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■「中央調査報(No.663)」より

 ■ 2013年の展望―日本の政治 ―「参院過半数」めぐり攻防―

時事通信社 政治部次長 後藤 正明


 2013年政局は、夏の参院選で衆参のねじれが解消されるかどうかが最大の焦点だ。自民、公明両党が非改選議席を含めて過半数を確保すれば、安倍晋三首相が長期政権への足場を築く。自公で過半数に届かなければ、政策ごとに野党と連携する「部分連合」を模索することになる。首相が政権運営に手をこまぬくようなら、求心力を弱めていくだろう。政局が流動化する展開も否定できず、参院選は日本政治の中期的な針路を方向付ける節目となる。

◇参院選まで安全運転
 「政治の信頼を取り戻し、未来に向けた新たな国造りに邁進していく」。1月4日、年頭の記者会見を三重県伊勢市で行った首相はこう強調。「危機突破のために、まずは何より経済再生で一つ一つ結果を出していく」と述べ、景気対策に最優先で取り組む決意を示した。
 国民の期待が強い景気対策に専念して具体的な成果を上げ、大勝した衆院選の勢いを夏まで維持する―。首相が描く「参院選勝利」のシナリオだ。早速、事業規模20兆円を超える大型の緊急経済対策をまとめ、このうち10兆円超を盛り込んだ12年度補正予算案を決定した。補正は2月中旬に成立する見通しだ。
 首相周辺は「まずは安全運転。前回は早くからいろいろやろうとして失敗した。今回は急がない」と話す。首相やその周辺には、第1次安倍内閣当時、国民投票法などで強行採決を連発したことが、07年参院選の敗北の要因になったとの反省がある。
 首相がひとまず安全運転に徹するのは、今後の国政選挙の日程を考慮に入れてのことでもある。次々回の参院選は16年夏で、衆院議員の任期も16年の12月まで。衆院解散を前提としなければ、夏の参院選後は3年にわたって大型国政選挙がない展開もあり得る。参院選でねじれを解消できれば、自民党総裁任期の15年9月まで、腰を据えて政権を担える可能性が出てくるというわけだ。首相の念頭には、持論の憲法改正や教育改革などがある。

2013年の主な政治日程


◇再可決、自民に選択肢
 当面の政局を考える上で、先の衆院選の結果の意味を確認しておきたい。
 自民党が獲得した衆院の議席は294で、連立を組む公明党の31議席と合わせると325。衆院の3分の2の320を5議席上回り、法案が参院で否決されても衆院で再可決が可能な勢力だ。
 憲法改正など安倍氏と主張が重なる部分が多い日本維新の会が54議席を取り、衆院で第3勢力になったことも見過ごせない。自民党にとって公明党以外にも再可決を実現する選択肢があるということで、首相の政権運営に幅を持たせることになる。
 再可決そのものは「奥の手」で、乱発すれば世論の批判を浴びる。しかし、国会運営が行き詰まりかけた場合の打開の道が見えているということは、安倍政権にとって大きなアドバンテージといえる。衆院のこうした勢力事情は、夏の参院選でねじれを解消できなくても変わらない。
 衆院での3分の2確保は、憲法改正への布石にもなる。憲法96条は、改憲案の発議要件として衆参各院の総数の3分の2の賛成を規定。首相はまず、この「3分の2」の要件を「過半数」に緩和することを目指している。日本維新の会など改憲支持勢力と合わせて参院でも3分の2を確保できれば、改憲への展望が一気に開けてくる。

◇勝敗左右する1人区
 07年当選の参院議員の任期は7月28日。6月26日までの通常国会の会期が延長されなければ、投開票日は7月21日だ。
 自民、公明両党の非改選議席は58。夏の参院選で自公が64議席を獲得すれば、非改選を含めて過半数(122)を占め、ねじれが解消する。自公の改選議席は44で、20議席の上積みが必要となる。4月の参院山口補欠選挙で自民党が勝利すれば、自公の過半数ラインは1減って63となる。
 参院選は、改選数1の1人区の勝敗がカギを握る。
 過去2回の参院選を振り返ると、07年の獲得議席は自民党37に対し民主党60。このうち29の1人区は、自民党6、民主党17だった。10年は逆の結果となり、全体で自民党51、民主党44。1人区は自民党21、民主党8だった。
 昨年11月、参院の1票の格差を是正するため定数を「4増4減」する改正公職選挙法が施行された。これにより、1人区は新たに福島、岐阜両選挙区を加えて31となった。夏の参院選では1人区をめぐる与野党の攻防が、より激烈になる。自民党は、1人区のうち20を超える選挙区で勝利すれば、非改選を含めて自公で過半数に届く公算が大きいとみている。

◇日銀人事で連携探る
 現在の参院の自公会派勢力は102。欠員が6あり、採決に加わらない議長を除く事実上の過半数は118で、過半数に16議席足りない。
 安倍政権が通常国会を無難に乗り切るには、野党との連携が必要となる。4月に任期が切れる白川方明日銀総裁の後任を選ぶ国会同意人事などでは、連携相手としてみんなの党(11人)、日本維新の会(3人)、新党日本(2人)などが想定される。
 年明けに首相が、維新の橋下徹共同代表と会談したり、みんなの渡辺代表と会食したりしたのも、まずは予算審議や日銀総裁人事などをにらんでのことだ。

