71.8%(前回75.6%)だった。これと「わからない、関心がない」の4.1%(同4.0%)を除いた24.1%(同20.4%)、全体の4分の1が具体的な変化があったと答えている。(図1)
 変化の内訳では、「自分の行動に変化があった」が9.6%(同8.7%)で最も多く、次いで「地域での活動に変化があった」が7.8%(同7.4%)、「ボランティアなどNPO活動で変化があった」が6.6%(同4.1%)、「自治体の施策に変化があった」が5.2%(同5.1%)となっており、すべての回答項目で5年前の前回調査から増加した。(図1)
 震災地である阪神ブロックに限って見ると、具体的な変化があったと答えた人は38.0%で、全国結果を大きく上回っている。変化の内容では、「自分の行動に変化があった」19.0%(前回11.0%)、「ボランティアなどNPO活動で変化があった」10.5%(同2.4%)、「地域活動での活動に変化があった」8.1%(同2.4%)、の3つの項目で前回から大幅に増加し、全国結果と比べても伸びが大きかった。

図1


2.地域活動への参加意向

 地域活動への参加状況を、清掃活動や防災活動など5つの分野について答えてもらったところ、積極的、義務的にかかわらず、参加率が最も高いのが「クリーン作戦など近隣の清掃活動」で、47.8%と半数近くに達した。以下は、「祭り、スポーツなど地域での交流を促進するイベント」37.1%、「防災訓練などの防災活動」22.6%、「青少年育成や子育て支援活動」13.7%、「ひとり暮らしのお年寄りの見守りや『ふれあい給食』など高齢者・障害者に対する福祉活動」12.3%の順だった。なお、「防災訓練などの防災活動」の参加のうち「積極的に参加している」は8.9%、「義務だと思って参加している」13.7%となっている。(表1)
 「防災訓練などの防災活動」への参加率を地域別に見ると、被災地の阪神ブロックの参加率が最も低く12.0%であった。被災地では「しばらく大地震は起こらないはず」との声も多く、こうしたことが背景にあるとみられる。なお、最も防災活動の参加率が高かったのは、甲信越ブロックの33.3%であった。
 次に、参加率が最も高い「クリーン作戦など近隣の清掃活動」について地域別に見ると、14大都市26.8%、その他の市52.3%、郡・町村59.3%となっており、都市規模が小さいほど参加率は高くなっている。なお、阪神ブロックでの参加率は35.0%だった。

表1


3.地域活動の重要性の認識時期

 清掃活動や防災活動など5分野の地域活動について、いつごろから大切だと考えるようになったかをたずねた。その結果、5分野いずれも、大切だと考える人の割合が7割以上を占めている。
 地域活動への参加が震災による考え方の変化によるものかどうかを知るため、「震災を契機により大切だと思うようになった」と「震災を契機に大切だと感じるようになった」の2項目を合わせた割合を見ると、「防災訓練などの防災活動」の参加は28.9%と、ほぼ3割となっている。地域別に見ると、北陸ブロックの39.4%が最も高く、阪神ブロックでは30.0%と、全国結果よりやや高い程度にとどまっている。
 このほかの活動で、震災を契機となった割合は「ひとり暮らしのお年寄りの見守りや『ふれあい給食』など高齢者・障害者に対する福祉活動」が21.3%、「祭り、スポーツなど地域での交流を促進するイベント」が19.9%、「クリーン作戦など近隣の清掃活動」が19.2%、「青少年育成や子育て支援活動」が17.5%などとなっている。(表2)

表2

4.阪神大震災後の考え方、行動の変化

 地域での結び付きや助け合いなどに対する考え方の変化をとらえるため、震災後、考え方や日ごろの行動の中で変わったことがあったかどうかをたずねた。
 その結果、最も多かったのは「将来に対して、備えを十分にすべきだと思うようになった」で、44.2%(前回45.0%)だった。「隣近所などの他人との結び付きを、大切に思うようになった」40.2%(同40.6%)が続き、この2項目が4割台。以下、「地域のみんなが困っていることは、みんなで考えて解決すべきだと思うようになった」36.9%(同37.3%)が3割台、「人のために、もっと役立ちたいと思うようになった」17.2%(同21.7%)、「時には自分の欲求が、かなわなくても仕方がないと思うようになった」11.2%(同11.3%)が1割台となっている。
 阪神ブロックに限って見ると、「将来に対して備えを十分にするようになった」52.0%(前回46.3%)、「地域のみんなが困っていることは、みんなで考えて解決すべきだと思うようになった」45.0%(同51.2%)、「隣近所などの他人との結び付きを、大切に思うようになった」37.0%(同50.0%)が上位にあげられており、特に「将来に対して備えを十分にするようになった」「地域のみんなが困っていることは、みんなで考えて解決すべきだと思うようになった」が全国結果を10ポイント近く上回っている。また、前回調査と比較すると、「将来に対して備えを十分にするようになった」は比率を伸ばしているが、「地域のみんなが困っていることは、みんなで考えて解決すべきだと思うようになった」「隣近所などの他人との結び付きを、大切に思うようになった」はともに比率を大きく下げている。


5.おわりに

 阪神大震災をきっかけに生まれた市民の「自律」に対する意識は、震災10周年を目前にしても、全国的にも被災地でも風化が認められないことが、今回の結果からうかがえるが、市民の「自律」に対する意識は、風化させないだけでなく、今後にも繋げていく必要がある。
                          (調査部 笠松 直紀)