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■「中央調査報(No.567)」より

■ 2005年の日本の経済 ―外需依存は変わらず―

時事通信社経済部次長  泉 正樹

 昨年末にかけて景気動向指数や国内総生産(GDP)など重要統計の弱い結果が相次ぎ、回復を続けてきた景気が踊り場に差し掛かったことが示された。日本経済は短期間の調整を経て再び着実な回復軌道をたどっていくのか、停滞感を強めるのか。米中両国の経済動向や為替相場、原油価格の行方など不透明な要因が多く、先行きは読みにくい。


◇既にピークアウトか
 内閣府の景気動向指数研究会は昨年11月、景気が底入れして現在の拡大局面に転じた「谷」の時期を、暫定的に設定していた2002年1月に確定した。これにより、今回の拡大局面は昨年9月時点で32カ月に達し、戦後5番目の長さの神武景気(1954年11月-57年6月の31カ月)を上回ったことになるはずなのだが、実際には景気がそれまでにピークアウトしていた可能性もある。
 昨年12月に発表された重要統計を見ると、まずは10月の景気動向指数(速報値)で現状を示す一致指数が11.1%にとどまり、景気が上向いているかどうかを判断する基準の50%を3カ月連続で割り込んだ。電子部品などの生産抑制の動きが影響したとみられており、内閣府は景気の基調判断を従来の「改善が続いている」から「弱含んでいる」に1年10カ月ぶりに下方修正した。
 3カ月以上連続の50%割れは2002年2月以来。一致指数が3カ月続けて50%を割り込むと景気は後退局面入りした可能性があるとされ、内閣府は「将来、景気後退は始まっていたと判断される可能性は否定できない」と指摘した。
 一致指数は今月中旬発表の11月統計において、速報値の44.4%から改定値では60%に上方修正されたが、基調判断は据え置かれた。4カ月連続の50%割れから持ち直した1995年の例もあるだけに、慎重に推移を見極める必要はある。しかし、米国や中国が引き締め政策に転じた影響もあり、半導体や液晶などの電子部品を中心に生産抑制の動きが生じ、生産関連の指標は夏以降伸び悩んでいる。多くのエコノミストは、一致指数を構成する経済指標の多くが6月をピークに「山」を過ぎたと分析している。


◇横ばい状態
 04年7-9月期のGDP改定値は、物価変動の影響を除いた実質で速報値と同じ前期(4~6月)比0.1%増、年率換算では0.2%増と速報値から0.1ポイント下方修正された。物価動向の精度向上のため採用した新しい算定方式が下ぶれ要因となり、「上り坂の中の微調整という見方は変わらない」(竹中平蔵経済財政担当相)というものの、景気の減速を改めて確認。算定方式の変更に伴い、4~6月期の実質GDPも0.3%増から0.1%減に、年率換算では0.6%減に下方修正され、03年1~3月期以来5期ぶりのマイナス成長になった。
 04年度に入ってからは実質ベースでも経済のパイがほとんど拡大していない姿が示されたわけで、需要項目別の伸び率は個人消費が5期連続プラスを維持したが、算出方式と使用統計の変更により速報値の0.9%増から0.2%増に下方修正。一方、民間設備投資は速報後に判明した法人企業統計などを反映した結果、1.1%増と速報値(0.2%減)から大幅に上方修正された。
 実質GDPへの寄与度は内需がプラス0.2%(速報値プラス0.3%)、外需がマイナス0.1%(同マイナス0.2%)でほぼ横ばい。総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比1.3%の下落。26期連続のマイナスは変わらずで、算出方法の変更に伴い下落幅は速報値より0.8ポイント縮小した。物価変動を反映し企業や個人の実感に近いとされる名目GDPは前期比0.03%減、年率換算0.1%減で、速報値の0.01%増、0.045%増からともに下方修正された。


