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■「中央調査報(No.695)」より

 ■ 第1回「諸外国における対日メディア世論調査」結果の概要

 公益財団法人新聞通信調査会(理事長 長谷川 和明)は、2015 年1月、アメリカ・イギリス・フランス・中国・韓国・タイの6カ国を対象に「諸外国における対日メディア世論調査」を実施しました。調査はタイのみ面接法、他の5カ国は電話法で行い、各国とも約1,000 人から回答を得ました。回答者の性別・年代別構成は各国の人口構成に近い比率に割り当てられています。
 設問は各国共通の全16 問ですが、中国では委託調査機関から「政治や信条、メディア評価等に関わる質問は実施不可」と判断され、5問のみ回答を得られました。この点は個別質問の図表などで表記するので、適宜参照してください。具体的な質問項目は大きく分けて、①日本に対する評価、印象、興味、日本に関する情報源、日本に期待する活動 ②各国新聞の信頼度評価、新聞とインターネットとの役割比較、日本のメディア認知状況 ③日本に関する報道への興味や要望、訪日経験・意向 ④知っている日本人 の4分野です。上記①~③はあらかじめ設定した選択肢から選んでもらい、④は具体的人名を挙げてもらいました。調査結果の概要は以下の通りです。

1.知っている日本人
―欧米諸国は「昭和天皇」、アジア諸国は「安倍晋三」がトップ。

 当調査で各国の相違が最も際立ち興味深かったのが、「知っている日本人」である。これは最後の質問として具体的な人名を1名だけ挙げてもらい、それらの原データを整理分類したものである。第1位には、アメリカ・イギリス・フランスで「昭和天皇」、中国・韓国・タイでは「安倍晋三」が挙げられた。
 第2位以下を見ると、アメリカ・イギリスでは「東条英機」「山本五十六」など第二次世界大戦に関わった人が上位10 位に入っている。フランスでは「宮﨑駿」「黒沢明」「鳥山明(漫画家)」「川端康成」などが上位に並び、日本文化に対する関心の高さが表われている。一方、中国では「山口百恵」、タイでは「蒼井そら(女優)」など映画俳優や芸能人が、韓国では「伊藤博文」「豊臣秀吉」「徳川家康」など歴史上の人物がそれぞれ上位に挙げられており、日本に対する関心の相違が如実に表れており非常に興味深い。なお、日本にとって最大の同盟国であるアメリカで「安倍晋三」は挙げられなかった。図表内にも示したが、具体的人名を答えた人(回答者数)は、アメリカ・イギリス・フランスで200 人前後、中国・韓国・タイでは500 人前後と大きな差があることにも注意を払っておきたい(図表1)


図表1 知っている日本人(各国上位10 位)

2.日本に対する評価や印象、興味
―日本への好感度・信頼度は韓国で30%以下。

 次に日本に対する評価や印象、興味などを見てみよう。前述した通り、ここからしばらく(10問以上)は中国で質問できなかった。回答を得られれば中国の対日観を知る上で貴重な比較データとなったはずであり、非常に残念な結果となった。
 まず、日本に対する好感度を見ると、好感層(「とても好感が持てる」と「やや好感が持てる」の合計)はタイで最も高く94.1%、アメリカ・イギリス・フランスでは70%前後であった。韓国では29.5%で、中でも積極的好感層である「とても好感が持てる」は2.8%に過ぎない。同国では「全く好感が持てない」がほぼ4人に1人の23.2%を占めている(図表2)

図表2 日本の印象図

 日本への信頼度は好感度とほぼ同様の比率で、好感度との相関関係が非常に強く現れている。具体的には、信頼層(「とても信頼できる」と「やや信頼できる」の合計)はタイが94.2%で最も高く、アメリカ・イギリス・フランスでは70%前後、韓国では18.8%であった。韓国の積極的信頼層(「とても信頼できる」)はわずか1.0%である(図表3)

