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■「中央調査報(No.664)」より

 ■ 東日本大震災における岩手県釜石市の被災者に関する生活実態・意識調査の結果概要

神戸大学大学院人間発達環境学研究科・教授 平山 洋介
東京大学社会科学研究所・教授 佐藤 岩夫


 東京大学と神戸大学を中心とする全国の研究者のグループは、2011年8月と2012年7月の2回にわたり、東日本大震災の被災地である岩手県釜石市において、被災者を対象とする生活実態・意識調査を実施した。その調査の結果から、被災者が抱えるさまざまな問題と、被災地での復興に向けた課題が浮かび上がってきた。

1.調査の目的と概要
 2011年3月11日に発生した東日本大震災は東北太平洋沿岸部の広範な地域に大きな被害をもたらした。震災直後から、国や自治体では復旧・復興に向けた議論が始まり、また、メディアや研究者からもさまざまな提案が示された。しかし、私たちは、それらの動きを重要と考えながらも、若干の違和感をもった。それらの議論や提案が、実際に被害を受けた地域の実情や、とりわけ被災者の生活実態をどれだけ踏まえたものであるかに疑問があったからである。
 震災からの復興は何よりも住民生活の復興につながるものでなければならない。そして、そのためにはまず、被災した住民が実際にどのような被害を受け、その後どのような生活上の問題に遭遇しているのか、そして将来の生活や住まいの再建に関してどのような見通しや考えをもっているのかを知る必要がある。このような考えから、私たちは被災地での調査が必要であると考え、具体的には、調査メンバーの一部が震災前から数次の調査を行っていた岩手県釜石市で調査を実施することにした。同市は、東日本大震災で、死者・行方不明者が1,121人、全壊住宅が2,957戸という大きな被害を被った。仮設住宅は、全部で3,164戸が建設されている。
 震災から約5ヶ月後の2011年8月に行った第1回調査では、避難所、仮設住宅、被災者が入居する公営住宅等を中心に3,985戸に調査票を配布し、1,658票を回収した。回収率は41.6%であった(注1)
 そして第1回調査から約1年が経過した2012年7月に、第2回調査を実施した。第2回調査では、釜石市内の仮設住宅および市内・市外の「みなし仮設」住宅に居住する3,656世帯に調査票を配布し、これに対して、仮設住宅1,005世帯、「みなし仮設」住宅384世帯、計1,389世帯から回答が得られた。回収率は38.0%である。この第2回調査の意義として指摘できるのは、第1に、継続調査であることから、前回調査からの約1年間における住民の生活実態や意向の変化を明らかにできる点、第2に、「みなし仮設」住宅についての包括的な調査は他にあまり例がなく、その点で貴重な情報を得ることができた点である。第2回調査の報告書は2012年11月に発表した(注2)。以下に示すのは、その調査結果のポイントである。

2. 被災世帯の特性
 まず、回答者の世帯構成をみると、小規模な世帯、高齢化した世帯が多い。回答世帯の約7割は2人以下の小世帯である。65歳以上の高齢者のみの世帯が28.7%、高齢者を含む世帯でみると約6割に達した。また、回答者には、生活上のさまざまな支援を必要とする世帯が多い。通院者を含む世帯が76.3%、障害・要介護者のいる世帯が20.5%を占めた。これら高齢者や通院者、障害・要介護者の生活再建を支えることが、復興のための重要な課題になる。
 なお、回答世帯の約3割は、震災をきっかけとして、世帯員の一部が転出し別の場所に住むという世帯分離を経験している。別居者には働き盛りの世代とその家族が多い。高齢者からみると子・孫の世代の家族が別居し、世帯の高齢化と経済力の弱体化が進む結果となった。
 仮設住宅と「みなし仮設」住宅を比べると、仮設住宅では高齢者のみの世帯が多いのに対して、「みなし仮設」住宅では、子どもがいる稼働年齢の世帯が多い。家族人数が多いことや、職場や子どもの学校の関係で、仮設住宅ではなく、民間の借家(「みなし仮設」)を選択したと考えられる。上記の世帯分離の傾向と重ね合わせると、高齢の親世帯は仮設住宅、子・孫世代の家族は市内・市外の「みなし仮設」住宅という家庭が多いと推測される。

3. 仕事と所得
 回答世帯のうち、主な働き手が就労している世帯は64.0%、無職の世帯は36.0%であった。就労者の雇用形態では、「民間の正規従業員」が42.3%で最も多く、次いで「自営業」(23.5%)の割合が高い。一方、「臨時雇用」が19.4%を示し、主な働き手が就労している世帯であっても、不安定就労のケースがかなりある。
 震災前と現在の就労状況の関係をみると、震災前と現在の就労状況に変化のない世帯が約4分の3を占め、その内訳は、「震災前と同じ仕事」が53.5%、「震災前も現在も無職」が21.7%であった。一方、「震災前は仕事をしていて、現在は無職」が14.2%を占め、無職となった理由では、「自分の病気やけが、高齢などのため、仕事ができなくなった」が47.3%と多く、「新しい仕事を探したが見つからなかった」も12.0%あった。
 回答世帯の現在の主な収入源では、「給与・事業収入」(46.5%)と「年金」(45.0%)の二つがほぼ拮抗する。高齢者の多さを反映して、回答世帯のほぼ半数が収入をもっぱら年金に頼っていることになる。そのほか、「貯蓄の取り崩し」の回答も6.2%ある。

