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■「中央調査報(No.705)」より

 ■  国民性に関する意識動向継続調査について

情報・システム研究機構統計数理研究所
前田 忠彦


1.はじめに
 本稿では統計数理研究所が2012年度から実施している「国民性に関する意識動向継続調査」と呼ばれる継続(パネル)調査のプロジェクトの概要と成果の一部を紹介する。この調査はパネル調査として2015年度まで年に1度、4回にわたって実施されてきたが、以下プロジェクト名に合わせてパネル調査ではなく継続調査という呼称を本稿では用いる。
 パネル調査は、一度調査に協力した方に間を空けて、繰り返し調査への協力をお願いする調査であり、近年日本の社会諸科学で、重要視されるようになってきた調査手法である。その特徴・利点は、同じ対象者から繰り返し(基本的には同一の質問項目に関する)回答を得ることで対象者の状態の変化を測定し、それに関する詳細な分析を行えることにある。
 以下、この継続調査の背景となる「日本人の国民性調査」に関する簡単な紹介から始め(第2節)、意識動向継続調査の設計と実施概要(第3節、ここに継続調査からの脱落状況の簡単な分析も示す)、調査方法論上のいくつかの分析(第4節)、おわりに(第5節)の順に説明しよう。本来、調査を通じて内容面でどのようなことが分かったのか、という点を成果として紹介すべきであろうが(例えば日本人の意識にどのような変化があったのか)、それについては別の機会に譲ることとしたい。
 本稿の内容は著者の個人的な見解を示すものであり、本プロジェクトを担当するグループや統計数理研究所全体を代表するものではないが、本稿に記載されたことは、関わった全員の貢献に基づく成果であることに変わりはない。

2.日本人の国民性調査
 「日本人の国民性調査」は統計数理研究所が1953年の第1次調査以来、1958年に第2次、1963年に第3次… のように実施を繰り返してきた継続社会調査である。縦断的調査というような呼び方をされることもあるが、継続社会調査は、同じ母集団に対して同じ調査方法・同じ調査項目で繰り返し調査を行うことを指し、横断的調査を時間をおいて繰り返していることから反復横断調査という呼び方をするのが分かりやすいかも知れない。対象者は、(時間経過にともなう生年範囲の移動はあるものの同一の定義に基づいて設定される)母集団から調査の都度、無作為抽出される標本であり、一度抽出された標本を追跡して(同じ対象者に)間をおいて調査協力をお願いするパネル調査とは異なる。反復調査により、社会全体の変化を捉えることができる。少なくとも日本では(恐らく世界全体でも)同一の主体が同一テーマで繰り返してきた調査としては最長の歴史を持つものであり、戦後日本社会の変化を人々の意識の面から跡づける資料として、さまざまな分野で結果が活用されてきた。直近の実施は2013年度の第13次全国調査であり、その結果については例えば中村・土屋・前田(2015)を参照されたい。
 ところで統計数理研究所は、以前は文部(科学)省下に置かれた国立の研究所であったが、現在では法人化され、大学共同利用機関法人情報・システム研究機構の下に置かれている。この点にわざわざ言及した意図は、本稿の趣旨からすれば脇道であるけれども、形式的なこととはいえ主体の設置者が変わったことは様々な側面で、調査の実施プロセスに多少なりとも影響したように思えるからである。以前は、文科省の研究所の調査といえば、例えば台帳閲覧の許可を求める際の市区町村の担当部課の対応や、調査の協力依頼を受けた対象者の反応も好意的であった(か、少なくともすぐに調査主体の性格は理解された)のだが、現在では「大学共同利用機関法人の」などと言っても、まず知っている人はなく、説明に苦労することも多い。統計数理研究所自体は研究者の間にはある程度知られていても、世間的には知名度が高い訳ではなく、こうした調査主体のわかりにくさというのは、プロジェクトを担当している身としては「時計修理の研究所?何だそれは?」と対象者に聞き返されたというような(本当にあったのかどうか分からないような)笑い話で済ませられる話ではない。主体への信頼感は対象者が調査に応じるかどうかを決断に影響を与える重要な要因のはずである。
 本題に戻り、「国民性調査」のプロジェクトは、長期にわたる調査の継続によって、(戦後の)日本社会におけるさまざまな価値・考え方・意識の変化を定位する資料を得ることを第一義的な目的とするが、それ以外に調査方法上の研究を行うことや調査データの解析のための新しい統計的な方法の開発研究を行うことも目的としている。この3つの目的を持つことが、国民性調査周辺の調査プロジェクトの性格もある程度決めることになる。

