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■「中央調査報(No.685)」より

 ■ 郵送調査の有効回答率に関する考察
 ~内閣府政府広報室の郵送調査結果から~ 


仲田 海人(一般社団法人中央調査社)  
花田雄太郎(内閣府大臣官房政府広報室)  
佐藤  寧(株式会社日経リサーチ 元:内閣府大臣官房政府広報室)  



1.はじめに
 内閣府政府広報室では、昭和22年から世論調査を実施しており、調査結果は各府省庁の審議会や白書等に利用されているほか、一般の方にも幅広く活用されている。
 調査は、住民基本台帳から無作為に抽出した調査対象者に対して、調査員による個別訪問面接聴取法で行っている。
 今回、より多様な調査手法を検討する観点から、「郵送調査」を実施することになり、調査の企画・設計を内閣府政府広報室、調査の実施を一般社団法人中央調査社で行った。郵送調査の詳細については、内閣府政府広報室世論調査のホームページに報告書が掲載されている。
 郵送調査については、細かな工夫を凝らすことにより高い回答数を確保できる手法として、近年自治体やマスコミでの活用が広がっている反面、調査員が介在しないことから「本人記入の確認ができない(=代理回答の発生)」という点が課題として挙げられている。また、代理回答票の扱いとも関連するが、郵送調査における「有効回答率」の定義については、現状各調査主体に委ねられ、基準が統一されていないことから、公表されている回答率だけでは各調査の比較・評価が難しい。
 本稿では、日本行動計量学会第42回大会で発表した、花田・仲田・佐藤(2014)の内容を中心に、郵送調査で一定の返送数を確保するための方策と、有効回答率の基準について考察する。

2.内閣府政府広報室で実施した郵送調査
 郵送調査の仕様を、図表1に示す。

図表1 郵送調査の仕様


 なお、調査テーマである「社会意識に関する世論調査」は、平成26年1月に面接調査でも実施しており、面接調査との比較をすることも目的の一つとしている。
 調査の実施にあたっては、平成25年度に実施した「内閣府の世論調査に関する有識者検討会」での委員からの意見を参考にした。有識者検討会における、委員からの提言についても、内閣府政府広報室世論調査のホームページに掲載されている。
 特に、埼玉大学社会調査研究センターの松田映二准教授には、調査票の作成等において様々な指導をいただいた。
 返送数を高めるために実施した手順・調査用品は以下のとおり。

①依頼はがき
 調査対象者に対しては、調査票を発送する7日前に、依頼はがきを送付した。これは、調査についての認知を高めておくことと、調査票を送る際の説明書類を減らすことを目的としている。

②送付物の点数・内容
 調査票類は、角2サイズの茶封筒にて発送をした。封入物は、調査票・返信用封筒・ボールペンの3点。対象者の「読む負担」を減らすよう、別紙の依頼状等は用意していない。調査についての依頼文・説明文は、調査票の表紙上段に簡潔にまとめている。
 返信用封筒は、調査票を折らずに封入できるよう、角2サイズの封筒とした。なお、発送用封筒・返信用封筒については、あらかじめ切手を貼るという案もあったが、今回は別納・後納郵便として対応した。
 ボールペンは、先付としてのし箱に入れて同封した。なお、調査協力者には後日500円分の図書カードを送付した。

③調査票のレイアウト
 調査票は、上質紙のレモン色を使用したうえで、全体のページ数を減らすこと・調査対象者にとって理解しやすくすることに配慮して作成している。実際の調査票のレイアウトについては、報告書を参照いただきたいが、具体的には、下記のような点に配慮した。

  •  二段編集にすることで、調査票のページ数が面接調査で使用するものと比べて約半分になるようにした。
  •  線や囲みをできる限り入れないことで、分岐設問の矢印が目立つようにした。かわりに、設問文をゴシック・選択肢を明朝(選択番号はゴシック)とすることで、設問文と選択肢の違いがはっきりわかるようにした。
  •  回答選択肢はすべて一列に並べ、二段組みにならないようにした。
  •  設問の「Q・SQ・F」など対象者が理解できない文字は使用せず、「問」に全て統一し、フェイスシートも含めて最後まで連番とした。
  •  調査票の最後に「調査についての意見・要望等」の自由記入欄を設けた。
  •  調査票は、A3用紙二つ折りの中綴じとし、最終ページは空白とした。

