中央調査報

トップページ  >  中央調査報   >  以前の調査  >  2007年の展望-日本の政治 -天下分け目の参院選-
■「中央調査報(No.591)」より

 ■ 2007年の展望-日本の政治
           -天下分け目の参院選-

時事通信社 政治部次長  柵木 真也   

 2007年の日本政治の最大のイベントは夏の参院選。自民、公明両党が過半数を維持できるかが焦点だ。与党が大敗すれば、安倍晋三首相の退陣に直結するのは必至で、早期の衆院解散・総選挙や政界再編につながる可能性もはらんでいる。逆に民主党が敗北を喫すれば、同党の瓦解を招きかねないとあって、まさに「天下分け目」の政治決戦となる。


◇ 与党の過半数維持が焦点
 参院選は、通常国会の会期延長がなければ、「7月5日-同22日投票」となる見通しだ。昨年12月29日現在の調査では、選挙区、比例代表合わせて200人超が立候補を準備している。参院定数は選挙区146、比例代表96の計242で、議員の任期は6年。3年ごとに半数(選挙区73、比例48)が改選される。
 自公両党の非改選議席は計57。与党の過半数確保には65 議席が必要となる。4月の福島、沖縄両選挙区補欠選挙の結果によってはハードルが数議席下がるものの、「小泉ブーム」で自民党が圧勝した01年当選組が改選期を迎えるため同党の議席減は避けられない情勢だ。
 同党は「小泉純一郎総裁-安倍幹事長」で戦った前回参院選では、49議席しか獲得できなかった。このことを考えると、与党の過半数維持というハードルはかなり高い。首相自身も「勝つのはそう簡単ではない」と認めている。
 統一地方選と参院選が重なる年は、自民党は敗北するというジンクスもある。「統一地方選で地方議員が疲弊してしまう」(自民党筋)ためとみられている。さらに「05年衆院選で与党に勝たせすぎたと思っている有権者の多くは、参院選では野党に投票するのではないか」(同)との見方もある。

 「(与党が過半数を割れば)法案が1本も通らず、安倍内閣も自民党も完全に死に体だ。国民が黙っておらず、衆院を解散して民意を問えということになる」。参院選を指揮する自民党の青木幹雄参院議員会長はこう繰り返す。危機感をあおることで党内を引き締める狙いもあるが、与党が大敗すればこうした展開に追い込まれる可能性は高い。
 首相指名は衆院の議決が優先されるため、参院選で与党が過半数割れしても、野党が政権を奪取できるわけではない。しかし、政府・与党提出法案の多くは参院で否決され、衆院で再議決されない限り成立しない。衆院で与党は再議決に必要な3分の2以上の議席を確保しているとはいえ、「すべての法案を再議決することなど困難」(与党筋)との見方が常識的だ。
 野党側は早期の衆院解散・総選挙を求め、対決姿勢を強めるとみられ、国政が渋滞する可能性がある。その場合、自民党は政権基盤の安定化を目指して野党の取り込みに動く。自民離党組でつくる国民新党や民主党の保守系議員がターゲットにされ、政界再編含みの展開になりそうだ。それでも事態を打開できなければ、衆院解散に突き進むとみられる。

 自民党内では「与党が過半数を割ると国政運営はまひし、ひいては政権交代を余儀なくされる」(山崎拓前副総裁)と、安倍首相は退陣せざるを得ないとの見方がある。参院選の「顔」と期待されて総裁に選出されただけに、選挙に敗れればお払い箱というわけだ。首相交代の場合、小泉純一郎前首相の再登板や麻生太郎外相、福田康夫元官房長官の就任説などが取りざたされている。

 一方、民主党の小沢一郎代表は参院選について「野党で過半数を取らない限り、民主党の将来は非常に難しい状況だ」と語る。
 小沢氏の戦略は、参院選での与野党逆転を突破口に、早期の衆院解散に追い込み、政権交代を実現することだ。参院選で与党が過半数を維持すれば安倍政権長期化の芽が出てくるだけに、民主党内でも「民主党に見切りを付ける保守系議員が出てくるのではないか」(党関係者)との声が聞かれる。参院選が「民主党にとっても、本当に生きるか死ぬかの戦いになる」(小沢代表)のは間違いなさそうだ。


◇ 1人区が勝敗左右
 「ベストの候補を執行部が厳選する」。首相は昨年12月上旬、当選が危ぶまれる参院選候補者を差し替える姿勢を明確にした。念頭にあるのが29ある改選数1の1人区。06年6月の公職選挙法の改正による定数是正で2つ増え、比重がさらに増した。
 前回の参院選で自民党は49議席にとどまり、民主党の50議席に競り負けた。この際の1人区での自民党の戦績は14勝13敗で、結果に大きく影響した。1人区の勝敗は世論動向に左右される傾向があり、宇野内閣当時の1989年には消費税導入などで世論の反発を受け、自民党は3議席しか取れなかった。同党執行部が1人区に神経を尖らせるのはこのためだ。
 ただ、参院選の候補者選考は、これまで参院執行部が行ってきただけに、候補者の差し替え方針には青木参院議員会長が反発している。こうした主導権争いの背景には、集票の照準を無党派層に置くのか、それとも従来の組織票に置くのかをめぐる戦略上のずれがあり、党の結束に影を落としている。
 一方、民主党は1人区で「15議席」以上の獲得を目指す。「野党が対立していては自民党を利する」(小沢代表)と野党共闘も推進。秋田、富山の2選挙区では、社民党との選挙協力を実現させた。