3.意識動向継続調査の設計と実施概要
 さて本稿の主題である「国民性に関する意識動向継続調査」(以下単に「意識動向継続調査」)はこのような「日本人の国民性調査」の周辺のプロジェクトとして企画・実施されたものである。統計数理研究所内で社会調査の研究グループは、5年に1度の「日本人の国民性調査」や不定期に行われる国民性の国際比較調査などの基幹プロジェクトに加えて、特に国民性調査の実施年でない中間年には、さまざまな調査を企画実施し、調査方法論研究の素材としつつ今後の日本人の意識動向を探る資料を収集している。以下意識動向継続調査の設計と実施概要を紹介する。初回の2012年調査についてやや詳しく述べよう。
【2012年度調査からパネル構築まで】
 意識動向継続調査の第1回(2012年度)調査は、面接法と留置法を併用して2013年1月から2月に実施した(前田・中村, 2014)。
[目 的] 日本人の国民性に関わる調査項目のうち、東日本大震災やその他の社会情勢の変化を受けて、従来の調査から意識の大きな変化が予想される項目の動向を探る。また、震災前後の意識や行動の変化そのものをテーマとした質問や、地域活動等の新たな質問項目により国民性研究の新たな局面を捉えるきっかけとする。更に調査モード間の比較研究を行うと共に、本調査をパネル調査の第1回目の調査と位置づける。以下同一協力者に調査を繰り返すことで、震災後の数年程度を範囲とする比較的短い期間における意識や行動の個人内での変化を検討する資料とする。
[調査方法] 面接聴取法および留置法による。
[調査内容] 身近な事柄についての意見、人間関係観・自然観、不安感、東日本大震災前後の意識や行動、地域活動への参加やそれをめぐる意識、選挙への参加等。
[調査対象者] 全国の20-79歳の男女個人
[標本設計] 層化二段無作為抽出。面接法 250地点 3000名(1地点12名)、 留置法 250地点 3500名(1地点14名)。
[調査時期] 2013年1月中旬~ 2月中旬
 計画標本に対する回収、更に回収者中の継続調査への協力の同意が得られた対象者の内訳は表1の通りとなっている。この3019名を2013年度以降の第2 ~第4回調査のパネル(対象者集団)のベースとする。回収率は面接法が50.9%、留置法が60.5%と後者が高くなっている。このような留置法の回収率の相対的な高さは、他の比較事例でも観察されるようだが、面接調査と異なり対象者本人ではなく家族等を通じて協力依頼や回収を行うことができるケースがあることに理由の一部があるだろう。また協力者のうちの継続同意率は面接法が87.1%、留置法79.8%と後者が低いことも特徴となっている。

表1 世論調査に対する意見(世論調査に『注意を払っている』人別)

 6500名の計画標本のうち(回収者ではなく)パネルに加わった3019名(すなわち継続協力への同意)がどのような特性を持つかをロジスティック回帰分析で検討すると、有意な説明変数は(同意方向への寄与を+と表現して)、性(女性+)・年齢の主効果および年齢と第1回調査の調査法の交互作用(面接のほうが年齢間の差が大きく、70代を除けば高齢層が+)、都市規模(人口規模が小さいほうが+)、地域ブロック(関東と近畿が-)等となった。
【第2回~第4回継続調査の実施概要】
 第2回~第4回継続調査は、第1回調査の調査方法を問わず、郵送法により行った。2013年度~ 2015年度の各年度に約1年の間をあけて、2013年度と14年度は年末から年明けにかけて、2015年度のみ年明けに開始して、回収期間を約2 ヶ月設けて実施した。各調査回の前には前回調査で得られた結果の概要報告書等を協力者に送付し、継続の動機付けを高める工夫をした。
【継続調査における脱落状況の概要】
 表2は第1回調査の方法別の第2 ~第4回調査の協力状況をまとめたものである。
 第4回目までの有効回収者は当初設定パネルに含まれる協力者の52.5%となっており3回の継続を通じて半分近くまでパネルが摩耗した。この際の前年度からの維持率は後ろの調査回ほど高い。表2の各年度で第1回調査の方法(面接・留置)別の維持状況を比較することができるが、統計的に有意な差が見られる年度はあるものの総じて数値としては大きくない。第1回調査の方法による回収傾向の差は特に大きくないようである。