図表3 日本への信頼感

 次に、各国の人々は日本のどのような分野に興味を持っているのであろうか。ここでも、欧米とアジア諸国との間で回答傾向に差が見られる。まず、アメリカ・イギリス・フランスでは1位が「歴史と文化」、2位が「科学技術」であった。韓国とタイでの順番は異なるものの上位には「生活様式、食文化」「観光」が入っている。両国では欧米諸国のトップである「歴史と文化」は4位、「科学技術」は3~5位であった。その一方、「政治、経済、外交政策」はすべての国で5~6位と順位が低い。高度経済成長期からバブル期と比べ、世界における経済面や外交面での影響力が大きく低下している現状を示す一端ともいえる結果ではないだろうか。また、経産省が中心となって国が進める「クールジャパン」の中心的な要素である「ファッション、アニメ、音楽」についてもアメリカ、イギリス、フランス、韓国ではいずれも5~6位にとどまり,最も順位が高いタイでは3位に挙げられている(図表4)。【注:この質問では当てはまるものを幾つでも答えてもらった。以下、「 複数回答」と表記。この複数回答質問は国民性および調査環境の差によるものと思われるが、回答比率に大きな差が見られる。従って、各国比較は比率ではなく回答順位をベースに記述する。この点も、複数回答質問では以下同様である】

図表4 日本に対して興味を持つ分野(複数回答)

 では、日本についての知識や情報の入手先を見てみよう。これは「自国のテレビ、新聞、雑誌」が各国とも1位となっている。アメリカを除いて「インターネット」が続き、アメリカでは「自分の家族や親戚、知人」が2位となっている。一方、「学校教育」は欧米諸国よりアジア諸国での順位が低い。アジア諸国では、良くも悪くも日本に関する学校教育の機会は減少しているのであろうか。なお、「日本人の友人・知人」や「訪日経験」は総じて順位が低い。では、日本に対してはどのような活動を期待しているのだろうか。この点は国によってバラつきも見られるが、総じて「国際的な平和への積極的な貢献」「日本食や観光地などを紹介するイベントの開催」が上位に挙げられている。特徴的なものとして、アメリカでは「伝統的な文化や武道を体験できる場の提供」が1位に、韓国では「国際機関などへの一層の貢献」、タイでは「日本の商品を手軽に買えるような店舗の出店」がともに2位に挙げられている。韓国で「国際機関などへの一層の貢献」が2位に現れているのは、同国から国連事務総長(潘基文氏)を輩出していることも考慮されていると判断すべきであろう(図表5)

図表5 日本に対して期待する活動(複数回答)

3.新聞の情報信頼度評価
―タイが65.6 点で最高。

 ここからしばらくは各国の新聞信頼度評価、新聞とインターネットとの役割比較などに関する結果を見てみよう。これらの中には新聞通信調査会が日本国内で毎年実施している「メディアに関する全国世論調査」でも質問している項目があるので、その結果との比較も併せて紹介したい。
 最初は新聞の情報信頼度評価である。これは全面的に信頼している場合は100 点、全く信頼していない場合は0点、普通の場合は50 点として点数を付けてもらった。ただしアメリカのみは、現地調査機関の提言に従い0~ 10 点で点数を付けてもらったので、集計時に回答数値を10 倍した。結果の平均値で比較すると、タイが最も高く65.6 点、以下、韓国55.9 点、アメリカ54.5 点、フランス53.7 点、イギリス50.4 点と続く。全般的に欧米諸国よりアジア諸国の方が信頼度得点が高くなった。当質問は前述の「メディアに関する全国世論調査」でも聞いており、その結果は69.2 点であった。ただ、今回の「諸外国における対日メディア調査」とは調査手法や全体的な質問構成が異なるので、点数の比較は参考程度にとどめておく必要がある(図表6)

図表6 新聞の情報信頼度

 次は「将来の新聞の役割」についてである。これは「A.インターネットなどの普及により新聞の役割が小さくなってくる(役割減少派)」と「B.今まで通り、新聞が報道に果たす役割は大きい(役割維持派)」という2つの意見のどちらに賛成するかを聞いたものである。結果を見ると、すべての国で役割減少派が役割維持派を上回り、イギリスを除き役割減少派が過半数を占めている。中でも、アメリカとタイでは役割減少派(順に68.3%、68.6%)が役割維持派(同じく27.8%、25.7%)の2倍以上の比率となっている。当質問も「メディアに関する全国世論調査」で聞いており、そこでも役割減少派(43.1%)が役割維持派(40.2%)を上回る結果となっている。「メディアに関する全国世論調査」では2009 年度からこの質問を継続しており、2014 年度調査で初めて役割減少派が役割維持派を上回った(図表7)

