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■「中央調査報(No.759)」より

 ■ 2021年の展望-日本の経済 -多難の幕開け、二番底の懸念-


時事通信社 経済部デスク 小島 孝則


 2021年の日本経済は多難の幕開けとなった。新型コロナウイルス感染が再拡大して新規感染者数は急増し、政府は年明け早々、首都圏の1都3県を対象に緊急事態宣言を再発令。大阪府や愛知県、福岡県など7府県も追加し、計11都府県に広がった。医療崩壊は何としても回避しなければならない。ただ、宣言の再発令は経済に打撃となり、景気が「二番底」に陥るとの懸念が広がる。
 飲食業や運輸業、旅行・宿泊業などを中心に企業は苦しい経営を強いられ、雇用・所得環境も厳しさを増している。中国経済の回復で輸出が持ち直していく可能性もあるが、欧州ではロックダウン(都市封鎖)や夜間外出制限などが再び行われており、世界経済の行方は不透明だ。ワクチン接種による感染拡大の抑制が期待されるものの、国内景気の先行きは見通せず、20年に続き21年も新型コロナの感染状況に大きく左右されるのは必至だ。

◇再びマイナス成長に
 新型コロナの感染拡大に見舞われた20年の日本経済を振り返ると、同年4~6月期の実質GDP(国内総生産)は前期比8.3%減、この成長ペースが1年続いた場合の年率換算で29.2%減と戦後最大の落ち込みとなった。
 緊急事態宣言が発令され外出自粛の動きが広がり、百貨店など店舗は休業を余儀なくされ、操業停止に追い込まれた工場もあった。内需の柱である個人消費は前期比8.3%、設備投資は5.7%の大幅な減少を記録。世界的な感染拡大で欧米などのロックダウンが響き、輸出は前期比17.1%減少した。
 20年7~9月期の実質GDPは前期比5.3%増、年率換算で22.9%増と高い伸びを示した。緊急事態宣言が解除され、夏には感染の「第2波」に襲われながらもプラス成長を確保した。ただ、戦後最大のマイナス成長となった同年4~6月期の反動が主因で、持ち直しは力強さを欠いた。
 20年4~6月期実質GDPの実額は年率換算で約501兆円となり、新型コロナ感染拡大前の19年10~12月期に比べ約48兆円減少した。しかし、20年7~9月期の実額は約527兆円と同年4~6月期からの増加幅は27兆円程度にとどまって6割弱を取り戻したに過ぎず、コロナ前の水準には程遠い結果となった。
 その後、コロナ感染は再び拡大し「第3波」が到来。政府の需要喚起策「Go To」キャンペーンは休止に追い込まれ、東京都や大阪府など自治体が飲食店に営業時間の短縮を要請。忘年会や帰省の自粛が呼び掛けられ、書き入れ時の年末商戦が盛り上がることはなかった。
 そして年が明けた1月7日、政府は首都圏1都3県に再び緊急事態宣言を発令。同月13日には計11都府県に拡大した。民間エコノミストの間では、「GDPが下押しされるのは避けられず、21年1~3月期には再びマイナス成長に陥る」との見方が広がっている。緊急事態宣言の期間が延長されたり、対象地域がさらに拡大されたりすれば、経済には一段と大きな痛手となる。景気の持ち直しの動きは途切れ、二番底に沈むとの観測が強まっている。

