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■「中央調査報(No.586)」より

 ■ 「レジャー白書2006」に見るわが国の余暇の現状 

(財)社会経済生産性本部 余暇創研 柳田尚也


 財団法人社会経済生産性本部 余暇創研では、「レジャー白書2006~団塊世代・2007年問題と余暇の将来~」を7月にとりまとめた。本白書は、平成17年1年間のわが国における余暇の実態を、需要サイド・供給サイド双方の視点から総合的にとりまとめたものであり、今回で通算第30号目となる。以下では、本白書の内容をもとに、わが国の余暇の現状と今後の方向性等について簡単に紹介してみたい。


1.日本人の余暇をめぐる環境

 まずはじめに日本人の余暇をめぐる環境がどのような状況にあるかを、時間面・経済面の基礎的なデータをもとに見てみよう。


時間的ゆとり-見かけ上の時短進む
 平成17年の年間総実労働時間(規模30人以上)は1,834時間と、前年(平成16年)に対し6時間の短縮となった。総実労働時間は、この10年間で75時間も短縮した計算になる。しかし、これはパートタイマーや派遣労働者など短時間労働者比率の上昇によるところが大きく、いわば“見かけ上の時短”という性格が強い。実際、正社員の総実労働時間はこの10年間ほとんど減っておらず、年次有給休暇の取得も進んでいない。労働者の時間的ゆとりの確保は、いぜんとして大きな課題である。

経済的ゆとり-家計収入・支出は再び減少へ
 次に経済的なゆとりについて、「家計調査報告」(総務省)をもとに見てみよう。平成17年の全国・勤労者世帯の実収入は対前年比1.4%減(名目)の522,629円、可処分所得は同じく1.0%減(名目)の439,672円となった。いずれも前年(16年)は7年ぶりのプラスであったが、17年は再び減少に転じている。これにともない家計消費支出も328,649円と、対前年比-0.3%の減少。科目別では「教養娯楽費」が-1.1%の減少となった。景気が回復傾向にあるとはいえ、本格的な消費回復にはまだ時間がかかりそうだ。

「ゆとり感」には回復の兆しも
 これら“実態”データとは別に、国民の余暇時間や余暇支出への実感を調べた結果が図表1である。前年に比べて余暇時間が「増えた」とする人は、バブル崩壊後長期的に減少してきたが、17年は14.8%と前年(16年)から0.6ポイントのプラスに転じた。余暇時間が「減った」という人は16年の28.7%から17年の27.5%へと減少しており、この結果余暇時間が「減った」人と「増えた」人の差は16年の14.5ポイントから17年の12.7ポイントに縮まった。しかしながら、いぜんとして「減った」という人が「増えた」という人を10ポイント以上も上回っているのが現状である。
 支出面においても、余暇支出が「増えた」という人はやはりバブル崩壊後の平成4年をピークに減少を続けてきたが、17年は20.2%と前年より1.8ポイント増加。余暇支出が「減った」と答えた人は16年の29.7%から17年の25.6%と4.1ポイント減少し、結果として「減った」人と「増えた」人の差は、平成16年の11.3ポイントから平成17年の5.4ポイントへとかなり縮まった。こうした変化の背景には、時間的・空間的ゆとりをより多く持つ高齢層の増加なども考えられる。

図表1


2.日本人の余暇活動の現状
   ~愛・地球博が好調/本格的需要回復はこれから~


 レジャー白書では、毎年「スポーツ」「趣味・創作」「娯楽」「観光・行楽」の4つの部門からなる計91種目の余暇活動について、国民の参加や活動実態を調べている。平成17年は、観光・行楽部門の一部種目で好調も見られたが、全般的には参加状況は低調であった。以下、91種目の余暇活動のうち参加人口の多い上位20種目について、その動向を分析してみよう。これらの種目は、わが国の余暇活動を代表するいわば「国民的レジャー」ともいうべきものである(図表2)。


 例年上位種目の変動は比較的少ないが、平成17年は参加人口第1位の「外食(日常的なものを除く)」から10位「動物園、植物園、水族館、博物館」までの上位10位の種目構成は前年(16年)とまったく同じであった。しかしながら参加人口の水準は、前年に比べて落ち込んだ種目が目立つ。第1位の「外食(日常的なものを除く)」は16年の7,240万人から17年の7,150万人と2年連続の減少となった。また、ガソリン価格高騰の影響もあって、第3位の「ドライブ」も16年の5,510万人から17年5,220万人と大きく参加人口を落としている。
 これに対して、“愛・地球博”の成功により「催し物・博覧会」の参加人口が急増(16年2,170万人→17年2,420万人)して上位20位に入ったほか、やはり観光系の種目である「帰省旅行」(2,510万人)も上位に顔を出している。また、20位以下ではあるが、「海外旅行」も平成16年の1,200万人から平成17年の1,290万人と引き続き順調に参加人口を伸ばすなど、観光系の種目は比較的好調であったといえよう。
 5位以下の種目の中では、前年(平成16年)まで好調に参加人口を伸ばして注目された「映画(テレビは除く)」が洋画のヒット作に恵まれず、伸びは一段落となった。同様に、ここ数年堅調に推移してきた「宝くじ」や「パソコン(ゲーム、趣味、通信)も頭打ちとなり、17年は減少している。
 上位11位~20位では、参加人口が顕著に伸びた種目は少なかったが、順位変動が見られた。順位を上げたのは「バー、スナック、パブ、飲み屋」「テレビゲーム(家庭での)」「ピクニック、ハイキング、野外散歩」「音楽会、コンサートなど」、下げたのは「園芸、庭いじり」「ボウリング」などである。「体操(器具を使わないもの)」「ジョギング、マラソン」は、上位20位から外れた。
 全体を通して、観光系のレジャー種目が比較的好調であった半面、これまで堅調であった日常型のレジャー需要が伸び悩んだと見ることもできよう。

