中央調査報

トップページ  >  中央調査報   >  以前の調査  >  携帯電話使用と中高生の喫煙行動との関連
■「中央調査報(No.601)」より

  携帯電話使用と中高生の喫煙行動との関連


尾崎米厚1),谷畑健生2),神田秀幸3),大井田隆4),兼板佳孝4),簑輪眞澄5)  


1)鳥取大学医学部環境予防医学分野    
2)国立保健医療科学院疫学部
3)福島県立医科大学衛生学
4)日本大学医学部公衆衛生学
5)聖徳大学









はじめに
 1990年代に入り、欧米の国々で青少年の喫煙率が低下した。2000年に Charlton A らが英国の例を用いて携帯電話の保有割合と青少年の喫煙率の動向が逆相関することから、携帯電話使用が喫煙率低下に寄与しているとの仮説を提案した(1)。その後、いくつかのそれに反対する報告が行われた。青少年の喫煙率低下が携帯電話の普及より先に起こっている(2)。携帯電話が青少年の間に普及した国で逆に青少年の喫煙率が上がった国がある(イタリアの女子の喫煙率増加(3)、スイスの喫煙率増加(4))。また、喫煙行動と携帯電話の保有状況との関連を直接調べたという報告も現れだした(英国、フィンランド)(5)-(7)。いずれも携帯電話を良く使う青少年ほど喫煙率が高く、最初に提案された仮説を否定するものばかりであった。わが国では、2004年度の全国調査において、中高生の喫煙率の劇的低下を認めた。その原因が携帯電話代が高いことによるのではないかという仮説が報道され一人歩きしてしまった。今回、わが国の中高生の喫煙率低下は、携帯電話代がかさんだことによるかどうかを検討するための2005年度に全国調査を実施した。青少年の喫煙率低下は好ましいことであるが、その変化の要因をとり間違えると今後の対策を誤ることにつながりかねないからである。まだまだ不十分な点が多いといわれているわが国の喫煙対策推進のためには必要な調査である。



表1




 
(1)
Charlton A, et al. Decline in teenage smoking with rise in mobile phone ownership: hypothesis. BMJ 2000;321:1155.
(2)
Jones T. Smoking and use of mobile phone. BMJ 2001;322:616.
(3)
Invermizzi G, et al. Italian data don’t show the same pattern. BMJ 2001;322:616.
(4)
Lee CY. No correlation in Switzerland either. BMJ 2001;322:616-7.
(5)
Koivusilta L et al. Mobile phone use has not replaced smoking in adolescence. BMJ 2003;326:161.
(6)
Steggles N, et al. Do mobile phones replace cigarette smoking among teenagers? Tob Control 2003;12:339-40.
(7)
Leena K, et al. Intensity of mobile phone use and health compromising behaviours . how is information and communication technology connected to health related lifestyle in adolescence? Journal of Adolescence 2005;28:35-47.




対象と方法
 今回の全国調査は、喫煙率の全国推計値を出すためではなく、喫煙率低下の再確認とその関連要因を明らかにするために行ったため、2000年の全国調査に回答してくれた学校でも2004年度調査のように喫煙率が低下したのかを確認する目的もあり、2000年調査の回答校を調査対象とした。
 2000年の中高生の喫煙及び飲酒行動に関する全国調査に回答した学校(中学99校、高校77校)が、現在も存在することを確認した後に、喫煙行動、低下理由に関する調査を依頼し、中学70校(71%)、高校69校(90%)の回答を得た(2005年調査)。携帯電話代に関する質問は、月平均携帯電話代、タバコ代、酒代、小遣い額であった。喫煙状況と携帯電話代の関係は喫煙状況を目的変数、性、年齢、携帯電話代等を説明変数として多重ロジスティック回帰分析を用いて解析した。
 これらの調査は、従来どおり中央調査社の協力のもと実施したので、従来の全国調査とまったく同じ調査手順、データ整理、入力方法を用いているため、今までの調査結果と比較可能性が保たれている。

