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■「中央調査報(No.675)」より

 ■ 2014年の展望―日本の政治 ―景気、原発、憲法焦点に―

時事通信社 政治部次長 松山 隆


 2014年は大型の国政選挙が予定されず、巨大与党に支えられる安倍晋三首相の政権運営を軸に政局が展開していく見通しだ。長期政権をうかがう首相は、経済政策「アベノミクス」への世論の支持を推進力と捉え、引き続き経済対策に最優先で取り組む方針。ただ、4月の消費税率引き上げが経済に及ぼす影響は読み切れていない。景気が著しく落ち込めば、憲法や安全保障など「安倍カラー」の強い政策の行方にも影響しそうだ。

◇消費税率上げ、景気失速も
 首相は1月6日、恒例の伊勢神宮参拝のため訪れた三重県伊勢市で年頭記者会見に臨み、「今年はデフレ脱却という勝利に向け攻める番だ。この春こそ景気回復の実感を収入アップという形で国民に届けたい」と表明した。
 再登板から昨年末までの1年間で株価は57%上昇し、首相はアベノミクスに自信を深めている。4月に消費税率を8%に引き上げることで景気減速は避けられないとみており、1月24日召集の通常国会冒頭に13年度補正予算案と14年度予算案を提出、切れ目のない積極的な財政出動で景気を下支えしたい考えだ。
 ただ、首相が年頭所感で「景気回復の実感を中小企業・小規模事業者をはじめ、全国津々浦々にまで必ず届ける」と強調した通り、アベノミクスの恩恵は中小企業や地方には行き渡っていない。多くの国民が賃金上昇など目に見える形で景気回復を実感できないまま消費税増税を迎え、景気が大きく後退すれば、安倍政権への期待感は一気にしぼみかねない。
 首相は法律が15年10月と定める消費税率の10%への再引き上げについて「7~9月の状況を見て判断したい」と語っている。この時期の国内総生産(GDP)などを見極め、年末の予算編成前に判断する構えだが、景気低迷が長引けば再引き上げはおぼつかない。15年4月には統一地方選、さらにその1年余り先には衆参同日選も視野に入り、再引き上げへのハードルは極めて高い。

◇都知事選が試金石
 政権運営が直接問われる国政選挙が予定されない今年、最大の大一番と目されるのが1月23日告示、2月9日投開票の東京都知事選だ。自民党東京都連が推す舛添要一元厚生労働相と、民主党が実質的に支援する細川護熙元首相の対決が軸となる見込み。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設計画の是非が争点となった同県名護市長選で自民党推薦候補が敗北したばかりの安倍政権にとって、負けられない一戦となる。
 先に名乗りを上げた舛添氏は、自民党が昨年末から年初にかけて3度にわたって実施した独自調査で知名度上位を占めた。これに対し、細川氏は「脱原発」の立場で一致する小泉純一郎元首相の後押しを受けて参戦。脱原発をめぐり衰えを知らない発信力を示す小泉氏が細川氏支援に回ったことで、「古巣」の自民党には動揺が広がっている。
 安倍政権は原発再稼働による安価で安定した電力供給が経済成長には不可欠とみており、首相がトップセールスに乗り出した原発輸出と併せ、従来の原発政策の継続は譲れない。こうした中、「脱原発」が主要な争点に浮上しつつあることに、政権中枢も警戒感を強めている。首都決戦で敗北すれば、安倍政権には手痛い打撃となるのは確実だ。

◇原発再稼働へ調整大詰め
 首相は原発について「新しい基準で安全と判断されたところは再稼働したい」と、再稼働を急ぐ立場を明確にしている。政府は近く閣議決定するエネルギー基本計画で、原子力を「重要なベース電源」と位置付ける方針だ。
 首相は原発停止に伴う天然ガスなど代替エネルギー輸入拡大による国富の流出を憂慮。加えて、成長戦略の柱として原発輸出を位置付けており、日仏企業連合が受注で実質合意したトルコなど、各国への売り込みでは首相が前面に立っている。
 首相周辺は再稼働の判断時期について「夏以降」との見通しを示しており、国論を二分する問題について遠からず決断を迫られる。首相は国民に丁寧に説明して理解を求めていく考えとみられるが、反対派の納得は得られそうになく、政権は体力を消耗しそうだ。

