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■「中央調査報(No.622)」より

 ■ 「レジャー白書2009」に見るわが国の余暇の現状

日本生産性本部 余暇創研  
主任研究員 柳田 尚也  

 財団法人日本生産性本部 余暇創研では、「レジャー白書2009 ~不況下のレジャー・フロンティア~」を7月にとりまとめた。本白書は、平成20年1年間のわが国における余暇の実態を、需要サイド・供給サイド双方の視点から総合的にとりまとめたものであり、今回で通算第33号目となる。以下では、本白書の内容をもとに、わが国余暇の現状と今後の方向性等について簡単ご紹介する。

1.日本人の余暇をめぐる環境
時間面・経済面の実態
 まずはじめに日本人の余暇をめぐる環境がどのような状況にあるかを、時間面・経済面の基礎的なデータをもとに見てみよう。平成20年の年間総実労働時間(規模30人以上)は1,836時間で、前年(平成19年)に対し14時間の減少となった。ただしこの減少の背景には景気の低迷による企業の生産調整などがあり、積極的な意味での時短の結果とはいえない。ちなみに従業員規模5人以上では、総実労働時間は1,792時間とはじめて1800時間を下回り、かつての政府目標であった「1800時間労働」が皮肉な形で実現することとなった。近年パートタイマーやフリーターなどの短時間労働・非正規雇用の労働者が増加する一方、特に若年層を中心に正社員への労働時間のしわ寄せが生じるなど、労働時間が長い人と短い人に“二極化”する傾向があることが指摘されており、労働時間をめぐる環境は難しさを増している。

図表1

 一方「家計調査報告」(総務省)をもとに経済的な側面を見ると、平成20年の全国・勤労者世帯の実収入は533,302円。名目では対前年1.2%増だが実質は0.4%のマイナスとなった。可処分所得は-1.4%(実質)の441,928円、消費支出は-1.3%の323,914円といずれも実質では前年(19年)を下回っている。平成20年前半の物価高の影響で名目は上昇しているが、景気の悪化の影響もあり庶民の暮らしの実情は厳しく、レジャーや観光への支出は抑制される傾向が続い ている。

国民の「ゆとり感」の変化
 こうした実態データと並行して、レジャー白書では例年国民の「ゆとり感」についての調査を行っている。平成20年は、「時間のゆとり」の面では格差が広がる一方、「経済的ゆとり」の面ではゆとり喪失の方向に動いており、景気が低迷する中での国民の時間的・経済的ゆとりへの圧迫感を象徴的に示す結果となった。
 図表2(A)を見ると、余暇時間が前年より「増えた」とする人(実線)は、バブル崩壊後長期的に減少してきたが、19年以降反転し、20年は17.3%と前年より1.0%伸びている。一方余暇時間が「減った」という人(点線)もまた19年より増加に転じ、20年は28.1%と前年から0.3%増。ゆとりが増えた人と減った人が両方増えており、時間的ゆとりについては「格差」が広がる傾向が見られる。明確な年齢層別の特徴はなく、むしろ各年齢層の中で“二極化”する形でゆとり格差が拡大しており、上述した労働時間の二極化のような世の中の動きとも一致しているようだ。

図表2(A)

 一方「経済的ゆとり」は厳しい推移となった。図表2(B)を見ると、平成20年はゆとりが「増えた」人は18.3%と前年から-2.3%の減、「減った」という人は30.7%と前年から4.2%の増と、ゆとり感が一挙に喪われている。08年後半からの景気後退と消費マインドの悪化が、いかに急激な支出の引き締めにつながったかがわかる。

図表2(B)


2.平成20年の余暇活動
  ~不況下で伸びた“日常型レジャー”~

 レジャー白書では、毎年「スポーツ」「趣味・創作」「娯楽」「観光・行楽」の4部門・計91種目の余暇活動について、国民の参加・活動実態を調べている。平成20年のわが国のレジャーは、一言でいえば「年前半は好調、後半急速に低迷」。その後平成21年に入って新型インフルエンザの打撃も重なり、レジャー需要は全般的な低迷状況が続いている。こうした中で活性化してきているのは、家まわりの“日常型レジャー”である(図表3参照)
 観光・行楽系のレジャーでは、夏場の燃油サーチャージ高騰で大きく減少した海外旅行からのシフトもあって「国内観光旅行(避暑、避寒、温泉)」(2位)が伸びているが、支出や宿泊数は伸び悩んでいる。「動物園、植物園、水族館、博物館」(9位)、「遊園地」(15位)など“安・近・短”系の行楽もいぜん高い参加人口を維持しているものの、前年(19年)の水準には及ばなかった。宮崎アニメ新作「崖の上のポニョ」や「おくりびと」の効果で、映画の参加人口は引き続き堅調であった。
 “巣篭もり消費”が話題になる中、平成20年は単価が安く、家庭や近場で繰り返し参加して楽しめるような日常型レジャーの伸びが顕著であった。「パソコン」(5位)の420万人増をはじめ、「ビデオの鑑賞(レンタル含む)」(7位)、「音楽鑑賞(CD、レコード、テープ、FMなど)」(10位)、「テレビゲーム(家庭での)」(12位)、「園芸、庭いじり」(13位)等が大幅増。また近年のランニングブームを反映し、「ジョギング、マラソン」(16位)も活発だった。

