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■「中央調査報(No.616)」より

 ■ 「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(JLPS)2008」にみる
    現代日本人のライフスタイルと意識

石田  浩(東京大学社会科学研究所)   
三輪  哲(東京大学社会科学研究所)   
村上あかね(東京大学社会科学研究所)   

 東京大学社会科学研究所では、2007年から「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査 (JLPS)」という若年層と壮年層を対象にしたパネル調査を実施している。本稿では、2008年度に 実施した第1回追跡調査の結果を踏まえて、基礎的な集計と分析をまとめたものである。はじめに 調査の概要を述べたあと、分析1では、未婚者のいわゆる「結婚活動」(婚活)を対象にその実態と 効果について分析を行った。分析2では、健康格差を取り上げ、生活習慣や職場環境と健康との関 連について検討した。分析3では、社会保障・医療・公共事業に関する意識についての地域格差を 検討した。

1.はじめに
 「働き方とライフスタイルの変化に関する 全国調査」(Japanese Life Course Panel Survey-JLPS)は、少子高齢化や世界的な経 済変動のうねりの中で、日本に生活するひとびと の働き方や家族形成、意識がどのように変化して いるのかを探索することを目的としている。この 調査は、東京大学社会科学研究所が2007年か ら実施している個人を対象とした追跡調査であ る。個人を追跡することによって、個人の行動や 意識の変化を跡付けることができる強みがある。
 JLPSの特色として以下の6点が挙げられる。 (1)総合性-若年層・壮年層をライフコース全体 の中で、教育・就業・結婚・意識に関する変化 を総合的に捉えることを目的としている。(2)学際 性-総合的な分析を行うために、社会学・教育学・ 人口学・政治学・経済学など多様な分野の研究 者が参加している。(3)比較可能性-海外のパネ ル調査や国内の横断的調査との比較を念頭にお き、比較可能性を考慮しながら調査の企画・質 問項目が設計されている。(4)連携性-東京大学 社会科学研究所では高卒者を追跡する「高校卒業 後の生活と意識に関する調査」も実施しており、 目的に応じて若年調査、壮年調査、高卒調査を 相互に補完的に用いることが可能である。(5)職 業・産業コードの汎用性-職業、産業に関する 質問は、回答者が自由に仕事の内容などを書き 込める自由記述の方式を採用している。このため 自由記述を詳細な職業・産業分類コードに置き換 えるコーディング作業を実施している。これによ り、通常の調査以上により詳細な職業・産業分 類が可能になり、職業・産業を用いた汎用性の高 い分析が可能となる。.公開性-東京大学社会 科学研究所では、社会調査データの図書館とも いえるSSJ(Social Science Japan)データ・アー カイブを運営している。データクリーニングを終 えたJLPS調査データはこのデータ・アーカイブ に寄託し公開していく。
 JLPS若年調査、壮年調査は、第1回の調査を 2007年1月から4月に行った。日本全国に居住 する20~34歳(若年調査)、35~40歳(壮年調査) の男女をそれぞれ母集団として、選挙人名簿と 住民基本台帳から性別・年齢を層化して対象者 を抽出した。調査票を郵送で対象者に配布し、 後日記入された調査票を調査員が訪問して回収 した(郵送配布・訪問回収法)。回収数は、3167名(若年調査、回収率35%)、1433名(壮年調査、 回収率40%)であった。
 第2回調査は、2008年1月から3月にかけて 実施された。第1回調査回答者全員を対象とし、 第1回と同様に郵送配布・訪問回収法を用いた。 若年調査は2719名(第1回調査回答者の80%)、 壮年調査は1246名(同87%)の対象者から追跡 調査の回答を得た。データクリーニング中のた めこれらの数値は暫定版である。調査の実施は、 社団法人中央調査社が行った。なお、本稿執筆 のための集計にあたっては、若年調査と壮年調 査を合体して行っている。 (石田浩)