4. 現在の住まいの状況
 回答世帯が震災前に住んでいた住宅の種類をみると、約8割が持家で、そのほとんど全部が一戸建て住宅である。回答世帯の9割は住宅「全壊」であった。また、56.0%の世帯が土地の陥没や浸水、境界の移動など何らかの土地被害を経験している。被災者にとって、当面の住宅をどう確保するか、また、将来の住まいをどうするかは最も切実な問題である。
 回答世帯は、現在、仮設住宅または「みなし仮設」住宅に住んでいる。その住宅・居住地に関して困っている点をみると(図1)、「住宅が狭い」(67.1%)が最も多く、次いで「住宅内の熱さ寒さが厳しい」(39.2%)、「買い物が不便」(30.9%)、「隣人の話し声やテレビの音などが気になる」(30.7%)、「物干しに適した場所がない」(29.7%)などの回答が多い。仮設住宅と「みなし仮設」住宅を比較すると、仮設では、住宅の狭さや住み心地の悪さ、不便さの回答が多いのに対して、「みなし仮設」住宅では、「近所に気心の知れた知り合いがいない」や「気軽に集まれる場所がない」など、周囲とのコミュニケーションが少なく、孤立しがちな傾向を示す回答が多い。

現在の住まいや居住地で困っていること【複数回答】


5. 住宅・居住地に関する意向
 将来の住まいの見通しを尋ねたところ、「すでに決まっている」または「見通しはある程度たっている」と回答した世帯は27.8%にとどまる。調査時点(2012年7月~8月)において、回答世帯の7割以上が将来の住まいの見通しが立っていない状態であった。
 次に、希望および予定している将来の居住地を尋ねたところ(図2)、回答率が最も高かったのは「震災前に住んでいた地区・集落」(34.4%)、次いで「震災前に住んでいた場所・地区・集落以外の釜石市内」(26.8%)、「震災前に住んでいたのと同じ場所」(17.3%)であった。津波被害を受けた人たちは、震災前に住んでいた場所に戻ることを難しいと判断し、しかし、その場所が立地する地区・集落内、あるいは市内に住むことを希望・予定する、という傾向をみせている。「仮設」と「みなし仮設」を比べると、「震災前に住んでいた地区・集落」は「みなし仮設」(25.8%)より「仮設」(37.8%)でより多く、「みなし仮設」では、「仮設」(3.0%)に比べて、「岩手県内のそれ以外(釜石市と隣接市・町以外)の市や町」が多い(15.7%)。若い家族世帯が相対的に多い「みなし仮設」では、仕事の機会と子育ての場を得るために、より広域的な移動を選ぶ人たちが多くなると考えられる。

予定または希望する転居先の場所

 希望および予定している住宅の種類では、「持家(一戸建て)」が50.0%で最も比率が高く、次いで「災害復興公営住宅」(32.8%)が多い(図3)。回答者の約8割は、震災前に一戸建て住宅を所有し、そこに住んでいた。このため、住宅復興の方策の検討では、一戸建て持家の再建に対する支援のあり方が重要主題になる。その一方、調査の結果は、持家再建だけではなく、公営住宅入居を望む被災世帯が多いことを表している。「仮設」と「みなし仮設」の違いをみると、高齢者のみの世帯が多い「仮設」では、「災害復興公営住宅」を希望・予定するケースが38.0%とより多く、稼働年齢層の家族世帯が相対的に多い「みなし仮設」では「持家(一戸建て)」の希望・予定が59.4%とより多い。

予定または希望する転居先の住宅の種類

 仮設住宅入居者における将来の住宅・居住地の希望・予定に関して、第1回調査と第2回調査を比較する(図2、3)。居住地については、「震災前に住んでいたのと同じ場所」が第1回では34.8%を示したのに対し、第2回では16.8%まで減った。住宅については、「持家(一戸建て)」が第1回では76.6%という高い回答率を示していたのに比べ、第2回では46.4%へと劇的に減少し、公的住宅全体の比率が第1回では13.6%と少なかったのに対し、第2回では43.7%(「災害復興公営住宅」38.0%と「それ以外の公的賃貸」5.7%の合計)にまで増大した。被災者の多くは、震災発生直後には、一戸建て持家の再建を望んでいた。しかし、それから1年半が経つなかで、住宅再建の困難についての認識が広まり、また、津波被害を受けた自身の土地の再利用は難しいと考える被災者が増大したと考えられる。
 持家再建の意向をもつ世帯に、不安に思っていることがあるかを尋ねると、大きく2つの問題が浮かび上がった。一つは、「再建・新築のための手持ちの資金がない」(41.7%)、「収入が安定する目途が立っていない」(22.5%)、「再建のための資金を借りるあてがない」(19.7%)、「以前の住宅ローンが残っている」(12.5%)などの経済的不安である。もう一つは、「地域の将来像がはっきりしない」(37.9%)、「復興計画で、再建・新築を考えている土地に住宅を建築できるかどうかまだはっきりしない」(27.8%)、「再建・新築を考えている土地が災害時に安全に住めるかどうかわからない」(25.2%)などの土地利用の将来の見通しに関する不安である。
 住まいの安定化は被災者の生活再建を支えるうえで最重要の課題である。以上の調査結果をふまえると、持家再建の意欲をもつ被災者に対する支援を充実し、それに合わせて、公営住宅の建設・供給を進める施策が必要である。これを実現するには、土地区画整理・防災集団移転促進事業を中心とする土地利用再編の見通しを得ることが不可欠になる。

