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■「中央調査報(No.739)」より

 ■ 平成でどんな意識が変わったか~「日本人の意識」調査の結果から~


NHK放送文化研究所 世論調査部
荒牧 央


1 調査の設計
 「日本人の意識」調査は、日本人のものの見方や考え方を広範囲にわたって長期的に追跡するため、NHK放送文化研究所が実施している時系列調査である。調査は1973年から5年ごとに行っており、2018年6月から7月にかけて第10回の調査を実施した(今回の実施概要は文末に掲載した)。調査の開始から45年が経過し、その中には平成の30年も含まれている。本稿では「日本人の意識」調査の全体像について解説するとともに、平成を振り返り、この時代にどのような意識が大きく変化したのかをみていきたい。

1.1 調査内容
 冒頭に述べたように、本調査の目的は、5年ごとに同じ質問・同じ方法で世論調査を繰り返すことによって、社会や経済、政治、生活などについての日本人の基本的な価値観や意見の変化を長期的にとらえることである。質問項目については、次のような5つの基準に沿って選定している。
 ①主要な意識の領域をカバーすること
 ②意識の特性を構造的にとらえ得ること
 ③長期的な変動が見込まれる意識であること
 ④社会的影響力の大きい意識であること
 ⑤統計調査法により測定可能であること
 また、個々の質問の作成にあたっては、具体的な状況設定をしたものにすることや、長期的な時系列調査に耐えるものにすることも考慮されている。
 現在の調査票の質問領域・項目は表1に示したとおりである。調査票はこれまでに何度か部分的な見直しがなされており、国際関係の質問領域や結婚観の質問が追加されるなど、いくつかの質問が変更されている。ただしほとんどは同じ質問で、第10回調査では全69問のうち54問が第1回調査からの継続質問となっている。

表1 調査票の構成


1.2 調査方法
 「日本人の意識」調査では結果の時系列比較のため、調査票だけでなく、調査実施の諸条件を最大限に均一化したうえで5年に1回の調査を行うことを基本方針とし、第1回の調査から今日まで引き継いでいる。
 母集団は義務教育を修了した年齢である16歳以上の国民で、サンプルは住民基本台帳から層化無作為二段抽出で選んだ5,400人(450地点×12人)である(注)。調査の時期は5月から7月としているが、第3、5、6、9回調査の年は7月に国政選挙が行われたため、9月または10月に変更している。調査方法は個人面接法で、調査票、回答項目リスト、調査協力依頼状、調査実施細目(調査員マニュアル)など調査材料の内容や、説明会などを通じた調査員への指示も大きな支障がない限り変更していない。また、実施体制や受付、点検、集計時のエラー補正などもできる限り変更せず、調査の諸条件をできる限り均一化している。
 こうしたことによって、得られたデータの変化が、実施面での条件が変わったことによるものではなく、調査対象の回答が変わったことによるものと判断して分析できることになる。ただし今回(第10回)の調査では、調査環境の変化などにより実施は外部委託とし、サンプルのサイズは5,400人のままで、調査地点数を360地点、1地点あたりの調査相手数を15人とした。

(注) 第1回調査は5,436人(302 地点×18人),第10回調査は5,400 人(360 地点×15 人)で実施

2 調査結果
 ここからは、平成の30年間で変わった意識を紹介する。具体的には、昭和最後の1988年調査と平成最後の2018年調査の結果を比較し、最も回答の多い選択肢、すなわち「多数派」の意見が交替した項目を取り上げた。質問としては夫婦の姓、子どもをもつこと、家庭と職業、女子の教育、婚前交渉、老後の生き方、天皇に対する感情、支持政党の8つである。

2.1 夫婦の姓 当然夫の姓 → どちらが改めてもよい
 まず、結婚した男女が名字をどうしたらよいかという質問では、次の中から1つを選んでもらっている。
 1.当然、妻が名字を改めて、夫のほうの名字を名のるべきだ《当然、夫の姓》
 2.現状では、妻が名字を改めて、夫のほうの名字を名のったほうがよい《現状では夫の姓》
 3.夫婦は同じ名字を名のるべきだが、どちらが名字を改めてもよい《どちらでもよい》
 4.わざわざ一方に合わせる必要はなく、夫と妻は別々の名字のままでよい《別姓でよい》
(《 》の中は選択肢の略称で、回答項目リストには表示していない。以下同様)
 88年の時点で42%あった《当然、夫の姓》は、18年には29%になり、代わって《どちらでもよい》が32%で最多になっている(図1)