◇自民、大勝にも危機感
 参院選に向けた自民党の最大の課題は、経済再生への道筋をどう付けるかだ。金融緩和、財政出動、成長戦略を「3本の矢」と位置付ける「アベノミクス」は、これまでのところ市場で好感されて株高、円安の流れが生まれ、首相の思惑通りになってはいる。しかし、こうした状況が続かなければ、有権者の離反を招く恐れがある。「参院選前に景気上昇の実感を国民が味わえるようにしないと、しっぺ返しを食らう」。自民党中堅議員の一人はこう懸念する。
 「参院選に勝つためには国民に信頼してもらわなければならない。この政権はちょっと問題がある、と思われるだけで大敗する危険性がある」。首相も危機感を隠さない。
 実際、自民党に余裕はない。先の衆院選は大勝を収めたが、民主党のつまずきと野党同士のつぶし合いによって、漁夫の利を得た面が強いからだ。
 自民党は09年選挙で64にとどまった小選挙区の議席を、3.7倍の237へと大きく増やした。しかし、今回の小選挙区の得票率は43.0%で、09年を4.4ポイント上回っただけだった。自民党の大躍進は小選挙区制ならではの結果といえる。自民党の比例代表の得票率はほぼ横ばいで、前回比0.9ポイント増の27.6%だった。仮に民主党と第三極がうまく連携を図れば、自民党の脅威になるのは間違いない。
 党内で賛否が分かれる環太平洋連携協定(TPP)交渉への対応も焦点だ。高市早苗政調会長が年明けのテレビ番組で交渉参加に柔軟と取れる発言をすると、党内の反対派が「ギロチンに首を差し出すようなことはすべきではない」(細田博之幹事長代行)などと猛反発。党農林部会は交渉反対を再確認し、反対論の根深さを印象付けた。
 日米同盟関係の立て直しを唱える首相は、米国が期待する交渉入りに前向きとされる。米国などTPP交渉参加国は13年中の妥結を目指しており、首相はなるべく早く交渉に入りたい考えとみられる。しかし、交渉入りを決めれば党内が大混乱するのは必至で、参院選前の決断は困難な情勢だ。とはいえ、参院選後に先送りすれば、日本の主張が通りにくくなるとみられており、首相は難しい判断を迫られる。

◇野党、共闘の成否焦点
 野党の最大の課題は、自公の参院過半数獲得の阻止。その成否は、野党共闘の行方に懸っている。改選数2以上の複数区に関しては「少なくとも1人は立てたい」(石原慎太郎日本維新の会共同代表)との意向もあり、共闘は困難。焦点は、1人区で民主、維新、みんなの3党が候補を一本化できるかどうかだ。
 野党候補が乱立した衆院選を教訓に、3党は、参院選では共闘が必要との認識を共有してはいる。ただ、維新は、「官公労が支配している」(松井一郎幹事長)として民主党との連携に否定的。民主党内にも「労組色の強い海江田執行部では、維新やみんなは選挙協力に踏み込めないだろう」(中堅)との見方がある。
 みんなも、旧太陽の党を加えて政策のぶれが目立つようになった維新とは距離を置く。みんなの渡辺喜美代表は、旧太陽の議員を念頭に「もともと自民党の補完勢力でやっていこうという人が維新にはいる」と指摘している。選挙協力に関しては「かつての維新に戻るなら、政策一致を前提に協力する」との立場だ。
 民主党の海江田万里代表は、野党共闘を進める前に、党の立て直しに道筋を付けなければならない。「寄り合い所帯」とやゆされてきた党の結束固めをどう図るかだ。試金石になるのが、2月24日の党大会に諮る綱領づくりだ。
 保守色が強い安倍自民党との対立軸をはっきりさせるため、執行部は当初、綱領で「中道」路線を打ち出そうとしていた。背景には「国民の多くは穏健な政治路線を求め、首相のタカ派路線には抵抗がある」(民主ベテラン)との思いがある。ただ、「中道」を明確に掲げることに対しては、保守系議員を中心に抵抗があり、執行部は中道の明記は見送ることを決定。結束を優先し、「改革」「共生」など当たり障りのない文言を散りばめた原案をまとめた。
 民主党が一枚岩になり切れず、参院選で党再生への足掛かりをつかめなかった場合は深刻だ。党内には、野党共闘の実現に悲観的な声が少なくない。民主党中堅は「この党は終わりにした方がいいのかもしれない」と語り、維新の石原共同代表も「民主党はもう一回分裂すべきで、私は分裂すると思う」と話す。

◇定数削減は難航必至
 通常国会では、衆院の定数削減と選挙制度改革をめぐる与野党の駆け引きも活発化する。野田佳彦前首相が衆院解散を約束した12年11月の党首討論で、安倍氏は実現を約束。自民党は衆院選公約に「次期通常国会終了までに結論を得た上で必要な法改正を行う」と明記した。先送りは許されないが、打開の糸口は見えておらず、難航必至だ。
 秋に政権は、消費税率を14年4月に8%に引き上げるかどうかの判断を迫られる。アベノミクスが成果を上げて景気が回復基調をたどっていれば難しい判断にはならない。しかし、そうでない場合は増税の是非をめぐって政権が混乱する恐れもある。
 自民党と公明党の関係も焦点の一つだ。消費増税に伴う低所得者対策として公明党が主張していた税率8%段階からの「軽減税率」導入は見送りとなり、両党の間にすきま風が吹いている。公明党にはもともと首相のタカ派路線に抵抗があるだけに、この問題が参院選の自公共闘に影を落とす可能性もある。