2.「結婚活動」の実態と効果
 進みつつある非婚化・晩婚化のなかで、積極 的かつ主体的に行動をして結婚相手を見つけよ うとする人があらわれてきている、そんな現象 が現在関心を集めている。結婚に向けた活動を、 就職活動との類推から、「結婚活動」と呼ぶこと もあるようだ。それでは、「結婚活動」はどの程 度、どのような人によりおこなわれているのだろ うか。また、「結婚活動」をすることの効果はい かほどであろうか。東京大学社会科学研究所に よる「働き方とライフスタイルの変化に関する全 国調査」の結果に基づいて、それら諸点を検討し てみよう。なお、データ分析の対象者は2008年 時点で21~41歳の未婚者に限られている。
 2007年から2008年にかけての1年間に何ら かの「結婚活動」をした者は、若年未婚者のうち およそ4割弱であった(図1)。活動経験者の割合 には、男女差はほとんどない。異性と出会うため にどのような活動をしたか、その詳細をみると、 男女共通に「友人・知人に紹介を依頼」が第1位、 「合コンに参加」が第2位で、この2つが多数を占 めている(図2)。

図1


図2

 次に「結婚活動」を、自然状況に近い場面で相 手を探す「生活・偶発型」(「授業・サークル」、 「趣味・習い事」、「街中や旅先」)、友人など近い 人を通したつながりを通して相手を探す「ネット ワーキング型」(「友人・知人の紹介」、「同僚・ 上司の紹介」、「合コン」)、結婚を目標とした本 格的な結婚活動というべき「フォーマル紹介型」 (「結婚仲介サービス」、「お見合い」、「お見合い パーティー」、「親・きょうだいの紹介」、「親族の 紹介」)の3種類に分け、それらの活動タイプ別に、 誰がおこなっているのかをみていこう。
 活動の頻度には年齢による違いがみられ、さ らに活動のタイプごとに、年齢と活動経験の関 連のパターンが異なっている(図3)。「生活・偶 発型」の経験率については、若い年代のほうが比 較的高くなっている。それとは逆に、「フォーマ ル紹介型」の経験率は、年齢が高くなるほどより 活発になるようだ。これらは、年齢があがるにつ れて、自然な出会いの機会は減少するが、真剣 に結婚をめざした活動をはじめていくという全体 的傾向を反映したものであろう。友達を介した 活動を意味する「ネットワーキング型」の経験率 については、男性では加齢に伴う緩やかな減少、 女性は30代以降に大きく減少するというように、 パターンに男女差がみられた。

図3

 経済的地位の側面では、個人収入が高くなる ほど「ネットワーキング型」の経験率が緩やかに 高くなる正の相関と、男性に限ってのみ「フォー マル紹介型」の経験率が急激に上がる関連が見出 された(図4)。全体的にいえば、収入が高くなる ほうが結婚活動は活発になる傾向があるようだ。

図4

 結婚意向と結婚活動経験とのあいだには、明確 な関連がみられた(図5)。男女とも共通して、結 婚に意欲的であるほど、すべてのタイプの活動 経験率が高くなるという、一貫したパターンであ る。ただし、結婚意欲が低い人たち(「どちらでも よい」、「結婚したくない」、「考えていない」)だけ に注目すると、男性では「ネットワーキング型」経 験率は2割ほどであり、 それなりに結婚活動を しているようだが、女 性はほとんど活動をし ていないことがわかる。 女性のほうが、より結 婚意向と活動との相関 関係がはっきりしてい るといえる。

図5

 最後に、2007年の 調査時点で「交際相手 がいない」人たちのう ち、その1年後に「交際相手あり」に変わった人 の割合を「移行率」と計算することとして、結婚 活動の効果をとらえてみたい(図6)。結果の解説 に先立ち、図の見方を説明しよう。左に書いてあ る項目名は、どの活動をこの1年で経験したかを 表している。そして棒全体の長さは、その活動 を経験した人たちの移行率を示す 。棒の中の黒 い部分は、当該の活動をきっかけとして交際相 手と出会った人の割合を示している。つまり、黒 い棒の長さは、この結婚活動の手段がどれだけ 有効であったかを示すので、これを「有効率」と 呼ぶことにしよう。