◇憲法解釈見直し、公明と亀裂も
 「安倍カラー」の強い政策で今年中にも具体化が進むとみられるのが、集団的自衛権の行使を可能にするための憲法解釈変更だ。首相は14年度予算案成立後の4月にも与党との調整に入る構え。しかし、連立を組む公明党は集団的自衛権の行使容認に慎重な姿勢を崩しておらず、進め方によっては政権内に亀裂が生じる可能性もある。
 政府の「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)は昨年10月、憲法解釈変更により実施可能とすべきだとする安全保障上の具体的課題を公表。日本近隣有事の際の米国などへの攻撃の排除や、第三国への武力攻撃が発生した場合の武力行使を伴う集団安全保障措置への参加など5項目を例示した。安保法制懇は4月にもこうした内容を盛り込んだ報告書を提出することにしている。
 これに対し、公明党は海外での武力行使を禁じた憲法9条は堅持すべきだとの立場で、集団的自衛権は行使できないとする従来の政府解釈は「妥当」と主張。首相や安保法制懇の見解とは真っ向から対立している。
 首相は安全保障問題でより主張が近い日本維新の会の橋下徹共同代表やみんなの党の渡辺喜美代表と個別に会談するなど、両党との連携に布石を打っており、公明党の重みが相対的に低下している面があるのは否めない。実際、首相は山口那津男代表が繰り返し自制を求めていたにもかかわらず、昨年12月に靖国神社参拝に踏み切った。
 首相は1月12日、訪問先のモザンビークで、調整に入る時期について「自然体でいきたい。今からスケジュールを決めているわけではない」と公明党に配慮を示したが、具体的に動きだせば政権内がぎくしゃくするのは避けられない。

◇遠のく中韓との首脳会談
 第2次安倍政権が発足して1年余り。いまだに実現していない中国、韓国との首脳会談は、首相の靖国神社参拝で両国の反発を招き、一段と遠のいた。安倍外交は最大の課題である中韓との関係改善が見通せず、立ち往生している。
 首相は年頭会見で「靖国神社参拝について私の真意を直接、誠意をもって説明したい」と首脳会談実現に意欲を表明。しかし、会談に応じようとしない中韓に対し「困難な課題や問題があるからこそ、前提条件を付けずに首脳同士が胸襟を開いて話をすべきだ」と従来の主張を繰り返すしかなく、手詰まり感をうかがわせた。
 民主党政権末期の12年9月、政府が沖縄県・尖閣諸島を国有化すると、ぎくしゃくしていた中国との関係悪化は決定的となった。昨年は尖閣周辺の日本領海に中国公船が侵入を繰り返したほか、11月には中国が尖閣を含む東シナ海上空に防空識別圏を設定、緊張が一気に高まった。それでも政治分野以外での交流は徐々に回復しつつあったが、首相の靖国参拝でそれも困難になった。
 韓国とも、来年の国交回復50周年に向け、事務レベルで関係修復を模索する動きがあった。首相の靖国参拝直前には、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に参加する韓国軍の要請を受け、陸上自衛隊の小銃弾1万発を無償提供し、日本政府内には韓国との関係改善を期待する声も上がっていたが、首相の靖国参拝で事務レベルの対話さえ見通しの立たない状況に陥った。
 昨年は恒例の日中韓首脳会談も開けず、今年は持ち回りで日本が議長国を務めるが、会談開催をどの段階で中韓に呼び掛けるかも決まっていない。これまで、3カ国首脳が同席する国際会議では立ち話する程度にとどまっており、今秋、北京で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が一つの節目になりそうだ。
 一方、米政府は中国の防空識別圏設定に「現状を一方的に変えようとする試み」(バイデン副大統領)と深い懸念を示すなど、対中政策で日本政府と足並みをそろえている。
 しかし、日中間の緊張が高まることは望んでおらず、その後の首相の靖国参拝には「失望している」とあからさまに批判。先の名護市長選では普天間飛行場の移設計画阻止を訴えた現職が勝利し、計画の遅れも避けられそうにない。こうした日米間の「ずれ」や懸案への対応が、4月で調整されているオバマ大統領の来日の際の課題となる。

