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■「中央調査報(No.598)」より

  「レジャー白書2007」に見るわが国の余暇の現状


社会経済生産本部 余暇創研  柳田 尚也  


 財団法人社会経済生産性本部 余暇創研では、「レジャー白書2007 ~余暇需要の変化と『ニューツーリズム』」を7月にとりまとめた。本白書は、平成18年1年間のわが国における余暇の実態を、需要サイド・供給サイド双方の視点から総合的にとりまとめたものであり、今回で通算第31号目となる。以下では、本白書の内容をもとに、わが国余暇の現状と今後の方向性等について簡単ご紹介しよう。


1.日本人の余暇をめぐる環境
 まずはじめに日本人の余暇をめぐる環境がどのような状況にあるかを、時間面・経済面の基礎的なデータをもとに見てみよう。


時間的ゆとり -いぜん厳しい正社員の時間環境
 平成18年の年間総実労働時間(規模30人以上)は 1,842時間で、前年(平成17年)に対し 13時間の増加となった(図表1)。ここ10年の総実労働時間の短縮は、パートタイマーや派遣労働者など短時間労働者比率の上昇などによる“見かけ上の時短”という側面が強い。実際、正社員の総実労働時間はこの10年間ほとんど減っておらず、微増の傾向すらうかがわれる。年次有給休暇の取得率もいぜん5割を切った状態で低迷しており、企業規模による休暇格差も大きい。正社員の時間的ゆとりの確保は、わが国にとっていぜん大きな課題である。



図表1



経済的ゆとり -伸び悩む個人消費
 次に経済的なゆとりについて「家計調査報告」(総務省)をもとに見てみよう。平成18年の全国・勤労者世帯の実収入は対前年比 0.5%増(名目)の 525,254円、可処分所得は同じく 0.3%増(名目)の 441,066円となり、企業業績の回復が家計収入にも反映してきている。しかしながら、消費支出は 320,026円と前年(17年)より 2.9%の減少となり、個人消費はいまだ回復局面に至っていない。余暇と関係の深い「教養娯楽」も 2.9%のマイナスであった。ただし19年に入ってからは、個人消費も徐々に回復に向かっているようである。

2.平成18年の余暇活動
 -“Wii”人気などでTVゲーム回復/手軽なレジャーが堅調-

 レジャー白書では、毎年「スポーツ」「趣味・創作」「娯楽」「観光・行楽」の4部門・計91種目の余暇活動について、国民の参加・活動実態を調べている。上でも見たように、個人消費の回復が遅れる中、平成18年も余暇活動参加人口の全般的な回復傾向は見られなかった。
 91種目のうち参加人口の多い上位20種目は、わが国の余暇活動を代表するいわば「国民的レジャー」ともいうべきものである(図表2)。例年上位種目の変動は少なく、平成18年も「外食(日常的なものを除く)」「国内観光旅行(避暑、避寒、 温泉など)」「ドライブ」の上位3位の順位に変動はなかった。しかしながら、「宝くじ」が第4位と初めて上位5位にくいこんだ。


図表2



 上位20位の種目の中でとりわけ注目されたのが、「テレビゲーム」。任天堂WiiおよびDSの大ヒットは記憶に新しいところだが、参加人口は前年(17年) から 350万人の大幅増となった。他に参加人口を伸ばした種目は「外食」「園芸・庭いじり」「トランプ」「ジョギング・マラソン」などであり、「宝くじ」も含めると、日常的で比較的単価が安く、手軽なタイプのレジャーが支持を集めた形だ。しかしながら、同じ屋内型レジャーでも「パソコン」は3年連続で参加人口を落とし、頭打ち傾向がはっきりしてきた。また「ビデオの鑑賞(レンタルを含む)」人口も減少が続いている。
 観光・行楽系のレジャーは、「国内観光」「ドライブ」「動物園、植物園、水族館、博物館」「遊園地」「帰省旅行」など、いずれも参加人口が伸び悩んだ。平成17年に「愛・地球博」効果で伸びた「催し物」は、再び上位20位から姿を消した。「都市型レジャー」といわれる「カラオケ」「映画(テレビを除く)」「バー、スナック、パブ、飲み屋」「ボウリング」などは店舗間の好・不調差が激しい業界であるが、全体の参加人口ではいずれも伸び悩んだ。  個別には伸びている種目も見られるものの、余暇活動の参加人口は全般的な伸び悩みの状況を脱していない。大きな背景としては、個人消費の低迷や少子・高齢化の進行などが考えられるが、同時に、余暇の多様化・個人化の進行によって、調査項目でとらえきれない多様な余暇活動も増えているものと思われ、こうした部分にもあらためて注目していく必要がある。




