■ 第5回「諸外国における対日メディア世論調査」結果の概要
公益財団法人新聞通信調査会(理事長 西沢豊)は、2018年11 ~ 12月、アメリカ・イギリス・フランス・中国・韓国・タイの6カ国を対象に「諸外国における対日メディア世論調査」を実施しました。調査はアメリカ・フランス・韓国は電話法、イギリス・中国・タイは面接法で行い、各国とも約1,000人から回答を得ました。回答者の性別・年代別構成は各国の人口構成に近い比率に割り当てられています。「対日メディア世論調査」は、2015年1月、2016年1月、2017年2月、2018年1月にもこの6カ国で行っており、今回調査は5回目となります。 ![]() 続いて、テレビ・新聞などのマスメディアで報道される世論調査の結果は、人々の意見を正しく反映していると思うか尋ねた。この質問を聞いた背景には、3年前のイギリスで実施されたEU離脱の賛否を問う国民投票、一昨年のアメリカ大統領選などで事前世論調査結果と実際の投票結果が大きく乖離し、世論調査に対する信頼性が問われたということがある。結果を見ると、「そう思う」と「ややそう思う」の合計が中国・タイで70%前後となっているが、アメリカ・イギリス・フランス・韓国で50%を下回っている。フランスでは世論調査が人々の意見を正しく反映していると思わない人が約70%となっている。前回と比べ、「そう思う」が韓国で9ポイント、中国で6ポイント、フランスで5ポイントの減少となっている。また、日本の「メディアに関する全国世論調査」では「そう思う」が前回より8ポイント減の24.2%となっている。なお、中国とタイでは「ややそう思う」(順に58.5%、59.4%)が高くなっている点に注意を要する(図表2)。 ![]() 2.「報道の自由」に関する意識 ―「報道の自由は保障されるべき」は各国で80%以上。 「報道の自由」に関する人々の意識についても第2回から継続して質問している。今回調査では4項目のうち、「報道の自由は常に保障されるべきだ」「国益を損なうという理由で政府がメディアに圧力をかけるのは当然だと思う」の2項目は継続して質問したが、「報道の自由が侵害されていることがあると思う」「報道によって、プライバシーが侵害されていると思う」は日本で行った「メディアに関する全国世論調査」に合わせ、新規質問として尋ねた。具体的に見てみよう。まず「報道の自由は常に保障されるべきだ」については、「そう思う」がフランスで90%を超え、他の5カ国で80%台となっている。日本も80%台前半で「報道の自由は保障されるべき」に対しては各国共通して強い賛意が示されている。「国益を損なうという理由で政府がメディアに圧力をかけるのは当然だと思うか」については、「そう思う」がタイで80%超、イギリスで70%超、中国で60%台半ば、韓国・アメリカで60%近くとなっているが、フランスのみ50%を下回っている。「報道の自由が侵害されていることがあると思うか」については、「そう思う」がイギリス・タイで70%台、アメリカ・韓国で50%を超えているが、フランス・中国では50%を下回っている。「報道によって、プライバシーが侵害されていると思うか」については、「そう思う」がイギリス・フランス・タイで70%を超えている。アメリカは60%台、中国・韓国は50%台とすべての国で過半数を占めている。過去の当質問結果紹介でも触れているが、政府によるメディアへの規制や圧力は認められて然るべきだと考えている人が他の国々と比べ日本ではかなり少ない点は興味深い(図表3)。 ![]() 3.ニュースとの接触 ―ニュース接触はテレビとインターネット。 最近は「ニュース」に接触するための媒体として、インターネットの台頭が著しく、従来型メディアの新聞・テレビ・ラジオをしのぐ勢いである。以下、SNSの利用実態なども含め、その実態を紹介する。まず、ニュース視聴の利用媒体では、アメリカ・イギリス・フランス・韓国・タイはテレビが、中国はインターネットのニュースサイトがそれぞれ1位となっている。2位にはアメリカ・韓国はインターネットのニュースサイト、イギリス・フランスは新聞、中国はテレビ、タイはSNS(facebook, twitterなど)が続いている。前回調査と比べ、新聞の順位が、アメリカで4位→3位、イギリスで3位→2位、フランスで4位→2位に上昇している(図表4)。 ![]() 今回調査では、新聞を紙面で読むか、電子版、オンラインで読むかを尋ねた。新聞を読む人のうち、「紙のみ」はイギリスが60%近く、韓国・タイも40%台で、これらの国では「電子版のみ」の割合を上回っている。一方、中国は「電子版のみ」が61.1%で「紙のみ」の19.4%を大きく上回っている。紙と電子版の「両方」と回答したのは、アメリカとフランスが30%弱で他の国より多くなっている(図表5)。ネットニュースやSNSを見るのに使用する機器は、6カ国とも「スマートフォン・携帯電話」が1位、「パソコン」が2位、「タブレット」が3位となっている。 ![]() 次に、インターネットのニュースを見る時に、ニュースの出所を気にするか尋ねたところ、6カ国すべてで「気にする」(「いつも気にする」と「まあ気にする」の合計)が60%以上となり、「気にしない」(「全く気にしない」と「あまり気にしない」の合計)を大きく上回っている。「気にする」と答えた人は、タイが94.7%で最も多く、アメリカ・フランス・中国が80%台、イギリス・韓国が60%台となっている。そのうち、「いつも気にする」のはフランスが59.7%で最も多く、次いでアメリカ51.9%である。イギリス27.3%、韓国23.4%、中国20.2%、タイ15.1%は少ない。タイでは「気にする(計)」が94.7%と極めて高い数値を示しているが、積極層ともいえる「いつも気にする」が15.1%と低い点に注意しなければならないだろう。日本の「メディアに関する全国世論調査」では、「気にする(計)」が39.9%、そのうち「いつも気にする」のは10.2%となっている(図表6)。 ![]() 前回調査から、政治家が個人的に発信するSNSの情報とテレビや新聞などが報道する情報のどちらを信頼するか尋ねている。中国では「政治家が個人的に発信するSNSの情報の方を信頼する」が46.9%で、「テレビや新聞などが報道する情報の方を信頼する」の38.3%を上回っている。一方、他の5カ国では、「テレビや新聞などが報道する情報の方を信頼する」と答えた人の割合が「政治家が個人的に発信するSNSの情報の方を信頼する」を上回っている。「テレビや新聞などが報道する情報の方を信頼する」の割合はアメリカ71.6%、イギリス57.8%、タイ57.3%、韓国54.4%、フランス52.2%となっている。各国の数値をみると、中国がやや突出したものであるような印象を受けるが、その原因と背景について現地調査機関から昨年に寄せられた見解を再掲する。「中国では多くの役所が微博、微信(注:中国内で利用されているSNS)を開設し、役人たちがそれを通じて、一般市民と活発な交流をしている。それらに対する中国市民の信頼度が高く、これを『政治家が発信するSNS情報』と理解して回答したという解釈が妥当」との見解が示されているので参考とされたい。なお当項目は日本の「メディアに関する全国世論調査」では質問していない(図表7)。 ![]() 4.東京オリ・パラ開催、皇位継承の認知率 ―認知率は中国がトップ。 来年の8~9月に東京オリンピック・パラリンピックが開催される。まだまだ先……と思われていた世紀的なイベントが近づいてきた。日本国内では頻繁にこの話題が報道されているが、当調査各国での認知状況はどうだろか。2020年の東京での開催を「知っている」と答えた人は中国で87.3%と最も多く、次いで韓国が72.7%、フランスが60.2%。イギリスは50%を超えているが、アメリカとタイでは50%を下回っている(図表8)。東京オリンピック・パラリンピックの報道を自国のマスメディアで見聞きしたことがあるか尋ねたところ、「ある」と答えた人は中国で72.8%と最も多く、次いで韓国が56.1%、タイが50.0%となっている。フランス・アメリカ・イギリスは30%前後である(図表9)。認知率および自国メディアで見聞きした経験はいずれも中国が最も高く、韓国が次いでいる。後者に関しては、欧米諸国で30%前後と低い。 ![]() ![]() 今年4月末~5月上旬には現天皇の退位と新天皇の即位も控えている。わが国の非常に厳粛で重要な国家的行事についての世界の人々の認知状況を見てみよう。現天皇の退位と新天皇の即位を「知っている」と答えた人は中国で37.9%と最も多く、次いで韓国が30.3 %、タイが21.2%となっている。フランス・アメリカ・イギリスは認知度が低い(図表10)。日本の皇族について報道してほしいか尋ねたところ、「報道してほしい」(「積極的に報道してほしい」と「報道してほしい」の合計)はタイで73. 4%と最も多く、次いで中国が54.5%、アメリカが45.0%となっている。韓国・イギリス・フランスは日本の皇族への関心が低い。認知率は前述の東京オリンピック・パラリンピックよりはかなり低く、比率の絶対値でみると半数未満となっている。それらの中でも中国で最も高い点に変わりはない。皇室報道への要望に関しては、国王への敬愛が非常に強いタイで比率が突出して高くなっている(図表11)。 ![]() ![]() 5.日本に関する情報入手と報道への要望 ―日本に関する情報源「自国のテレビ、新聞、雑誌」、「インターネット」。 日本のメディアの認知状況に関しても過去4回と同様に聞いている。ここでは「NHK(ワールドTV、ラジオジャパンなど)、共同通信社、時事通信社、日本の新聞(朝日、毎日、読売、日経、産経など)」の中から知っているものをすべて挙げてもらったところ、6カ国とも「NHK」が最も高く、「日本の新聞」が第2位となっている。 日本のことが報道されると関心を持って見聞きするか否かについては、関心層(「とても関心がある」と「やや関心がある」の合計)はタイが91.3%で最も高く、以下、韓国・フランスで60%台、アメリカ・中国が50%台で続いている。