中央調査報

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■「中央調査報(No.599)」より

  都道府県・大都市による住民意識調査の最近の実施状況


国士舘大学 政経学部  山田 茂  


1.はじめに
 住民意識の定量的な把握の必要性に対する認識が地方自治体当局の間で最近高まっており、この傾向は政令指定都市を中心とする大都市が所在する地域の自治体において著しい。また、いくつかの自治体では広聴活動の対象者を応募者から選ぶ方式(モニター方式)から無作為抽出によって選ぶ方式への切替えや行政活動の評価に住民意識調査の結果を直接利用しようとする試みもみられるようになった。
 一方、地方自治体による住民意識調査の実地調査においても対象者の協力が得にくくなっている。特に実地調査を民間機関に委託して実施される面接調査・留置調査において困難度が増大し、回収率が低下しており、この傾向は大都市圏において顕著である。回収率が低い場合には、調査結果が持つ住民意識に関する情報としての価値は、当然小さくなる。さらに、地方自治体の財政難から実施費用削減の要請も強くなっている。

 本稿では、このような環境にある都道府県・政令指定都市による住民意識調査のうち主に2000年以降に実施されたものの状況を、実地調査の円滑な実施という点に重点をおいて紹介する。  ここで本稿において考察の対象とする調査の範囲に触れておきたい。以下での考察では、対象者の協力確保に比較的問題が少ない自発的な応募者の中から対象者を選ぶ方式のものは除外し、対象者を一般の成人住民から無作為に抽出する方式の調査に限定する。また、調査内容と対象者の範囲の共通性が低く、不定期実施の場合が多い福祉・防災・環境・教育などの個別分野の担当部局による調査も除外し、広聴部門・企画部門が実施した調査に限定する。なお、考察の対象とする各調査の正式名称は「世論調査」「意識調査」「アンケート」「満足度調査」「ニーズ調査」「課題調査」など多様なものが使用されている。

 つぎに住民意識調査の実施状況を把握するための資料源について触れておこう。数年前までは調査実施機関による回答を整理して掲載した内閣府『世論調査年鑑』(質問数が10以上で、計画対象者数が500人以上の調査が対象)が全国的な状況を把握するためのほぼ唯一の資料源であった。その発行は、実施年度の翌々年度の5月頃であるので、利用可能になる時期は実地調査から概ね13ヶ月~25ヶ月後となる。
 さらに、この年鑑の掲載内容にも利用上制約になる点がある。調査実施機関への問い合わせには、対象者から外国籍住民除外の有無、実地調査の日数、郵送調査における返送先(民間の委託先か否か)・督促、面接調査・留置調査における事前の依頼状送付などが含まれていない。
 また収集された個別調査に関する情報のすべてがこの年鑑に掲載されている訳ではない。回収率が一定の水準(2005年度実施分では50%)以上の一部の個別調査(同じく都道府県による実施総数 167件のうち 78件、市・区による 787件のうち 316件)についてだけ具体的な調査方法が掲載されている。このうち回収数が500 人以上の調査(同じく都道府県による 78件のうち 24件、市・区による 316件のうち 39件)の一部については質問文・個別項目の調査結果なども掲載されているが、上記以外の個別調査については対象者の年齢の上限・下限、質問文や調査結果に関する具体的な情報は掲載されていない。そのため主要都市による調査であっても、回収率が50%未満のためか掲載されていない場合がある(例 神戸市・広島市による2005年実施分)。
 このほか把握した調査全体に関する情報を集約した集計表にも、区分が広すぎるために利用しにくい点がある(例 計画対象者数が 3000~10000の調査は1 つのカテゴリーに分類されている)。
 したがって、大半の調査については大都市圏所在地域か否か、人口規模がどの程度の市か、といった対象地域の特性、対象者の総数、年齢の上限・下限や回収率の水準などに関する具体的な情報は利用できない。このため数年前までは大半の個別調査について実施方法・回収率・調査結果などの細部を知るためには、調査主体である各自治体に直接問い合わせるか、その所在地の公立図書館などで印刷報告書を閲覧するほかはなかった。  さて、2002年頃からは、都道府県と政令指定都市を含む中規模以上の都市のインターネット・サイトに自らが実施した住民意識調査の結果がメディアへの公表とほぼ同時に収録されるようになった。このようなインターネットによる情報提供の拡大によって地域外の利用者にとって実施情報の検索と結果の入手は飛躍的に容易になった。(表1)は、都道府県・政令指定都市が2000年以降に実施した調査のうち調査主体のサイトに調査結果が収録されているものの件数を示したものである。なお、政令指定都市の大半は2007年に移行した浜松市・新潟市を含めて移行以前からサイトを利用して調査結果を提供しており、ここでは移行以前に実施された調査もカウントに含めた。