図6

 結婚活動をしたほうが、1年後に交際相手がで きる確率は増加する。それは、とりわけ女性に おいて顕著である。女性の移行率は、活動をし なければ13パーセントであるのに対して、活動 をした場合は21パーセントにまで上がる。一方、 男性については結婚活動の有無による移行率の 違いが比較的小さい。結婚活動の効果には、男 女差があるのかもしれない。
 それでは、具体的にどの活動が有効なのだろ うか。比較的多くおこなわれていた活動4つにつ いて、個別に移行率を算出した。男性では、活 動ごとの移行率はあまり変わらない。女性はそう ではなく、「趣味・習い事」や「合コン」の経験者は、 移行率が高めである。しかしながら、それらの 活動が本当に交際につながるかといえば疑問が 残る。なぜなら、移行した人たちのうち、当該の 活動によって相手をみつけたと回答した割合は3 分の1以下にとどまるからである。当該活動によ る有効率に着目すれば、もっとも高いものは「友 人・知人の紹介」であった。
 結婚活動の経験率に性差はなく、属性との関 連パターンや活動の効果にこそ男女差がみられ た。様々な活動があるなかでも、経験した者の 割合が多く、有効率も高いということから、友縁 (ゆうえん)と呼ばれる「友人・知人の紹介」が結 婚活動の中心として位置付けられる。 (三輪哲)

3.健康格差 ―生活習慣と職場環境との関連を探る―
 健康についてひとびとの関心は高い。健康食 品をはじめとして、健康増進のためのさまざまな 商品や企画が出回っている。しかし、何が健康 のためにプラスとなるのかについては意見の分か れるところである。「働き方とライフスタイルの 変化に関する調査」は、個人を追跡することによ り、1年の間に健康状態が良くなったのか、悪く なったのかを特定することが可能である。そこで 以前の生活習慣と職場環境が、その後の健康状 態とどのような関連があるのかを検討する。
 健康状態の変化については、2008年調査時点 での1年前と比べた回答者の主観的な健康状態を 取り上げる。回答を、1年前と比べて「良くなっ た」「変わらない」「悪くなった」の3つに分類し、 1年前(2007年調査時点)の生活習慣と職場の状 況との関連を調べた。
 図7は、2007年時点の生活習慣とその後1年 間の健康状態の変化の関係を示した。ここでは 4つの生活習慣を検討した。運動(ウォーキン グ・ジョギング・エアロビクス・水泳・テニス など)を月1日以上「する」か「ほとんどしない」 か、1日に3食「毎日食べる」か「食べない」か、カッ プ麺やファーストフードを食べることが「ある」 か「ほとんどない」か、栄養バランスの取れた食 事を週1日以上「とる」か「ほとんどとらない」か、 の質問である。図では、1年間に健康状態が「良 くなった」と「悪くなった」比率をカテゴリーごと に示した。「変化なし」に比率は示していないの で、合計は100%にはならない。運動を「する」 場合は「良くなった」の比率が、運動を「ほとんど しない」場合に比べると高い(14.6%と11.7%)。 毎日3食を食べない場合は、「悪くなった」比率 が3食食べる場合よりもかなり高い(20.4%と17.0%)。カップ麺やファーストフードをほとん ど食べない場合は、1年後健康状態が「良くなっ た」比率が高く「悪くなった」比率も低い。最後に 栄養バランスの取れた食事をしないと、「悪くなっ た」比率が高いだけでなく、「良くなった」比率も 低い。

図7

 図8は喫煙と飲酒の影響を示したものである。 喫煙すると1年後の健康状態が「良くなった」比率 が低くなる。逆に禁煙した場合には、1年後の健 康状態は「良くなった」比率が高くなる。飲酒につ いても、禁酒した場合には、1年後の健康状態が 「良くなった」比率が高く「悪くなった」比率はきわ めて低い。以上のように1年前の様々な生活習慣は、 その後の健康状態と関連のあることが推察される。

図8

 図9は、1年前の仕事場の環境とその後の健康 状態との関連を見たものである。社員が恒常的 に不足している職場、いつも締め切り(納期)に 追われている職場、ほぼ毎日残業している職場、 そして子育て・家事・勉強など自分の生活にあ わせて仕事を調整しにくい職場で働いていた場 合には、1年後に健康状態が「悪くなった」比率が 高いことがわかる。職場でのひとびとの働き方は、 その後の健康状態に影響を及ぼしている可能性 があることを物語っている。 (石田浩)