図表3


3.余暇関連産業・市場の動向
  ~余暇市場規模は約73兆円/対前年で2.4%減~

 次に、供給サイドにおける余暇動向として、4部門77業種を対象とする1年間の余暇産業動向の調査結果、および余暇市場規模推計結果をご紹介しよう。
 平成20年の余暇市場は72兆8,760億円となり、平成19年の74兆6,630億円から前年比2.4%減少した(図表4)。年前半の原油価格高騰や世界的な景気後退のあおりで消費マインドは冷え込み、余暇・観光への支出は全般に引き締められている。

図表4

 以下、4つの部門別に平成20年の余暇市場動向の概要を紹介する。

 (1)スポーツ部門(前年比 -1.9%)
 ランニングブームの高まりを受け、ファッション性の高いランニング用品が好調。アンダーウエアの新市場も拡大した。ゴルフ・テニス用品は目玉商品がなく買い換え需要が低迷。ゴルフ場市場は減少したが、練習場は健闘。成長が続いてきたフィットネスクラブ市場は、前年(19年)から減少に転じて曲がり角を迎えている。

 (2)趣味・創作部門(前年比 -0.5%)
 一眼レフカメラや大画面液晶テレビが販売台数を伸ばし、「ブルーレイディスク」が注目を集めた。音楽配信市場は急成長してきているが、CDの落ち込みをカバーしきれない。シネコンの供給過剰も続いている。『ハリー・ポッター』新作刊行もむなしく、書籍販売額は減少。定期購読者離れの進む雑誌も大きく落ち込んだ。

 (3)娯楽部門(前年比 -2.9%)
 パチンコの下げ幅は縮小し、パチスロからパチンコへのシフトが進んだ。テレビゲームでは、「Wii」のハードウェアは頭打ちとなったが、携帯型ゲーム機は堅調で、教育や健康・医療分野など、ゲームの枠を超えて用途が広がっている。ゲームセンターは低調。公営競技も低迷しているが、電話投票・インターネット販売は増加している。スポーツ振興くじtoto(トト)はBIGが好調で、過去最高販売額を記録した。

 (4)観光・行楽部門(前年比 -2.1%)
 25周年記念イベントで過去最高入場者数を更新した「東京ディズニーリゾート」は、不況下でも引き続き堅調。旅行業は、夏場の海外旅行の落ち込みが大きく響いた。外資系高級ホテルの進出が続いたホテルだが、ビジネス・観光両面で外国人旅行者数が激減し、苦戦を強いられている。乗用車販売台数は4年連続で減少し、普通乗用車保有台数は初めてマイナスとなった。自動二輪車も、かつてない大きな落ち込みとなっている。

4.特別レポート「不況下のレジャー・フロンティア」
  ~約5割が新たな楽しみへのチャレンジを志向~

 これからのレジャー・観光における基本的な需要開拓戦の一つは、不況でもブレない強固なファン・リピーターを構築する「回数市場戦略」であり、いま一つはまったく新たなフロンティアの開拓を目指す「新規顧客開拓戦略」である。しかし、若年層のレジャー・観光離れで従来のような若者の新規参入が期待できず、不況の影響で人々の消費マインドも落ち込む中、新規顧客開拓への取組みはどの程度期待が持てるものなのだろうか。
 この点を明らかにするため、人々の今後の余暇生活の充実化の方向を調べた結果が図表5である。「A.現在力を入れている余暇の充実」と「B.新しい余暇へのチャレンジ」のどちらに関心があるかを尋ねたところ、“余暇積極派”(A・Bどちらにも関心)が31.7%と最も多く、ついで“現状充実派”(Aに関心)28.0%、“新規チャレンジ派”(Bに関心)が21.1%、どちらにも関心がない“無関心派”が18.9%という結果であった。
 “余暇積極派”と“現状充実派”を合計した約6割の人が現在の楽しみを充実させたいと考えており、回数市場の母体として期待される。同じく“余暇積極派”と“新規チャレンジ派”を合計した約5割の人は新たな過ごし方や楽しみ方にチャレンジしたいと考えており、新規顧客開拓の母体ということになる。難しい課題ではあるが、新規顧客開拓に取り組む理由と根拠は十分に存在している。

図表5


新たな「レジャー・フロンティア」開拓
 ―キーワードは「女性」「経験」「生活領域」
 不況が深刻であればこそ、まったく新たな顧客の開拓に向けた供給サイドの取組みが真剣さを増している。特別レポートでは、レジャー関連企業・業界における先進的な取組み28事例を紹介し、不況を越え将来を展望する需要開拓の方向性を示した。
 同レポートでは、今後有望なフロンティアとして「女性市場」「経験市場」「生活領域市場」の3つの領域を抽出し、先進的な取組み事例を紹介。同時に、これらのフロンティア開拓事例に共通してみられる“ソリューション”として、「技術」「コラボレーション」の2つの視点から事例を交えた紹介を行っている。さらに、今後のもう一つの巨大フロンティアである「回数(リピーター)市場」に関しても、分析の基礎となるレジャー種目の回数分布データをはじめて示し、あわせて先進的なリピーター対策に取り組む事例を紹介している。ぜひご一読いただきたい。