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■「中央調査報(No.745)」より

 ■ 住宅ローン利用予定者の意識を探る


独立行政法人住宅金融支援機構 国際・調査部 峰村 英二


1.はじめに
 住宅金融支援機構は、本年6月に「2018年度 民間住宅ローン利用者の実態調査【利用予定者 編】」の調査結果を公表した1。これは、調査時点 からみて今後5年以内に住宅ローンの利用を予 定している者を対象とし、希望する金利のタイ プや住宅取得に向けた意識、行動に関する事項 についてインターネット調査の手法により実査 したものである(有効回答数:1,500)。ここでは、 本調査結果の概要から住宅ローン利用者予定者 の意識、行動、ニーズ等を探り、住宅ローン市 場の今後の行方について考察したい。

2.希望する金利タイプの推移
 今後5年以内に住宅ローンの利用予定者に希 望する金利タイプを尋ねると、以下の図1で示 すとおり、「全期間固定型」が35.4%と最も多く、 次いで「固定期間選択型」が35.1%、「変動型」が 29.5%となった2(図1)

図1 住宅ローン利用予定者の希望する金利タイプ

3.住宅取得動機(年齢階級別)
 次に、住宅の取得動機について考察する。
 まず、住宅取得動機に係る回答項目について、 その内容に従い『ライフステージ』、『生活・環境 の質向上』、『経済的理由』の3つに分けて、回答 者の年齢階級別にみた結果をまとめると図2の とおり示すことができる。なお、図2の結果に よれば、全体的にみて『ライフステージ』に係る 項目が多く選択され、次いで『生活・環境の質向 上』に係る項目に回答者の意識が集まっている。 他方、『経済的理由』に係る項目は相対的に選択 の度合いが低いことが示されている。
 より具体的にみると、『ライフステージ』に関する 回答では「、子供や家族のため」「、結婚、出産を機に」 が20、30歳代で多くなっており、一方、40、50 歳代で「老後の安心のため」が多くなっている。
 また、『生活・環境の質向上』では、「広い家」、「質 の良い住宅」、「教育や子育て環境」などを求める 傾向があり、特に40、50歳代で住宅の質を求め る回答が多い。なお、前述のとおり、『経済的理由』 は、押し並べて相対的に回答構成比が低い(図2、参考1)

図2 住宅取得動機(3つまで回答可)

参考1 住宅を取得動機<3つまで回答可>

4.住宅取得に向けた意識
 ただし、住宅取得に向けた意識をみると、今 が住宅取得のチャンス(買い時)だと認識してい る回答者は513人、回答構成比でみて全体の 34.2%であったのに対して、今後5年以内に具 体的な住宅取得予定があるものの、今は住宅取 得に踏み切れないとした回答者は987人、回答 構成比は全体の65.8%となった(表1)。それで は、次節で、なぜ住宅取得に踏み切れないのか、 その理由を探ってみたい。

表1 具体的な住宅取得予定の有無

5.住宅取得に踏み切れない理由(年収階級別)
 図3は、住宅取得に踏み切れない者の意識を 年収階級別にまとめたものである。
 ここでは、比較的年収の低い層で、住宅取得 に踏み切れない理由として「将来の収入や生活に 不安」、「自己資金・頭金が不十分」、「収入が減っ た」などの経済・資金的な事柄をあげる割合が高 くなっている。また、そのほかにも「気に入った 物件がない」などの要因もある(図3、参考2)

図3 住宅取得に踏み切れない理由(年収階級別)

参考2 住宅取得に踏み切れない理由<複数回答可>

6. 住宅の質向上への意識
 なお、昨今では住宅取得者の住宅質向上への 要求が強く、実際、本アンケートにおいて「住宅 取得時に特に重視するもの」を問うと、図4で示 すとおり、「価格・費用」が最も多く、次いで「間 取り」、「立地(災害などに対する安全性)」などの 順となっているが、これらに加えて、「耐震性能」、 「耐久性」、「省エネ性能」など、住宅の質に係わ る項目も上位に並んでいる(図4)

図4 住宅取得時に特に重視するもの(3つまで回答可)