表2 第1回の調査法別の第2~第4回調査の協力・脱落の状況の要約

 このほか、各年度の有効回収に対する寄与要因として、属性等に加えて第1回調査時に質問した調査協力の理由(積極的な理由か否か)の寄与をロジスティック回帰分析で検討すると、第2回調査時の協力に対しては、性・年齢・都市規模の他に協力理由も有意な効果を持つ(積極的な理由を挙げた人ほど協力的)一方、先に述べた第1回調査の「継続協力への同意」に対する結果と異なり、方法×年齢の交互作用効果は見られなくなった。第3回、第4回の調査では有意な要因が減っていき、これは協力的な対象者のみが残って他の要因の寄与が相対的に減じたものと思われる。

4.調査方法論上のいくつかの分析成果
 調査の実施目的からすると副次的なことではあるが、調査方法論の側面に重点を置いた話題について、意識動向継続調査の分析結果を2点ほど紹介しよう。

4.1 第1回調査の回収状況についての分析
 本項はMatsuoka & Maeda (2015)として公刊された内容の概要紹介である。この論文では、計画サンプルの調査協力状況に寄与する要因について、マルチレベル分析という統計的手法を使って検討した。マルチレベル分析によって、調査設計が(層化)二段抽出になっている時に、地点の中の個人のような階層構造を持っていることを生かし、個人の回収状況に対して、対象者本人の属性(時に世帯属性を含む)のような個人のレベルの説明要因の他に、地点のレベルの説明要因がいかに関係してくるか、ということを分析することができる。地点(標本設計上は町丁字に相当)のレベルの要因とは、例えば人口が集中する都市的性格を持つか、農村的な性格を持つか等の調査地域そのものの性格等のことである。
 この論文では、調査不能のタイプを本人の拒否によるもの、それ以外の拒否によるもの、短期的な不在によるもの、のように大別した上で、関連要因を分析した。分析の結果からは、例えば個人要因としては従来から知られる女性や高年齢層の協力率の高さや、あるいは留置法で協力率の高さを示す結果の他、表札を出している世帯の対象者は概して非協力になりにくいことなども分かった。また地点の要因では、人口密度で測定されるような都市度が高いところは、前述の3つの不能が生じやすいことに加えて、第一次産業人口が高い地点で一時不在や本人の拒否が生じにくいという効果があるらしいこと、地域に相対的に高学歴層が多い地点で一時不在がおきやすいこと、犯罪発生率が高い(この要因のみ市区町村のレベル)地域で、一時不在や本人以外の拒否が起こりやすいらしいこと、などが分かった。更に、地点と個人の属性の交互作用として、犯罪発生率の高い地点の女性という組み合わせや、犯罪発生率の高い地域の大きな住居に住んでいる対象者という組み合わせで、本人拒否が生じやすいという効果もあるようである。これは対象者の側の調査(員)に対する警戒心が地点の性格とも絡み合って調査不能につながっている、との解釈が可能かも知れない。
 従来、日本における各種社会調査の調査不能をめぐる分析では個人要因と地点の要因は明確に区別されずに扱われることが多かったように思うが、地点要因の関与の程度についてより詳細な情報が得られれば、調査実施管理上のノウハウにつながるかも知れない。

