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■「中央調査報(No.693)」より

 ■ 「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(JLPS)2014」からわかる
 若年・壮年者の働き方・希望の意識・ボランティア活動


石田  浩(東京大学社会科学研究所)
有田  伸(東京大学社会科学研究所)
藤原  翔(東京大学社会科学研究所)
朝井友紀子(東京大学社会科学研究所)


 本稿は、東京大学社会科学研究所が2007年から毎年実施している「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(Japanese Life Course Panel Surveys)」の2014年調査結果に関する基礎的な集計と分析をまとめたものである。本稿では次のような3つの問いについて分析した。第1は、どのような人が土日に働いており、土日の働き方と生活満足度は関連があるのか。第2は、日本社会に対する希望の意識がどのように近年変遷してきたのか。第3は、東日本大震災によりボランティア活動は活性化されたのか。1

1. はじめに
 東京大学社会科学研究所では、2007年より「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」(Japanese Life Course Panel Survey - JLPS)を毎年1月から3月に実施している。若年・壮年を取り巻く社会経済環境が大きく変貌するなかで、日本に生活する若年・壮年層がどのような働き方・暮らし方をしており、交際・結婚・出産といったイベントをどのような過程を経て経験し、意識や考え方が変容してきているのか、などについて分析をすることを目的として実施している調査である。この調査は、同じ対象者を毎年追跡する「パネル調査」という形式を採用しており、同一個人を追跡することにより、個人の行動や意識の変化を毎年正確に把握することができるという特色がある。
 2007年の第1回調査では、日本全国に居住する20-34歳(若年)と35-40歳(壮年)の男女を母集団として抽出した対象者に対して、郵送配布・訪問回収の方法により調査を実施(2007年1~4月実施:回答者4800名)した。その後毎年ほぼ同様の調査方法で対象者を追跡している。2011年には、パネル調査を継続するなかで脱落していくサンプルを補充するため、新たに同年齢の24-38 歳(若年)と39-44歳(壮年)の対象者を追加し、郵送配布・郵送回収の方法で調査を実施(2011年1~3月実施:回答者963名)した。今般、2014年には第8回(追加サンプルについては第4回)の調査(2014年1~3月実施:継続サンプル回答者2992名、追加サンプル回答者688名)が行われた。
 2014調査に基づき、土日の働き方の実態とそれが生活満足度に与える影響、希望の意識の近年の変遷、ならびに東日本大震災とボランティア活動との関連という3つのテーマについて分析を行った結果を公表する。 (石田浩)


2. 土日に働く人とその満足度
(1) 土日に働いている人はどの程度いるのか

 いつも何処かで誰かが働いている。以下では、誰が土日に働いているか、その実態とそれが満足度に対して与える影響を、2014年調査(2014年1~3月実施)から明らかにする。
 まず、働いている人(平均年齢38.5歳、28歳~48歳)のひと月あたりの土曜日と日曜日の出勤日数を示したのが図1である。働いている人のうち、土曜日にまったく働いていない人は男性29.9%、女性42.9%であり、もっとも割合が高い。その次に割合が高いのは男女ともに4日、つまり毎週働いている人であり、男性26.1%、女性18.4%である。土曜日にひと月あたり3日以上働いている人は、男性では36.8%、女性では28.8%となっている。
 働いている人のうち、日曜日にまったく働いていない人は、男性では59.4%、女性では67.7%となっており、もっとも割合は高くなっている。また、日曜日にひと月あたり3日以上働いているのは、男性では18.8%、女性では16.5%である。


図1 ひと月あたりの土日の出勤日数(土、日別)

 次に、土曜日と日曜日を組み合わせて、その割合を示したのが図2である。なおここでは、ひと月あたりに土曜日に2日以下働いている場合と3日以上働いている場合の2分類と、ひと月あたりに日曜日に2日以下働いている場合と3日以上働いている場合の2分類を組み合わせて作成した4つのパターンの割合を示している。
 図2より、土曜日も日曜日とも月に2日以下働いているのは、男性では61.2%、女性では68.2%となりもっとも割合が大きい。また土曜日のみ月に3日以上働いているのは、男性では20.0%、女性では15.3%となっている。一方、日曜日のみ月に3日以上働いているのは男性では2.0%、女性では3.0%と割合が小さい。しかし、日曜日に3日以上働いているものが少ないわけではない。土曜日も日曜日も3日以上働いているものは、男性16.8%、女性13.5%となっている。つまり、日曜日に3日以上働いているもののほとんどが、土曜日も3日以上働いていることになる。