3.余暇関連産業・市場の動向  -余暇市場は 80兆円割れ-
 次に、供給サイドにおける余暇動向として、4部門78業種を対象とする1年間の余暇産業動向の調査結果、および余暇市場規模推計結果をご紹介しよう。
 平成18年の余暇市場規模は 78兆9,210億円で、前年(平成17年)の 80兆1,710億円から前年比 1.6%の減少となった。要因としては市場規模の大きいパチンコの減少をはじめギャンブル系の減少によるところが大きく、ギャンブル系を除いた市場規模は横ばいであった。
 長期的に見ると、余暇市場は平成8年の90兆円台をピークに縮小傾向が続いており、今回は平成2年以来16年ぶりに80兆円台を割り込む結果となった。既存の余暇市場は、この10年で約10兆円減少したことになる。
 余暇関連産業では好調な業界・企業とそれ以外の“二極化”の傾向が引き続き目立っているが、事業所の淘汰が進んだ結果、経営体質の改善が目立つ業界・事業所も見られ始めている。


図表3



 以下、4つの部門別に平成18年の余暇市場動向の概要を紹介する。

◆スポーツ部門
 スポーツ部門は前年比横ばいとなった。全般的に底打ち感は強まっており、市場は徐々に活性化してきた。
 用品市場ではゴルフ用品が回復傾向にある。スキー・スノーボード用品もかつての極端な需給ギャップは解消されてきた。登山・キャンプ用品では、アウトドアテイストのファッションとしてのウエア・シューズ分野が人気となった。健康ブームの高まりを受け、フィットネスウエアやシューズも堅調である。
 落ち込みの大きかったスポーツ・サービス市場にも回復の兆しがみえる。中でも好調が続くフィットネスクラブは、過去最高の市場規模を更新した。小規模サーキットトレーニング施設の新設が急増し、既存店も業績が回復している。テニススクールは、一時のインドアブームによる伸びは沈静化したもののプラス成長を続けており、会員継続率も向上している。ゴルフ場の入場者数も戻ってきているが、プレー料金が下落しているためマイナス成長となった。ゴルフ練習場も市場規模は縮小したが、施設淘汰が進んで1施設当たりの利用者数・売上高はともに増加傾向にある。スキー場の落ち込みは、いぜん止まっていない。


◆趣味創作部門
 趣味・創作部門は前年比 1.4%のマイナスとなった。カメラ、液晶テレビ、音楽配信、映画が好調を継続している。
 手軽になったデジタル一眼レフカメラの伸びが大きい。中高年層の人気を集め、家電メーカーの参入などもあって市場が活性化している。大画面液晶テレビは価格を大幅に下げ、買い換え需要を促進している。CDはマイナス成長を続けているが、その一方で音楽配信分野が大きく伸びており、音楽コンテンツ市場自体は拡大基調にある。音響機器では、デジタルオーディオプレーヤーの動きが目立った。
 映画は、21年ぶりに邦画の興行収入が洋画を上回ったことで話題を呼んだ。大ヒット作こそなかったものの、個々の作品が全般的に好調であった。ビデオソフトはレンタルは堅調であるが、ヒット作が小粒のためセルの売上げは伸びなかった。
 書籍は、『ハリー・ポッター』をはじめミリオンセラーが複数出たことで、売上げを伸ばした。一方雑誌は読者離れが顕著であり、過去最大の落ち込みとなった。


