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■「中央調査報(No.730)」より

 ■ マス・メディア激変の時代の世論を縦横に映し出す
 ―― メディアに関する全国世論調査の意義と展望(後編)


政治学者 菅原 琢


 本稿は新聞通信調査会発行『メディアに関する全国世論調査 第1回―第10回』所収の同タイトルの原稿を分割し、一部加筆修正したものです。前編は本誌7月号に掲載されています。


“第1回”調査の内容
 本調査の質問内容が開始当初は流動的であったのは、調査の方向性がまだ明確に定まっていなかったからと考えられる。本調査がいかにその立場を確立したのかを見るために、調査開始の経緯と第1回調査の内容を確認しておきたい。
 本調査は、前編で述べたように公益法人としての事業を模索する中で実施されている。このような経緯から、最初の調査は試行として行われ、実施時や2009年3月の報告書発表時には実は“第1回”とはされていなかった。メディアの反響等を受けて調査の継続が決まったため、2009年4月の『メディア展望』での報告の際には「第1回メディアに関する全国世論調査」と称されることとなったようである。
 この“第1回”調査は回答者属性に関する質問を除いて全21問で構成されている。本稿の大分類ではほとんどが固定質問群に属している。内容の分類は前編掲載の図表4に示した通りだが、分類間で問番号が前後して入り乱れていて分かりにくい。そこで質問順に整理すると、問1から問5までは閲読頻度など新聞の利用状況、問6、7ではテレビ、ラジオ等の多メディア間の利用形態比較、枝問が3つ含まれる問8では新聞を中心とする広告の印象等、問9から15では新聞の印象等、問16では新聞社ウェブサイトへのアクセス状況、問17、18では通信社の認知度、問19では各メディアの印象、問20では各メディアの信頼度について聞いており、最後に問21で回答者の購読紙を聞いている。
 このような“第1回”調査の質問群は、2001年から隔年で実施されている日本新聞協会の「全国メディア接触・評価調査」の影響を強く受けたもののようである。新聞協会調査の質問票の全貌は明らかではないが、報告書に掲載されている各質問は本調査と同じか似たものが多い1。新聞閲読の頻度や各メディアの印象など、“第1回”調査に盛り込まれたテーマの多くは新聞協会調査にも含まれているのである。これらの質問の多くは、質問文や形式、順番に多少の変更はあるものの第10回に至るまで継続して聞かれている。

信頼度得点の質問形式
 一方、“第1回”調査の質問の中で、新聞協会調査との比較で際立って異色なのは信頼度の質問である。この質問では、下掲のように信頼度を数値で回答するよう要求している。

下掲 信頼度得点の質問

 この質問形式は、政治学の調査では「感情温度」と称されポピュラーなものである。調査票を回答者に配布する訪問留置法だからこそ可能な質問形式であり、調査法の利点を生かしたものだと言える。
 ここで記入された回答者ごとの数字について、メディア別に平均した値が、調査会からのプレスリリースで各メディアの「情報信頼度」として発表される。数値自体を指す際には「信頼度得点」と呼ばれることが多く、ここでもそのように呼ぶこととする。
 ひとつ留意点を述べておくと、調査会から発表される信頼度得点は純粋な平均ではない。各メディアについて0点とした場合、これを除外して計算しているのである。いい加減な回答の排除が目的とされているが、そうした0点であっても回答者の意見であり、真面目に答えて0点の場合もあることから、除外すべきでないというのが筆者の見解である。
 ただし、実際に0点とする回答者は比較的少ないため、0点回答を含むか含まないかによる数値やその傾向に大きな違いはない。第9回について計算すると、0点回答者の割合が大きい雑誌で3.2点差(発表値53.5点→0点を含む平均値50.2点)、インターネットで3.0点差(44.7点→41.7点)となるが、新聞は1.1点差(68.6点→67.5点)にとどまる。
 “第1回”調査において、あまり一般的でない形式の質問がなぜ信頼度を測るために採用されたのかは定かではない。しかし、メディアの信頼度を聞くとする本調査において、メディアの信頼度を探る唯一の質問となっていることから、当時この質問が重要視されていたことは間違いない。そして現在では、この信頼度得点が本調査において最も注目される、あるいは本調査を代表する数字となっている。