図2 ひと月あたりの土日の出勤日数(土日の組み合わせ)

(2) 土日に働いている人は誰か
 それでは誰が土曜日と日曜日に働いているのか、その実態を明らかにする。まず、産業と土日の出勤日数との関連を図3からみていく。農業、運輸、小売業、飲食業、不動産業、その他サービス業では土日とも3日以上勤務の割合が大きくなっている 。一方、製造業、卸売業、金融・保険業、情報・通信サービス業、教育・研究サービス業、法律・会計サービス業、公務では土日とも2 日以下勤務の割合が大きくなっている。なお、土曜日のみ3日以上の割合が大きいのは、建設業、小売業、医療・福祉サービス、学習塾・教養技能・健康である。日曜日のみ3日以上の割合が大きいのは、運輸業、小売業、飲食業である。

図3 産業と土日出勤の関連

 次に、職業と土日の出勤日数の関連を図4からみていく。土日とも3日以上勤務の割合が大きくなっているのは、販売、サービス、農林である。土日とも2日以下勤務の割合が大きくなっているのは、専門と事務である。土曜日のみ月に3日以上働いているのは、運輸・通信、製造、建設で多く、日曜日のみ月に3日以上働いているのは、販売と労務でのみ多い。
 以上のように、産業や職業によって、土日の出勤日数は異なっている。

図4 職業と土日出勤の関連

(3) 土日に働いているかによって満足度は異なるのか
 それでは土日出勤は仕事への満足度や生活全般への満足度と関連しているのだろうか。図5は、土日出勤と仕事満足度の関連を、図6は、土日出勤と生活満足度の関連を示したものである。

図5 土日出勤と仕事満足度の関連


図6 土日出勤と生活満足度の関連

 日曜のみ3日以上や土日とも3日以上働いている場合で仕事に満足していると答える割合が低くなる傾向はみられるものの、大きな違いではなく、カイ2乗検定からは、統計的に有意な関連はみられないといえる(男性:カイ2乗値=13.7、自由度=12、p=0.321、女性:カイ2乗値=18.1、自由度=12、p=0.113)。つまり、土日出勤は仕事に対する不満を高めるものではない。
 一方、土日出勤の有無によって、生活満足度は異なっている。カイ2 乗検定からは、男女ともに統計的に有意な関連があるといえる(男性:カイ2乗値=26.2、自由度=12、p=0.010、女性:カイ2乗値=57.4、自由度=12、p=0.000)。
 男性では、土日とも2日以下働いている人が生活全般に「満足している」を答える割合が高く、「どちらかといえば不満である」と答える割合が低くなっている。土曜のみ3日以上働いていたり、土日とも3日以上働いていると、「どちらかといえば不満である」と答える割合が高くなる傾向がある。つまり、土日に働いているほうが、生活全般に満足していない傾向がある。
 女性では、より大きな違いがみられる。土日とも2日以下働いている人が「満足している」「どちらかといえば満足している」と答える割合が高く、「どちらともいえない」「どちらかといえば不満である」と答える割合が低い傾向がある。一方で、土日とも3日以上働いていると、「どちらかといえば不満である」「どちらともいえない」と答える割合が高くなり、「満足している」「どちらかといえば満足している」と答える割合が低くなる。土日とも2日以下働いている人、土曜のみ3日以上、日曜のみ3日以上、土日とも3日以上の順で、生活満足度が高くなっているといえる。
 もちろん、先ほどみたように土日出勤の働き方は産業や職業によって変わってくる。また年齢、学歴、収入など様々な要因が関連してくるだろう。したがって、ここでみられた土日出勤の働き方と生活満足度の関連は他の変数によるみかけ上のものに過ぎないかもしれない。
 そこで、順序ロジットモデルという方法によって、生活満足度と土日出勤の働き方の両方に関連すると考えられる変数を考慮しても、土日出勤の働き方によって生活満足度が異なるのかどうかを検討した。結果は表1 に示した。土日とも2日以下働いている人に比べて、他のパターンで働く人の満足度の水準がどのように異なるのかを示している。
 表1の男性についての「統制なし」の列をみると、土日とも3日以上働いている場合と土日とも3日以上働いている場合の係数がマイナスとなっている。図5のクロス表で検討したように、土日とも2日以下働いている人に比べて、土日のみ3日以上働いていたり、土日とも3日以上働いていると、生活満足度は低くなる傾向がある。しかし、「統制あり」をみると、土日の出勤日数によって生活満足度は異なっていない。つまり、男性については、土日に働くことそれ自体は生活満足度を低めているわけではないといえる。
 表1の女性についての「統制なし」の列をみると、土日とも2日以下働いている人に比べて、土曜のみ3日以上働いている人の生活満足度は低く、日曜のみ3日以上と土日とも3日以上働いている人はさらに生活満足度が低くなっている。「統制あり」の列をみても、土日とも2日以下働いている人の生活満足度が高く、それ以外だと生活満足度が低くなる傾向があった。つまり、様々な変数の影響を考慮しても、土日の出勤日数によって生活満足度が異なっており、土日にあまり働いていない人と比較して、土日に働いている人の生活満足度は低くなるといえる。

