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■「中央調査報(No.637)」より

 ■ 「ミシガン大学調査員研修」参加報告

 2010年10月4日から5日間、ミシガン大学(米国)が主催する調査員研修に参加してきた。この調査員研修はHealth and Retirement Study(以下、HRS)の第10回調査に向けての研修である。 日本側でも、HRSと歩調を合わせる形で「全国高齢者調査」(調査主体は東京都健康長寿医療センター研究所、東京大学、ミシガン大学。調査実施は社団法人中央調査社。 調査のHPはhttp://www2.tmig.or.jp/jahead/index.html)が、これまで7回実施され、日米の高齢者の比較研究ための貴重なデータを収集している。 このたび東京大学の秋山弘子教授のご好意で、ミシガン大学の調査員研修に参加する機会を得た。

1.調査員研修の概要
 HRSは、全米の50歳以上の高齢者を対象に、健康に関する事柄を中心に、家族、友人・近隣関係、社会活動、経済状態などを調査し、高齢者の生活実態を把握することを目的としている。 1992年から始まり、これまで9回実施された。
 本調査では200人の調査員が2~3ヶ月かけて約29,000対象にアタックし、最終的には80%以上の回収率を目標としている。
調査は調査員が対象者宅を訪問して、聞き取りによって行われるが、加えて、血圧測定、体力測定、身体測定、血液採取、唾液採取などの医学的な調査(以下、健康医学調査)も実施する。
 研修は2回にわけて行われた。今回は全米から約100人の調査員がミシガン大学のあるミシガン州アナーバー市のホテルに集められ、5日間に渡って研修を受けた。 研修は毎日8時から17時まで行われた(12時から13時は昼食)。

図1

 HRSに初めて参加する調査員は、この研修に先駆けて、2日間、同じような日程で調査員に必要な事項について基本的な訓練を受けている。

2.講義
 調査の概要や実査に必要な事柄についての研修は、ミシガン大学の職員により、パワーポイントを使用しながら講義形式で行なわれた。 研修初日に、バインダーでまとめられた厚さ7㎝程の研修教材が渡された。 この中には、調査書類、パソコンのマニュアル、対象者からの質問対応マニュアルなどが含められていたが、調査員は必要なときに随時参照しながら講義に臨んでいた。

図2

 講義では、調査の要点をまとめたDVDの映像を研修会場のスクリーンに映し出した上で、職員が解説や注意すべき点を付け加えていた。 このDVDは調査員研修の前に調査員に配布されており、研修で学ぶべきことを予習することができた。DVDは2枚で2時間程度の映像が収められている。
 また、講義の内容をより実践に近い形で学ぶために、ロールプレーイングが随所で用いられていた。 特に健康医学調査では、項目ごとに指定の器具を用いながら定められた手順で実施しなければならず、より実践的な訓練が必要となる。 HRSでは①血圧測定②肺活量測定③握力測定④バランス・テスト⑤歩行テスト⑥身長測定⑦ウェスト測定⑧唾液採取⑨血液採取が行われる。
 研修では職員による講義の後、調査員はふたり一組になり、交互に対象者役と調査員役になって一通りの実技を行なった。 その後、一組の調査員の実技を他の調査員全員で見ながら、職員が項目ごとの注意点を再度確認した。

3.パソコン実習
 HRSでは、調査員はノート型パソコンを対象者宅へ持参して面接調査を行なう。 調査員は対象者に対しパソコンの画面に映し出される質問文を読み上げ、そして、対象者から得られた回答をその場でパソコンに入力する。
 そのため、調査員はパソコンが使えることが前提となる。 多くの質問は選択肢の数字を入力するものだが、中には対象者の回答内容を一字一句、即座に入力しなければならない質問もあり、相応のタイピングのスキルが必要となる。
 加えて、調査員はHRS専用のソフトを使いこなせなければならない。 このソフトには調査票の内容だけでなく、対象者の属性やこれまでの調査の協力状況なども詳細にデータ化され管理されている。 調査員が実査の前に、どのように対象者にアプローチし、どのように調査を進めていくか検討するための重要な情報となっている。
 パソコン実習では、職員のパソコン画面が研修会場に設置されている大きなスクリーンに映し出される。 調査員は各自そのスクリーンを見ながら、自らのパソコン操作の手順を確認していた。
 また、パソコン実習でも、調査員がノート型パソコンを見ながら質問を読み上げ、それに対して対象者役の職員が回答するというロールプレーイングが行なわれていた。 調査員は対象者役が回答した内容をパソコンに入力しつつ、相槌を打ちながら次の質問に移る。 他の調査員もそのやり取りを聞きながら各自パソコンに入力するのだが、調査員の質問の仕方や相槌の打ち方が不適切な場合はその都度、職員から指摘を受けていた。

4.テストの実施
 調査員研修の後半には、それまで研修で学んできたことを正しく理解できているかどうかを評価するテストがあった。
 テストは健康医学調査が中心となり、調査員はひとりひとり個室で、対象者役を相手に実施する。その過程を職員が、チェック用紙に記入しながら観察する。 次いで、健康医学調査の結果をパソコンに入力するが、職員は調査員の背後に回りパソコン操作の手順が正しいかどうかをチェックする。
 以上のテストが終了した後、職員からの講評があり、合否が告げられる。テストに合格しなければ調査員は追加のテストを受けなければならない。 私が見学した調査員の健康医学調査のテストは1時間半かかったが、その間、独特の緊張感が漂っていた。

図3


5.おわりに
 HRSの調査員研修の大きな特徴は、全調査員が一堂に集められ、調査主体であるミシガン大学の職員から直接、研修を受けているということだ。
 このことは、調査員が調査手順等について同じ理解のもとで実査に臨めるので、調査データの質のばらつきを少なくするというメリットがあると予想される。 また、様々なバックグラウンドを持つ調査員がミシガン大学職員や他の調査員と交流を持つ機会が得られるので、 自分もこのプロジェクトを支える一員であるという自覚が生まれ、調査に対する使命感を強くするように思われる。
 近年、HRSで見られるように、社会調査の分野でも聞き取り調査に加えて健康医学調査も同時に実施する動きが高まっている。 日本側の「全国高齢者調査」も、これまでは訪問面接調査を中心に実施されてきたが、2009年のパイロット調査(「長寿社会における中高年者の暮らし方の調査」。 調査のHPはhttp://www2.tmig.or.jp/jahead/index.html)では、訪問面接調査に加えて健康医学調査も行われ、その導入の可能性が検討されている。
 今後、調査員研修の役割はますます重要になると思われるが、今回の調査員研修の参加で得た経験を活かしながら取り組んでいきたい。
 
(管理部 穴澤大敬)