図1 夫婦の姓

 調査開始からの推移をみると、73年から83年までの10年間はあまり変化がなく、《当然、夫の姓》という人が半数近くいた。その後は《当然、夫の姓》と《現状では夫の姓》が共に減り、《どちらでもよい》と《別姓でよい》が増えている。しかし、03年以降はどの意見にも大きな変化はなく、変化する方向も一定していない。
 現在は《どちらでもよい》が4つの選択肢の中で最も多くなっているが、過半数が支持するような意見はなく、国民の意見は分かれている。また最近の5年間では、《別姓でよい》という人もやや増加している。2015年には、夫婦は同姓とする民法の規定が違憲かどうか争われた訴訟で、最高裁が合憲との判断を初めて示し、ニュースなどでも大きく取り上げられ注目された。そうした動きも調査結果に影響した可能性がある。

2.2 子どもをもつこと もつのが当然 → もたなくてよい
 93年の第5回調査からは、子どもをもつことについての考えを聞く質問を新たに設け、次のどちらの考えに近いかを尋ねている。
 甲:結婚しても、必ずしも子どもをもたなくてよい《もたなくてよい》
 乙:結婚したら、子どもをもつのが当たり前だ《もつのが当然》
 88年以前のデータはないが、93年には《もたなくてよい》と考える人は40%で、《もつのが当然》と考える人の54%よりも少なかった(図2)。しかし、03年からは《もたなくてよい》が《もつのが当然》を上回るようになり、今回もさらに増加して60%になった。

図2 子どもをもつこと

 結婚観について尋ねた質問でも、「必ずしも結婚する必要はない」という人が長期的に増えており、18年の結果では68%と7割近い。今では結婚についても、子どもを持つことについても、「必ずしも必要ない」という考えが多数派になっている。

2.3 家庭と職業 育児優先 → 両立
 結婚後も女性が職業をもち続けるべきかどうかについて、次の3つの中から1つを選んでもらっている。
 1.結婚したら、家庭を守ることに専念したほうがよい《家庭専念》
 2.結婚しても子どもができるまでは、職業をもっていたほうがよい《育児優先》
 3.結婚して子どもが生まれても、できるだけ職業をもち続けたほうがよい《両立》
 73年に最も多かったのは《育児優先》の42%、次いで《家庭専念》の35%であり、《両立》がよいという人は20%しかいなかった(図3)。当時は結婚か出産を機に仕事を辞め、家庭に入るべきだというのが大多数の考えだった。しかし《両立》はほぼ調査のたびに増え続けて、88年には《家庭専念》を、98年には《育児優先》を上回って3つの中で最多になった。現在は60%の人が《両立》、すなわち子どもが生まれた後も仕事を続けるという考えを支持している。《両立》が望ましいという人は、88年の33%から30年間で27ポイント増加したが、この変化は、次項で述べる女子の教育の「大学まで」の増加に次ぐ大きさである。

図3 家庭と職業


2.4 女子の教育 短大・高専まで → 大学まで
 もし自分に中学生の女の子がいたとして、どこまで教育を受けさせたいかを尋ねた。73年には「高校まで」が42%で最も多く、次いで「短大・高専まで」が30%で、「大学まで」は22%にすぎなかった(図4)。その後、78年から93年までは「短大・高専まで」が最も多くなり、98年以降は「大学まで」が最多となっている。

図4 女子の教育

 「大学まで」は男女雇用機会均等法施行後の88年以降毎回増加し、今回は61%となった。88年の31%からは30ポイントも増加しており、「日本人の意識」調査の選択肢としては、平成の30年間における最大の変化となっている。
 なお、同様の質問を男の子についてもしているが、男の子の場合に「大学まで」と考える人は、78年以降はおおむね70%前後でほとんど変化していない(図5)。18年の結果では72%で、女の子の場合の61%を上回っている。女の子に「大学まで」の教育を望む人は大きく増加したが、男の子の場合と女の子の場合とでは今も「大学まで」の割合に違いがある。

図5 男子の教育

2.5 婚前交渉 不可 → 愛情があれば可
 結婚していない若い男女の性交渉については、開放的な意見が大きく増えたが、最近の20年間は小さな変化にとどまっている。調査では次の4つの中から、考えに近いものを1つ選んでもらっている。
 1.結婚式がすむまでは、性的まじわりをすべきでない《不可》
 2.結婚の約束をした間柄なら、性的まじわりがあってもよい《婚約で可》
 3.深く愛し合っている男女なら、性的まじわりがあってもよい《愛情で可》
 4.性的まじわりをもつのに、結婚とか愛とかは関係ない《無条件で可》
 88年までは《不可》が最も多く、93年以降は《愛情で可》が最も多くなっている(図6)。時代が昭和だった88年には、結婚式までは性交渉をすべきでないという考えが高年層を中心にまだ多かったのである。

