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■「中央調査報(NO.660)」より

 ■ 5年間の移行調査と学校から社会への移行の諸類型
    ― 若者の教育とキャリア形成に関する調査から― 


乾 彰夫(首都大学東京)  


1.「若者の教育とキャリア形成に関する調査」の概要
 本調査は、日本の若者の学校から仕事への移行をめぐる現状と問題を明らかにすることを目的に、日本教育学会特別課題研究として、2007年より実施してきた。対象者は2007年4月1日現在満20歳の全国の若者から抽出し、2011年度まで毎年10-12月に継続的な質問紙調査を5回にわたって実施し、質問紙調査については今回をもって一応の終了を見た。当初4年間の計画であったが、途中の捕捉率が良好であったことから、対象者の了解を得て5年目までの実施となった。なお今年度は、5回までの回答者の一部を対象とした面接調査を予定している。5回のデータの本格的分析は、まだ作業中であるが、ここでは若干の概要を紹介したい。
 20世紀終盤以降の社会と産業・雇用構造の変容の結果、学校卒業時の進路など一時点での統計的データだけでは、若者の移行過程の全容が十分把握できなくなった状況を受け、その実態を探るための有力な方法としてコーホート調査が各国でおこなわれ始めた。本調査はそれら海外の調査も参考にしながら、四年制大学進学率がおよそ5割という我が国の実態をふまえ、20歳を起点とするものとして設計したものである。調査内容としては、毎回調査時点における主な活動(就労・就学・その他)及びそれぞれの状況詳細(就労であれば雇用形態・職種業種・転職・労働時間・就労意識等、就学であれば学校タイプ・学部学科・学習意識等、その他であれば就労希望の有無・主な活動等)、過去1年間の主な出来事や家族・交際関係、社会保障制度の利用、社会意識などを継続して質問してきた。このほか第1回では両親に関する情報、中学校・高校に関する情報、18歳の4月以降の状況などを、四年制大学進学者の多数が就職期にかかった第2・3回目では就職活動状況などを、質問項目として加えた。
 対象者の抽出にあたっては地域類型(都市規模等)と性別をコントロールして、基本的には全国的なバランスが取れるようにしたが、沖縄県だけはとくに抽出数を他地域よりも多くした。第1回目回答者数は1687名(うち沖縄330名)、第2回目以降の回答者数・回答率は表1の通りである。(分析結果については、必要に応じて沖縄サンプルについて全国とのバランスをとるためのウェイト付けを行っている。ただし本稿では沖縄ウェイトは用いていない。)

表1 回収率

 回収率は他のパネル調査などと比べても良好であった。女性に比べ男性の回収率がやや低下しているが、これも他調査などとほぼ同様の結果である※。

2.各調査時点での対象者の状況
 5回の各調査時点での対象者の状況は図1の通りである。回を追うごとに在学者が減り、就業者の割合が増加している。ただし就業者の就業形態では図2に見られるように、四大進学者の多くが卒業を迎えた3回目(22/23歳)までは正規雇用の割合が増加しているが、それ以降は男女とも頭打ちとなっている。2011年10月の最終調査時点の状態は表2の通りで、男女とも75%近くが就業しているものの正規雇用の割合は男性がやや多く、女性はその分非正規雇用が多くなっている。在学中は男性が女性を上回っている。その多くは大学院であるものの、職業訓練校なども含まれている。その他は女性が多いが、男性を上回る分の大部分は育児等に専念しているものである。

図1 調査時点のおもな活動(男性)


図2 就労者の雇用形態(男性)


表2 2011年10月の状況


3.2011年(24/25歳)時点での安定度
 月ごとの状態について、途中に多数の無答が含まれるなどを除いた842ケース(男374、女468)の2005年4月~2011年10月の79ヶ月間の状態を対象者ごとに検討すると以下のような様子が浮かび上がる。
 表3は2010年11月から2011年10月までの最近12ヶ月間の状態別分布である。12ヶ月間一貫して正規雇用である者が全体のおよそ46%、最近6ヶ月以上連続して正規雇用の者が7.6%をを占めている。一方で最近12ヶ月間に正規雇用経験や在学経験がなく、すべて非正規雇用・失業・その他の状態であった者がおよそ28%ほどとなっている。また最近12ヶ月に正規雇用または在学を含み、非正規・失業・その他を含む複数の状態を経験し、かつ最近の正規雇用が連続6ヶ月未満の者(混合状態)が12%弱だった。なお12ヶ月以上連続正規雇用の者のうちのおよそ73%が最終学校を離学(卒業または退学)以来一貫して正規雇用であった。また6ヶ月以上12ヶ月未満連続正規雇用のおよそ52%が同様であった。