◆娯楽部門
 娯楽部門は前年比 2.1%のマイナスとなった。パチンコの落ち込みが大きい。テレビゲームが大きく伸び、カラオケや外食も底打ち感が強まった。
 全業界で最大の市場規模を誇るパチンコ市場は、3年連続の減少となった。ホールの淘汰による2極化が顕著に進んでいる。射幸性の高いパチスロ4号機の完全撤去は、ホールの売上に大きな打撃となっている。テレビゲームは、「ニンテンドーDS」がソフト・ハードともに好調であり、次世代機「Wii」も18年末の発売と同時に一気に人気に火がつき、売上げを大きく拡大した。ゲームセンターも業界大手が好業績を維持しており、市場は成長している。
 公営ギャンブルは、全体では15年連続の減少となり、市場縮小に歯止めがかからない。射幸性のある娯楽の中で唯一右肩上がりを続けてきた宝くじも、売上高はついにマイナスに転じた。
 外食は近年底打ち感が強まってきており、市場規模は久々にプラスに転じた。カラオケボックス(ルーム)は、施設の淘汰が進んで1部屋当たりの売上げが上昇しており、市場規模は拡大。飲食の拡充や複合化、高級化など、新たな路線を模索する動きが顕著である。


◆観光・行楽部門
 観光・行楽部門は前年比 0.5%のプラスであった。旅行業、ホテル、会員制リゾートクラブなどが堅調であった。
 旅行業は、国内旅行が前年並みであったが、海外旅行が大きく伸びて取扱額を増やした。ただし、燃油特別付加運賃(燃油サーチャージ)が旅行代金に付加された影響が大きく、実質的な収益率は伸びていない。
 ホテル業界では、外資系の高級ホテルが都市部に続々と進出しており、業績は堅調である。高収益を見込んだ投資も盛んであり、ブランド再構築の動きも目立つ。一方、旅館経営は依然として厳しい。倒産事例は数多く、旅館再生ビジネスが花盛りといった様相である。会員制リゾートクラブも、施設利用は上向いている。会員権販売も比較的好調であり、各社とも異なる戦略で事業を積極的に拡大している。
 遊園地・テーマパークは、淘汰を生き残った施設の経営は安定してきた。「東京ディズニーリゾート」と「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」が揃って値上げして話題となったが、業績はともに好調である。
 乗用車は、海外市場が大きく伸びているのに対し、国内市場は低迷が続いている。メーカー各社の業績は好調であるが、ディーラーの激しい販売競争が続いている。高級輸入車も、厳しい中で売れ行きを維持している。




4.余暇の需要変化と「ニューツーリズム」
 近年、エコツーリズムやグリーンツーリズム、産業観光など、「ニューツーリズム」とよばれるテーマ性の強い旅が関心を集めている。今回の白書では、このニューツーリズムに関連する新しい「旅の価値観」についての調査を行った。



図表4



 図表4に示すように、「1. テーマ志向」「2. 交流志向」「3. 情報積極性」「4. 体験志向」「5. 滞在志向」「6. オフ志向」の6つの視点についてA・Bの対立軸を設定。どちらかといえば新しい旅の価値観を反映していると思われる項目を「Aに近い」方に配して、どちらに考え方が近いかをたずねた。
 結果、「Aに近い」という回答が過半数を超す項目が6問中4問となり、「新しい旅の価値観」が定着してきていることがわかる。「テーマ志向」(65.3%)や「滞在志向」(60.0%)には6割以上の人が共鳴している。「土地の人との交流」を求める人は約4割であるが、対立軸として立てた「仲間との交流」への志向も根強い中で、かなりの高率であるといえよう。
 「団体旅行から個人旅行へ」「顧客ニーズの多様化」「テーマ性の高まり」といった人々の価値観・ニーズの変化に対応する新しい旅のあり方として、「ニューツーリズム」の今後の活性化が期待される。