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■「中央調査報(No.582)」より

 ■ 景気回復に伴い、ゆとり感上昇
          ―時事通信社の「生活のゆとりに関する世論調査」結果から


 「生活のゆとり/豊かさ」ということが叫ばれるようになって久しい。戦後高度成長を遂げたわが国では、80年代以降「“経済大国”から“生活大国”へ」をキャッチフレーズに、「ゆとり」への関心が高まった。一方、いわゆるバブル経済がはじけた90年代初頭からの長引く不況の後、昨今ようやく景気回復のきざしがみえてきたとも言われている中、「ゆとり」に対する意識はどのようになっているのだろうか。
 時事通信社では、昨年から、無作為に選んだ全国20歳以上の男女2,000人を対象に、「生活のゆとりに関する世論調査」を実施している。今回は2006年2月10日から13日にかけて、調査員による面接聴取法により実施、1,369人(回収率68.5%)から回答を得た。前回調査は、2005年2月に実施された。
 本稿では、この調査結果について、年代別に焦点をあてることでライフサイクルによるゆとり感の違いについて検証する。


1.昨年より増加したゆとり感
 「生活全体にゆとりを感じているかどうか」を尋ねたところ、「感じている」(7.2%)と「どちらかといえば感じている」(38.3%)を合わせた“ゆとり実感派”の割合は45.5%で、前回調査の40.8%から約5ポイント増加している。「感じていない」と「どちらかといえば感じていない」を合わせた“ゆとり非実感派”は52.8%と“実感派”を上回ってはいるが、1年前と比べてゆとりを感じている人の割合が増えたことがわかった(図1)。

図1


 年代別にみると、最も“ゆとり実感派”の割合が高いのは、60歳以上の54.8%で、次いで、20歳代の47.2%である。一方、割合が最も低いのは、40歳代の34.4%で、次いで50歳代の42.6%である。つまり、20歳代から年齢を経るごとに徐々にゆとりがなくなり、40歳代を最低に今度は次第に高まっている。40歳代は、仕事や家庭等に忙しく、ゆとりが少ないのではないかとみられる(図2)。

図2



2.ゆとりを感じられない理由
  ―「収入少ない」が最大の理由―
 それでは、なぜ、半数以上の人がゆとりを感じられないのであろうか。“ゆとり非実感派”に対して、ゆとりを感じていない理由を挙げてもらったところ、最も高い割合を示したのは、前回調査と同様、「収入が少なく、自由に使えるお金があまりない」の51.0%(前回57.5%)で、次いで高かった「老後への備えが十分でない」の34.0%(同41.0%)を17ポイントも上回っている。 以下、「貯蓄が少ない」33.1%(同38.2%)、「税の負担が大きい」26.5%(同37.3%)、「年金や保険など社会保障費の負担が大きい」26.4%(同32.4%)、「仕事が忙しい」22.2%(同26.0%)、「子供の教育にお金がかかる」21.1%(同23.9%)と続く。前回調査と比較すると、概ね各項目とも割合が低くなっていることがわかる(図3)。

図3


 年代別にみると、すべての年代において「収入が少なく、自由に使えるお金があまりない」の割合が最も高く、各年代層とも共通してゆとりのない最も大きな理由は「収入」であることがわかる。年代別の特徴を整理すると、20歳代と30歳代では「貯蓄が少ない」が、40歳代では「子供の教育にお金がかかる」が、50歳代と60歳以上では「老後の備えが十分でない」が、それぞれ「収入」に次いで高くなっており、年代による生活状況の違いが表れたといえる(図4)。

図4


3.ゆとりに大切な要素
  ―「お金」を上回った「健康」、年齢と共に増加―
 次に、ゆとりを感じる上での大切な要素について尋ねた(8項目の中から該当するもの3つまで選択)。その結果、最も高いのは「健康」で77.9%(前回73.6%)、次いで「お金」76.3%(同77.5%)、「時間」52.6%(同54.6%)と続く。前回と比べ、わずかながら「健康」が「お金」を上回る結果となり、健康を重視する傾向が強まったといえる(図5)。

図5


 年代別にみると、20歳代から40歳代において、「お金」の割合が最も高いものの、50歳代と60歳以上では、「健康」の割合が最も高くなっている。年齢が高くなるに従い、「健康」を重視する傾向がみられる。また、50歳代と60歳以上では、「時間」の割合が大幅に減少しており、50歳代以降になると、比較的時間に余裕が出てくることがみてとれる(図6)。

図6



4.家庭生活におけるゆとりのある過ごし方
  ―「一家団らん」が最上位―
 最後に、家庭生活におけるゆとりのある過ごし方について尋ねた。その結果、最も割合が高かったのは「家族が一緒に食事をするなど、一家団らんで過ごす」の58.7%、次いで「スポーツを楽しんだり、趣味に打ち込む」が52.2%、「家族が一緒に、レジャーや買い物に行ったり、旅行・ドライブに出かけたりする」が48.6%と続く(図7)。

図7


 年代別では、20歳代、40歳代、50歳代において、「家族が一緒に食事をするなど、一家団らんで過ごす」が最も高く、次いで「スポーツを楽しんだり、趣味に打ち込む」、「家族が一緒に、レジャーや買い物に行ったり、旅行・ドライブに出かけたりする」と続く。30歳代においては、「家族が一緒に食事をするなど、一家団らんで過ごす」の割合が最も高く、次いで「家族が一緒に、レジャーや買い物に行ったり、旅行・ドライブに出かけたりする」、「スポーツを楽しんだり、趣味に打ち込む」と続く。 60歳以上においては「スポーツを楽しんだり、趣味に打ち込む」が最も高く、次いで「家族が一緒に食事をするなど、一家団らんで過ごす」、「好きなテレビやビデオを見る」と続く。家族で過ごす活動は、30歳代、40歳代で割合が高い。特に30歳代で、ゆとりに対する家族志向が最も強まるようだ。40歳代から家族でのレジャーの割合が減少しているが、これは子どもが大きくなるためであると考えられる。以上のように、ライフサイクルによる家族形態の違いが反映された結果となっている(図8)。

図8



5.終わりに
 全体として、ゆとり感は前回と比べやや高まっており、そのゆとり感には金銭的余裕があることが不可欠であるようだ。また、ライフサイクルの特徴が、明確にゆとり感に表れているといえる。収入は低くても、やりたいことがたくさんある20歳代におけるお金と時間に対する価値観の高さ、成長してきた子どもを抱える40歳代における教育費に対する負担感の大きさ、仕事も子育ても終え、年金等により比較的余裕ある生活をしているとされる60歳以上におけるゆとり感の高さなどがみられた。 また今回の調査で、ゆとりを感じるためには、健康が第一と考える人が増えたことは、高齢化社会におけるゆとりを考える上で、何らかのヒントを示唆しているといえよう。
 今後は、高齢化に加え、景気の回復や、税制・社会保障制度の改革などによって、日本の社会経済的状況が大きく変化することが予想される。また、格差社会が到来してきているとも言われている。これら社会の変化によって、ゆとりに対する意識も変化していくのではないかと考えられ、引き続き注目していく必要があろう。

(調査部 安藤 奈々恵)