中央調査報

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■「中央調査報(No.625)」より

 ■ 第2回 若者の教育とキャリア形成に関する調査について

藤田武志(上越教育大学)  

 「若者の教育とキャリア形成に関する調査」は、若者の学校から仕事への移行過程をめぐる今日の状況と課題を明らかにすることを目的にしたものである。不安定就労等の状況にある若者が急増するなかで、その不安定さに対し、階層やジェンダー、地域といった属性がどのように影響を及ぼしているのか、また、学校は不安定な状況に置かれた若者にとってどのような意味をもち、役割を果たしているのか、彼らはどのようなネットワークをもっており、社会保障や職業紹介といった制度はどの程度役に立っているのかなど、若者の現在の様相を、2007年からの4年間にわたるパネル調査によって多面的に検討している。
 第2回調査は、2008年10月から12月にかけて行われた。ここでは、調査の概要と第2回調査結果に関する若干の分析を紹介したい。

1.調査の概要
 2007年に行った第1回調査は、2007年4月1日現在で20歳の対象者を地域・性別等を考慮して無作為に抽出し(但し沖縄については抽出数を多くとった)、2007年10月~12月に実施した。沖縄をのぞく全国で1250、沖縄で250の回答数確保を目指したが、結果として全国は1361、沖縄は330の有効回答を得ることができた。なお転居・住所不明をのぞく有効回収率は全国37.7%、沖縄56.0%だった。なお、回答者の属性別割合では、国勢調査等と比較して概ね同年齢層の割合とほぼ一致している(詳しくは、中村高康「『若者の教育とキャリア形成に関する調査』の目的・方法と第一回調査の概要」『2007年第一回調査結果報告書』(http://www.comp.tmu.ac.jp/ycsj2007/report.html)を参照のこと。)
 第2回調査は、第1回調査の時点ですでに2回目以降は参加できないという意思を表明した者などを除いた1614名を対象として実施した。同じようなパネル調査を参考に、70%程度の回収率を目標としていたが、幸いにして、対象者に対する回収率は82.0%、第1回調査回答者に対する回答率は78.5%と、目標を上回る回答が得られた。回答率は、沖縄がやや平均を下回るものの、その他の地域はだいたい平均値前後である。また、回答者の性別にも大きな偏りは認められない。ただ、学歴別に見てみると、高卒以上の者に比べて、高校中退者や中卒者の回収率の低下が大きい。不安定な状況にある者を多く含むと目される層を捕捉するのはやはり困難である。
 以下、第2回調査の結果について、就業者と四年制大学生のケースを取りあげ、第1回調査の結果との比較も交えながら若干紹介していきたい。なお、データはすべて第1回調査と第2回調査の双方に回答した対象者のものである。また、沖縄の回答者データについては、20歳人口の分布比にあわせたウェイトをかけて集計している。

2.第2回調査結果の概要
(1)回答者の現在の状況
 第2回調査(図中では2008年と表示、以下同様)の回答者の現状は図1に示したとおりである。全体的に、「四年制大学在学中」の割合は第1回調査(図中では2007年と表示、以下同様)とほぼ同じだが、「働いている」者の割合がやや増えている。それは、第1回調査において「他の学校に在学中」だった者が働き始めたことによる。また、働いている者の増加は、男性よりも女性でやや割合が多い。

図1

(2)就労者の状況
 まず、就労している若者の状況を概観しよう。図2は、就労タイプごとの分布である。正社員・正職員が6割を越えているものの、臨時雇用・パート・アルバイトや、派遣社員などの不安定就労の状況にある者も少なからず存在しており、その割合は女性に多い。

図2

 では、第1回調査の時点において正社員、あるいは非正社員だった者は、第2回調査の時点でどう変化したのだろうか。図3に示したように、第1回調査時点で正社員だった者の約94%が2008年にも引き続き正社員である一方、非正社員だった者は、20%が正社員になっている。それを男女別に見てみると、女性よりも男性のほうが正社員に変わる割合が高い。

図3

 正社員だった者の多くが正社員であり続けているのは、勤め先にも変化がないということなのだろうか。その点を確かめるため、第1回調査で正社員だった者と非正社員だった者についてその勤め先の変化を見たのが図4である。非正社員では、勤め先が異なる者が38%に達しているが、正社員だった者であっても12%が勤め先を変えていることが分かる。また、正社員であっても約4割が転職を希望していることからも(表1)、正社員だからといって必ずしも現状に満足しているとは限らない。転職を希望する者にその理由を尋ねると、正社員の多くが収入や労働時間などを挙げており(表2)、昨今の労働環境の悪化がうかがわれる。

図4


表1


表2

(3)四年制大学在学者の状況
 第2回調査時点では、四年制大学に通っている対象者の多くが4年生であった。そこで、彼らの就職活動の状況を見てみたい。
 大学4年生の就職活動経験を尋ねたところ、82.4%が経験ありと回答している。就職活動経験者の就職活動状況は図5に示した通りであるが、調査を実施した10月あたりの時点においても就職が内定していない者が31.4%に達している。

図5

 また、大学4年生のうち、民間企業への就職活動を経験したのは73.6%にのぼるが、彼らの66.2%もが「就職活動にお金がかかり大変だった」と回答し、53.8%と過半数を越える者が「精神的に落ち込んだり健康を損なったりした」と答えている(表3)

表3

 このように、就職を目指す大学生も厳しい状況に置かれているのである。

3.おわりに
 以上、第2回調査の結果について若干の紹介をしてきた。現在は、第3回調査を進行させる一方で、第2回調査のさらなる詳細な分析を行っているところである。パネル調査によって若者の状況を把握するという本調査の目的からは、調査データを積み重ねていくことが何よりも重要である。そのため、調査に協力してくださった回答者の方々が引き続き協力してくださることを切に願っている。また、第1回に引き続き、第2回調査においても目標数以上の回収を実現してくださった中央調査社の方々には、研究グループ一同たいへん感謝している。今後の調査についてもよろしくお願いしたい。

 なお、調査結果については、ニューズレター第2号(http://www.comp.tmu.ac.jp/ycsj2007/report.htmlを参照)に概要を掲載したほか、2009年8月に東京大学で行われた日本教育学会大会において報告を行った。報告者は、乾彰夫(首都大学東京)、杉田真衣(金沢大学)、藤田武志(上越教育大学)、有海拓巳(浜銀総合研究所)、平塚眞樹(法政大学)、木戸口正宏(北海道教育大学)である。本稿は、ニューズレターならびにこれらの報告データをもとにしている。