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■「中央調査報(No.567)」より

 ■ 2005年の日本の政治 ―秋以降「小泉後」展望の流れ―

時事通信社政治部次長  大澤 克好

 小泉純一郎首相は今年4月に就任丸4年を迎え、政権はいよいよ5年目に入る。4月までも5月以降も、今年は首相退陣や衆院解散・総選挙といった波乱は現実的な可能性として想定されておらず、短期的にはいろいろな出来事があっても、政局は昨年に続き安定した展開が予想される。
 ただ、小泉首相の自民党総裁任期である2006年9月末まで、年初時点では誰もが「まだ1年9カ月もある」と考えがちだが、今年10月には「あと1年で首相交代」と小泉政権終焉のカウントダウンが始まることになる。そうした状況下で、「任期途中で投げ出すことはない」と断言する首相が「任期完投」を確実に見通せるだけの実績や構想を示し、国民世論の支持を維持し続けるかどうか。その辺が今年の国内政治を見る上でのポイントとなる。


◇「郵政」で通常国会延長も
 小泉首相の残り任期を「航続距離」とするなら、任期到達に必要な「高度」と気象状況に当たるのが、内閣支持率や自民党内の情勢だ。政権の安定度を示すこうした指標に変化が出るとすれば、それは恐らく7月以降とみられる。スマトラ島沖地震による津波被害のように予想外の事態で政府が対応に追われる可能性は今後もあり得るが、小泉首相の残り任期を見通した大きな流れが決まるのは今年後半からと見てよい。以下、予定される政治日程に沿って展望してみよう。
 今年の通常国会は1月21日に召集され、会期は6月19日までの150日間。最大の焦点は、首相が「改革の本丸」と意気込む郵政民営化を具体化する郵政民営化関連法案の処理だが、法案提出は早くても3月のため、それまで国会は05年度予算案と予算関連法案審議に明け暮れることになる。
 予算審議で野党側は、昨年の臨時国会に続き、イラク問題のほか自民党旧橋本派の日本歯科医師連盟(日歯連)からのヤミ献金事件など「政治とカネ」の問題で攻勢を強めるとみられる。だが、民主党始め野党側に国会審議を完全にマヒさせてでも内閣退陣に追い込むような気構えはないので、途中で多少の混乱はあっても、予算の年度内成立はほぼ間違いないと見てよい。
 この間、政府・自民党内では、郵政民営化法案策定をめぐり調整が続けられる。場合によっては、法案提出が5月の大型連休明けまでずれ込むとの見方も出ているが、たとえ提出が遅れても、政府・自民党が完全に合意した上であれば、法案は成立したも同然だ。あとは時間の問題でしかなく、必要なら会期を延長するかどうか判断するだけだ。政府が功を焦って与党了承のないまま法案提出を強行する可能性もあるが、その場合、与党は法案審議入りを見合わせ、政府との調整を続行するとみられ、結局は会期延長をどうするかの判断となる。


◇外交も1-6月は準備期間
 一方、外交に目を転じると、今年前半は北朝鮮問題も日中、日ロ外交も劇的な進展は期待しにくい状況だ。日朝交渉は拉致問題をめぐって膠着状態が続くとみられ、北朝鮮の核開発問題もブッシュ米政権2期目発足を受け、延び延びになっている6カ国協議再開が展望できる程度。日中関係は、小泉首相の靖国神社参拝問題を抱えたまま現状維持が続くとみられ、日ロ間の懸案である北方領土問題は、プーチン大統領の訪日と日ロ首脳会談で平和条約締結交渉の新たな枠組みを構築できるかどうかが当面の課題となるに過ぎない。
 イラク問題も、現地の治安状況を気にしながら自衛隊派遣を継続することは昨年と変わらない。小泉首相が「かけがえのない同盟国」として協力を誓う米国が「イラク平定」まで軍駐留を続ける意思を明確にしている以上、小泉政権がイラク復興支援への関与を弱めるような措置を検討することは、まずあり得ない。
 ただ、イラクでの多国籍軍(主体は米英軍だが)編成と駐留を最終的に承認した昨年6月の国連安保理決議1546は、決議採択から1年経過した時点、すなわち今年6月段階での多国籍軍の見直しを明記(条項12)している。自衛隊が活動するイラク南部サマワで治安維持活動を行ってきたオランダ軍の3月撤退開始が既に決まっているが、1月末のイラク国民議会選挙の成否やその後のイラク国内の状況によっては、オランダの対応なども踏まえ、イラク復興での軍事関与の在り方が国際社会で再び議論される可能性がある。
 小泉首相を含め日本政府関係者は、多国籍軍見直しに関する条項に当初から全く言及していないが、昨年12月の自衛隊イラク派遣延長の際に基本計画に部隊撤収の検討要件として盛り込んだ「多国籍軍の活動状況及び構成の変化」に関わる議論だ。基本計画には「選挙実施等によるイラクの政治プロセスの進展状況」と「イラク治安部隊の能力向上」も撤収検討要件として明記されたが、イラク治安部隊の能力については昨年12月にブッシュ米大統領が悲観的な発言をしている。1月の国民議会選挙を経て、政治プロセス進展が不透明さを増した場合、日本はどう対応するのか。仮に日本の関与拡大を求める声が国際社会で上がった場合、従来のように漠然と「危なくなったら自衛隊撤収」と考えるだけでは済まなくなる可能性もある。