イギリス(42.7%)は半数に満たず、第3回以降と同様の結果になっている。 日本についての知識や情報の入手先(複数回答)は、中国以外の5カ国で「自国のテレビ、新聞、雑誌」が1位、「インターネット」が2位で、中国は両者が逆転している。3位には韓国を除いて「自分の家族や親戚、知人」が、韓国では「学校教育」が挙げられている。「日本人の友人、知人」「訪日経験」はいずれの国でも総じて比率が低い。 日本に関する報道で、各国民がメディアに期待する内容を複数回答で挙げてもらったところ、「科学技術」が上位である点は共通しているが、それ以外の項目は国によって差異が出ている。1位はタイを除く5カ国で「科学技術」が、タイでは「観光」が挙げられている。この点は前回、前々回と同様である。2位には、アメリカ・イギリスは「国際協力、平和維持活動」、フランスは「歴史と文化」、中国は「観光情報」、韓国は「政治、経済、外交政策」、タイは「科学技術」が続いている。中国は「ファッション、アニメ、音楽」への関心が高く3位に挙げられているが、他の5カ国ではいずれも最下位の7位である(図表12)。 ![]() 観光立国を目指す日本にとって関心の一つでもある訪日経験や訪日意向について尋ねた。実際の訪日経験について見ると、これまでに訪日経験がある人は韓国で55.4%と突出しており、中国とアメリカで10%強、イギリス・フランス・タイではいずれも5%前後となっている。第1回調査からの時系列変化を見ると、韓国・タイは上昇傾向が続き、中国は前回より2.8ポイントの上昇となっている。次に、訪日意向を尋ねたところ、タイが最も高く91.0%、次いで中国が78.0%である。他の4カ国は50 ~ 60%台である。さらに、訪日して行ってみたいところ、体験してみたいことを自由回答で聞いたところ、アメリカは「東京」、イギリス・フランスは「観光」、中国・タイは「富士山」、 韓国は「温泉」がトップ。6カ国とも「食」については高い関心がある。 6.日本に対する信頼度・好感度 ―中国で信頼度・好感度共に上昇。 当調査の主題である「メディア評価」とは直接関連はないが、日本及び調査各国間の信頼度や好感度についても質問している。ここでその結果を紹介したい。まず日本に対する信頼度(「とても信頼できる」と「やや信頼できる」の合計)は、タイが96.5%で最も高く、フランスで81.4%、アメリカで78.1%。イギリスは62.8%となっている。昨年度からの変化では、イギリスが5.0ポイント、アメリカが2.9ポイント減少している。中国・韓国はともに大きく離され、中国は32.4%、韓国は18.1%と低いが、時系列変化を見ると、中国は第4回、今回と信頼度が上昇し、信頼度は第3回の16.9%から倍増している一方、韓国は横ばいである。 では、日本および調査各国間の好感度はどうか。まず日本に対する好感度(「とても好感が持てる」と「やや好感が持てる」の合計)については、信頼度と同様タイで最も高く96.5%、以下、アメリカ(85.7%)、フランス(79.1%)、イギリス(62.0%)と続き、大きく離されて中国で33.9%、韓国で32.0%となった。昨年度からの変化では、アメリカは2.1ポイントの上昇となったが、イギリス・フランス・タイは低下している。中国・韓国は前回調査で好感度が上昇に転じたが、今回は中国は引き続き6.0ポイント上昇、韓国は6.3ポイント低下と対照的である。 日本を除いた6カ国間の相互好感度について見ていこう。アメリカは依然日本(85.7%)、イギリス(84. 1%)、フランス(77. 4%)への好感度が高いが、今回調査では韓国への好感度が6.6ポイント上昇し51.5%となっている。イギリス・フランスでの他国への好感度はほとんど低下となっているが、依然相互に好感度は高い。中国に対する好感度は、前回調査より軒並み低下し、中でもイギリスが10.2ポイント、フランスが9.8ポイント、韓国が7.9ポイントと大きく低下している(図表13)。 ![]() 7.知っている日本人 ―中国・韓国は「安倍晋三」がトップ。 当調査では、冒頭の質問として「知っている日本人」をそれぞれ1名だけ挙げてもらった。これは、各国の調査対象者が答えた人名をそのまま現地言語で入力し、1つずつ日本語に翻訳し整理分類したものである。同様の試みは、第1回、第3回、第4回調査でも実施している。中国・韓国は「安倍晋三」、イギリス・フランスは「昭和天皇」、タイは「天皇」、アメリカは「オノ・ヨーコ」が1位になった。2位には「安倍晋三」(アメリカ・タイ)、「オノ・ヨーコ」(イギリス)、「ドラゴンボール/孫悟空」(フランス)、「福原愛」(中国)、「伊藤博文」(韓国)と分散している。ここで挙げられた結果は、信頼感や好感度のような数値・定量的データとは異なる「質的データ」とも言えるもので、各国民の日本に対する意識がより具体的に理解でき非常に興味深い(図表14)。 ![]() ![]() |