図6 婚前交渉

 長期的にみると《不可》が減り続け、《愛情で可》が増え続けているが、98年以降はそれ以前に比べると変化がゆるやかになっている。

2.6 老後の生き方 子どもや孫と → 趣味をもちのんびりと
 老後の生き方についての質問では、次の6つの生き方から最も望ましいと思うものを選んでもらっている。
 1.子どもや孫といっしょに、なごやかに暮らす《子どもや孫》
 2.夫婦2人で、むつまじく暮らす《夫婦》
 3.自分の趣味をもち、のんびりと余生を送る《趣味》
 4.多くの老人仲間と、にぎやかに過ごす《老人仲間》
 5.若い人たちとつきあって、ふけこまないようにする《若者》
 6.できるだけ、自分の仕事をもち続ける《仕事》
 73年から88年までは《子どもや孫》を望む人が最も多かったが、現在では《趣味》が30%で最も多くなっている(図7)。《子どもや孫》は80年代後半から90年代にかけて大きく減り、その後いったん増加したものの、長期的には減少傾向で、現在は23%になっている。88年と比較すると《仕事》や《若者》も減少した。代わって増えているのが《趣味》や《夫婦》、《老人仲間》である。

図7 老後の生き方


2.7 天皇に対する感情 無感情 → 尊敬
 5月1日に新天皇が即位し、日本は新元号「令和」の時代を迎えた。調査では、天皇に対してどのように感じているかを聞いている。したがって73年から88年調査までは昭和天皇について、93年から18年調査までは先の天皇についての質問ということになる。選択肢は以下の4つである。
 1.尊敬の念をもっている《尊敬》
 2.好感をもっている《好感》
 3.特に何とも感じていない《無感情》
 4.反感をもっている《反感》
 調査開始からの変化をみると、88年までの昭和の時代は常に《無感情》が多数派で、40%を超えていた(図8)。それ以外の《尊敬》《好感》《反感》にも大きな増減はなく、天皇に対する感情は比較的安定していた。しかし平成になると、《好感》が大幅に増加して《無感情》を上回った。以降、13年までは調査のたびに《好感》と《無感情》の間で多数派が入れ替わっている。他方《尊敬》は、平成になって20%前後で推移していたが、08年、13年、18年と調査のたびに増えた結果、今回41%となり、《好感》や《無感情》を上回り、これまでで最も多くなった。《無感情》については、13年と18年に減少した結果、これまでで最も少なくなった。

図8 天皇に対する感情

 《尊敬》が08年以降増え続けた理由としては、即位して年月が経ち、天皇の存在感がしだいに高まったことに加え、皇后とともに戦没者慰霊のために各地を訪問したこと、東日本大震災など自然災害の被災地を繰り返し訪れる様子が報じられたことなどが考えられる。

2.8 支持政党 自民党・支持政党なし → 支持政党なし
 政党支持については、ふだん支持している政党を、選択肢を提示せずに自由に挙げてもらっている。支持率は、自民党が13年の34%から27%に減少し、自民党以外の政党の合計も14%から10%に減少した(その中で最も多いのは立憲民主党の4%)。一方、「特に支持している政党はない」は60%に増加した。最近の5年間で自民党と自民党以外がいずれも減少したが、自民党と自民党以外の支持率に大きな開きがあるという点は13年と変わっていない(図9)

図9 支持政党

 45年間を通してみた場合、「55年体制」下にあった70年代と80年代は自民党の支持率が高いが、88年から98年にかけて支持率が減少した。13年にいったん増加したものの、今回はまた08年と同程度になっている。自民党以外の支持率は非自民の連立内閣が成立した93年と、民主党中心の政権が成立する前年の08年に増加しているが、長期的に減少傾向が続いている。支持なし層は88年以降大きく増加した。
 88年と18年の結果をみると、88年には自民党が39%、支持なし層が38%だった。有意な差ではないため、同程度ということになるが、現在では支持なし層が自民党の支持率を上回り、過半数を占めている。
 ここまでみてきた8問のうち、6問は家庭・男女関係の質問である。家庭・男女関係の領域の質問は調査全体で11問あるが、88年までの昭和の時代に多数派の意見が替わったのは1問(理想の家庭についての質問)のみで、6問が93年以降に替わっている。家庭・男女関係は「日本人の意識」調査の中で最も変化が大きい領域で、調査開始以降変化が続いているが、それが多数意見の交替という形で現れたのが平成の時代だったということになる。


【2018年調査の概要】―――――――――――
調査期間:2018年6月30日~ 7月22日
調査相手:全国16歳以上の国民5,400人(360地点×15人)
調査方法:個人面接法
有効数(率) 2,751人(50.9%)