◇ 改憲の争点化狙う自民
 「わたしの内閣として憲法改正を目指したいというのは当然、参院選でも訴えていきたい」。安倍首相は1月4日の年頭記者会見で、改憲を参院選の争点にしたい考えを表明した。「安倍カラー」を鮮明にすることで、昨年暮れの行政改革担当相や政府税制調査会長の辞任で打撃を受けた政権を立て直すのが狙いだ。
 参院選で改憲を訴えることで、この問題で賛否両論を抱える民主党を揺さぶる思惑もあるとみられる。与党としては、改憲の手続きを定める国民投票法案を通常国会で成立させ、改憲論議を高めたい考えだ。
 さらに自民党は、①社会保険庁の解体、非公務員化②天下り規制など公務員制度改革③教員免許更新制導入など教育改革―を参院選公約の3本柱に掲げる方針だ。社保庁の不祥事などで世論の批判を浴びた官公労に矛先を向けることで、官公労を支持団体とする民主党をけん制するのが狙いだ。さらに、無党派層の支持も得られるとの計算もある。
 また、同党は落選した郵政造反組の復党について参院選後に先送りする方針だ。造反組復党は、参院選を控えて組織力のある造反組の協力を得るのが狙いだが、逆に世論の離反を招いたことから軌道修正した。

 安倍政権は発足直後こそ、中国や韓国訪問で「ロケットスタート」(中川秀直自民党幹事長)を切った。しかし、造反組の復党のほか政府主催のタウンミーティングでのやらせ質問などで、報道各社の内閣支持率が軒並み急落。その後も政府税調会長と行革担当相がスキャンダルで辞任に追い込まれた。
 今年に入ってからも、福岡県警の家宅捜索を受けた企業の関連団体による民間非営利団体=NPO=法人申請をめぐり、松岡利勝農水相の秘書が内閣府に審査状況について照会した問題が表面化した。首相は「農水相からは内閣府に対し、働き掛けや要請を行った事実はないと報告を受けている」と沈静化を図っている。
 ただ、与党内からも「入閣させる際に身辺調査もしていなかったのか」と、首相人事の「脇の甘さ」を指摘する声が漏れている。事実、その後も閣僚の資金管理団体が政治資金収支報告書に高額の事務所費を計上していた問題が表面化した。


◇ 生活重視で対抗-民主
 一方、民主党は「安倍内閣は末期的症状を呈し始めている」(小沢代表)と指摘。通常国会では佐田玄一郎前行革担当相の政治資金疑惑や農水相問題などを厳しく追及していく方針だ。さらに、参院選では、格差や年金、消費税の問題など「国民の生活に身近な問題」(同)を中心に訴える考えだ。また、自民党の基盤を崩すために農林漁業政策も重視する。
 改憲問題の争点化には消極姿勢を示している。保守系や旧社会党系が同居する民主党は、改憲問題ではなかなか一枚岩になれないという事情が背景にある。また、通常国会では政府・与党との対決姿勢を強める考えで、国民投票法案の通常国会成立は困難とみられる。

◇ くすぶる衆参同日選の可能性
 「同日選は現在のところ全く考えていない」。首相は衆参同日選挙の可能性について、年頭の時点では否定した。同日選は、参院での与党過半数割れを回避するため同時に衆院解散・総選挙に打って出るという奇策だ。
 しかし、衆院で与党が過半数を割り込めば、政権交代につながりかねないリスクもある。与党内では「与党が衆院で3 分の2 以上の議席を持っている状況で、首相が衆参同日選に踏み切るとは思えない」との見方が一般的だ。自民党の中川幹事長は「参院選に勝つための同日選は大義がない」と否定。連立を組む公明党も「百パーセントない」(首脳)と反対姿勢を明確にしている。
 首相が「現在のところ」という前提条件を付けて同日選の可能性に含みを残したのも、政局の主導権確保が狙いとみられる。事実、野党側には「同日選を想定して(衆院選の公認候補者も)早く決めるべきだ」(民主党幹部)と警戒する声が出ている。
 与党側にも「内閣支持率が低下するほどダブル選の可能性が高まる」(自民ベテラン議員)との指摘があり、同日選をめぐる論議は当面くすぶりそうだ。
 また、自民党内には「内閣支持率が20%台まで落ち込めば、(参院選前に)首相の首をすげ替えることだってあり得る」(自民党筋)との声がある。
 懸念されるのが政府・与党のスキャンダルだ。与党内では「さらにスキャンダルが明らかになれば、安倍政権はもたないのではないか」との見方も聞かれる。さらに、野党側には「安倍政権(の支持率)が悪いまま(参院選まで)ぐずぐずいってくれるのが一番いい」(民主党幹部)との声がある。

◇ ロシア外交で政権浮揚の見方
 首相は政権浮揚を目指し、外交面でも得点を狙うとみられる。小泉前首相の場合、2回の北朝鮮訪問を最大限に利用したが、北朝鮮は現在、核問題に関する6カ国協議で「日本外し」の姿勢を鮮明にしており、対北外交は当面、北朝鮮の出方を見るしかないのが実情で、首相が解決に意欲を示す拉致問題で劇的な進展を期待できる状況にはないとみられている。
 首相としては、中韓との関係改善をさらに加速させ、実績を挙げたい考えだ。このため与党内では「在任中の首相の靖国神社参拝はない」(自民党筋)との見方が出ている。また、対ロシア外交で「サプライズを狙うのではないか」との指摘もある。昨年12月には麻生外相が北方4島を総面積で2分する案に言及したことも憶測を呼ぶ要因となっている。(了)