図表2


3.余暇関連産業・市場の動向
   ~前年比マイナス1.5%と伸び悩む~


 本白書では、供給サイドからの余暇の動向を把握するため、4部門78業種を対象とする1年間の余暇産業動向の把握、および余暇市場規模の推計を行っている。余暇市場は、平成8年に90兆円の大台に乗せたのを最後に縮小傾向となり、平成17年は80兆0,930億円、前年比マイナス1.5%の縮小であった(図表3)。既存の余暇市場はこの10年で約10兆円減少した計算になる。業界における経営体質改善等の取り組みも進んできているが、好調な業界・企業とそれ以外の二極化が激しく進行している。余暇関連の指標は景気の動向に遅れて推移する傾向があり、余暇市場分野の景気回復もまだ先になりそうだ。

図表3


 以下、4つの部門別に平成17年の余暇市場動向の概要を紹介する。

①スポーツ部門
 平成17年のスポーツ市場は4兆2,970億円で、前年比マイナス1.9%の縮小となった。用品市場にはやや明るさがもどってきた。健康需要に対応したフィットネスクラブなどの業界は好調に推移している。
 マイナス成長の続いた用品市場には、底打ち感がでてきた。不振の続いたゴルフ用品にも回復傾向がみられ、スキー・スノーボード用品の落ち込みも小さくなっている。
 近年落ち込みの大きかったサービス市場にも回復の兆しがみえる。ゴルフ場は、外資の進出で経営効率の向上と入場者数確保が進み、収益を出せる体質になってきた。ゴルフ練習場もようやく売上増に転じた。フィットネスクラブは、中高齢者の健康需要に応えさらに成長を続けている。新規出店は旺盛であり、既存店の売上げも落ちていない。テニススクールは、人気のインドアスクールの新設はやや落ち着いてきたものの、堅調を維持。ジュニア層に続きシニア層の開拓に力を入れ始めた。スキー場は、新潟中越地震による休場や縮小営業などもあり、客足は伸びていない。経営悪化による休業・売却・譲渡が急増し、スキー場再生会社の動きも目立ってきた。


②趣味・創作部門
 平成17年の趣味・創作部門市場は11兆1,610億円で、前年比マイナス4.0%の縮小となった。薄型テレビとDVD、音楽ソフトなどのメディア関連は好調を継続している。
 大画面薄型テレビは値頃感が強まり、旺盛な買い替え需要を刺激している。DVDソフトの需要はある程度一巡したが、超廉価版が出るなど裾野はさらに広がっている。DVDレコーダー/プレーヤーも高画質化・高性能化が進み、売れ行きを伸ばした。マイナス成長が続いていたCDも、中高年向けリバイバル企画のヒットなどにより底打ち感が出てきた。平成16年は「音楽配信元年」といえるほど関連ビジネスが拡大し、音楽ソフトのトータルの市場規模は実質的に拡大している。近年高成長を続けてきたデジタルスチルカメラは、平成15年をピークに需要が一巡し、売上げを落とした。一眼レフ市場には複数の家電メーカーが新規参入してきている。
 映画は洋画のヒット作に恵まれず、興行収入は減少に転じた。シネコンの増加は続いており、競合は激しさを増している。業界再編が進み、テレビ局主導の興行体制が目立ってきている。
 前年(16年)に好調であった書籍は、17年は再び減少。『ハリー・ポッター』の新刊への依存度が大きい。テレビや映画、DVDと連動したメディアミックスのプロモーションは活性化しているが、書籍・雑誌市場全体の底上げには至っていない。携帯電話を使った電子出版が新たな市場を形成しはじめており注目される。民間カルチャーセンターでは、中高年層の旺盛な学習意欲の受け皿となるべく大手の大規模リニューアルが進んでいる。「JTBカルチャーサロン」のように、旅行と生涯学習・交流事業を組み合わせようとする動きも本格化してきた。