◇野党再編、思惑にずれ
 12年12月の衆院選、昨年7月の参院選で自民党の独り勝ちを許した野党各党は、当面、大規模な国政選挙が予定されていないとあって、反転攻勢の手掛かりがつかめずにいる。民主、維新、結いの党3党を中心に「巨大与党に対抗しうる野党勢力の結集」を模索する動きがあるが、思惑にずれがあって先行きは見通せない。
 野党再編論議が本格化したのは、衆参の選挙区選挙で野党勢力が競合し、自民党に「漁夫の利」をもたらした反省からだ。民主党の細野豪志前幹事長、維新の松野頼久国会議員団幹事長、みんなの江田憲司前幹事長(当時)ら、3党の一部で連携を模索する動きが活発化。昨年12月に勉強会「既得権益を打破する会」設立にこぎ着けた。しかし、細野氏は民主党からの離党には否定的で、海江田万里代表ら同党執行部はあくまで民主党中心の野党再編を志向している。
 新党に最も積極的な維新は、衆院選での党の躍進の原動力だった橋下徹共同代表が、従軍慰安婦制度について「当時は必要だった」などとする一連の発言が批判を招き、参院選で議席を伸ばせなかった後は国政と距離を置き始めている。
 維新との合流には前向きの江田氏も、みんなから集団離党して結いの党を結成すると、維新の旧太陽の党系議員とは憲法観や原発政策などが食い違うとして太陽系を切るよう要求。太陽系の代表格である石原慎太郎共同代表も結いとの連携に否定的な考えを公言している。野党再編論議は前途多難といえ、来年4月の統一地方選までに一定の協力の方向性が見いだせるかは不透明だ。

◇後がない選挙制度改革協議
 2年後の衆参同日選の可能性が取りざたされる中、選挙区の「1票の格差」是正に向けた衆参両院の選挙制度改革は後がない状況だ。選挙に間に合わせるには来年の通常国会で関連法案を成立させなければならず、年内にも具体的な改革案で与野党が合意する必要があるためだ。
 しかし、各党の動きは鈍い。格差が最大2.43倍だった12年12月の衆院選について、最高裁は昨年11月、09年衆院選に続いて「違憲状態」との判決を下し、違憲判決には踏み込まなかった。このため、各党からは「予想より寛容な判決」(公明党幹部)と安堵の声が漏れたほどだ。
 実際、自民、公明、民主の3党は現行の小選挙区比例代表並立制の維持を前提としているのに対し、みんなや共産は「小選挙区制は中小政党には不利」とみて廃止を主張。定数削減に関しても、自公両党が比例のみ30程度の削減を唱えるのに対し、民主党は従来の小選挙区30、比例50削減は取り下げたものの、小選挙区と比例をともに減らして比率を3対2程度とするよう主張。歩み寄りは容易ではない。
 参院では、自民党は具体的な改革案を示しておらず、公明党は全国11ブロックに分けた大選挙区制、みんな、共産両党は比例への一本化を求め、維新は憲法改正を伴う一院制を主張している。格差が最大4.77倍だった昨年の参院選について、最高裁は今夏以降に判決を出すとみられており、各党は合意を急ぐよう迫られることになる。