◇政権安定、都議選結果が分岐点?
 こうして6月までに国内外のいくつもの懸案処理が小泉政権の判断を迫る形で積み重なってくる。この過程で4月に少なくとも衆院宮城2区と福岡2区の2選挙区で補欠選挙が実施され、7月初旬には東京都議選が行われる。
 この中で特に重要となるのが都議選だ。というのも、4年に1度の都議選が同じ政権下で2回行われるのは、佐藤栄作内閣(64年11月-72年7月)下での65、69年以来。当時と比べ無党派層の動向が重視される今日、政権の安定度や勢いの変化を見る上で今回の都議選ほど分かりやすい機会はないと言ってよい。
 小泉政権発足直後に行われた01年6月の都議選で、自民党は定数127のうち53議席(告示前48議席)を獲得、「小泉人気」の強さを見せ付けた。ただ、同党は前々回の97年都議選でも54議席(告示前38議席)を確保しており、都議選での躍進は小泉政権に始まったことではない。一方、自民党とともに都議会与党の公明党は前回23議席、それ以前も25議席前後で推移している。このため、今回は現状維持が課題となる自公両党に対し、過去2回で議席が12から22へほぼ倍増している民主党がどこまで躍進するかが焦点となる。
 自公が現状維持または議席増で勝利すれば、小泉政権は「任期完投」へ一歩視界が開ける。逆に、民主党が自民党議席をも奪う形で勢力を伸ばすことになれば、首相完投の見通しはにわかに曇り始め、都議選敗北の打撃がボディーブローのように効いてくる。郵政民営化法案が成立していなければ、その後の審議に不安が生じるし、成立していたとしても郵政民営化というテーマ自体から政権浮揚効果は失われる。組織力・集票力低下が指摘されている自民党は、早期の衆院解散をこれまで以上に躊躇せざるを得ず、解散を恐れる政権党を野党も恐れなくなる。内閣支持率が一層下降し、政権末期のムードがじわじわと広がる可能性もないとは言い切れない。