表1 土日出勤が生活満足度に与える影響に関する順序ロジット分析

(4) なぜ土日の出勤日数が多い女性の生活満足度は低いのか
 それではなぜ女性は、土日の出勤日数が多いと、生活満足度が低くなるのだろうか。この問題にアプローチするために、どのような女性で土日の出勤日数が多いと、生活満足度が低くなるのかを分析する。まず、「配偶者なし/配偶者あり」「子どもあり/子どもなし」で4つのグループに分け、さらに「配偶者なしかつ子どもなし」の場合「彼氏あり/彼氏なし」を区別し、表2の1行目のような5つのグループを作成した。そして、それぞれのグループで、土日の出勤日数によって生活満足度が変わってくるのかを検討した。ただし、サンプルサイズが少なくなるため、ここでは土日とも2日以下働いている人と土日とも3日以上働いている人の2つのグループの間についてのみ検討した。

表2 グループ別の土日出勤が生活満足度に与える影響に関する順序ロジット分析

 表2より、土日ともに月に3日以上働いている場合、「配偶者なし・彼氏あり」だと生活満足度が低くなる可能性がある(10%水準で有意)。また、「配偶者あり・子どもあり」や「配偶者なし・子どもあり」の場合も、土日とも月に3日以上働いている場合、生活満足度が低くなる傾向がある。一方で、「配偶者なし・彼氏なし」や「配偶者あり・子どもなし」の場合だと土日とも月に3日以上働いていても、生活満足度は低くなっていない。
 以上の結果から、子どもがいると、土日とも月に3日以上働いている場合に生活満足度が低くなることが示された。また配偶者がいなくても付き合っている人がいる場合には、土日とも月に3日以上働いていると生活満足度が低くなる可能性が示唆された。
 土日に子どもと一緒にいることができないことや土日に働くために子どもの面倒を誰かにみてもらうことに伴う精神的・経済的負担が、土日に働く女性の満足度を低くしている可能性がある。また、付き合っている人がいる女性の場合も、土日に働く女性については、相手の休みが土日であれば会う機会が減ってしまうために、満足度が低くなっているのかもしれない。 土日に働く人々の存在はなくてはならない。しかし、そういった土日に働く人々、特に子どもを持ちつつ土日に働く女性の生活満足度は低くなっている。もちろん土日に働く人たちをサポートする施設はいくつかあるものの、それが十分でないあるいは利用できないために、子どもの面倒をみる役割を担わされる傾向にある女性の生活満足度が低くなっている可能性がある。また、未子の年齢別に検討したところ、子どもがどの年齢段階であっても、土日に働く女性の生活満足度は低くなっていることから(分析結果は省略)、土日に子どもと過ごすことができないことそれ自体が、生活満足度を低めている可能性もある。
 ワーク・ライフ・バランス問題を検討する上では、長時間労働や休日・有給休暇などが取り上げられ、分析されているが、このような土日に働かなければならない人たちを支援する仕組みを考えることも、ワーク・ライフ・バランスを実現する上で必要だろう。もちろん、土日に働く人のための支援を増やすことは、新たに土日に働く人を増やすことになるかもしれないので、そのような人たちをサポートしていく仕組みも同時に考える必要がある。
 なお、2015年1月~3月実施の2015年調査でも、土日の働き方について再度たずねている。土日の働き方の変化が満足度の変化にどのような影響を与えるのかをみることで、より詳細に実態を把握できるだろう。(藤原翔)


