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■「中央調査報(No.600)」より

  若年層において、辞書よりケータイ
         ―文化庁の「国語に関する世論調査」結果から―


 書けない漢字を調べるときは、若年層において、辞書より携帯電話の漢字変換機能を使用している。数年来続いている日本語ブームに乗り、漢字検定志願者は年々増加してきている中、漢字に対する意識や使い方に変化が出てきていることがうかがえる結果となった。
 文化庁が9月に発表した「平成18年度国語に関する世論調査」の結果から、日本人の日本語の使用状況や意識の実態を検証してみる。国語に関する世論調査は、文化庁が、1995年度(平成7年度)より毎年、今後の国語施策の参考とするため、現代の日本人の国語意識の変化を調べることを目的として行っている。今回は、情報化時代における漢字使用の意識や、慣用句等の使い方などについて調べた。
 調査は、2007年 2月14日~3月11日にかけて、全国16歳以上の男女を対象に、調査員による面接聴取法によって行われ(実施:社団法人 中央調査社)、3,442名を対象に 2,107名から回答を得た。


1.言葉の使い方についての関心
 日常の言葉遣いや話し方、あるいは文章の書き方など、言葉や言葉の使い方について、どの程度関心があるかを尋ねた。「非常に関心がある」(17.9%)と「ある程度関心がある」(59.5%)を合わせた“ 関心がある” 層は 77.4%と8割に迫る。一方、「全く関心がない」(3.3%)、「余り関心がない」(18.9%)を合わせた“ 無関心” 層は 22.2%となっている(図1)。言葉の使い方に対する関心度はかなり高いといえる。




図1




2.言葉遣いで困っていること
 このように、大多数の人にとって“関心がある”言葉の使い方であるが、では、困っていることや気になっていることは何かを尋ねた。
 最も高いのは、「外来語・外国語の意味が分からないことがある」(43.1%)、次いで、「流行語や新しい言葉の意味が分からないことがある」(42.5%)で、4割を超え、半数に迫る。以下、「辞書を引かなければ書けない漢字がたくさんある」、「年の離れた人たちが使っている言葉の意味が分からない」、「読めない漢字にたくさん出合う」、「人に対する話し方が上手ではない」、「正しい文章の書き方がよく分からない」、「新聞を読んでも、難しい言葉が多く意味がよく分からない」、「敬語がうまく使えない」、「送り仮名の付け方が分からないことがある」となっている。
 平成15年度調査と比べ、「外来語・外国語の意味が分からないことがある」「新聞を読んでも、難しい言葉が多く意味がよく分からない」が 3ポイント減である一方、「敬語がうまく使えない」が 4ポイント、「辞書を引かなければ書けない漢字がたくさんある」「正しい文章の書き方がよく分からない」が、それぞれ 3ポイント増であった(図2)。困っていることが「言葉の意味」から敬語、漢字、文章の書き方に移り変わってきたことがうかがえる。




図2




3.漢字が書けないときの調べる手段
 先述のように、言葉遣いで困っていることの3位として「辞書を引かなければ書けない漢字がたくさんある」が挙げられたが、実際、漢字を手書きで書こうとして書けないときに、調べる手段は何かを尋ねた。
 最も高いのは、「本の形になっている辞書」(60.6%)で、半数を上回っている。次いで「携帯電話の漢字変換」(35.3%)、「ワープロ、パソコンの漢字変換」(21.3%)、「電子辞書」(19.4%)、「インターネット上の辞書」(10.1%)となっている。電子機器の“漢字変換”が本の形以外の辞書を上回る結果となっている。
 性別に見ると、「携帯電話の漢字変換」(男性28.9%,女性40.8%)で女性の割合が高く、「ワープロ、パソコンの漢字変換」(男性 29.9%,女性13.9%)と「インターネット上の辞書」(男性14.5%,女性 6.4%)で男性の割合が高くなっている。電子機器において、携帯使用は女性、パソコン使用は男性に多いといえる。
 年齢別に見ると、「本の形になっている辞書」は年齢が高くなるとともに割合が高くなっており、40代以上で半数を超える。「携帯電話の漢字変換」は30代以下で「本の形になっている辞書」の割合を上回り、半数を超えている。中でも、20代は8割近くと特に高い。「電子辞書」は、16~19歳で過半数近くと高いが、他の年代では1~2割前後と低い(図3)