◇話題豊富な9月以降
 もっとも、地方選挙である都議選で自民党執行部や首相の責任が問われることはまずないので、仮に敗北したとしても、小泉首相は目先を変えて、新たな外交・内政課題への取り組みで政権浮揚を図ることになる。そして、都合のいいことに今年後半から、そうした政策課題が続々と登場する見通しだ。
 外交面では、都議選直後にスコットランドで主要国首脳会議(グレンイーグルズ・サミット、7月6~8日)が開かれ、9月には国連総会と総会出席に合わせての日米首脳会談などの外交日程が続く。この過程で大きく注目されるのが、日本の国連安全保障理事会での常任理事国入りが懸かる国連改革だ。
 国連総会では9月14日から特別首脳会合が予定され、17日からは各国首脳の一般討論演説が行われる。アナン国連事務総長は安保理拡大を含む国連改革について、今年中に結論を出すよう加盟国に求めており、9月の首脳会合や総会が大きなヤマ場となる。政府は首脳会合までの基本合意を目指しており、常任理事国入りへの道筋が描ければ、一連の国連外交は小泉政権の「歴史的成果」としてアピールされることになる。
 一方、日米間では日米首脳会談に向け在日米軍再編問題がクローズアップされる。日米協議の決着時期は明確になっていないが、今年は在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)に関する特別協定の改定時期となっており、協定改定交渉は恐らく、駐留経費と表裏一体となる再編問題とセットで決着が図られるとみてよい。現行協定は06年3月で失効するので、予算措置などを考慮すると、10月までに日米合意、秋の臨時国会で新協定承認というスケジュールが想定される。つまり、夏から秋にかけ、小泉内閣は国連改革と在日米軍再編という二つの重要テーマで国民の関心を引き付け、その結論や成果を誇示する展開が予想される。
 内政面では、郵政民営化問題に区切りが付けば、年金一元化を視野に入れた社会保障制度見直しの議論が、政府・与党または与野党間で活発化する可能性がある。また、自民党は結党50周年の11月に独自の憲法改正草案を示す予定だ。いずれも小泉首相任期中の実現が想定されていないテーマだが、首相にしてみれば、実現性にとらわれず単純な言葉で構想を語るのに好都合で、郵政民営化法案成立でネタ切れとなる改革メニューの空白を埋める格好のトピックスとなる。


◇「小泉後」へカウントダウン
 よほどの不運に見舞われない限り、今年も小泉政権失速が考えにくい状況が続きそうだが、昨年と違うのは、自民党内で「ポスト小泉」を模索する現実的かつ具体的な動きが予想されることだ。冒頭で指摘したように、今年10月からは1年後の自民党総裁(首相)交代へカウントダウンが始まる。後継首相候補が明確になれば、その路線が「反小泉」なのか「小泉継承」なのかを含め、首相候補と支持グループの動向が小泉首相の政権運営にも影響を与える可能性がある。
 これには、次期衆院選時期の見通しも絡んでくる。任期満了の場合、次の衆院選は07年秋となるが、07年は4月に統一地方選、夏に参院選が予定される。3選挙が同じ年に行われた例としては、83年4月に統一地方選、6月に参院選、12月に衆院選が行われたケースがあるが、現在の自公体制では各種選挙をたて続けに行うことには公明党が難色を示すのは必至。従って、小泉首相が解散なしで「完投」する場合、07年4月以降の解散や任期満了による衆院選は考えにくく、自民党の新総裁選出と新内閣発足後の来年10月から再来年初頭までの間に衆院解散・総選挙となる可能性が高いとみてよい。
 自民党内では依然、衆目の一致するポスト小泉候補が定まらない状況だが、解散判断も絡んでくるとなれば、総裁選まで1年を切った段階を過ぎても候補擁立や出馬の動きが出ないというのは想定しにくい。小泉政権の安定が今後も続くとしても、今秋以降は「小泉後」を展望した流れに着実になっていくと見ていいのではないか。郵政民営化にめどが付けば、年末の06年度予算編成が小泉政権最後の仕事との見方もできる。自民党内で語られる「郵政民営化花道論」は、残任期1年を切った後の首相を取り巻く政治的現実を予言していると言ってよい。


◇民主党の課題
 衆院選も参院選も予定されない今年、民主党など野党の出番は、一段と少なくなる。今年前半の政局で焦点となる郵政民営化問題も、攻防の主役は自民党と政府で野党は最初からカヤの外だ。民主党の至上命題である政権交代に全精力を傾注するのであれば、4月の衆院補選全勝と7月の東京都議選躍進が最低限の課題となろう。
 そこまで国民世論を引き付けていくには、郵政民営化で党独自の制度設計案を早急にまとめて政府方針への賛否とともに発表、法案審議以前から政府・自民党内の議論に干渉していくことが必要ではないか。年金改革では、民主党案の宣伝を続けつつ、任期内に結論をまとめるつもりがない小泉政権下での与野党協議を拒否、早期退陣を要求してもいい。そのぐらいの覇気を示さないと、岡田克也民主党代表の任期カウントダウンが、小泉首相より早く始まりかねない。(了)