■「中央調査報(No.646)」より
■ 「レジャー白書2011」に見るわが国の余暇の現状
公益財団法人日本生産性本部 余暇創研 1.日本人の余暇をめぐる環境 時間的・経済的背景 同白書では、余暇活動の実態についての報告の前に、日本人の余暇をめぐる時間的・経済的環境について整理している。時間的環境としては、労働時間や年休取得状況の推移などが主な指標となる。平成22年の年間総実労働時間(規模30人以上)は1,798時間と、前年(平成21年)より31時間の増加。ゆるやかな企業景気の回復の中での生産増などの結果と見られる。一方、年次有給休暇の取得率は48.2%と5割を切る低水準が続いている。ことし23年の夏場は、企業各社が節電対応の休暇・休業に対応しており、進まぬ年休取得促進に何らかの刺激になることが期待される。 次に家計の状況について総務省「家計調査報告」を見ると、平成22年の全国・勤労者世帯の実収入、消費支出、可処分所得はいずれも名目・実質とも前年を若干上回り、リーマンショック後の落ち込みから徐々に持ち直しつつあった。しかしながら、23年3月の震災によりレジャー・観光消費はふたたび大きな打撃を受けることとなり、回復にはしばらく時間がかかりそうだ。 国民の「ゆとり感」の変化 ゆとり感の面では、ここ数年続いていた「経済的ゆとり」の喪失が一段落した。 図表2(B)を見ると、ゆとりが「減った」という人は前年(21年)に37.0%と過去最高値を記録し、ゆとり喪失の傾向が顕著であったが、22年は一転して前年より4.5%も減少。ゆとり感をやや取り戻している。 2.平成22年の余暇活動 ~「ドライブ」が引き続き首位、「映画」「ミュージアム」が好調~ レジャー白書では、毎年「スポーツ」「趣味・創作」「娯楽」「観光・行楽」の4部門・計91種目の余暇活動について、国民の参加・活動実態を調べている。 平成22年は、記録的猛暑が人々の出足に影響したほか、個人消費やサービス消費が年後半から伸び悩み、参加人口が前年よりも減少した活動が多かった(図表3参照)。 22年の余暇活動参加人口の第1位は、前年(21年)に引き続き2年連続で「ドライブ」であった。高速道路料金値下げを受けたものだが、消費や宿泊数拡大の波及効果は限られたものであった。好調のつづく「映画(テレビを除く)」は、引き続き第4位を維持。文化・学習関連では、“はやぶさ”帰還後の科学ブームなどもあり、「動物園、植物園、水族館、博物館」(“ミュージアム”)が順位を伸ばして初めて上位5位に入った。また、「学習、調べもの」は、順位・参加人口ともに前年よりも伸ばした唯一の種目となった。 一方長く第1位を維持してきた「外食(日常的なものを除く)」は、21年にはじめて首位を転落し、22年も引き続き3位にとどまった。参加人口も減少しており、「レジャーとしての外食」のあり方が問われている。 3.余暇関連産業・市場の動向 ~余暇市場規模は2年連続70兆円割れ~ 平成22年の余暇市場は67兆9,750億円と前年比2.1%縮小し、2年連続で70兆円割れという厳しい状況となっている。規模の大きいパチンコ市場の落ち込みの影響が大きかった。景気の長期的低迷に加えて消費者の節約志向はいぜん強く、多くの業界では客単価の下落に歯止めがかからない。 以下、4つの部門別に余暇市場動向の概要を紹介する。平成22年は、趣味・創作部門と観光・行楽部門が市場規模を伸ばす一方、スポーツ部門と娯楽部門はマイナスとなり、部門別・業界別に明暗がわかれた。 (1)スポーツ部門(前年比-1.4%) 数年来ブームが続くランニング関連用品・スポーツ自転車などのほか、アウトドア用品も堅調だった。サービス市場では、ゴルフ場・練習場は伸び悩んだが、フィットネスクラブはスクール会員が増加し、近年のマイナス基調が底を打った。 (2)趣味・創作部門(前年比6.3%) 興行収入の史上最高額の更新を続ける映画が好調。“3D映画元年”といわれた21年に続きヒット作に恵まれ、客単価も伸びている。テレビも家電エコポイント制度の恩恵を受け、過去最高の売上を記録した。 (3)娯楽部門(前年比-4.7%) パチンコ市場が大きく縮小し、ついに20兆円を割り込む結果となった。公営競技各種目、宝くじ市場も縮小が続いている。テレビゲームは、有力ヒットソフトは出たものの、ハードウェアの単価の低下により市場は縮小。外食市場はほぼ横ばいであったが、相変わらず厳しい低価格競争が続いている。 (4)観光・行楽部門(前年比1.0%) 遊園地・テーマパークは全般に厳しい中で、「東京ディズニーリゾート」は過去最高の売上高を記録。旅行業は、不況や新型インフルエンザの影響を脱し、上向きとなった。宿泊系では旅館市場は縮小しているが、会員制リゾートクラブでは最大手「リゾートトラスト」の一人勝ちで市場規模は拡大している。乗用車市場では、エコカー減税やエコカー補助金の効果が年頭から持続し、長期低迷から一時的に回復した。 4.進むレジャーの「デジタル」化 スマートフォン、ツイッターなどの情報通信機器やサービスが急速に普及する中で、レジャーの「デジタル」化も確実に進みつつある。ただし、デジタルの中で自己完結する楽しみ方ばかりではなく、デジタルがリアルの参加を促し、相互に活性化する展開が生じている点が注目される。 今回、レジャーのデジタル化についてさまざまな角度からアンケート調査を行った。そうした中から、ここではレジャー活動種目単位の「デジタル活用度」の結果を紹介する。これは、それぞれのレジャー活動種目の参加者における、情報通信機器を使って参加した人の割合を算出したものである(図表5)。結果を見ると、第1位の「サッカーくじ(トト)」(62.8%)がきわめて高いデジタル活用度となっている。近年、サッカーくじや公営競技各種目では、施設に足を運ばずネット上で投票行動を行う傾向が増えており、「参加」のかたちが大きく変わり始めている。 第2位「学習、調べもの」(59.1%)の高さも注目される。個人が自由時間に行う学習や調べものの多くは、情報検索やホームページ閲覧などを介して行われていることが窺われる。これらのほかに、上位20位の種目の中には「ゲーム系」「創作系」「鑑賞系」などの種目群が見出され、こうした分野で「デジタル化」が進んでいる状況が明らかになった。 本レポートでは、さらに情報通信機器やサービスの活用状況なども紹介し、レジャーにおける「デジタル」と「リアル」の関係のあり方を中心に分析・展望した。他に白書では震災後のレジャーに焦点をあわせた「緊急特集 震災後日本のレジャー」なども掲載している。あわせてご一読いただければ幸いである。 |