3.「 日本社会の希望」を高めているのは誰か?2
 社研パネル若年壮年調査がはじまった2007年からこんにちに至るまで、日本社会は多くの変化を経験してきた。主要なものだけを挙げても、リーマン・ショック(2008年9月)と世界同時不況、自民党(自公連立)政権から民主党(民社国連立)政権への交代(2009年9月)、東日本大震災(2011年3月)、再度の政権交代と安倍政権の誕生(2012年12月)などが並ぶ。これらの出来事は、日本社会に生きるひとびとの暮らしに時に甚大な影響を及ぼし、また個人の暮らしや社会状況に関する将来見通しにも少なからぬ影響を与えてきたものと予想される。これらの出来事を経験してきたひとびとは、個人と社会の現状・将来に対する評価と意識をどのように変化させてきたのだろうか。

(1) 日本社会への希望と個人の希望・生活評価の変化
 図7は、「日本社会の希望」(日本の社会には希望がある)、「個人の希望」(将来の自分の仕事や生活に希望がある)、「生活満足度」(生活全般に満足している)、「将来の暮らしむき」(10年後の暮らしむきは今よりよくなる)それぞれに対する評価(平均値)の時点間での推移を表したものである3。このグラフは、たとえば「年をとるにつれて将来の自分の仕事・生活に対する希望が減少していく」といった、対象者の加齢に伴う評価の変化分を取り除き、純粋な調査時点間でのひとびとの評価の変化のみを、2008年を基準として示したものである4

図7 日本社会への希望と個人の希望・生活評価の変化(2008 年基準)

 この図から、まず現在の対象者個人の生活に対する評価についてみると、この間、ひとびとの「生活満足度」には大きな変化がないことがわかる。リーマン・ショックや東日本大震災などによって生活に大きな被害を受けたひとびとは確実に存在するとしても、日本社会全体をとってみると、平均的な生活満足度には大きな変化がなかった、といえるだろう。 個人の将来の暮らしや仕事についての評価にもそれほど大きな変化はないが、全体的にはやや下降傾向にある。特に「将来の暮らし向き」予想は、リーマン・ショック後の2009年に大きく低下し、さらに東日本大震災後の2012年にも一時的に悪化している。これらの大きな出来事は、実際の生活満足度には目立った影響を及ぼさなかったとしても、将来の生活への不安を引き起こしてきたといえる。また「個人の希望」も、この間、概して低下していることがわかる。
 一方「日本社会の希望」への評価は、他のグラフとは異なる変化を示している。2008年調査から組み入れられたこの項目への評価は、2012年まではほぼ横ばいか、若干低下している程度であったのに対し、2012年以降は大きく上昇しているのである5。具体的な回答比率(図8)をみても、「日本社会には希望がある」と答えた人の比率は、2012年の13.3%から2014年の23.6%へと増加しており、「日本の社会には希望がない」と答えた人の比率も52.5%から35.4%へと大きく減少している6。さらにさかのぼってみても、「日本社会には希望がない」と答えた回答者の比率は2008年から12年までずっと50%近い水準で推移しており、2012年から14年までの急激な減少は、特に注目すべき変化といえるだろう。

図8 日本社会の希望に対する評価

(2) 対象者の属性別にみる「日本社会の希望」の変化
 毎年同じ対象者を追跡するというパネル調査の利点を生かすと、どのようなひとびとが、政権交代をきっかけとして、「日本社会の希望」に対する回答を変化させてきたのかを調べることができる。図9は回答者の属性・意識(2012年時点)別に、この2年間での「日本社会の希望」の変化を見たものである。この図では、効果を検討した諸条件の内、統計的に意味のある違いが表れた4つの条件に関してのみ結果を示している。

図9 誰が日本社会の希望を上昇させたか?(2012年~ 2014年)