「メディア信頼度調査」の定着
 調査会に残る資料によれば第1回調査の結果は全国11紙がこれを報じている。内訳は全国紙が朝日新聞1紙、スポーツ紙の日刊スポーツ、業界紙の新聞之新聞、残り8紙は地方紙(デーリー東北、河北新報、常陽新聞、伊勢新聞、日本海新聞、山陰中央新報、中国新聞、熊本日日新聞)である。この数が多いか少ないか、どの程度の意味を持つのかは筆者には分からないが、少なくとも近年の記事掲載紙数に比べれば少ない。
 この11紙のいずれもが、本調査をメディアの信頼度に関する調査として紹介している。このうち7紙は共同通信の配信を受けて「新聞と政治家との距離」に関する結果を見出し、主な内容として採用している。一方、信頼度得点を報じたのは、おそらく通信社配信でない独自記事を掲載した朝日、河北、常陽の各紙と、業界紙である新聞之新聞の4紙であった。
 このように、最初の調査の時点で信頼度得点自体は特に大きな注目を集めているわけではなかった。しかし、続いて行われた第2回調査では、本調査の結果を報じた計37紙全てが信頼度得点を取り上げるようになっている。おそらくこれは、調査会のプレスリリースや報告書の変化と関係している。
 2008年の“第1回”調査の報告書では、調査結果は質問順に整然と抑揚なく並べられていた。しかし第2回の報告書では、信頼度得点の前の質問である各メディアの印象(問27)の結果が冒頭で紹介され、各メディアの信頼度得点が2番手に置かれている。つまり、本調査が新聞に限定されないメディア全般を比較した調査であることを意識的に打ち出しているのである。さらに2012年の第6回調査以降の報告書では、信頼度得点が各メディアの印象の前、すなわち報告書の冒頭で報告されるようになっている。そして一部の記事で本調査を「メディア信頼度調査」と呼称しているように、現在では新聞通信調査会の世論調査=各メディアの信頼度の調査という認識が定着したのである。

調査の方向性の変化
 その一方で、本調査の内容も変化を見せている。“第1回”の調査は、先に指摘したように新聞協会調査の影響を強く受けていた。協会調査は、その実施主体が協会の「広告委員会」であり、報告書で広告のインプレッションや購買行動の分析に重きを置いていることから、新聞の広告メディアとしての優位性を主張するための性格が非常に強い。本調査でも初期には広告に関する質問や選択肢を置いており、メディアの信頼度以上にメディアのマーケティング面での有用性を明らかにしようとしていた節がある。
 たとえば“第1回”では枝問3問で構成される問8では新聞を中心とするメディアの広告について役に立っているかどうか聞いているのに加えて、問4、問6、問12、問15でも新聞広告について聞いていた。また、第2回でも問21、22で広告について質問を行っていた。第2回調査の報告書でも全33のセクションのうち6番目、7番目に置かれ重視されていることが伺える。
 ところが、第3回以降は全く広告について聞くことがなくなっている。象徴的なのは、現在でも継続して聞かれている新聞各面等に関する満足度の質問である。この質問は“第1回”では問4に置かれていたが、前編で触れたように第3回以降は購読紙質問の後ろに配置されるようになっている。この移動の際に、政治面、経済面等の11項目が10項目に減らされているが、その時に減ったのが新聞広告なのである。
 この一方で増えたのが特集テーマに関する質問である。震災、原発事故、報道の自由といった、メディアに関して話題となった事柄を毎年質問とし、人々の意識を回答分布として残すことが新たに本調査の役目となった。ある意味“業界のための調査”だったものが、特集テーマの導入を通じてわれわれメディアを利用する側の声を聴くための調査へと変化したのである。その意味では、「メディア信頼度調査」としての性格を鋭敏にしていった結果が、現在の本調査の姿だと言えるだろう。
 こうした変わる努力のかいもあり、調査自体の認知度も上がっている。結果発表時には数多くの新聞が調査結果を報じており、新聞通信調査会が収集した資料によれば、14年以降調査結果を掲載した新聞は常に20紙以上となっており、全国紙5紙(朝日新聞、産経新聞、日本経済新聞、毎日新聞、読売新聞)のうち4紙以上が結果を報告している。各メディアが自ら行う調査と政府系の調査を除けば、これだけ継続して取り上げられている世論調査は珍しいと思われる。
 朝日新聞、産経新聞、東京新聞、日経新聞、毎日新聞、読売新聞の6紙について記事データベースで「新聞通信調査会」で検索したところ、09年以降17年11月30日までの範囲で70件の記事がヒットした。このうち40件が本調査に関する記事であったことから、公益法人としての公益性の部分を本調査が担っていると言うことができる。信頼度得点はやはり特異な地位を占めており、この40件のうち25件で触れられている。一方で、毎年の特集テーマに関しても報道されており、メディアの信頼度が震災を機に上昇したこと(第4回)や、報道の自由(第8回以降)に関しては広く取り上げられていた。