図9


4.暮らしのなかの地域格差
 少子高齢化、経済環境の悪化などにより、国 や自治体の財政状況は厳しい。「働き方とライフ スタイルの変化に関する全国調査」の第2回(2008年)データをみても、「日本の社会には希望がある」 という回答に「そう思う」・「どちらかといえばそう 思う」と答える人は10%前後ときわめて低い。人 びとが安心して生活できる社会が求められている。
 現在、構造改革の一環として地方分権が進め られているが、地域によって人口構造や産業構 造も異なり、地域間格差が深刻になるとの懸念 も示されている。「日本の社会には希望がある」 という回答への賛成度は居住地域にかかわらず 低いものの、政策に対する意見は地域の現状を 反映して異なっている可能性がある。そこで、「社 会保障の充実」「公共事業による雇用確保」「医 療の充実」の地域差を調べた。

 (1)年金や老人医療などの社会保障は極力充実するべきか
 最近の報道によれば、2009年度の予算編成は 社会保障費の抑制を見直す方針のようだ。少子 高齢化が進む日本では、社会保障は重要な課題 である。
 図10は、「年金や老人医療などの社会保障は 財政が苦しくても極力充実するべきだ」という意 見に「賛成」(=「賛成」+「どちらかといえば賛 成」)する人の割合を地方別に示したものである 。 (関東を除く)いずれの地方でも70%を上回った。 「賛成」と答える割合を高い順にみると、「北海道」 (77.8%)、「東北」(73.9%)、「中国・四国」(71.6%)、 「中部」(71.0%)、「近畿」(70.7%)、「九州」(70.2%)、 「関東」(69.7%)である。この違いは統計的には 有意ではなく、いずれの地方でも社会保障の充 実を望む声が強いことがわかる。なお、この質問 については「どちらともいえない」とする回答も2 割ほどあった(詳細な結果は省略)。財政の健全 化と社会保障の充実をめぐって、今後さらに議 論となりそうだ。

図10


 (2)公共事業による地方の雇用確保は必要か
 公共事業による雇用は地方における生活保障 の機能を担ってきたが、近年見直しの対象となっ ている。
 「公共事業による地方の雇用確保は必要であ る」という意見への「賛成」(=「賛成」+「どちら かといえば賛成」)割合を見ると(図11)、地方に よる違いが浮かび上がる(統計的に有意)。賛成 の割合が高い地方は「東北」(63.2%)、ついで「北 海道」(58.2%)であった。一方、「関東」(43.7%)、「近 畿」(43.2%)では「賛成」は半数に満たない。そ の他の地域は50%台前半である(「中部」(50.3%)、 「中国・四国」(54.4%)、「九州」(53.0%))。人 口や第三次産業が多い地方に住んでいる人ほど、 公共事業は必要ないと考えるようだ。
 高度経済成長が終わり、日本の産業構造や人口 構造は大きな変貌を遂げた。しかし、地方の雇用 機会の創出は依然として重要であるといえよう。

図11


 (3)すぐにかかれる医療機関があるか
 病気のときにすぐにかかれる医療機関がある ことは心強い。しかし、医師不足、診療科・病 院の閉鎖の報道が相次いている。本調査のデー タを地方別に分析した結果をみると(図12)、「西 高東低」、すなわち中部地方以西のほうが「急病 の時など、すぐにかかれる医療機関があって安 心できる地域である」に「そう思う」(=「そう思 う」+「どちらかといえばそう思う」)と答えてい る(「中部」(63.5%)、「中国・四国」(65.0%)、「九州」 (63.9%))(統計的に有意)。これに対し、「北海道」 は58.2%、「東北」は53.2%、「関東」は56.9%、 「近畿」は60.5%であった。大都市を抱える「関東」 でも、医療事情が良いとは言い切れないようだ。

図12

 以上(1)~(3)の結果からは、財政を考慮しつつ、 安全で安心できる生活基盤を作ることが、希望 のある社会の実現には不可欠だといえるのでは ないだろうか。 (村上あかね)

5.おわりに
 本稿では、第1回と第2回調査の結果をもとに 分析したが、JLPSは2010年度まで継続を予定 している。5年間にわたり同一個人を追跡するこ とができれば、結婚・出産・転職などといったラ イフ・イヴェントを経験する回答者の数が増加し、 ライフサイクルの変化と個人の行動・意識の変化 の対応といった分析が可能になる。パネル調査 は継続することが貴重なデータの蓄積につなが るので、回答者との信頼関係を大切にし、息の 長い調査としていきたい。 (石田浩)