 第一に、政権交代をきっかけとした日本社会の希望の変化の程度は、男性と女性とでかなり異なっている。この2年間で日本社会の希望を上昇させたひとびとの比率は、男性で44.4%、女性で37.7%と、男性の方がかなり多い。ただし昨年の分析結果と比較すると、このような男女間での社会の希望の上昇程度の違いは、やや縮まってきていることがわかっている。 第二に ― ある程度予想される結果ではあるが― 自民党と民主党に対する好感度によっても、日本社会の希望の変化の程度は異なる。政権交代前の2012年調査時点で、民主党の好感度より自民党の好感度の方が高かった回答者は、45.2%が日本社会の希望を高めているのに対し、民主党の好感度の方が高いか同程度の回答者は、その比率が38.1%にとどまっている。図には示していないものの、2009年から2012年までの民主党政権期に、民主党への好感度は徐々に低下していっており、民主党による政権運営に不満を持ち、自民党の方により好感を持っていたひとびとが、政権交代をきっかけとして、日本社会の希望を上昇させていったといえるだろう。
 次の2つの条件は、「政権交代」そのものよりも、「安倍政権の成立」をきっかけとして、日本社会の希望に影響を及ぼしたと考えられるものである。
 第三に、株式を所有しているか否かによって日本社会の希望の変化程度は異なる。政権交代前(2012年時点)で株式を所有していた回答者は、45.9%が日本社会の希望を高めているのに対し、株式を所有していなかった回答者は39.5% にその比率がとどまっているのである。
 第四に、隣国中国に対する好感度によっても、変化の程度が異なる。政権交代前(2012年時点)で中国への好感度が低程度(100点満点で0点~20点)であった回答者はその後の2 年間のうちに、43.5%が日本社会の希望を上昇させたのに対して、中国への好感度が中~高程度(100点満点で30点~100点)の回答者は37.6%のみが日本社会の希望を上昇させるにとどまっている。調査票に含まれている「日本に対する好感度」や「アメリカに対する好感度」に関しては、このような日本社会の希望の変化程度の違いがまったくみられない中で、「中国に対する好感度」に関してのみ統計的に意味のある違いが生じている点は、特に注目すべきだろう。
 さらに重回帰分析を用いて検討した結果(表3)、以上のような性別、政党好感度、株式の有無、中国好感度が日本社会の希望の変化に及ぼしている影響は、互いに独立したものであり、また所得、婚姻状態、年齢などをコントロールした場合も、統計的に有意なものであることがわかっている。

表3 「日本社会の希望」への回答の変化(2012年-2014年)の規定要因分析

 以上の分析結果をまとめると、次のようになるだろう。2012年の政権交代以降、個人の生活・仕事への希望や現在の生活満足度にはそれほど大きな変化がないにもかかわらず、「日本社会の希望」は目立って大きく上昇している。このような上昇にはいくつかの要因が複合的に作用しているものと考えられるが、本分析を通じては、(1) 自らの支持する政党が政権を担ったことによる期待(自民党支持者など)、(2) アベノミクスによる資産価値上昇への期待(株式所有者など)、さらには、(3) 安倍政権の中国など近隣諸国に対する「強い姿勢」への期待(中国への好感度が低いひとびとなど)などがその要因として重要であることが示された。もちろん2012年以降、これらの条件にかかわらず「日本社会への希望」が全般的に上昇しているのも事実であるが、やはり個々人の生活・仕事への希望や生活満足度の大きな上昇を伴わないまま、「日本社会の希望の上昇」のみが生じている点が特徴的であるといえる。このような「個人の希望の上昇を伴わない社会の希望の上昇」が、日本社会に何を「仮託」しての結果であるのかについては、今後も注意深く検討していく必要があるだろう。(有田伸)


4. ボランティア活動と震災7
 2011年3月に発生した東日本大震災では、東北地方を中心に大きな被害がもたらされた。震災後には、被災者の救援や被災地の復興のため、130万人以上の方がボランティア活動に参加している。震災の発生から約4年が経過した今でも多くの方が不自由な生活を送られており、まだ多くのボランティアが必要である。
 ボランティアに対する社会の意識は、1995年1月に発生した阪神・淡路大震災以降変わりつつあると言われている。阪神・淡路大震災では、多くの方が被災地でのボランティア活動に参加し、被災者の救援や被災地の復興に大きな力を発揮した。これをきっかけとして、「災害時におけるボランティア活動および自主的な防災活動についての認識を深めるとともに、災害への備えの充実強化を図ること」を目的とした「防災とボランティアの日(1月17日)」と「防災とボランティア週間(1月15日~ 1月21日)」が閣議了解により設けられた。近年では、災害発生後には、多くのボランティアが被災地で活躍している。また、ボランティアに力を十分発揮してもらうため、ボランティアを受け入れる体制の整備も進められている。
 ここでは、東日本大震災後にボランティア活動をする人はどの程度増えたのか、活動をはじめた人が継続的に活動をしているのかを検証する。具体的には、「この1年間のボランティア活動の程度」を聞いた質問への回答を使って、ボランティア活動の有無と頻度の変化を検証した。ボランティア活動に関する設問は、隔年で調査しているため、1年おきの変化を見ることができる。