◇失業者増加の懸念
 総務省の労働力調査によると、20年11月の完全失業率は前月に0.2ポイント低下し2.9%と改善した。コロナ禍で3%台まで悪化していたが、4カ月ぶりに2%台に下がった。完全失業者数前月比16万人減の198万人だった。減少は5カ月ぶり。厚生労働省が公表した同月の有効求人倍率を見ても、前月比0.02ポイント上昇の1.6倍と2カ月連続で改善した。
 しかし、その後のコロナ感染者の急増や飲食店への時短要請、緊急事態宣言の再発令などを考えれば、雇用の回復傾向は途切れ、再び厳しい状況に陥る公算が大きい。
 所得環境も厳しい。厚労省の毎月勤労統計によると、20年11月の現金給与総額(速報)は前年同月比2.2%減の27万9095円と8カ月連続で減少。下げ幅は前回の緊急事態宣言が発令されていた同年5月以来の大きさとなった。現金給与総額は残業の減少で時間外手当が減り、減少が続いてきたが、同年11月の減少は企業業績の悪化により、同月支給の賞与が大幅に減ったのが主因。同年12月には賞与減少の影響がさらに大きくなるとみられ、コロナ禍は消費者の財布を直撃している。
 厚労省の発表によれば、コロナの影響による解雇や雇い止めの人数は、21年1月15日時点で見込みも含め、累計8万2050人と既に8万人を突破している。前の週から1214人増えた。同省は全国のハローワークなどを通じて集計しており、累計には再就職した人も含まれるが、全容を把握できているわけではなく、実際にはさらに深刻な状況に陥っている可能性がある。
 業種別では製造業(1万7368人)が最も多く、飲食業(1万1112人)、小売業(1万600人)。この3業種に続き、旅館やホテルなどの宿泊業も同日時点で1万124人と1万人を超えた。契約社員やパート、アルバイトの比率が高かったり、営業時間の短縮要請や「Go To」停止の影響を強く受けたりしている業種が上位に並んでいる。 政府は、雇用維持に協力した企業に支給する雇用調整助成金の特例措置の延長を繰り返すなどして対応している。民間エコノミストの間では、緊急事態宣言に伴う経済活動の制限は昨春に比べれば厳しくなく、実質GDPの落ち込みも20年4~6月期ほどにはならないとの見方が大勢だ。ただ、既に大幅な減益や赤字に陥り、体力をすり減らしている企業は少なくない。今回の緊急事態宣言の再発令により、企業の倒産が増えるような事態になれば、失業者が今後、一段と増加する恐れもある。

◇カギは「DX」「グリーン化」
 感染再拡大の真っただ中にある現在、景気の先行きは見通せない。ワクチン接種や治療薬の開発で、景気が再び持ち直すとの観測もある。ただ、消費者の財布のひもが緩み個人消費が拡大するのか、訪日外国人旅行者(インバウンド)の需要は回復するのか。今年最大のイベントとされる東京五輪・パラリンピックの開催にこぎ着けても、仮に入場制限などがあれば経済効果は減殺されるのではないか。景気動向をめぐる不安は尽きない。米中の貿易戦争、覇権争いをめぐっては、米バイデン新政権の出方を見極める必要があると指摘される。
 西村康稔経済財政担当相は通常国会が召集された1月18日の経済演説で、20年度第3次補正予算案と21年度予算案を一体的に編成した「15カ月予算」により、切れ目ない経済財政運営を行い、「GDPは21年度中にはコロナ前の水準を回復すると見込んでいる」と強調した。しかし、民間エコノミストの間では、実質GDPがコロナ禍前の直近のピークである19年7~9月期の水準に戻るには、さらに時間を要するとの見方が多い。
 こうした中、コロナ後を見据えた成長の柱と位置付けられているのが、デジタル技術で既存制度を変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)と、政府が打ち出した2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「グリーン成長戦略」だ。しかし、いずれも欧米など主要国に遅れを取ってきた分野だけに、挽回するには官民とも課題が山積している。