◇設備投資にも減速感
 以上が直近のGDP統計の内容であり、中では民間設備投資の大幅上方修正が明るい材料となったが、この点も続いて発表された10月の機械受注が冷水を浴びせる形になった。民間企業の設備投資の先行指標となる「船舶・電力を除く民需」が前月比3.1%減の9001億円と2カ月連続で減少、前年同月比でも9.9%減と9カ月ぶりに減少に転じ、経済を下支えしてきた設備投資の減速傾向が強まる結果になった。内閣府は基調判断を9月の「増勢はこのところ鈍化している」から「弱含んでいる」に2カ月続けて下方修正するとともに、「半導体製造装置などIT(情報技術)関連は年度内に予定されていたものが終わった感じで、大きく伸びる要素は見当たらない」という見方も示した。
 特定業種に設備投資が集中しがちだったITバブル期と比較し、今回の景気回復局面では設備投資拡大のすそ野が広いのは確か。電気機械や通信業が大きく落ち込む一方、企業収益の好調を背景に鉄鋼や化学といった素材産業などがプラス基調を保っている。しかし、IT関連の生産減少が設備投資の落ち込みにつながる悪循環を断ち切れない限り、景気をけん引する役割を設備投資に期待するのは難しくなる。今月中旬発表の11月の機械受注は前月比19.9%も増加したが、金融・保険の伸びが突出するなど偏りが見られ、基調判断は変更されなかった。


◇回復のすそ野は拡大
 景気が微妙な分岐点にあることは、日銀の12月の企業短期経済観測調査(短観)によっても示された。企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、大企業製造業がプラス22と9月の前回調査に比べ4ポイント低下し、2003年3月以来、1年9カ月(7・4半期)ぶりに悪化。3カ月先までの景況感は大企業製造業が7ポイント悪化のプラス15。中小企業製造業は6ポイント悪化のマイナス1と水面下に転落し、景気の減速を反映して先行きへの慎重な見方が広がった。
 大企業製造業では、景気をけん引してきた電気機械や自動車が、輸出の頭打ちや国内でのデジタル家電販売の伸び悩みなどを主因に悪化。市況高騰の追い風が続いた化学や非鉄金属といった素材産業も悪化し、DIを押し下げた。大企業非製造業はプラス11、中小企業製造業はプラス5と、9月調査と比べいずれも横ばい。中小企業非製造業はマイナス14と3ポイント改善した。
 一方、04年度の全産業ベースの設備投資計画は大企業が前年度比7.7%増、中小企業が0.3%増といずれも9月調査時より上方修正。中でも大企業製造業の設備投資計画は23.4%増とバブル期の1988年度以来の高い水準になり、売上高経常利益率も5.78%と89年度を上回った。
 大企業製造業の業況判断が弱まったのは、電気機械が9月調査に比べ17ポイントも下落した影響が大きい。情報家電などIT関連の需要動向に関し、相当の不安感が経営者にある表れと考えられ、先行きの7ポイント低下も1997年12月の金融危機時に匹敵する悪化幅で、特にIT周辺の非鉄や窯業土石、精密機械の見通しが慎重になったのが特徴だ。
 大企業製造業を中心とする設備投資、収益の好調を理由に、多くのエコノミストは景気の失速・腰折れは回避できると指摘しているが、IT(情報技術)関連の在庫調整や生産の鈍化傾向が来年度にかけてどの程度長引き、深刻化するかについては認識が分かれている。また、大企業非製造業と中小企業製造業が前回比横ばいと好調を維持し、中小企業非製造業も3ポイント改善したことは、景気回復のすそ野が広がり続けている証左として評価できるが、そこから日本経済の反転を占えるほどの力強い動きにはまだまだ至っていない。


◇米経済、IT関連がポイント
 政府が景気の現状判断を2カ月連続で下方修正した12月の月例経済報告では、個人消費は「緩やかに増加」から「伸びが鈍化」に、生産は「横ばい」から「弱含んでいる」、輸入は「緩やかに増加」から「横ばい」、業況判断は「一段と改善」から「改善に一服感がみられる」にそれぞれ下方修正。先行きの判断では「世界経済の着実な回復に伴い、景気回復は底堅く推移する」と指摘しながらも、景気下振れのリスク要因として電子部品の在庫調整の動きと原油価格の動向の2点を挙げた。
 竹中平蔵経済財政担当相は、景気の現状判断を再び引き上げる条件として、①米経済の一時的減速に伴う輸出や生産の落ち込みが持ち直すか②IT(情報技術)関連分野の在庫調整が進展するか③景気回復の流れが企業から家計に波及するかを注視する考えを示し、1月の月例経済報告では判断を据え置いた。