④督促はがき
 調査票発送の14日後(投函期限の2日前)に、未返送の調査対象者に対して、督促はがきを発送した。
督促はがきについては、発送対象者を2グループに分け、一方のグループは『内閣府「社会意識に関する世論調査」にご協力ありがとうございます』という感謝を伝えるタイトル、もう一方のグループについては、『内閣府「社会意識に関する世論調査」にぜひご協力ください』という依頼を伝えるタイトルで発送をした。説明の本文は概ね同じ内容だが、返送の効果としては、後者の方が上回った。

⑤督促調査票
 投函期限の締め切り後に、未返送者に対して督促調査票を送付した。督促調査票は、初回に発送した調査票から用紙をさくら色に変え、表紙の依頼文・投函期限についても変更をしたものを使用した。

 以上5点が、今回実施した主な内容である。調査の仕様については、本郵送調査の報告書や、佐藤(2014)でも詳しく報告されているので参考にされたい。
 返送数や不能の内訳については図表2のとおり。有効回答率の定義については後述するが、今回の内閣府政府広報室の調査では、2,258票(75.3%)を有効として扱った。

図表2 調査結果の概要


 なお、内閣府政府広報室では、平成22年度にも郵送調査を実施しているが、今回の郵送調査の回答率と比較すると20%弱低い結果となっている。
 平成22年度調査においても督促はがきは発送していたが、事前の依頼はがきや先付ボールペン、督促調査票の発送はなく、また、調査票のレイアウトや封筒についても異なることから、上記①~⑤の効果により、今回の郵送調査では返送数が大きく向上したものと考えられる。
 回答率については、平成26年1月に実施した面接調査と比較しても、今回の郵送調査の方が各年代とも高い結果となっている。また、回答内容についても、社会・生活への満足度や日本の状況についてなど、一部の設問で異なる傾向を示した回答があった。

3.代理回答についての分析
 先述のとおり、郵送調査は誰が回答をしたのか確認を取ることができない、という課題があるが、内閣府政府広報室ではその対応策として、記入者を確認する「代理回答欄」を調査票に設置した。具体的には調査票の最後から2番目の設問に、「今回の世論調査にご回答いただいたのは、どなた様ですか」という設問文で「郵便宛名のご本人様」と「代理の方」の選択肢を設けた。また、「代理の方」と答えた場合には、郵便の宛名ご本人(調査対象者)との関係や代理回答の理由を自由回答欄に記入するようになっている(図表3)

図表3 「代理回答欄」設問


 代理回答欄の設置は「代理回答でもよい」という印象を調査対象者に与えないよう目立たない位置に配置し、設問文についても記入者への抵抗感を与えないようにしている。ここでの回答結果が、返送された調査票のうちで有効を定義する判断要素となる。
 この設問に対して「代理の方」と回答した票は61票あり、全返送数の2.6%であった。
 ここで代理回答申告のあった61票について言及すると、代理回答を申告した票の特徴として、高齢層に多く、体調不良など身体の都合による記入不可能な理由である場合が多い傾向にあったことが挙げられる。調査対象者の属性を見るため、住民基本台帳から抽出した名簿の年齢を確認したところ、半数以上が70歳以上であった。
 自由回答欄から代理回答理由を見たところ、調査対象者が高齢であることや体調不良などを理由に代理の人が回答としたケースが最も多く、5割近くを占めた。また、本人の回答拒否による代理回答は1割以下、多忙などによる代理回答は2割近くあり、残りは理由に関する記載がなく、不明となっている(図表4)

図表4 代理回答の理由


 同じく自由回答欄から、誰が調査票に記入したのかを確認したところ、約7割の票に回答があり、そのほとんどが調査対象者の身内によるものであった。
 また、代理回答の申告があった場合は、原則、不能票として扱うこととなっていたが、中には身体の不自由などを理由に調査対象者本人は直接記入していないが、調査対象者本人の回答を代筆者が聞き取って記入したと判断できる票が6票あった。これらは本人の意見が反映された票として代理回答とは区別し、有効票として扱った。