表3 最近12ヶ月の状態

 最近12ヶ月間の状態別に、調査対象期間79ヶ月の間の状態変化回数及び状態別平均月数を示したのが表4及び表5である。ただし第一回調査で質問した2005年4月~2007年9月については期間が長期にわたるため、3ヶ月ごとで聞いている。状態変化回数(転職回数ではないので、正規から正規、非正規から非正規などへの転職は状態変化にあたらない)は全体平均で2.61回となっている。状態変化回数は正規・非正規・その他など混合状態の者たち及び12ヶ月以上非正規・失業及びその他の状態と続けている者たちで多く、在学12ヶ月以上及び正規12ヶ月以上の者たちで顕著に少ない。自営等の者たちは正規6ヶ月以上12ヶ月未満とともにほぼ中位水準である。

表4 状態変化の回数


表5 状態別平均月数

 また状態別平均月数では、最近正規雇用継続12ヶ月以上の者たちが正規雇用40.2ヶ月と最も多く、かつ在学期間を除く9割あまりの期間を正規雇用で過ごしている。その一方、非正規・失業・その他12ヶ月以上の者たちでは34.8ヶ月と在学を除く期間の6割を非正規雇用ですごしているほか、失業3.5ヶ月、その他10.9ヶ月となっている。また混合状態の者たちは正規雇用が21.4ヶ月で非正規雇用の14.2ヶ月を上回るものの、失業期間は3.1ヶ月で高い水準にある。12ヶ月以上自営等継続の者たちでは、33.2ヶ月と在学を除く期間の6割を自営等で働いており、失業も0.8ヶ月とかなり低い水準にとどまっている。なお正規6ヶ月以上12ヶ月未満の者たちの正規雇用期間は11.9ヶ月と少ないが、ここには2011年3月大学院卒業者など在学期間の長い者が含まれている一方、非正規平均月数が正規12ヶ月以上グループの倍以上に上るなど、かなり多様な経歴の者が含まれている。
 以上、最近12ヶ月間の状態と18歳4月からの状況を重ねた検討からは、最近12ヶ月以上連続正規雇用のグループが、79ヶ月全体を通してももっとも安定した移行を果たしている。とくにこのグループではその7割あまり、全体に対する割合で33.5%が最終学校離学以降一貫して正規雇用で働いている。一方、最近12ヶ月以上非正規・失業・その他の状態であったグループ、及び混合グループが79ヶ月全体の状態変化回数や失業等の月数などから見て不安定な状態を続けているといえる。これらのグループには、最近12ヶ月以前に一定長期に渡って正規雇用で働いていた者も含まれてはいるがその割合は少数である。一方、自営・家族従業者等は全体の割合は少ないがその安定度は中程度で、前述の2グループに比べれば安定している。

4.安定度に影響を与える諸要因
 以上のような移行の安定度の違いに影響を与えている要因としては、学歴や家庭背景、居住地域など様ざまなものが考えられるが、本格的には今後の分析・検討課題としたい。ここでは、ジェンダー及び離学直後の状態との関連のみ取り上げる。
 ジェンダー別では正規雇用12ヶ月以上の割合はほとんど等しいが、不安定2グループを併せた割合では男性33.2%に対し女性44.2%と、女性が男性を大きく上回っている。女性のなかには育児・家事等に専念している者も含まれるが、その割合はわずかで、かつその中には母子家庭なども含まれている。この点から見て、女性の方が不安定な移行に直面している割合は高いと考えられる。
 表6は離学直後(18歳4月からの継続在学または24ヶ月以上の継続在学直後)の状態別に見た最近12ヶ月の状態である。離学直後正規雇用に就いていた者のおよそ7割が最近12ヶ月以上正規雇用にいるのに対し、離学直後非正規雇用や、失業またはその他の状態であった者のおよそ7割が最近12ヶ月以上非正規・失業・その他かあるいは混合状態にいる。これで見る限り、離学直後にどのような状態であったかは、25歳時点の状況に少なからぬ影響を与えているといえる。

表6 移行時の状態と最近12ヶ月の状態


5.まとめ
 以上7年間の対象者の月ごとの状態データからは、一方では比較的安定した移行を遂げている若者たちが依然として3分の1程度存在するとともに、他方でかなり不安定な状態を続けている若者たちも3分の1程度存在し、移行の二極分化が現れている様子がうかがわれる。安定した移行と不安定な移行とを分ける要因については、まだ分析・検討は緒に就いたばかりであるが、現段階で、離学直後の状態がその後の分岐に一定の影響を与えている可能性がうかがわれる。今後、さらに分析を進め、来年度末には、一定のまとまった分析結果を公表する予定である。
 最後に、5年間の実査を担当いただいた中央調査社スタッフの方々に、あらためて御礼を申し上げたい。最後まで計画を超える捕捉率で調査を遂行できたことは、ひとえに実査をご担当いただいた方々のご尽力のおかげである。


※なお4回目までの脱落傾向の詳細は、片山悠樹「『若者の教育とキャリア形成に関する調査』4年目調査の概要と脱落サンプル」『「若者の教育とキャリア形成に関する調査」第4回調査報告書』http://www.comp.tmu.ac.jp/ycsj2007/dl2/ycsj2007rep04.pdf