あらゆる立場から言及される客観的調査
 もちろん、新聞を中心とするメディアがテーマの調査であることから、新聞各紙が関心を有し掲載するのは自然なことかもしれない。しかし現在では、ネットの大手ニュースサイトでも調査結果が報道されることが当たり前となっている2。これは本調査が新聞を中心とする旧来メディアの優位性を一方的に訴えるだけでなく、客観的なデータとして新興メディアの台頭を示す貴重な根拠となっているからである。
 実際に本調査は、プレスリリース時に報道されるだけでなく、後から引用されることも多い。全国紙の記事やコラムに関して言えば、先の40件のうち10件は結果発表報道でない引用記事であった。テレビ、ラジオ、ネットでもたびたび引用されているが、確認できる限りではメディアの信頼度得点やその推移を紹介していることが多い3。人々のメディアの信頼感や評価についてデータが欲しいとき、最初にたどり着き、引用可能なくらいに信頼できる情報として、本調査が利用されているのである。
 その一方で、個人ブログの記事のようなものも含めると、新聞の信頼度の低下、新聞閲読習慣の衰退、ネットニュース閲覧頻度の上昇などを取り上げ、新聞の現状を揶揄する、ネットの“優位”を誇示するような形で利用されることも見られる。おそらく、こうした“利用”の仕方は実施者の本意ではないと思われる。しかしこれは、意見や立場の異なる側からも利用できる調査であることを示す好例と捉えられ、新聞業界側の“お手盛り”でなく広く社会に開かれた調査結果となっている証拠である。

信頼度低下と「新聞離れ」
 それでは、全10回におよぶ本調査は一体何を明らかにしたのだろうか。継続的な質問の回答分布の推移は、本書(新聞通信調査会『メディアに関する全国世論調査 第1回―第10回』)所収の第10回のプレスリリース資料等に詳しいので、ここでは詳細の紹介は割愛する。中心的な一部の結果と、その基本的な見方、考え方をここでは示しておきたい。
 図表5は各メディアの信頼度の平均と標準誤差の推移を示している。なお、この表に示す値はプレスリリース等で発表される値とは異なり集計に0点回答も含む。ここまで言及してきた信頼度得点との違いを示すために、この値をここでは「情報信頼得点」と呼ぶこととする。また、この表には“第1回”調査の値を含めなかった。これはテスト的な調査のために調査期間や回答者数等に違いがあることに加えて、実際のデータにも以降とは明確に異なる傾向が見られるため、推移の出発点としてふさわしくないと考えたためである4

図表5 各メディアの情報信頼得点の変遷

 さて、この図表5を見ると、多少の上下動を含みながらも、どのメディアも情報信頼得点を下落させていることが分かる。ここで興味深いのは、表に示した9回の中では、インターネットの情報信頼得点が比較的大きく落ち込んでいるのに対して、新聞の得点はさほど落ちていない点である。
 過去のプレスリリース等で報告されているように、近年はネットでニュースを閲覧する人の割合やその頻度は大きく伸びている。一方、新聞を閲読する人の割合やその閲読時間は低下傾向にある。いわゆる「新聞離れ」である。こうした変化は、新聞への信頼の低下とネットの信頼の向上を想起させる。しかし実際は、この表の通りネットの方が信頼を低下させているわけである。
 これらは矛盾する傾向のように見える。しかし、新聞閲読率低下やネットニュース閲覧頻度の上昇傾向といった人々のメディア接触行動の変化が、それぞれのメディアへの信頼によって強く動かされているわけではないと考えれば、無理なく併存できる傾向となる。言い換えると、新聞への信頼を失いネットへの信頼が増したために、人々は新聞を離れ、ニュースをネットで知るようになったわけではない。単に、インターネットの利用拡大やスマートフォンの普及によって、ニュースをはじめとする情報を得るメディア(媒体)の配分が変化した結果が、「新聞離れ」という結果に結び付いたにすぎないと考えられるのである。
 このように考えれば、信頼の低下が新聞離れを呼んだのではないかとする本稿(前編)冒頭の前田元理事長の予測は外れていたと言える。この点につき、信頼が大して低下していないことに注目するならば新聞業界関係者は安堵するかもしれない。しかし、信頼が低下したわけでもないのに読者が離れていく事態と捉えれば、やはり業界にとっては暗い未来を本調査は映し出していることになる。
 もっとも、多くの読者、視聴者側からすれば、メディア業界の行く末などは気に留めるべきものではない。「新聞離れ」は、人々が時代と環境の変化に合わせ情報入手経路を変えた結果にすぎず、新聞から離れた人々が批判される筋合いのものでは全くない。その意味では、「新聞離れ」は嘆きや憂いの対象となるような現象ではないのである。

