■ 2020年の展望-日本の政治 -絡み合う改憲・解散・後継-
時事通信社 政治部デスク 宮澤 薫
安倍晋三首相(自民党総裁)の再登板から8年目に入った2020年の国内政治は、政権の総仕上げに向けた動きが中心になる。首相が宿願の憲法改正をはじめレガシー(政治的遺産)づくりにどう取り組むか、求心力を維持するため衆院解散・総選挙に踏み切るか、後継者へいつバトンタッチするか。相互に絡み合う改憲、解散、後継の三つの「K」がキーワードだ。 ◇「秋の陣」 では、具体的にいつか。早い時期では20年度予算成立後の4月や通常国会会期末(6月17日)が挙がる。だが、春は習近平中国国家主席の国賓来日や秋篠宮さまの「立皇嗣の礼」、6~7月は東京都知事選や東京五輪を控え、日程が窮屈だ。政権の足を引っ張る新たなネタが長丁場の通常国会で出る可能性は否定できない。「森友・加計」を含め、国会召集時点で表沙汰になっていなかった問題の方がむしろ深刻なケースが目立つ。反転攻勢を懸ける主要野党も虎視眈々と狙う。一方、秋から冬は「五輪・パラリンピック後の明るい雰囲気のままなだれ込める」(閣僚経験者)という見立てが多い。公明党の山口那津男代表もこの時期を本命視し、「備えよ」と指示した。 解散に踏み切り、改めて勝利すれば後継選びの力が増す。逆に勝負を懸けず時間が経過するとレームダック化の危険がある。過去、その前の選挙から3年以上たって行われた衆院選は与党の苦戦や敗北が目立つ。任期満了で迎えた1976年(三木内閣)や政権交代に至った09年(麻生内閣)が代表例だ。首相は昨年12月以降、解散について「時が来れば、ちゅうちょなく決断する」と繰り返す。相次ぐ政権不祥事を踏まえた引き締めが狙いとみられる。言い過ぎれば真実味が薄れると思ったか、最近は「今は全く考えていない」と定番の一言を付け加えた。 ◇消えない「五輪花道論」 総裁選と衆院選の時期を一定程度ずらす方法としては、他に①総裁が任期満了を待たず早めに辞める②総裁任期を延ばす-という選択肢がある。「桜を見る会」の問題は安倍政権特有の「身びいき」にとどまらず、「反社会的勢力」との接触や公文書管理法違反に広がった。アベノミクスの一環であるカジノを含む統合型リゾート(IR)事業に絡む汚職事件も起き、首相周辺から「政権末期のようだ」と嘆き節が聞こえる。五輪後の景気動向は不透明で、「引き際を間違えるとボロボロになる」という声は自民党内に多い。 首相の在職日数は「連続」でも8月24日に2799日に達し、大叔父である佐藤の最長記録を更新する。任期途中辞任の場合、国会議員と都道府県連代表各3人だけで新総裁を選出できる。「五輪花道論」が消えないのは、こうした事情も理由だ。あるベテランは「情勢次第で半々」。筆者もこの見方に立つ。 子年はなぜか政権交代が多い。戦後6回のうち5回を占め、首相の祖父の岸(60年)と佐藤(72年)も子年に退陣した。五輪開催年(64年東京、72年札幌、98年長野)については全て首相が代わったジンクスがある。 ②は党則を改めて連続4選を認めるか、3期目の1年延長など特例をつくるか、二つの手法が考えられる。いずれも党内のコンセンサスが必要だ。4選論は二階俊博幹事長や麻生太郎副総理兼財務相が唱える。二階氏周辺は「トランプ大統領が11月に再選されれば一気に動く」と語る。ただ、首相は4選を「頭の片隅にもない」と否定する。当時のルールでは可能だった4選後、世論に飽きが広がる中で子飼いの田中角栄に派内掌握を許した佐藤の教訓は、身内だけに首相の心に刻まれているはずだ。 ◇「乱世」の石破、小泉氏 かつての「三角大福中」などと比べ、現在ポスト安倍に挙がる候補は自力で総裁の座に就く力量が不足する。派閥領袖は岸田、石破両氏だけだ。次期総裁選びに最も影響力を持つのは、国政選挙6連勝の実績を持ち、党内最大の細田派を事実上率いる首相だろう。首相は昨年末のBSテレ東の番組収録で、岸田氏、茂木敏充外相、菅義偉官房長官、加藤勝信厚生労働相の順にポスト安倍の具体名を初めて挙げた。意中の人が岸田氏というのは衆目の一致するところ。首相は岸田氏について「人を裏切らない」と評する。路線を継承してくれるという安心感があり、岸田氏も改憲に関する集会を開くなどこれに応えている。 情勢の変化によりポスト安倍選びにおける首相のコントロールが低下した場合、力にやや陰りが見えるとはいえ内閣の要にある菅氏、一派を率いる二階、麻生両氏らの存在感が増す見通しだ。さらには小泉純一郎首相を誕生させた01年のように、党員票が決め手になるかもしれない。岸田氏の弱点は「選挙の顔」として不安のある発信力やインパクトの弱さ。その意味で石破氏や進次郎氏、河野太郎防衛相にチャンスがある。 ◇決められない野党 一般に衆院解散・総選挙のタイミングは内閣支持率、景気、野党の準備状況に左右される。その野党はなかなか戦う態勢を整えられない。政党の離合集散に否定的だった立憲民主党の枝野幸男代表が結集に傾いたのは、昨夏の参院選でのれいわ新選組躍進に火を付けられたためだ。国民民主党が旧民進党から引き継いだ政治資金も魅力的だったようだ。枝野氏の「軍師」である立憲の安住淳国対委員長が主に動いた。 今年に入り、枝野氏は国民民主の玉木雄一郎代表と合流協議を重ねたが、党名や人事などで折り合えず、仕切り直しとなった。一時は立憲の主張に沿って合意寸前だったといい、関係者は「最後に一部同盟系労組にねじを巻かれた玉木氏が首をたてに振らなかった」と明かす。 国民民主は次期衆院選に危機感を抱き、脱党も辞さない構えの中堅・若手と、参院選で直接戦った立憲に遺恨を引きずる参院幹部を抱える。バックにいる連合は内部分裂を何より恐れる。立憲も政権批判票の「大きな受け皿」を求める積極派と、いったん別れた国民民主に冷ややかな消極派がいる。感情的対立や利害得失を整理し切れないことがとん挫の本質だ。 「対決より解決」の国民民主に対しては、「改憲勢力」に加わることに首相が期待を寄せる。野党の漂流は政権サイドも見ており、政局の変動要因になり得る。 |