図3




4.言葉の言い方
 言葉の言い方を調べるために、二つの言い方のうち、どちらを使うか尋ねた。まず、「混乱したさま」を意味する言葉として、「上や下への大騒ぎ」と「上を下への大騒ぎ」のどちらを使うかを尋ねた。本来の言い方である「上を下への大騒ぎ」が 21.3%と、2割にとどまり、誤用である「上や下への大騒ぎ」は 58.8%と6割近くにのぼっている。年齢別に見ると、誤用は年齢が高くなるにつれ多くなっている。
 「前言に反したことを、すぐに言ったり、行ったりするさま」を意味する言葉として、「舌の根の乾かぬうちに」と「舌の先の乾かぬうちに」のどちらを使うかを尋ねた。本来の言い方である「舌の根の乾かぬうちに」が53.2%と半数を超え、誤用である「舌の先の乾かぬうちに」は28.1%である。年齢別に見ると、誤用が多いのは50代以上と16~19歳である。
 「そんなに思いどおりになるものではないこと」を意味する言葉として、「そうは問屋が許さない」と「そうは問屋が卸さない」のどちらを使うかを尋ねた。本来の言い方である「そうは問屋が卸さない」が 67.7%、誤用である「そうは問屋が許さない」は 23.5%である。年齢別に見ると、誤用は50代以上で2割台後半と高くなっている。
 「差し出て振る舞うものは他から制裁されること」を意味する言葉として、「出る杭は打たれる」と「出る釘は打たれる」のどちらを使うかを尋ねた。本来の言い方である「出る杭は打たれる」が 73.1%、誤用である「出る釘は打たれる」は 19.0%である。年齢別に見ると、誤用は20代で最も少なく、年齢が高い層で多くなっている。
 「夢中になって見境がなくなること」を意味する言葉として、「熱にうなされる」と「熱にうかされる」のどちらを使うかを尋ねた。本来の言い方である「熱にうかされる」が 35.6%と、3割台にとどまり、誤用である「熱にうなされる」は 48.3%と5割近くにのぼっている。年齢別に見ると、誤用は60歳以上で5割を超え最も高く、20代以下で約4割と低くなっている(表1)


表1



5.慣用句等の意味
 慣用句の使い方を調べるために、2つの意味を挙げて、どちらの意味で使っているかを尋ねた。
 「役不足」については、「本人の力量に対して役目が軽すぎること」という本来の意味で使っていると回答した人が 40.3%で、「本人の力量に対して役目が重すぎること」(50.3%)と誤った意味で使っていると回答した人の割合を10ポイント下回っている。年齢別に見ると、誤った意味での使用が本来の意味での使用を上回っているのは30代、50代、60歳以上である。
 「流れに棹(さお)さす」については、「傾向に乗って、ある事柄の勢いを増すような行為をすること」という本来の意味で使っていると回答した人が 17.5%にとどまり、「傾向に逆らって、ある事柄の勢いを失わせるような行為をすること」(62.2%)と誤った意味で使っていると回答した人の割合を45ポイント下回っている。年齢別に見ると、誤った意味での使用の割合は60歳以上で 57.4%である以外は、どの年齢層においても6割を上回って高くなっている。
 「気が置けない」については、「相手に対して気配りや遠慮をしなくてよいこと」という本来の意味で使っていると回答した人が 42.4%で、「相手に対して気配りや遠慮をしなくてはならないこと」(48.2%)と誤った意味で使っていると回答した人の割合を約 5ポイント下回っている。年齢別に見ると、60歳以上で誤った意味での使用と本来の意味での使用がほぼ同率となっている以外はすべての年齢層において、誤った意味での使用の方が高い。特に、16~19歳と30代において、誤った意味での使用の方が20ポイント以上も高くなっている。
 「ぞっとしない」については、「面白くない」という本来の意味で使っていると回答した人が 31.3%で、「恐ろしくない」(54.1%)と誤った意味で使っていると回答した人の割合を下回っている。年齢別に見ると、すべての年齢で誤った意味での使用が本来の意味での使用を上回っているが、誤った意味での使用は、年齢が低くなるにつれ多くなり、16~19歳では約8割にのぼっている。
 「やおら」については、「ゆっくりと」という本来の意味で使っていると回答した人が 40.5%で、「急に、いきなり」(43.7%)と誤った意味で使っていると回答した人とともに4割台となっている。年齢別に見ると、60歳以上で本来の意味での使用が誤った意味での使用を上回っているが、それ以外の年齢層では、誤った意味での使用の方が高く、特に16~19歳、40代で高い(表2)


表2



 言語は、文化のひとつとして、時代の移り変わりとともに変化するものだろう。今回の調査結果からは、昨今の情報化の進行により、文字のあり様が変化しつつあることがうかがえる。しかし、情報化による便利さによって、言葉や文字の重要性を損なうようなことは避けなければならないのではないかと感じた。

(調査部 安藤 奈々恵)