メディアに関する全国世論調査の意義と展望
 調査結果をどのように解釈したとしても、この10年で新聞をはじめとする旧来の各メディアから人々が徐々に離れていっていることは確かである。ペースとしてはゆっくりとしているようにも見えるが、おそらく戦後70年を超える期間の中では最も急激な変化である。
 そして、こうした激変の時期の日本の人々のメディアに対する意識や行動を記録した点に、本調査の最大の意義がある。費用と労力のかかる手法を採用して質の高い調査結果を追求しているのもそのためである。継続的な質問と時事的な質問を組み合わせるのは、緩やかな意識と行動変化と一過性の反応を共に記録しようという狙いからである。
 後から振り返って試行錯誤ゆえの不安定な部分はあるにせよ、同時代のメディアに関する世論を把握するという点においては十分に成功を収めている。これが筆者の本調査に対する評価である。もちろんこれは筆者個人の感想の類いであって、ここで同意を強要するつもりは全くない。本調査の評価は、本書の資料を確認の上で各自判断していただければと思う。
 その上で、本調査をさらに意義深いものとしていくためには、メディアの側がこの調査結果を利用していくことが大切である。本調査結果やその分析により得られた知見を基に、記事の読者、番組の視聴者、あるいは新聞やテレビから離れていった人々も含め、情報の受け手となる人々の意識と行動を理解し、考える材料としていく。そして、これに応じて報道の内容や伝え方に工夫を加え、その価値を高めていくことができれば、業界にとっても現代の日本に生きる人々にとっても有益な結果をもたらすのではないだろうか。
 世論調査は、その時点の人々の意識をパーセンテージで表現して終わりではない。広く報道されるだけでなく、情報として残り、後世の人々に役に立ってこそ価値がある。それこそが、本書の存在理由である。

追記(2018年8月)
 本稿では第10回調査までの内容、結果に基づいて調査の経過等を整理したが、今年度行われる第11回調査ではその構成や内容が大きく変更されることになった。引き続きメディアへの信頼度を中心的なテーマとしながらも、閲読率低下の現状を踏まえて新聞購読前提の質問を減らし、ネットを含む各メディア間で利用状況や印象を比較する質問を充実させる。氾濫する無料の“ニュース”との比較の中で、専門の報道機関によるニュースに対する意識と行動を浮き彫りにすることが、今回の質問項目刷新の意図と言えよう。
 今回の変更で、時系列的な変遷を十分に追えなくなる部分も出てくるはずである。しかし、マス・メディアを取り巻く時代の変化に反応しないとなれば、それこそ調査の意義自体を否定することになる。
 大幅刷新がどれだけ功を奏すかは、本年末までに発表される予定の結果報告を待たねばわからない。だが、10年続いた前例踏襲と微調整の繰り返しを一度止め、現状に向き合った結果の英断として、今回の質問項目の変更を評価しておきたい。


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1「全国メディア接触・評価調査」新聞広告データアーカイブ http://www.pressnet.or.jp/adarc/data/research/media.html
2全てを列挙することはできないので、代表的と判断した例を挙げておく。
「新聞、テレビ、ラジオ、ネット…"雑誌"以外のメディアの信頼度が過去最低に」マイナビ・ニュース、2013年4月3日 https://news.mynavi.jp/article/20130403-a144/
「ネットニュースの閲読率が新聞朝刊に迫る勢い、新聞通信調査会調べ」インターネット・ウォッチ、2016年10月24日 https://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/1026402.html
「信頼失う新聞・テレビは滅ぶのか 池上彰さんが「楽観できない」と語る理由」BuzzFeedNews、2017年4月15日 https://www.buzzfeed.com/jp/daisukefuruta/interview-with-ikegamiakira
3前注同様、代表的なものを挙げておく。月尾嘉男「賢くなれる雑学コラム――メディアの信頼度」TBSラジオ、2017年4月13日 https://www.tbsradio.jp/137652
4具体的には、次のような違いがある。まず、“第1回”は全回答者が全メディアについて点数を回答したことになっている。例えば第2回調査では各メディアにつき得点を回答しない「無回答」の割合は1.5%(新聞)から7.7%(インターネット)であった。一方、第2回調査で無回答の割合が高いメディアほど、第1回で0点の割合が高い傾向が見られる。特にインターネットは、第2回の0点率が全回答者中5.3%であるのに対して“第1回”では16.2%にも達している。このことから、“第1回”調査での信頼度得点の無回答は0点として記録されているのではと疑われる。