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■「中央調査報(No.590)」より

 ■ 地震に対する“不安者層”は減少
           -時事通信社の「地震に関する世論調査」結果から-

第一生命経済研究所  松田 茂樹    

 戦後の震災では最大の被害をもたらした阪神大震災以降、ここ3年の間だけでも、2003年の宮城県沖地震、十勝沖地震、2004年の新潟県中越地震、そして昨年2005年には宮城県南部地震と大きな地震が起きている。時事通信社では、9月7日~10日の4日間、昨年に続き、「地震に関する世論調査」を行った。調査は、全国から無作為抽出した20歳以上の男女2,000人を対象に、個別面接聴取法で実施し、有効回収数は1,422人だった。なお、前回調査は2005年9月に実施された。


1.大地震への不安感
        -不安者層が減少-

 「自分の住んでいる地域で、大地震が近く起きるのではないかという不安を感じているか」という質問に対し、「強く感じている」と答えた人の割合は20.6%(前回27.8%)、「多少感じている」は48.0%(同47.4%)だった。これらの合計、いわば“不安者層”は68.6%と前回の75.2%より6.6ポイント減少した。2001年以降、これら“不安者層”は大幅に増え続けていたが、今回減少したのは注目すべき点である。(図1)

図1


 これを詳しくみると、不安を「多少感じている」程度の人の割合が0.6ポイントの増加であるのに対し、「強く感じている」人は7.2ポイント減少している。時系列の観点からは、阪神大震災翌年の96年以降、“不安者層”は下降し、98年以降は半数前後で推移していた。しかし、宮城県で地震が続いた03年9月調査では再び6割半ばにまで上昇した(なお、2003年9月に「十勝沖地震」が発生しているが、調査はそれ以前に行われた為、増加の要因とはいえない)。そして昨年は、前年の新潟県中越地震から約半年後の2005年3月の福岡県西方沖、さらに8月には宮城県南部と大きな地震が相次いだためか、“不安者層”は7割半ばに上った。このように、大地震に対する“不安者層”は98年以降増加傾向にあったが、今回再び低下し、阪神大震災直後の95年2月調査とほぼ同じ割合となった。
 次に、“不安者層”について地域別にみると、「東海」が最も多く85.8%(前回83.7%)、次いで「京浜」が81.3%(同84.9%)で2位、3位は「四国」77.3%(同78.0%)、4位は「関東」75.1%(同75.7%)だった。これらの地域は順位に変動があるものの、昨年との比較では、数値にあまり変化がみられない。また今回は、前回よりも10~20ポイント以上と大幅に減少した地域が目立った。中国(24.5ポイント減)、東北(23.3ポイント減)、九州(15.6ポイント減)、阪神(13.4ポイント減)がそれである。(表1-1)(表1-2は参考)

表1-1
表1-2


2.地震発生時の心配事
        -建物倒壊への心配がトップ-

 「仮に、あなたが住んでいる地域で地震が発生した場合、どんなことが心配か」と質問をしたところ(複数回答)、「建物や塀の倒壊」が64.4%(前回67.8%)と最も多く、次いで「火災の発生」57.0%(同55.0%)、「食料や飲料水の確保」51.5%(同48.5%)の順であった。グラフ(図2)では3回分しかデータを載せていないが、「食料や飲料水」に対する心配は、2001年以前の調査では半数を超えていたのだが、ここ2回の調査では5割を切っており、今回、再び5割台に戻った。
 以下は全体の5割を下回り、「医療体制の確保」39.8%(同33.0%)、「ガスなどの危険物の爆発」31.0%(同28.8%)、「通信網の断絶」29.5%(同29.7%)、「情報や警報の伝達の遅れ」26.1%(同23.9%)、「道路、橋、堤防などの被害」23.1%(同21.5%)などと続いている。(図2)

図2


 特に着目すべき上位2項目の動向については、それまでトップ項目であった「火災の発生」が、昨年5割半ばに落ち込み、「建物や塀の倒壊」と順位が入れ替わったのだが、今回もこの傾向は変わらなかった。(図3)
 そもそも「火災の発生」に対する心配は、阪神大震災で火災による延焼被害が多かったためであろうか、翌年の96年1月調査では、7割半ばであった。その後、下降はしたものの、6割台で推移しトップを保っていた。しかし、最近の震災被害では、建物の構造面での問題が取り上げられている。その影響もあってか、昨年調査では「建物や塀の倒壊」に対する心配が7割近くに上った。(図3)
 その他、地域別にみて特徴的だったのは、中国で「土砂くずれ」が30.0%、北海道で「津波の襲来」が26.1%挙げられた点である。(表2)

図3

表2


3.地震への対策や準備
 「地震に備えて対策や準備をしているか」という質問(複数回答)に対しては、「していない、わからない」が46.3%と前回の49.4%を約3ポイント下回った。99年6月調査より同様の質問をしており、「していない、わからない」が全体の半数を切ったのは前回調査が初めてであったが、今回も低下し続けている。このまま、地震対策・準備に対する人々の関心は薄れていくのだろうか。(図4)
 これを都市規模別にみると、大地震への不安者層が半数を切った2000年8月(図1参照)の調査では、“大都市”44.8%、“その他の市”52.9%、“郡・町村”73.8%であり、大都市と郡・町村の差は3割程度開いていた。しかし、その後、差は縮小していき、今回調査では“大都市”40.8%、“その他の市”47.6%、“郡・町村”52.0%と、大都市と郡・町村の差は11.2ポイントまで縮まった。
 具体的な対策・準備としては、全体で「避難場所の確認」28.1%(前回27.7%)、次いで「食料品や医薬品などの用意」27.6%(同22.4%)が多いという傾向はこれまでと同じである。

図4


4.地震予知研究強化に対しては消極的
 「地震の予知は難しいので、そのための研究に力を入れるよりは、地震が発生した後の被害を最小限に抑える研究に重点を置いた方がよい」との意見に賛成か、反対かと質問をした。まず、「反対」8.5%(前回9.9%)と「どちらかといえば反対」11.5%(同9.5%)を合わせた、いわば“地震予知研究積極層”は20.0%(同19.4%)であり、前回とほぼ同じ割合であった。また、「賛成」40.1%(同38.7%)と「どちらかといえば賛成」27.3%(同28.7%)を合わせた“地震予知研究消極層”は67.4%(同67.4%)と、これも前回と同じであった。従って、前回に引き続き、国民の7割近くが地震予知の研究に対しては消極的であるという傾向は変わっていない。
 この点、地域別にみると、北海道においては、“地震予知研究積極層”が増加傾向にあり、今回は2割を超えた。北海道では、「地震予知」についての関心が比較的高いようである。他に大きな変化がみられたのは阪神で、“地震予知研究消極層”が前回より15.5ポイント低下した反面、“地震予知研究積極層”が6.7ポイント増加した。(表3)
 ただ、事前に地震の発生を正確に予知することが困難とされている以上、全体としては、被害を最小限に抑えられるような研究あるいは対策が圧倒的に期待されているといえる。

表3

(調査部 川島 優美子)