表1



 収録された調査の件数は継続的な増加傾向にあり、増加のテンポは政令指定都市が最も速い。3区分の数は政令指定都市所在県および政令指定都市において政令指定都市が所在しない県よりも多くなっている。2005年実施分、2006年実施分については、それぞれ3区分合計で60件近く収録されている。2008 年5 月頃に発行される見込みの『平成19年版 世論調査年鑑』の掲載対象の2006年 4月~2007年 3月実施分も都道府県分36件、政令指定都市分24件の結果が実施主体のサイトにすでに収録されている(2007年 9月現在)。
 これらのサイトの収録情報は、印刷報告書の全ページが収録されている場合と要約だけの場合がある。大部分のサイトはサイト自体の開設時期以降に実施された調査の結果だけを収録している。2000年以前に実施された調査結果まで収録している例(新潟市は1968年分から、島根県は1996年分から、札幌市は1997年分から、岐阜県は1998年実施分から、東京都・埼玉県・広島県・川崎市は1999年分から収録)は、多くない。

2.都道府県による調査の実施状況
 つぎに都道府県による調査の最近の実施状況を立ち入ってみてみよう。
 まず実施の周期は、毎年1回実施が約30と最も多く、2~5年周期が5県、1年度内に複数回実施が3都道県となっている。複数回実施は、政令指定都市が所在する東京都・北海道・千葉県に限られている。このうち東京都では同一のテーマの調査を毎年実施しているほかに、特定のテーマの調査を数年おきに実施している。
 2005年以降実施分32件(複数回実施の都県は最新分だけに限定)の調査方式をみると、実施経費が高い「面接法」は東京都とその周辺などの6都県に限られており、残りの大部分は経費が安い「郵送法」である。両者の中間と考えられる「留置法」は和歌山・愛媛・島根の3県だけである。また、対象者の協力を得るための方策をみると、調査実施の告知および対象者個人に対する事前の依頼状・督促兼礼状の発送などが増えている。対象者の年齢では、ほとんどが20歳を下限としており、青森・福島・沖縄の3県だけが10代を含めている。外国籍住民を対象者に含めているのは、神奈川・滋賀・大阪・兵庫の4府県である。対象者数は、約3分の2の調査では3000以上で、1500~2500が8件、1500未満が5件である。なお、「郵送法」による調査では他の方式と比べて対象者数が多い。
 つぎに回収率の動向を調査方法別にみてみよう。(表2)は、同一の調査方式による調査を2000年以降毎年実施している都道府県について回収率をみたものである。2000年~2002年の3年間の平均値と2004年~2006年の3年間の平均値の間で比較を行った。両期間の平均値の間の変化が3%以内の場合を「ほぼ同一」とした(2000年~2003年分の結果のうち1年分が入手できなかった4府県については2年分だけの平均値で代用した)。


表2



 16件のうち12件の調査において3%以上低下しており、低下傾向にあるものが多いといえる。行政に対する協力意識の全般的な低下傾向が作用しているのではないかと考えられる。ただし、一部の面接調査ではやや不自然な上昇がみられた。
 他方、調査方式を最近変更した都道府県はかなり多い。2000年以降に実施された変更は合計9件ある(「面接」→「郵送」が5件、「留置」→「郵送」が2件など)。変更のほとんどは、経費の節減と対象者数の増大を目的としたものと考えられる。(表3)には、2000年~2007年の期間に調査方法を変更した11件の調査(政令指定都市による2件を含む)について旧方式の最後の調査と新方式の最初の調査の回収率を対比した。