6. 震災後の困りごと等の経験
 調査では、被災世帯が震災後に経験した「困りごとや心配ごと、トラブル」の内容を尋ねた。被災者の生活上の困難や生活再建の課題は、より具体的には、被災者各自がかかえる困りごとや心配ごとに集約されて浮かび上がってくると考えたためである。質問は、被災者の経験をなるべく生の姿でとらえるため自由回答の形で行った。これに対して、回答世帯全体の48.2%が何らかの困りごと等の経験を記入している。
 図4に掲げたのは、自由記述の内容を手がかりに、困りごと等の内容をアフターコーディングした結果である(困りごと等の内容は多面的であるため複数回答扱いで分類した)。やはり、「住まい」に関する問題がぬきんでて多く、困りごと等の記入があった世帯の53.3%を示している。その具体的内容は、震災後現在の住宅に落ち着くまでのさまざまな苦労、現在の住宅の水準・環境に関する問題、多額の住宅ローンの返済困難、自宅再建および公営住宅入居に関する心配などである。

.困りごと等に関する自由記述の内容【複数回答】

 また、上記の通り、被災世帯には高齢者が多く含まれていることから、「医療・年金・福祉」(18.3%)の問題も上位を占める。さらに、仕事の確保や自営業・漁業の再建に関する問題が被災者にとって大きな問題であり(「雇用」と「事業」がともに8.7%)、津波等の犠牲者の相続問題、震災後の困難な状況の中での離婚や家族内の軋轢など「家族」の問題(7.8%)も深刻となっている。各種の災害復興支援制度の利用に関して、被災者は手続の煩雑さや不公平感なども訴えている(「災害復興支援制度」が7.1%)。「その他の問題」(17.9%)も高い回答率を示す。その内容はさまざまであるが、生活の苦しさや経済的不安の訴えが目につく。
 調査では、この質問に合わせて、その困りごと等についてこれから相談したい機関や専門家の希望を複数回答で尋ねた。それに対して、相談希望「あり」の回答が最も多かったのは、「市・県の各種相談窓口」(57.1%)であり、次いで、「法律の専門家(弁護士・司法書士)」(22.1%)、「土地・建物の専門家(建築士・土地家屋調査士など)」(21.8%)、「福祉の専門家(社会福祉士・ケアマネジャーなど)」(12.3%)、「金融機関」(11.6%)、「ハローワーク」(7.1%)、「その他」(6.7%)、「事業者団体、漁協・農協」(6.4%)などであった。「相談したい機関や専門家はとくにない」は14.7%にとどまる。各種の災害復興支援制度の窓口となる行政への相談希望が多いことは容易に理解できるが、その他では、「法律」「土地・建物」「福祉」の専門家への相談希望の高さが目につく。
 住民の生活再建を進めるためには、きめ細かな支援が必要である。調査結果からは、住民に対する各種の専門家・専門機関の支援の充実(各種専門家の被災地への配置、相談窓口の増設、相談先・方法に関する情報提供等)が復興政策のソフト面の重要な課題として浮かび上がってきた。

7. むすび
 以上のように、今回の調査からは、被災者が抱えるさまざまな問題と被災地復興の課題が浮かび上がってきた。私たちは、この調査結果が示す課題が適切な形で施策に反映されるように、今後もさまざまな形で発信していきたい。と同時に、被災者の生活は日々刻々変化し、そのなかで新しい課題やニーズも現れてくる。その実態を正確に把握し、各種の施策や支援の活動に反映させるために、今後も、継続的に調査を行う必要がある。
 また、私たちの期待は、他の地域でも、系統的で信頼できる被災者調査が実施されることである。被災者の生活実態と意向を踏まえる形で被災各地の復興が進められることを望みたい。


付記
 第1回調査は文部科学省科学研究費補助金・基盤研究(B)(代表・佐藤岩夫)、第2回調査は三井物産環境基金2011年度東日本大震災復興助成(研究助成)(代表・平山洋介)にもとづいて実施された。

(注1)調査報告書(『釜石市民の暮らしと復興についての意識調査基本報告書』同調査グループ編、2012年1月刊行)は、調査グループのウェブサイト(http://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/fukko-kamaishi/)に掲載してある。
(注2)『釜石市民の暮らしと復興についての意識調査(第2回)基本報告書』(同調査グループ編、2012年11月刊行)。同報告書も、前注記載のウェッブサイトに掲載してある。