◇空前の国債発行
 一方、国の財政状況は一段と悪化している。政府は新型コロナの感染拡大を踏まえ20年度、2度にわたり経済対策を策定し、補正予算を3度編成した。同年4月の経済対策は事業規模117.1兆円、財政支出48.4兆円に達し、同年12月の追加経済対策も事業規模73.6兆円、財政支出40.0兆円に上った。国民に一律10万円を支給した「特別定額給付金」に象徴されるように、規模ありきの大盤振る舞いが続いた。20年度予算の一般会計歳出は、102.7兆円だった当初予算段階から3次補正後には約1.7倍の175.7兆円に膨れ上がった。
 新規国債発行額は当初予算段階の32.6兆円から空前の112.6兆円へ約3.5倍に増えた。税収は法人税や所得税、消費税が軒並み見込みを下回り、当初段階の63.5兆円から55.1兆円に大幅に下方修正した。この結果、歳入に占める借金の割合を示す国債依存度は当初段階の31.7%から3次補正後には64.1%に跳ね上がった。
 政府は21年度予算案について、追加経済対策に基づき20年度第3次補正予算案と一体の「15カ月」と位置付けて編成。一般会計総額は106.6兆円と3年連続で100兆円の大台を突破し過去最大を更新した。歳入は依然として借金頼みの構図が続く。新規国債発行額は43.6兆円と前年度当初予算から33.9%増加。国債依存度は40.9%に上昇した。

◇緩む財政規律
 20年度の新規国債発行額が112兆円超と空前の規模に膨らんでも、長期金利は0%近傍で推移している。異次元緩和を続ける日銀は20年4月の金融政策決定会合で、年間80兆円をめどとしていた市場での国債購入の上限を撤廃。日銀が市場で国債の大量購入を続けているため、金利が急騰する事態は回避されている。 日銀は「金融政策のため」と説明するが、国の借金を中央銀行が穴埋めする事実上の「財政ファイナンス」と批判する声も出ており、財政規律の緩みにつながっていると指摘されている。
 追加経済対策の策定や20年度第3次補正予算案、21年度予算案の編成の過程では、与党から強い歳出圧力がかかった。21年10月に衆院議員の任期を控え、解散・総選挙を意識して歳出圧力が再び高まるのは避けられそうにない。
 新型コロナ感染が急拡大する中、当面は財政出動による景気の下支えが必要となる。ただ、国債の増発は将来世代にツケを回すことになる。追加経済対策には政策効果の検証が困難な大型基金の創設なども盛り込まれた。経済財政諮問会議の民間議員は再三、「ワイズスペンディング(賢い支出)」の必要性を訴えている。無駄を省き、本当に困っている個人や企業に手が届くよう効果的な施策を実施するとともに、政策効果をしっかり検証する仕組みづくりが急務だ。
 普通国債の発行残高は21年度末に990.3兆円となる見込みで、1000兆円に迫る勢い。普通国債に借入金などを加えた国の長期債務残高は同年度末に1019兆円に達する見通しだ。
 政策的経費を借金に頼らず税収でどれだけ賄えているかを示す「基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)」の赤字額は20年度当初予算段階の9.6兆円から21年度予算案では20.4兆円に2倍超に膨らむ。政府は、国と地方を合わせたPBを25年度までに黒字化させる財政健全化目標を掲げるが、もはや達成は絶望的だ。
 内閣府が1月21日に公表した中長期の経済財政試算によると、国と地方のPBが黒字化するのは、名目GDP成長率が3%超という高い経済成長が実現する前提でも29年度と政府目標から4年遅れる。名目1%台前半というより現実的な前提による試算では、30年度も10.3兆円の赤字が依然として残る。
 麻生太郎財務相は通常国会での財政演説で、PB黒字化目標について、「達成に向けて、引き続き、これまでの歳出改革の取り組みを継続し、経済再生と財政健全化の両立を図っていく」と述べ、堅持する姿勢を示した。国債管理政策に関しては、「過去に類のない規模となる中で、引き続き市場との緊密な対話に基づき安定的な国債発行に努めていく」と語った。
 その上で、麻生氏は「次の世代に未来をつないでいくためには、今回の危機を乗り越えるとともに、構造的な課題に着実に取り組むことで、経済再生と財政健全化の両立を進めていく必要がある」と訴えた。政府は財政出動で経済を下支えしつつ、コロナ後を見据えて財政健全化の道筋を描くことが求められている。(了)