4.性・年齢の一致状況について
 代理回答欄の結果分析とあわせて、調査票に記入された性・年齢と、抽出名簿の性・年齢の照合を行った。年齢を「年代」で記入する人が発生することを想定し、今回は年齢差が10歳差未満の票については「一致」とみなして分類したところ、図表5のような結果となった。

図表5 回答申告者別の性・年齢一致状況


 性・年齢の一致状況について見ると、本人回答を申告しているにも関わらず性・年齢が不一致であった対象は19票あり、抽出・名簿作成時の誤りや調査対象者の記入誤り等の他に、「記入する人は宛名の本人である」という点を認識せずに回答した、無意識の代理回答も考えられる。
 加えて、代理回答申告があった票の中には調査対象者の性・年齢が一致している票が37票あった(うち、6票は先述のとおり有効票として処理)。これらの票は、有効とした6票と同様に、対象者本人の意見を聞き取って記入をした可能性もあるが、自由回答欄に明確な説明がなかったため、有効と判断することはできなかった。
 以上のとおり、代理回答欄を設けることで、本人記入かどうかの判断材料とすることができる。一方で、今後の課題としては、「誰の意見であるか」ということがより確実に判断できるような回答を引き出す設問を設計する必要がある。
 なお、性・年齢の照合について、今回は「10歳差未満」を一致とみなしたが、回収された票の95%以上は、年齢差なしまたは1歳差に収まっていたことから、一致と判断する基準については、もう少し狭めても分析結果に違いはない。

5.有効回答率の基準について
 代理回答申告の有無、性・年齢の一致状況を判断基準とした有効回答率の違いを見るため、今回は図表6のような有効回答率の定義として分類した。
 定義1は、今回の郵送調査で採用した基準で、「代理回答申告」があったもののみ除外するというものである。ただし、自由回答欄から「調査対象者本人の意見が反映されている」と判断した6票は除外せず、有効票とした。この基準での有効回答率は75.3%となる。
 定義2は、定義1から抽出名簿との照合により「性・年齢不一致」となる票を除外するというものである。これは、先述のとおり、本人回答申告をしたが性・年齢が一致しなかった票の中に、無意識の代理回答が混在している可能性があるためである。この基準での有効回答率は74.6%となる。
 定義3は、本人回答申告がある票の中で、抽出名簿との照合で一致した票のみ有効とするものである。面接調査と異なり、対面で本人確認ができない分、本人記入申告及び名簿による調査対象者との属性照合が一致することが有効票である条件とし、確認できない場合は、有効票と認めないものとする。この基準での有効回答率は73.1%となる。
 定義によって回答率は異なるが、定義1~3で2%ほどの差があり、この中に真の有効回答率が存在することになる。

6.おわりに
 今回の考察では、従来採用した有効回答率に加え、性・年齢の一致状況・照合不可という状況を有効判断基準に加えることによる有効回答率の違いを示した。また、採用した有効判断基準と有効回答率をともに示すことで、読み手にどんな基準で有効回答率が定義されているか伝えることができ、有効回答率の比較・判断が可能になると考えられる。
 その一方、代理回答の判断、有効回答率の基準それぞれで課題が残されている。
 代理回答については、今後更に調査対象者本人の意見が反映されているかが確認できるような設問文・選択肢を設計していく点が挙げられる。その際、調査対象者にとって負担とならない設問文・選択肢とすることについても意識する必要がある。
 有効回答率の基準についても見直す余地があり、年齢照合での一致とする年齢差の範囲や、無回答による照合不可の状態での有効判断など、さまざまなケースで判断基準のあり方についての検討を要するといえる。

※本稿に示されている内容や意見は、各筆者の所属する組織の見解を示すものではない。

参考文献
内閣府大臣官房政府広報室(2014)「社会意識に関する世論調査(郵送調査)」「内閣府の世論調査に関する有識者検討会 提言」,内閣府政府広報室世論調査ホームページ(http://survey.gov-online.go.jp/h25kentoukai/index.html

花田雄太郎,仲田海人,佐藤寧(2014)「郵送調査における代理回答分析と有効回答率の再定義 ~内閣府の郵送世論調査の結果から~」,日本行動計量学会第42回大会抄録集

佐藤寧(2014)「内閣府の面接・郵送並行調査の成果-調査報告と携帯限定層の意識-」,政策と調査第7号