図表7 将来の新聞の役割

 では、日本のメディアの認知度はどうだろうか。ここでは「NHK(ワールドTV、ラジオジャパンなど)、共同通信社、時事通信社、日本の新聞(朝日、毎日、読売、日経、産経など)」の中から知っているものを複数回答で挙げてもらった。メディア別の認知状況で見ると、すべての国で「NHK」が最も高く、それに「日本の新聞」が次いでいる。国別で見ると韓国が突出しており、個別メディアでは「NHK」が75.4%、「日本の新聞」が66.4%となっている。同国では「知っているものはない」はわずかに11.4%で、これは「産経新聞ソウル支局長の拘束問題」が影響しているとも思われる。他国について見ると、「知っているものはない」が大多数を占め、アメリカが88.5%、以下、イギリス77.7%、フランス77.5%、タイ65.8%となっている。韓国以外の国では、日本のメディアの認知度は低い結果となった。


4.日本に関する報道への興味や要望
―「東日本大震災と原発事故」はトップの認知度。

 最後に、日本に関する報道への興味や要望、訪日経験・意向などについて報告したい。この中の「政治や信条、メディア評価等に関わらない項目」については中国でも質問できている。まず、日本のことが報道されると関心を持つかについては、すべての国で関心層(「とても関心がある」と「やや関心がある」の合計)が過半数を占めている。中でも、タイでは94.1%と極めて高い。ただ、関心層の内訳を見ると、積極層である「とても関心がある」はタイも含め10%台と大きさは現れていない。関心層の比率差は、消極層の「やや関心がある」によるものであることが分かる(図表8)

図表8 日本のことが報道されると関心を持つか

 ここ1~2年の間に日本国内で発生もしくは話題になった事柄のうち、知っているものは何か、それらについて複数回答で挙げてもらったところ、すべての国で「東日本大震災とそれに伴う原発事故」が1位となった。2位はアメリカ・イギリス・フランス・韓国で「日本と近隣諸国との外交問題」、タイで「2020 年に日本でオリンピック・パラリンピックが開催」がそれぞれ挙げられている。アジア諸国の韓国とタイでは「2014 年12 月に日本の国政選挙が行われたこと」が3位にランクインしている。日本国内で、若年層を中心に話題に上る機会が多い「クールジャパン」は5~6位に甘んじている(図表9)

図表9 日本に関して知っていること(複数回答)

 日本に関する報道で、各国民が日本のメディアに期待する内容を複数回答で挙げてもらったが、この質問は国によって回答にバラつきが現れた。具体的に見ると、1位にはアメリカ・イギリスで「科学技術」、フランス・韓国で「歴史と文化」、タイで「観光」がそれぞれ挙げられた。それ以外の項目では、「国際協力、平和維持活動」は欧米諸国では2位であるが、アジア諸国では韓国が3位、タイでは7位と関心が低い。その一方、「政治、経済、外交」は欧米諸国で4~6位と関心が低くなっているのに対して、韓国で2位、タイで4位とアジア諸国で順位が上がっている(図表10)

図表10 日本のメディアに期待する報道内容(複数回答)

 実際の訪日経験や、今後の訪日意向はどうか。これまでの訪日経験は韓国で43.8%、アメリカ・イギリス・フランス・タイ・中国ではいずれも10%未満である。今後の訪日意向はタイで90.8%と圧巻、以下、アメリカ・イギリス・フランス・韓国は50%強であるが中国は21.4%にとどまる。日本に対する好感度や信頼度が極めて低かった韓国で、訪日意向が過半数である点は非常に興味深い。
 訪日意向を示した人に日本で行ってみたいところ、日本で体験してみたいことをともに複数回答で聞いた。行ってみたいところはすべての国で「東京」が1位、2位にはアメリカ・イギリス・フランス・タイで「富士山」、韓国と中国では「北海道」が挙げられている。「北海道」はタイでも3位であるが、欧米諸国では5~6位と人気が低い。「京都、奈良」「九州、沖縄」は3~5位、「東京ディズニーリゾート、ユニバーサルスタジオジャパン」はアメリカを除いて最下位に甘んじている。では、実際に体験してみたいのはアメリカ・イギリス・フランス・タイでは「京都など日本の文化と歴史のある街を観光する」、韓国は「温泉に入る」、中国は「買い物をする」が1位となっている。2位には韓国を除いて「日本食を食べる」が入っている。なお、「ポップカルチャーに触れる」は総じて下位にとどまっている。

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