(1) ボランティア活動への参加
 図10 は、2014年時点の性・年齢層別に、ボランティア活動をした人の割合の2008年から2014年の変化を見たものである。東日本大震災後の2012年1月は、2010年以前と比較して、「この1年にボランティア活動をした」と回答する人が増えていることがわかった。ボランティア活動をした人は、どの性・年齢層でも増えているが、特に20・30代男性では8.9ポイント、40代男性では6.9ポイント増加した。
 2014年1月時点を見てみると、2012年1月時点よりも参加率が減少しているものの、その後も継続的にボランティア活動を行っている人も少なくないことがわかる8

図10 性・年齢層別 ボランティア活動の参加率

 ボランティアの頻度はどの程度増えたのだろうか?図11 は、2008年から2014年におけるボランティア活動の頻度の変化を見たものである。週に1回以上や月に1回程度のボランティア活動をする人は大きく増えていないが、年に1回か数回程度のボランティア活動は2010年1月に11.1%であったのに対し、2012年1月には16.5%に増えている。調査からボランティア活動の内容を知ることはできないが、震災関連のボランティア活動が増えたと推測することができる。

図11 ボランティア活動の頻度

(2) ボランティア活動をする人は増えたのか?
 これまでは参加率を見てきたが、ここでは、震災後にボランティアをはじめた人がどの程度増えたのかを、同じ人の震災前後のボランティア活動の有無の変化をみることで検証する。2008年から2010年、2010年から2012年、2012年から2014年のそれぞれについて、「ボランティアを継続(2年ともボランティアをしている)」「ボランティアをはじめた(前はボランティアをしていなかったが、はじめた)」「ボランティアを辞めた(前はボランティアをしていたが、継続していない)」「ボランティアをしていない(2年ともボランティアをしていない)」の4つのグループに分けて、その割合を見た(図12)
 2010年から2012年にかけて、「ボランティアをはじめた」人が11.5%と、それ以外の年(おおむね7%)に比べて多いことがわかる。一方、2012年から2014年にかけては、「ボランティアを辞めた」人が多くなっている。震災を機にボランティア活動に参加したが、その後は継続していない人が多いことを示していると考えられる。

図12 ボランティア活動の変化

 震災後にボランティア活動をするようになった人は、それ以前の年にボランティア活動をはじめた人と比べてどのような特徴があるのだろうか?
 図13では、2008-2010年にボランティア活動をはじめた人と、2010-2012年にボランティア活動をはじめた人の属性の構成比を比較した。
 属性の分布に大きな違いはないが、2010-2012年にボランティアをはじめた人は、2008-2010年にボランティアをはじめた人に比べて、男性や大卒以上の学歴を持つ者の構成比が増えている。震災後に特定の属性の人たちだけがボランティアをするようになったのではなさそうだが、特にボランティアをはじめた人に占める男性、高学歴層の割合が増えたことが見てとれる。

図13 ボランティア活動をはじめた人の属性による構成比

(3) 震災後のボランティアは継続するのか
 震災後のボランティア活動はその後も継続するのだろうか?震災前からボランティアを継続していた人は、その後も70.9%が活動を継続している。一方、2012年にボランティアをはじめた人の39.4%は2014年も継続しているが、残りの60.6%は辞めている(図14)。震災後のボランティア活動は、継続する人と辞める人に2 極化していることが明らかになった。被災地では未だボランティアが必要とされていることを鑑みると、活動の継続を容易とする体制の整備が必要であることが示唆される。(朝井友紀子)