◇政府見通しは1.6%成長
 こうした状況下で、05年度はどの程度の経済成長が実現可能なのか。政府はGDP成長率について物価変動の影響を除いた実質で1.6%、名目で1.3%を見込み、米国、中国ともに回復が持続、企業部門の改善が家計部門に波及し、「引き続き民需中心の緩やかな回復を続ける」というシナリオを描いている。物価動向に関しては、消費者物価指数(CPI)が、石油など素材関連価格を中心にした企業物価の上昇を反映し、前年度比0.1%のプラスを予想して「デフレからの脱却に向けた進展が見込まれる」と指摘。見通し段階でCPIがプラスになるのは5年ぶりで、物価の総合的な動きを示すGDPデフレーターも下落幅の大幅な縮小を見込んでいる。
 項目別では、個人消費は雇用・所得環境の改善を背景に0.9%増加し、民間設備投資は企業の増収増益傾向から3.3%増と引き続き堅調な伸びを想定。完全失業率は4.6%を見込む。寄与度は内需が民需1.1%(04年度実績見込み1.8%)、公需0.1%(マイナス0.4%)の1.2%(1.4%)、外需が0.4%(0.7%)で、04年度成長率の実績見込みは実質で2.1%、名目で0.8%となっている。
 また、民間調査機関の05年度成長率見通しは0%台半ばから1%台半ばまで分かれている。政府見通しよりは総じて厳しいが、「景気の回復局面は続いているものの、IT関連の在庫調整や外需の減少が影響し、05年度半ばまで景気は減速気味に推移する。その後は、世界経済の回復と歩調を合わせながら、日本も年度後半から潜在成長力の2.0%程度の回復軌道に戻る」といった見通しを持っているところが多いようだ。


◇失速リスクも
 金融機関の不良債権処理が大手銀行を中心に進ちょくした現在では、かつてのように金融システム不安に伴う信用収縮から企業活動が委縮してしまうような事態は考えにくく、企業にしても長年の人員、設備面などでのリストラにより経営体力は強まっている。企業の余剰資金は全体で40兆円以上に達し、銀行からの借入金返済後の手元資金も約20兆円に上るという民間の試算もあり、輸出や生産が少し落ち込んでも、この余剰資金が老朽設備の更新を中心に設備投資を下支えする可能性はある。
 しかし、景気の企業格差や地域格差などを背景に雇用・所得環境全体の著しい改善が望めず、GDPの半分以上を占める個人消費の盛り上がりが期待できない現状では、設備投資だけで経済成長をリードしていくにはおのずと限界がある。05年度の政府予算案は引き続き抑制型となり、税や社会保障関係費の負担増が家計に及ぼす影響も避けられない。05年度はせいぜい実質1%前後の成長率を予想しておくのが妥当なところだろう。低成長下でデフレ脱却への明確な展望は開けず、日銀も量的緩和政策の解除を模索しながら苦悩する状況が続きそうだ。
 また、基本的に米国・中国頼み、外需依存の構造が続く中で、日本経済が外的ショックに耐える力も依然として弱いと言わざるを得ない。12月の日銀短観で示された想定為替レートは106円31銭。経済産業省が主に大企業製造業を対象に行った調査では、100-105円の水準が05年度も続けば1円の円高で経常利益が1.1%減少するという試算になり、約8割の企業が100円を突破すれば収益に悪影響が出ると回答した。経常収支の赤字拡大によりドル安が進行、ドル離れで長期金利が上昇して米国経済が打撃を受け、さらに円が1ドル=90円を突破するような事態になれば、日本経済は一気に失速しかねない。政府は、景気の下振れリスクに配慮した財政・税制上の柔軟な対応とともに、日本経済の底辺を広げて外的ショックへの適応力を高めるためにも、規制緩和や構造改革特区構想の推進を加速して雇用を創出する努力が求められることになる。(了)