③娯楽部門
 平成17年の娯楽部門市場は53兆9,490億円で、前年比マイナス1.5%の縮小となった。
 ゲームセンターおよびテレビゲームの売上げは好調である。ゲームセンターは、ショッピングセンター立地店の増加と好業績が続き、売上げは引き続き増加。中小・不採算店の淘汰で減少が続いてきたゲーム機設置台数は、店舗大型化により増加に転じ、業界大手は軒並み好業績をあげている。プライズゲームの豊富な品揃え、シールプリント機のグレードアップ、メダルゲームコーナーの拡充等により、ファミリー客や女性層の利用が定着している。
 テレビゲームは、「ニンテンドーDS」「プレイステーションポータブル」などハードは好調だったが、ソフトの売上げは伸び悩んでいる。徹底的に“遊び”にこだわる携帯機のシェアは大きく拡大。ソフト『脳を鍛える大人のトレーニング』はいわゆる“脳トレブーム”を巻き起こし、大人のゲームファンを拡大した。平成18年内には次世代機が出揃い、新たなハード競争の行方が注目される。
 全部門中最大の市場規模を持つパチンコ業界は、前年比2.5%の減となった。店舗数の急速な減少と、パチンコに対するパチスロの伸びが続いている。企業間格差はますます拡大しており、中小店の淘汰が進む一方、マルハン・ダイナムの大手2ホールはともに売上高1兆円を突破して、なお成長をつづけている。
 公営ギャンブルも軒並み減少となり、ギャンブル系レジャーは全般に苦戦を強いられているが、そうした中で「宝くじ」の売上げは引き続き堅調で、1兆1,000億円を突破した。 外食は底打ち感が強まっている。安全・安心・健康を前面に出して価格を引き上げる動きが顕著になった。中食(なかしょく)市場も需要を拡大している。外食チェーンから介護ビジネスに進出するなどの先駆的な動きも注目される。


④観光・行楽部門
 平成17年の観光・行楽部門市場は10兆6,860億円(前年比1.3%増)と、4部門中唯一増加した。旅行業、国内航空、ホテルは引き続き堅調に推移。訪日外国人旅行者の増加も続いている。
 旅行業では海外旅行需要の回復が顕著であり、旅行者数、取扱額ともに前年を上回った。テーマが明確なパッケージ旅行は、お金も時間もゆとりのある中高年層に支持されている。国内旅行では、「愛・地球博」が開催され、名古屋・中部方面の旅行が大きく伸びた。旅行形態の多様化、旅行時期の分散化がますます進んできている。企業間の競争激化にともない、販路拡大や補強などを目的とする旅行会社の再編が目立つ。インターネットによる旅行電子商取引の市場規模も大きく伸びた。
 宿泊施設では、団塊の世代を意識したホテルの新規出店や改装ラッシュがみられる。都市部の外資系高級ホテルは高い稼働率を維持している。旅館は落ち込みが大きいが、部屋数をしぼって手厚いサービスを売りにする高級旅館は引き続き堅調である。
 遊園地・テーマパーク市場は近年横ばい傾向が続いている。「東京ディズニーリゾート」は、2年連続でわずかながらも入場者数を減らした。一方「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」は、イベントに力を入れて近隣商圏からの集客を図り、目標を上回る831万人の入場者を記録した。北九州の「スペースワールド」を加森観光が買収したことも話題になった。様々なタイプの温浴系施設が登場し、いずれも好調である。
 乗用車は、海外市場が大きく伸びているのに対し、国内市場は低迷が続いている。そうした中で軽自動車、いわゆる「軽カー」の販売台数は過去最高を記録した。軽でも室内空間は比較的ゆったりとしており、スタイルや内装、使用年数も改善されている。自動車はステータスシンボルとしての意味が薄まって単なる移動手段になりつつあるが、中高年層には一部の高級輸入車がよく売れており、自動車好きの底堅い市場を形成している。


4.すすむ余暇の「シニア化」
 これまで随所で触れてきたように、余暇分野においても「シニア化」の影響が顕著になっている。実際に、「レジャー白書」で定点観測している91種目の余暇活動でも、シニア化は急速に進みつつある。調査結果データを分析したところ、参加人口のうち50歳以上が50%以上を占める「シニア化種目」は現在21種目。45%以上の「シニア化種目予備軍」の10種目を合わせると31種目となり、これは調査対象全91種目の3分の1にあたる(図表4)。こうしたシニア化は特に趣味・創作部門で進んでいるようだ。ちなみに10年前の1997年時点では、「シニア化種目」が10種目、「シニア化種目予備軍」が5種目であるから、この10年で余暇活動のシニア化が急速に進んだことがわかる。
 わが国の余暇も、すでにシニアが大きな部分を占めている。「余暇=若者」というかつての余暇活動イメージはもはや通用しない。同時に、「高齢者=介護」というイメージも元気なシニアの実態に即して修正を要する時代となっている。
 本白書では、こうしたシニア化の潮流とともに注目されている団塊世代の大量退職、いわゆる「2007年問題」をテーマとする特別レポートをとりまとめ、これから10年の余暇・旅行の動向や、余暇活動参加人口の将来予測結果などを紹介している。あわせてご参照いただければ幸いである。

図表4