図14 ボランティア活動のその後の継続率


5. おわりに
 本稿では、土日の働き方の実態とそれが生活満足度に与える影響、希望の意識の近年の変遷、東日本大震災とボランティア活動との関連という3つのテーマを取り上げた。
 第1のテーマについての結果をまとめると、まず日曜日にまったく働いていない人は、男性では6割、女性では7割弱で、土曜日も日曜日とも月に2日以下働いているのは、男性では6割、女性では7割弱となっており、土日を休日としているグループが比率的にはもっとも大きい。しかし、男性の4割、女性の3割が土日にもそれなりに働いている実態があることがわかる。土日に働いていることは、仕事への満足度には直接的に影響を与えていないようで、土日出勤は仕事に対する不満を必ずしも高めるものではない。他方、土日に働くことは、生活全般の満足度を有意に低下させることが明らかになった。特に子どものいる女性では、土日に働いている人とそうでない人の間に生活満足度の違いがみられた。
 第2のテーマでは、人々が抱く「社会への希望」(日本の社会には希望がある)は、2012年12月の政権交代と第二次安倍内閣の成立をきっかけとして、上昇傾向があることがわかった。希望を上昇させているひとびとの属性を探ると、(1) 自民党支持者などで自分の支持する政党が政権を担ったことによる期待があったこと、(2) 株式所有者などがアベノミクスによる資産価値上昇への期待があったこと、さらには、(3) 中国への好感度が低い人々などが、安倍政権の中国など近隣諸国に対する「強い姿勢」への期待があったこと、などが考えられる。
 第3 のテーマに関しては、東日本大震災後の2012年1月調査では、2010年以前調査と比較して、ボランティア活動をはじめた人が増加した。この時期にボランティア活動が活発化した可能性がある。特定の属性の人たちだけがボランティアをするようになったのではないが、ボランティアをはじめた人に占める男性、高学歴層の割合は増加したことが明らかになった。しかもボランティア活動を新たにはじめた人の4 割はその後もボランティア活動を継続しており、ボランティア活動への関心が東日本大震災後の一時的なものとは言い切れないことを物語っている。(石田浩)



1本稿は、東京大学社会学研究所調査プロジェクト・ディスカッションペーパーシリーズ No.85「パネル調査から見る満足度、希望と社会活動-「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(JLPS)2014」の結果から-」(2015年2月)を修正し、執筆したものである。本稿は、科学研究費補助金基盤研究(S)(18103003,22223005) の助成を受けて行った研究成果の一部である。東京大学社会科学研究所パネル調査の実施にあたっては社会科学研究所研究資金、(株)アウトソーシングからの奨学寄付金を受けた。パネル調査データの使用にあたっては社会科学研究所パネル調査企画委員会の許可を受けた。

2このテーマは2014年のプレスリリース資料、ならびにその結果をまとめたディスカッションペーパー(http://ssjda.iss.u-tokyo.ac.jp/panel/dp/PanelDP_075.pdf)でも検討したものである。本稿では、その後の変化まで視野に含めた上で、変化の規定要因のさらに詳細な分析を行っている。

32007年から2014年まで毎年欠かさず回答が得られた調査対象者(2484名)の評価(5点尺度)の平均値を示している。なお丸カッコ内は具体的な質問文。

4具体的には、各waveにおける評価・意識を従属変数とし、各時点の年齢、年齢二乗、時点ダミー変数を独立変数とするPooled OLS 推定を行い、それによる時点ダミー変数(2008年基準)の推定値を示したものである。これは、個人「間」における年齢の違いによる評価の違いが、個人「内」における加齢による評価の変化と一致すると想定した上で、加齢による評価の変化をコントロールし、純粋な時点効果を推定したものとなる。

52012年から14年までに0.39点の増加を示している。「そう思う」から「そう思わない」まで4点のレンジであることをふまえれば、大きな変化といえる。

6それぞれ「日本の社会には希望がある」に対して「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」、「そう思わない」と「どちらかといえばそう思わない」をそれぞれ足し合わせた比率である。「わからない」と無回答は分母から除いている。

7ボランティア活動に関する詳細は、政府広報オンライン (http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201101/2.html 2015年1月時点)や内閣府「防災ボランティア」 (http://www.bousai-vol.go.jp/ 2015年1月時点)にわかりやすくまとめられている。本節4の記述も上記のページを参考にした。

82008年、2010年、2012年、2014年のすべての調査に回答した方の結果。年齢は2014年時点。