 そこで、耐震性や省エネ性能を高めるための 対応について尋ねると、図5で示すとおり、「(耐 震等級2以上3の)高い耐震性能」や「地盤調査・ 地盤改良工事」、「免震構造」などを挙げる声が 多く、そのためのコストアップについては、住 宅取得時に「耐震性能」を重視すると回答した方 (410人)の9割超が容認している。なお、コス トアップの容認度については、「住宅取得予定額 の15%まで」で8割超となっている(図5)

図5 コストアップしても耐震性能を高めるための対応

 また、省エネ性能を高めるための対応につい て尋ねると、図6で示すとおり、「断熱性能の向 上(次世代省エネ基準適用など)」、「太陽光発電 装置の設置」、「LED照明の設置」などを挙げる 声が多く、そのためのコストアップについては、 住宅取得時に「省エネ性能」を重視すると回答し た方(189人)の9割超が容認している。なお、 コストアップの容認度については、先にみた耐 震性と同様に「住宅取得予定額の15%まで」で8 割超となっており、ある程度許容されているこ とが分かる(図6)

図6 コストアップしても省エネ性能を高めるための対応

 このように、住宅取得にあたって住宅の耐震 性能や省エネ性能の向上について重視する意識 を持った方々がある程度存在しているが、要求 される性能水準については、耐震性能や地盤改 良、次世代省エネ基準、太陽光発電設備の設置 など技術的にみて専門性が高いものもあり、一 定に施工時から準備しておく必要があるものが 多いようである。

7. おわりに
 本稿では、「2018年度 民間住宅ローン利用者 の実態調査【利用予定者編】」の調査結果を参照し ながら住宅取得予定者の意識について考察した。
 その結果、住宅ローン利用者予定者の希望す る金利タイプでは「全期間固定型」が最も多く、 住宅取得動機について年齢階級別にみると、「子 供や家族のため」、「結婚、出産を機に」が20、 30歳代で多くなっており、一方、40、50歳代で「老 後の安心のため」が多くなっている。また、40、 50歳代では、相対的に住宅の質を求める回答も 多い。
 また、年収階級別では、比較的年収の低い層 で「将来の収入や生活に不安」、「自己資金・頭金 が不十分」、「収入が減った」などの認識から住宅 取得に踏み切れない傾向がある。
 さらに、住宅の質に関しては、一定に耐震性 能や省エネ性能などの住宅の質向上を求める意 識があり、その実現のためにはある程度のコス トアップが許容されていることも示された。
 これらの結果を踏まえると、各年齢層の要望 に寄り添いながら、所得階級別の属性の特徴な どを踏まえつつ、耐震性能や省エネ性能等に関 する質の高い住宅を求める意識にいかに応え、 そのすそ野をひろげていくか、という事柄が、 今後とも我が国の住生活向上に向けた大きな課 題の一つとなるものと想定される。

(注)本稿において意見にかかる部分は執筆者個 人のものであり、住宅金融支援機構のものでは ありません。


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1 本調査の詳細は、https://www.jhf.go.jp/about/research/loan_user.html#data03 を参照願いたい。なお、本調査は2018年度の第2回目の調査であり、調査時点は2019年4月である。
2 住宅ローンには大別して3つの金利タイプがある。「全期間固定型」は、借入当初から返済終了まで返済期間を通じて金利が固定される。また、「固定期間選択型」は、一定の期間(2年、3年、5年、7年、10年、15年、20年など)を決めて金利を固定するものである。「変動型」は、適用金利が市場金利に連動し、半年毎に見直されるものである。
3 耐震性に関する基準のうち、「耐震等級2(構造躯体の倒壊等防止)」は、住宅の品質確保の促進等に関する法律(平成11年法律第81号)に基づく評価方法基準(平成13年国土交通省告示第1347号。)1-1耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)に定められている等級2の基準であり、数百年に一度程度発生する地震(東京を想定した場合、震度6強から震度7程度)による力の1.25倍の力に対して、倒壊、崩壊しない程度を想定しているものである。なお、「耐震等級2(構造躯体の倒壊等防止)」以上の強度は「長期優良住宅」の認定を受ける際の要件の一つである。