表3



 ほとんどの場合が、督促などの措置を実施しなければ低い回収率になりやすい郵送法への変更であるので、回収率は大幅に低下している。
 一方、対象者の年齢別の回収率が入手できた調査(長崎県・横浜市・静岡市の2006年実施分など)は少ないものの、いずれも若年層と高齢層の回収率が全体よりもかなり低い傾向が認められる。
 若年層については行政に対する協力意識が一般に低く、不在・転居も多いこと、高齢層については質問の分量が多い郵送法の調査において返送率の低下が生じやすいことなどが理由と考えられる。
 このように年齢層によって回収率の相違が大きいので、住民の年齢構成が異なる地域間では回収率にかなりの差が存在しているのではないかと考えられる。(表4)には、2004年以降実施の調査のうち地域別の回収率が入手できた19件について回収率が最高の地域と最低の地域を示した(同一府県による複数年次の結果が入手できた場合は最新分だけを採用した)。約4分の3の15件の調査において若年層の比率が高い都市的な地域ほど回収率が低くなっている。農村部では、一般に行政活動全般への協力意識が相対的に強い中高年層の比率が高いので、回収率が高くなっていると考えられる。郵送調査では、面接調査・留置調査のように調査員の対応の相違による影響はないので、回収率の地域差は専ら対象者側の要因によるものであろう。なお、上記とは逆に農村部が相対的に低い回収率となった4件は、県域全体についての回収率が郵送調査の中でも特に低いものであった。



表4



 このような回収率の地域差は、全国を調査地域とする面接調査・郵送調査にもみられる。


3.政令指定都市による調査の実施状況
 つぎに、政令指定都市による調査の最近の実施状況をみてみよう。
 調査の実施周期をみると、年度内に1回だけの実施が大半である。札幌と名古屋だけは、1年度内に調査方式の異なる2系列の調査を実施しており、実施回数が多い系列の調査(札幌2回・名古屋7回)にはいずれも「郵送法」が採用されている。対象者の範囲をみると、20歳未満を含めているのは広島(18歳以上)だけである。外国籍住民を対象者に含める調査は川崎以西の都市による調査に多い(12市中8市)。計画対象者は、「郵送法」(2006年実施は20件)では3000以上が大半を占めており、「留置法」(札幌・名古屋)・「面接法」(横浜)ではすべて3000以下である。
 つぎに、調査方式別に2006年実施調査の回収率をみると、「郵送法」では概ね40%台後半~50%台前半に、「留置法」では70%~80%、「面接法」は約75%の水準にある。その都市の所在都道府県が実施した同一方式の調査における回収率と似通った水準の場合が多い。
 ここで同一の調査方式によって継続的に実施されている調査の回収率の動向を、(表2)にもどってみてみよう。8件の調査うち4件において2004年~2006年の回収率が、2000年~2002年と比べて3%以上低下しており、都道府県によるものと同じく回収率が低下した調査が多いといえる。都道府県による調査と同様の事情が作用しているためであろう。
 なお、2006年実施分から「郵送法」への変更が行われた川崎(旧方式は「留置法」)・福岡(同じく「郵送配布・留置回収」)による調査においても、回収率が大幅に低下している(表3)



 以上の考察から、最近実施された住民意識調査の結果には、調査方式・対象地域の特性によってかなりの相違があり、回収率は全般に低下傾向にあることがわかる。
 本稿は、「都道府県・政令指定都市による住民意識調査の最近の実施状況」国士舘大学政経学会『政経論叢』139号(2007年 3月刊)に2007年 9月までに入手した情報を加えて作成したものである。なお、各調査の結果を収録したページへのリンク集を筆者の個人サイト(http://home.t06.itscom.net/ecyamada/jichitai.htm)に設けているので、利用していただければ幸いである。