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■「中央調査報(No.646)」より

 ■ 「レジャー白書2011」に見るわが国の余暇の現状

公益財団法人日本生産性本部 余暇創研  
主任研究員 柳田 尚也  

 公益財団法人日本生産性本部 余暇創研では、「レジャー白書2011 ~進むレジャーの「デジタル」化~」を8月に発表した。同白書は、平成22年1年間のわが国における余暇の実態を需給両サイドの視点から総合的にとりまとめたもので、今回で通算第35号目となる。以下では、同白書の内容をもとに、わが国余暇の現状と今後の方向性等について簡単にご紹介する。

1.日本人の余暇をめぐる環境
時間的・経済的背景
 同白書では、余暇活動の実態についての報告の前に、日本人の余暇をめぐる時間的・経済的環境について整理している。時間的環境としては、労働時間や年休取得状況の推移などが主な指標となる。平成22年の年間総実労働時間(規模30人以上)は1,798時間と、前年(平成21年)より31時間の増加。ゆるやかな企業景気の回復の中での生産増などの結果と見られる。一方、年次有給休暇の取得率は48.2%と5割を切る低水準が続いている。ことし23年の夏場は、企業各社が節電対応の休暇・休業に対応しており、進まぬ年休取得促進に何らかの刺激になることが期待される。

図表1

 次に家計の状況について総務省「家計調査報告」を見ると、平成22年の全国・勤労者世帯の実収入、消費支出、可処分所得はいずれも名目・実質とも前年を若干上回り、リーマンショック後の落ち込みから徐々に持ち直しつつあった。しかしながら、23年3月の震災によりレジャー・観光消費はふたたび大きな打撃を受けることとなり、回復にはしばらく時間がかかりそうだ。

国民の「ゆとり感」の変化
 ゆとり感の面では、ここ数年続いていた「経済的ゆとり」の喪失が一段落した。
 図表2(B)を見ると、ゆとりが「減った」という人は前年(21年)に37.0%と過去最高値を記録し、ゆとり喪失の傾向が顕著であったが、22年は一転して前年より4.5%も減少。ゆとり感をやや取り戻している。

図表2


2.平成22年の余暇活動
  ~「ドライブ」が引き続き首位、「映画」「ミュージアム」が好調~

 レジャー白書では、毎年「スポーツ」「趣味・創作」「娯楽」「観光・行楽」の4部門・計91種目の余暇活動について、国民の参加・活動実態を調べている。
 平成22年は、記録的猛暑が人々の出足に影響したほか、個人消費やサービス消費が年後半から伸び悩み、参加人口が前年よりも減少した活動が多かった(図表3参照)

図表3

 22年の余暇活動参加人口の第1位は、前年(21年)に引き続き2年連続で「ドライブ」であった。高速道路料金値下げを受けたものだが、消費や宿泊数拡大の波及効果は限られたものであった。好調のつづく「映画(テレビを除く)」は、引き続き第4位を維持。文化・学習関連では、“はやぶさ”帰還後の科学ブームなどもあり、「動物園、植物園、水族館、博物館」(“ミュージアム”)が順位を伸ばして初めて上位5位に入った。また、「学習、調べもの」は、順位・参加人口ともに前年よりも伸ばした唯一の種目となった。
 一方長く第1位を維持してきた「外食(日常的なものを除く)」は、21年にはじめて首位を転落し、22年も引き続き3位にとどまった。参加人口も減少しており、「レジャーとしての外食」のあり方が問われている。

3.余暇関連産業・市場の動向
  ~余暇市場規模は2年連続70兆円割れ~

 平成22年の余暇市場は67兆9,750億円と前年比2.1%縮小し、2年連続で70兆円割れという厳しい状況となっている。規模の大きいパチンコ市場の落ち込みの影響が大きかった。景気の長期的低迷に加えて消費者の節約志向はいぜん強く、多くの業界では客単価の下落に歯止めがかからない。
 以下、4つの部門別に余暇市場動向の概要を紹介する。平成22年は、趣味・創作部門と観光・行楽部門が市場規模を伸ばす一方、スポーツ部門と娯楽部門はマイナスとなり、部門別・業界別に明暗がわかれた。

図表4

 (1)スポーツ部門(前年比-1.4%)
 数年来ブームが続くランニング関連用品・スポーツ自転車などのほか、アウトドア用品も堅調だった。サービス市場では、ゴルフ場・練習場は伸び悩んだが、フィットネスクラブはスクール会員が増加し、近年のマイナス基調が底を打った。

 (2)趣味・創作部門(前年比6.3%)
 興行収入の史上最高額の更新を続ける映画が好調。“3D映画元年”といわれた21年に続きヒット作に恵まれ、客単価も伸びている。テレビも家電エコポイント制度の恩恵を受け、過去最高の売上を記録した。

 (3)娯楽部門(前年比-4.7%)
 パチンコ市場が大きく縮小し、ついに20兆円を割り込む結果となった。公営競技各種目、宝くじ市場も縮小が続いている。テレビゲームは、有力ヒットソフトは出たものの、ハードウェアの単価の低下により市場は縮小。外食市場はほぼ横ばいであったが、相変わらず厳しい低価格競争が続いている。

 (4)観光・行楽部門(前年比1.0%)
 遊園地・テーマパークは全般に厳しい中で、「東京ディズニーリゾート」は過去最高の売上高を記録。旅行業は、不況や新型インフルエンザの影響を脱し、上向きとなった。宿泊系では旅館市場は縮小しているが、会員制リゾートクラブでは最大手「リゾートトラスト」の一人勝ちで市場規模は拡大している。乗用車市場では、エコカー減税やエコカー補助金の効果が年頭から持続し、長期低迷から一時的に回復した。

4.進むレジャーの「デジタル」化
 スマートフォン、ツイッターなどの情報通信機器やサービスが急速に普及する中で、レジャーの「デジタル」化も確実に進みつつある。ただし、デジタルの中で自己完結する楽しみ方ばかりではなく、デジタルがリアルの参加を促し、相互に活性化する展開が生じている点が注目される。
 今回、レジャーのデジタル化についてさまざまな角度からアンケート調査を行った。そうした中から、ここではレジャー活動種目単位の「デジタル活用度」の結果を紹介する。これは、それぞれのレジャー活動種目の参加者における、情報通信機器を使って参加した人の割合を算出したものである(図表5)。結果を見ると、第1位の「サッカーくじ(トト)」(62.8%)がきわめて高いデジタル活用度となっている。近年、サッカーくじや公営競技各種目では、施設に足を運ばずネット上で投票行動を行う傾向が増えており、「参加」のかたちが大きく変わり始めている。

図表5

 第2位「学習、調べもの」(59.1%)の高さも注目される。個人が自由時間に行う学習や調べものの多くは、情報検索やホームページ閲覧などを介して行われていることが窺われる。これらのほかに、上位20位の種目の中には「ゲーム系」「創作系」「鑑賞系」などの種目群が見出され、こうした分野で「デジタル化」が進んでいる状況が明らかになった。

 本レポートでは、さらに情報通信機器やサービスの活用状況なども紹介し、レジャーにおける「デジタル」と「リアル」の関係のあり方を中心に分析・展望した。他に白書では震災後のレジャーに焦点をあわせた「緊急特集 震災後日本のレジャー」なども掲載している。あわせてご一読いただければ幸いである。