4.2 第1回調査における調査モード間比較
 詳細を紹介することはできないが、第1回調査では面接法と留置法の間の比較も一つの調査目的となっていた。この二つの方法では、回答者の回答が記録される際に調査員が介在するか、介在しないいわゆる「自記式」の調査であるかの違いが大きく、面接調査で調査員が回答を聞き取る際に、対象者が多少社会的に望ましい方向に回答するのではないか、という点が指摘されることがある。自記式か調査員の聞き取りによるか、のように調査の測定場面の記録者の条件を調査モードと呼ぶことがあり、本調査でもそのような調査モードが回答に影響を与えていないのかという点を検討してみた(尾崎・前田, 2013)。ただし、面接調査と留置調査では回収率が異なり、そのために回収された層の対象者属性も異なっている。こうした属性差を統計的に調整(共変量調整という考え方による)した上でも、両方法の結果の違いが偶然の範囲を超えていれば、それは調査モードの違いによるものだろうと推論することができる。1個だけ事例を紹介しよう。
 「選挙への関心」についての質問で、回答分布の比較を総数と男女別に、図1に示した。この項目は衆議院議員選挙での投票は普段どのようにしているかを尋ねているが、面接と留置の間で、「なにをおいても投票する」の差が13ポイント近くあり、この差は男女に共通の傾向といえる。留置調査で「なるべく投票するようにつとめる」と答える回答層の例えば約1/4程度が、面接調査では「なにをおいても」に回答するというような仮想的な移動によって面接のような数値が得られる。この項目に限った分析では、こうした差のうちの32%程度は両モードの回答層の属性差に起因するが、残りの部分がモード間の差のようである。別項目で、直近の国政選挙(今回の調査の場合は2012年末の衆院選)で投票に行ったかというとの質問への「投票した」という回答率が、実際の投票率よりもかなり高く、かつその差は面接においてより大きいという結果を考え合わせると、社会的に望ましい選択肢のほうを面接調査の回答者が選びやすいという方向のバイアスを示唆しているように思える。

図1 選挙への関心”についての調査モード間の差(総数・男女別)

5.おわりに
 意識動向継続調査を素材として、主に調査方法論上の主題に関する研究成果の一部を紹介してきた。調査環境の悪化が言われ続け、その中でも面接調査は苦戦を続けている。実際2節で紹介した「日本人の国民性調査」も、1980年代前半の調査までは70%台半ばを確保していた回収率が、2013年の直近の調査では50%にまで低下してしまっている。
 調査環境の厳しさは現場で働いている調査員自身が、そして調査会社の実施管理部門のスタッフが感じ続け、悩み続けていることであろうかと想像され、そうした中にあっても、面接調査という貴重なデータ収集手段の質を維持していくためにも、よりきめ細やかな実施プロセスに関する知見が求められていると考えている。
 本項で紹介するに至らなかったが、筆者自身は本稿の調査や日本人の国民性調査の実施時に、調査員が記録してきた対象者への訪問記録に現在興味を持っており、分析を進めている。その成果の一端は前田(2016)をごらんいただきたい。もちろん本稿に紹介したことがらに限らず、いかに質の高い調査結果を確保するかという点について、調査実施にあたって委託側と受託側の問題意識の共有と緊密な連携が肝要であると考えている。



文 献
○前田忠彦 (2016) 訪問調査における調査員活動記録に関する基礎分析, よろん(日本世論調査協会報)117号, 16-21.
○前田忠彦・中村 隆 (2014) 国民性に関する意識動向調査(2012年度)報告書, 情報・システム研究機構統計数理研究所.
○中村 隆・土屋 隆裕・前田 忠彦 (2015)「国民性の研究 第13次全国調査—2013年全国調査—」 統計数理研究所 調査研究リポート No.116.
○Matsuoka, R & Maeda, T (2015) Neighborhood and individual factors associated with survey response behavior: A multilevel multinomial regression analysis of a nationwide survey in Japan, Social Science Japan Journal ,18(2),217-232.
○尾崎幸謙・前田忠彦 (2013) 留置法と面接法による調査間の比較分析, 日本行動計量学会第41回大会発表論文抄録集.