結果と考察
 2000年調査と2005年調査の回答校の比較を行うと、男女、中高とも2005年で喫煙率の低下が認められた。2000年2005年調査の対応校の集計により、男子では、2000年と2005年の喫煙経験率、現在喫煙率、毎日喫煙率がそれぞれ、43.5%、22.0%、12.2%が24.7%、10.4%。5.0%と減少し、女子でも28.4%、10.0%、3.6%が17.0%、5.7%、1.9%と減少した。すなわち、2004年度全国調査と同様に2005年度にも中高生の喫煙率の低下が再確認された(図1)



図1



 携帯電話の使用しない者の割合は中学では男子56%、女子42%であったのが、高校では男子10%、女子 4%と減少した(図2)。すなわち高校生はほとんどの者が携帯電話を使っているといえる。また携帯電話代は高校生になると月5000円以上が過半数になる。



   図2



 携帯電話代別に中高生の月喫煙率(この30日間に1日でも喫煙した者の割合)をみると、中学高校、男女とも月5000円以上の携帯電話代の者で喫煙率が高くなり、月1万円以上で急激に高くなった(図3)。



図3



 2005年調査では、禁煙者割合を調査した。中学では男子 4.8%、女子 3.3%、高校では男子 7.8%、女子 5.4%が生徒の自己申告による禁煙者であった。喫煙経験者を分母とすると、中学では男子39.5%、女子35.5%、高校では男子28.4%、女子30.5%であった。月の携帯電話代別に禁煙者(タバコをやめた喫煙経験者)の割合をみると、携帯電話代が中等度以上であれば、中高、男女とも携帯電話代が高いほど、やめた者の割合が低くなることが明らかになった(図4)




図4



 携帯電話代を5つのカテゴリに分け(使わない、月2000円未満、5000円未満、1万円未満、1万円以上)携帯電話代と月喫煙(この30日間で1度でも喫煙)との関係を、多重ロジスティック回帰分析という多変量解析の一種を用いて性、年齢を調整して検討した。携帯電話を使わないに比べると残り4カテゴリの相対危険度は、1.1(95%信頼区間0.9-1.4)、0.9(0.8-1.0)、2.4(2.1-2.6)、8.1(7.3-9.0)と携帯電話代が高いカテゴリの喫煙率が高い傾向が認められた。この傾向は調整変数に父母兄姉の喫煙状況を投入しても同様の相対危険度として確認された。喫煙経験者のうち禁煙の有無を目的変数として、携帯電話代との関係を解析したところ、携帯電話を使わないと比較して4つのカテゴリの相対危険度は、1.0(0.7-1.3)、1.1(1.0-1.3)、1.0(0.9-1.1)、0.8(0.7-0.9)と携帯電話代が最も高いカテゴリで禁煙しにくいという結果を得た。これは、携帯電話代の高い人は、喫煙をやめにくいということである。


 次に、携帯電話代別にタバコを吸う友達がいるかどうかについて分析したところ、中高、男女とも月あたりの携帯電話代が高くなるにつれ、タバコを吸う友人を持つものの割合が増大した(図5)




図5



 このように、分析していくと、携帯電話代が高いもの(おそらく携帯電話をより使用するもの)ほど、喫煙率が高く、タバコをやめにくく、喫煙をする友人を持つ割合が高いことが明らかになったので、少なくとも「携帯電話代がかさんでタバコをやめた」ことはないといえる。したがって、冒頭の仮説は否定されることになる。携帯電話は青少年において最も重要な生活必需品で、彼らの人間関係を取り結ぶ象徴でもある。携帯電話を用いて頻繁に連絡を取り合う人間関係と、その使用量を維持するためのアルバイト等の活動(今回は未調査)が相互に関係し、酒やタバコを覚え、いっしょにたしなむ行動が関連しているといえる。今回は断面調査であるため、喫煙、飲酒、携帯電話、人間関係のどれが先に変化し、その他の要因に影響を及ぼしているかという因果関係までは特定できないが、これらの強い結びつきが示された。携帯電話を頻繁に用いるのが健康関連生活習慣の悪いハイリスクグループであるとの知見は、携帯電話を用いた健康教育の可能性も示唆させる。